ベンチャー、スタートアップ企業への転職失敗を未然に防ぐためには

ベンチャー、スタートアップ企業への転職を考えているものの、転職に失敗したときのことを考え、なかなか行動に移せないと悩む方は多いかと思います。ベンチャー、スタートアップは世の中に新たな価値創造などを目指す一方で、不確実性が高いビジネスであることが多いのも事実です。

特に今現在、比較的安定基盤のある大企業、中堅企業などで働く方の場合、そのような環境に身を移すことに躊躇するのはいたって自然なことかと思います。今回はベンチャー、スタートアップ企業への転職で失敗する原因、転職に成功するためのポイントをご紹介します。ぜひ今後の転職活動の参考にしてください。

目次

ベンチャー、スタートアップ企業に転職して失敗と感じること

ベンチャー、スタートアップ企業のリスクを考慮せず転職してしまうと、入社後に「失敗した」と感じる瞬間があるかもしれません。こちらではベンチャー、スタートアップ企業への転職でよくある失敗、入社前の心構えなどについてご紹介します。

年収が下がる

大手企業からベンチャー、スタートアップ企業に転職をする場合、今よりも年収が下がるケースは少なくありません。ベンチャー、スタートアップ企業では利益が出たとしても、事業を更にのばすためにWebマーケティングなどの広告宣伝費、プロダクトの開発費に投資する割合が比較的多く、なかなか初期のフェーズだと人件費に十分に還元できないというのが現実です。

また、IPO(新規株式公開)を目指すベンチャーの場合、給与でなかなか還元ができない分、SO(ストックオプション)と呼ばれる、自社株を定められた価格で取得できる権利を付与する形もあります(上場後に値上がりしても、定められた価格で取得できるため、その差額が報酬として得られる)。

IPOを目指すベンチャー、スタートアップ企業の場合に、IPOを実現できた際には、数千万、あるいは数億円といったキャピタルゲインを得られる可能性もあります。勿論、IPOに至るまでは当然高い年収水準を提示できる訳ではないのですが、このようなインセンティブがあることを踏まえた上で決断をすると良いでしょう。

社風に馴染めない

ベンチャー企業は従業員規模の小さな会社が多く、社長や経営陣の考えが組織に色濃く反映されやすいです。例えば、エンジニア出身の経営者であれば、「開発環境への投資などを優先した組織運営になりやすい」といったイメージです。会社風土と合えば自分の力が発揮されやすい一方、合わなければ、その価値観の違いなどに働きづらさを感じるかもしれません。

また、組織の中での役割やルーティンなどがある程度固まっている大企業組織に対し、事業や組織の成長や変化に伴い、求められる役割などが変わることも、ベンチャー企業の組織の特徴の一つです。事業や組織の変化の中で生まれる新たな課題に対し、当事者意識を持って主体的に解決に動いていくことも、ベンチャー組織の中で必要な思考といえるかと思います。

労働時間の長期化

自由闊達な印象と併せて、「ベンチャー企業=ブラック企業」というイメージをお持ちの方は多いかもしれません。ブラック企業の定義は人により捉え方はあるかと思いますが、比較的長時間労働を強いられる環境が多いことが理由の一つとして挙げられるかと思います。

多くのベンチャーでは少人数で仕事を回しているため、従業員ひとりの業務量が多くなりやすい傾向にあります。例えば、分業体制などが確立されていない、創業間もないベンチャーの営業活動であれば、「新規開拓→商談・ご提案→サービス提供→提供後の顧客フォロー」まで当然ながら一人でやり切らなければなりません。また大企業と異なり、会社の看板や強い商品力などを有していないケースが多い分、企画書や提案書に時間をかけて商談にのぞまなければならないことも珍しくありません。

どのような人員体制で事業を運営し、一人ひとりがどこまでの業務範囲を担当しているのかを具体的にイメージできるまで、職場環境の理解を深めておくことが大切かと思います。

教育体制が十分でない

ベンチャー、スタートアップ企業では目の前の業務を回すことに手一杯な中、教育研修の仕組みなどが不十分な体制であることが多いです。ベンチャー、スタートアップのこのような現状を認識せず、受け身な気持ちで入社をしたがために「何も教えてくれない」と不満をこぼし、退職してしまうというケースも珍しくはありません。

