「人」と「組織」が活躍できる“日本型スタートアップエコシステム”を
株式会社ゼロワンブースター 取締役 合田ジョージ 氏

目次

スタートアップエコノミーが創る未来

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岩崎 今後どのような形で社会は変わっていくとお考えですか。

合田 例えば今の時代に革命を起こして社会や政府を倒し、社会構造を変えていく明治維新のようなやり方はなかなか難しいです。僕が考えていることとしては、新しい経済システムが生まれ、古い経済システムを置き換えて変わっていく様なトランスフォーメーションの形が今後の社会変革の在り方になるのではないかと考えています。簡単な例を挙げるのであれば、印鑑を無くすという世の中の潮流で、印鑑文化、及び周辺の物事の仕組みが置き換わっていくというのもその一つと言えるかと思います。

その他にも例えばジョブ型雇用の導入などが最近特にトレンドになってきていますが、グローバル全体で見た際にも日本と韓国だけが未だに過去の改善を続けたメンバーシップ型の制度が主流にあるというのが実態で、漸く日本でもその置き換えが始まりだしたという印象があります。もちろんメンバーシップ型にも良い点はありますので、うまくいっている会社はだいたいハイブリッドですね。いずれにしてもそういう世界規模の潮流で物事が動いてる中で、ルールはAからBへ徐々に変化していくと考えています。

そのような大きな潮流を汲んだ変化に適用したシステムを、スピードが早く、変化適応力の高いスタートアップが先駆的取り入れていくことで、どんどん波紋が大きくなり、少しずつ古いシステムが新しいものに置き換わっていくのが今後の流れになるかと思います。実際に先のジョブ型雇用に関しても、日本の大企業では今更ながらの動きではありますが、国内スタートアップの世界では既に当たり前の様に導入されているケースが多々あります。

このようなシステムの置き換えの動きが以前より進みやすくなっている背景には、世界での取り組みが可視化され、情報が容易に取れる状況になってきていることが大きいと考えています。東京では少なくとも徐々に置き換えが始まり出していますが、その中でも大きな潮流の変化を一早く捉え、本気で取り組んでいるのがスタートアップだと思います。その取り組みが周囲に伝達し、多数派になった際に、そのような取り組みを進めてきた企業はスタートアップという枠組みと違うマーケットリーダーの様な立場になったと言えるかと思います。明治維新が当初の少数派から、幕府より政権をとって変わる過程で、多数派に転じた様なイメージです。

このような置き換えは東京を中心に、大阪、名古屋などで少しずつ進んできていますが、地域に伝播するのはまだまだ時間がかかると思います。ただ今回のコロナで本来5年ぐらいかけて置き換わることが、1年で置き換わってきているように思います。ただグローバル全体の変化のスピードと比較した際には、それでもまだまだ遅いとは感じています。

能動型でなければ生きていけない世界が目前に

岩崎 コロナという特殊事情ではありますが、制度疲労を迎える日本のシステムはどの程度変わっていくと見ていますか。

合田 かなり変わるのではないかと思っています。寧ろ今回のコロナで変わることができないと後進国まっしぐらかと思います。現に中国をはじめとした海外は今回のコロナをきっかけに、これまで以上の大きな変化を続けています。大きく変われるかどうかの要素の一つとして、能動的な文化であるか、受動的な文化であるかがとても影響してくると考えています。これまでの日本はどちらかというと高度成長期向けのメンバーシップ型雇用が中心で、基本的に受動型の文化にあります。例えば上司の指示の下で業務を遂行する、または異動など与えられた機会の中でキャリアを作っていく構造になります。

一方でジョブ型雇用がメンバーシップ型雇用と大きく違うのは、キャリアに関して能動的に考えていかなければならない点にあると思います。勿論、このような雇用の世界が本当に幸せなのかという議論はありますが、能動的に生きざるを得ない文化の中でキャリアを作っていく人達と、受動的にキャリアを作っていく人達とでは、言うまでもなく大きな差異が起こります。どちらかが正解という訳ではないですし、個人的にはそれぞれの良い部分を取り入れた雇用の在り方が実現できないかとは思っています。