また、現場では現場担当者の感覚などに依存する、いわゆる「暗黙の了解」で業務が回っていることも多いです。業務フローなどルールや規則の整備された会社で働いてきた方からすれば、このような現場にいいかげんな印象を持つかもしれません。

ベンチャー、スタートアップ企業への転職で失敗したと感じる人の中には、この前提が抜け落ちている人がとても多いです。特に前の勤務先が教育体制の整備された大企業からベンチャー、スタートアップ企業に転職する場合には、この前提を理解していてもこのような働き方にギャップを感じるでしょう。

成果に対してシビアな環境

「自由に働ける」「裁量の大きい仕事ができる」と、ベンチャー、スタートアップ企業への転職を検討される方もいるかと思います。確かに自由度や裁量の高さなどを持てる企業もありますが、その分結果へのコミットメントが求められる環境でもあります。

少人数のベンチャー組織においては一人ひとりのパフォーマンスが、会社経営に密接に影響してきます。勿論、自分の仕事の実績で会社が大きく変化するような手応えを感じられることなどは魅力的ですが、結果がなかなか伴わない場合には、とてもプレッシャーを感じながら働くことになることも、大いにあり得るでしょう。

TVをはじめとしたメディアではベンチャー、スタートアップ企業の良い面を取り上げることが多いですが、現場では四苦八苦しながら業務を回し、会社経営をしています。ベンチャー、スタートアップ企業への転職の際には、そのような現実も直視した上で、検討することをおすすめします。

トレンドに乗ったベンチャー、スタートアップ企業への転職

表題だけ見た際には、一見問題無さそうに思えるかもしれませんが、こちらも振り返って「失敗した」と思う人が一定数存在します。例えば世間を賑わせているAI、SaaS、シェアリングサービスなどを展開するベンチャー、スタートアップ企業は外から見ると非常に華やかに見えやすいですし、そのようなトレンドに乗ったサービスを展開する会社であればIPOも夢ではないと飛び込む心理は抱きやすいでしょう。

しかしながら、そのような勢いで転職をしたものの、自分が本質的にやりたいと思える仕事ではなく、失敗したと思ってしまう人は少なくありません。人はトレンドに流されやすいものであることを自覚し、経歴の棚卸、自己分析をしっかり行った上で、自分が腹落ちする選択をすることで、このような失敗を回避することに繋げられるでしょう。

ベンチャー、スタートアップ企業への転職で失敗してしまう原因

これまではベンチャー、スタートアップ企業への転職で失敗したと感じやすいポイントについて解説してきました。ここからはベンチャー、スタートアップ企業への転職、転職活動で起こりがちな失敗原因の一例をご紹介します。

退職したい気持ちが先行してしまう

当たり前のことですが、自分の強み弱み、あるいは自分がどのような環境で働きたいかなどが明確にできているかどうかは大切です。しかしながら、実際に転職活動に臨む際に平常心でいれないようなシーンも多いです。例えば長時間労働の過酷な職場環境、パワハラなどが激しい環境に身を置いている人の場合には、自分のキャリアなどのお話以前に、その環境から脱したいという意向が強すぎるが為に、自己分析をはじめとした転職活動ですべきことが抜け落ちた状態で面接などに臨んでしまうケースも少なくありません。

このように、環境を変えたい、辞めたいという気持ちが強い場合には、転職活動の中でも冷静さを欠いてしまうことに繋がり、前述のように直観的に良さそうな企業へ、勢いで決断をしてしまうことに至ってしまいます。転職活動の中で冷静さを欠いてしまうことは、転職を失敗させてしまいかねません。退職したい意向が強い時こそ、一度立ち止まり、自分自身の理解に繋げると良いでしょう。

年収にこだわりすぎた転職

ベンチャー、スタートアップへの転職では先ほど記載した通り、年収面で大企業と同等の待遇であるケースは比較的少ないです。しかし、実際には転職のシーンで「リスクに見合った報酬が欲しい」と、年収面での拘りをもった転職活動をする方も決して少なくありません。