またさらに違う観点でお話をしますと、中国だけはこの議論には当てはまらない、受動型ではとても生きていけないくらいの極めて早いスピードにある状況です。このような中で国内の優秀な人材が中国の様なグローバルで最前線を走る環境に流出してしまうのは、現段階ではなかなか仕方ないことかとも思います。

地方都市ならではのカエル跳び

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岩崎 そのような中、日本がこれから世界と戦う上でどのようなことをすべきとお考えですか。

合田 グローバルでの最前線の情報が取りやすい中、国内で情報感度を高く持つことが出来ている都市としてはやはり東京で、次いで名古屋、大阪の順である様に思います。もちろん、東京も遅れていると思います。僕の感覚では東京と比較して、大阪や名古屋は5年ぐらい遅れてる感覚があります。世界と比べると10年ぐらいでしょうか。ただこれが必ずしも悪いわけではなく、情報格差が一定ある場合には「カエル跳び」が起こる場合があります。

カエル跳びは大きな情報格差があるが故に、これまでに作ってきたしがらみがない分、一気に変化が進むことを言っています。例えば中国ではそもそも携帯サービスが普及していない、日本ではガラゲーが主流であった中、中国ではガラケーを飛び越えて一気にスマートフォン市場が成長した背景があります。また、戦争などでも勝者はこれまでの成功体験の延長線上で物事を考える思考に陥り、次の戦いで負けてしまう。一方で敗者はこれまでに捉われることなく学び直し、次の戦いでは高確率で勝つ様な事例が歴史上多くあります。

岩崎 日本の地方でカエル跳びを起こすにはどのような要素が必要になるのでしょうか。

合田 東京にせよそれ以外の都市にせよ、カエル跳びを実現できる起爆剤はスタートアップしかないと考えています。そしてそのようなカエル跳びを日本国内だけの取り組みで起こしていくことは極めて難しく、外的要素の存在は欠かせないと考えています。例えば歴史を振り返った際に、明治維新が起こる裏側で、イギリスやアメリカをはじめとした外部要素無しには起こり得なかったのは言うまでもありません。今の時代で考えるのであれば、グローバル規模での何等かの影響、あるいは中国やシリコンバレーなどグローバルで活躍してきた人材が国内で変革の旗振り役として牽引していくようなことなどが挙げられるかと思います。つまりは外的要素を何も見ることなく、変化を起こすということは極めて難しいということです。

岩崎 北海道発のニトリ、山口県発のファーストリテイリングなどの様に、地方発で日本経済をリードする企業が今後生まれてくる可能性をどのように見ておられますか。

合田 今後も地方からそのような企業が出てくる可能性はあるとは思います。ただイノベーションを起こすためには、「密度」と「多様性」が必要であり、地方は必然的にそれらが弱い傾向にあります。そうなると確率論でみた際に、地方からイノベーションが起きる可能性は必然的に低くなってしまうと考えています。

また地方創生の文脈で、地方から大企業を生み出そうという動きがあるかとは思いますが、それが必ずしも地域の発展に繋がるとは限らないというのも忘れてはいけない観点かと思います。僕の見解ですが、地方経済を良くしていく場合、都市そのものがイノベーティブに変わる必要があると考えています。GAFAの様な巨大企業があるからその地域が経済発展するというわけではないのと同じで、地域連携が無いまま大企業へと成長を遂げたとしたとしても、地域経済の底上げには繋がってこないのです。

少し話が逸れましたが、関西でのイノベーションを考えるのであれば、どれだけ東京の企業と組んでいけるかということも一つですし、より情報格差のあるグローバル企業と連携を進めていくという手もあると思います。ただかなり格差のあるカエル跳びですし、例えば大阪だけが単独でそのようなグローバルな企業や機関と組めるかというとそれは容易ではないかと思います。勿論、関西の1企業がそのようなグローバル企業と連携するというのはあり得ますが、だからといって関西全体の活性化には繋がる訳ではないということですね。

スタートアップはリスクではない

岩崎 今後スタートアップへの挑戦の在り方は、どのように変わるとお考えでしょうか。

合田 スタートアップへの挑戦は、生きるか死ぬかの崖から飛び降りるような形で始める必要性は全くないと考えています。積極的に副業の受け入れをしているスタートアップも多いですし、プロボノでまず手伝うという選択肢もあります。起業するにしても会社を退職してからではなく、副業からスタートをするケースも珍しくありません。

また、今は優秀なトップタレント人材ほどスタートアップに行く流れが強まるっていると思います。例えば欧米では投資銀行の最前線で活躍してきた人材であれば、仮にスタートアップでうまくいかなかったとしても、それだけ優秀な人は投資銀行に再就職することも十分に可能です。つまりはスタートアップで挑戦して成功すればキャリアアップになりますし、失敗してもまた同じ仕事に戻ろうと思えば戻れます。優秀な人ほどリスクがない。日本でもこの数年、同じ様な動きが起きている中、大企業で活躍していた人材がスタートアップへの挑戦を選択することは、今は極めて合理的かと思います。

大阪を中心に関西はまだ人材の流動化がそこまで進んでいない印象があるので、今後大きく伸びていく可能性はあるのではないでしょうか。ただスタートアップの数がまだまだ少ないので、外の機会を求める大手企業の人材が活躍できる環境をもっと用意していく必要があると思います。

国境を越えた事業創造プラットフォームを

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岩崎 今後のゼロワンブースターの展望、あるいは日本をどうしていきたいかお聞かせください。

合田 グローバルと日本を比較した際に、日本は個別のルールで戦っている傾向にあります。時代によって正しさは変わりますし、当然ながら昔の高度成長期と今は違うのに、当時のシステムが土台に経済発展を進めようとしている様な事例はまだまだ少なくありません。このような課題の中で今の時代にあったシステムに置き換えていく必要性を感じていますし、さらに言うと僕は以前より日本市場単体での在り方に限界も感じており、グローバルと協力や連携を進めながら事業創造ができるプラットホームを最終的には作りたいと思っています。国境に捉われない、国を越えた連携により事業創造ができるエコシステムですね。

岩崎 国を越えた事業創造プラットフォームは非常に魅力的ですが、その実現にはどのような課題を想定されていますか。

合田 国境を越えたグローバルでの連携、新たなテクノロジーなどの変化が進んでいくと、これまで以上に貧富の差が進んでしまう危惧もあります。特にテクノロジーの台頭は良い事なのですが、テクノロジーにより開く格差は恐らく埋めていくことが難しいと考えています。例えば貿易不均衡による格差であれば、税率を調整するなど行政主導である程度コントロールが出来る部分があるかと思いますが、テクノロジーの世界はそういった国策の介入も難しい。この点を加味した循環社会を作らないと、極端な勝ち組と負け組で構成される世界に近づいていくと思います。

そしてシステムが移り変わっていく中、全員が能動的であれば問題はないのですが、受動的な文化が主体の日本で生きてきた人達には厳しい世界になると思っています。先を行っているグローバルに早く詰め寄りたいが、日本はジョブローテーションの文化がありますし、個々人が短期間でキャリアを積むことが難しい。そうであればショートカットするしかない、その選択肢の最たるものがスタートアップになると思っています。スタートアップの世界に飛び込み、ラーニングスピードを上げて行くことで、やっとグローバル最前線を走る人達の背中が少し見えるぐらいではないかと思います。そのような挑戦をする個々人や組織の成長を僕達が下支えできればと思いますし、そのような存在である為にも変化を続けていきたいと考えています。

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