ベンチャー企業で働く多くの方が、年収以上に仕事のやりがいや会社のIPO実現などに向けて、熱量高く仕事にのぞんでいます。そのような中、内定直前まで話が進んだものの、年収への主張をしすぎたが故に、そのような社員との不和を懸念し、破談となるシーンも珍しくありません。

家族の生活を守るためにも、年収に拘ることが悪いわけではありませんが、先述のようなベンチャー企業で働く方の、価値観などの理解が必要になるでしょう。むしろベンチャー企業では入社後にいかに活躍し、会社の成長を押し上げるか、ポジションを勝ち取るかといったことが重要です。

ベンチャー企業では、自身が事業を収益力の高いものへと成長させることで、会社の所得水準などを上げることはできます。ベンチャー、スタートアップ企業で活躍している方には、そのような主体性の高いマインドで就業している方が多いようにも思います。

どの事業フェーズにあるかを理解できていない

ベンチャー、スタートアップ企業と一言にいっても、事業がある程度軌道に乗りつつあるフェーズと、プロダクト開発段階でこれからリリースするフェーズでは、不確実性は大きく異なります。特にソフトウェアなどのIT・Web系のプロダクトを軸に事業展開を目論むベンチャー、スタートアップ企業などは、当然ながら開発に係る初期投資が必要になります。しかし、そのプロダクトが世にでた際に、思うような売上に繋がらなかったということも珍しくないのです。

このような、初期の事業フェーズのベンチャー、スタートアップ企業への転職は、経営幹部としての役割、将来的に役員クラスの立場を担える可能性も高い一方、不確実性も高くなります。反対に、ある程度事業が軌道に乗っている会社は、経営幹部のポジションが既に埋まっているというケースが多いです。このようなトレードオフを理解し、どのような事業フェーズの企業へ転職をするのか決断することをおすすめします。

現場を見ないままに転職を決めてしまう

ベンチャー、スタートアップ企業は表面的には華やかに見えるかもしれませんが、先に記載の通り、現場は日々ビジネスを形にしていくことに奔走しています。そのような中で、面談・面接の際には、現場がどのような働き方をしているのか、どのような課題を抱えているのかをしっかりと捉えることが大切かと思います。

そして可能であれば選考の際に、職場見学や現場の方に現場の実態などを直接伺う機会を設けて貰えないか、打診をしてみると良いでしょう。現場の方の声に触れることで、入社後にどういったことを求められるのか、どこまで整備されている環境なのかなどの理解を深められます。結果的に、入社前後でのギャップ解消に繋げられるでしょう。

また、このような相談は、長く働きたいという考えがあるからこその相談であるため、決して相手方もネガティブに捉えるものではありません。転職での失敗を未然に防ぐためにも、ぜひ参考にしていただけたらと思います。

入社後に人間関係で悩んでしまう

ベンチャー、スタートアップ企業でも中小企業でも、職場の人間関係は働きやすさを大きく左右します。このような人間関係での失敗を回避するためには、先述の通り、経営陣がどのようなことを大切に考えているかを捉えておくことは重要になります。

また、シンプルですがベンチャー、スタートアップ組織だからこそ、できる限り、複数名の現場の方と選考段階で顔合わせしておくことも大切です。企業によっては、選考に現場の方が出てこられないケースもあります。しかし、入社後に人間関係で悩まないためにも、現場の方との接点機会をもてないか、企業へ相談をすることをおすすめします。

ベンチャー企業への転職で失敗しないためには

ベンチャー、スタートアップ企業への転職で失敗しないためには、いくつか押さえるべきポイントがあります。こちらでは失敗を回避するために必要な考え方などについて解説します。

前職での仕事の考え方を引きずらない

ベンチャー、スタートアップ企業への転職に限らず、前職の仕事の進め方などから脱却できずに、現場とハレーションを起こすケースは多くあります。特に大手企業からベンチャー、スタートアップ企業への転職では、ルールや慣習の違いに、大きな衝撃を受ける方もいるでしょう。

スポーツに例えるのであれば、同じ競技への移籍ではなく、違う競技に取り込む気持ちでのぞまれるくらいが丁度良いかと思います。この組織では何を大切にしているのか、どのようなルールで組織を運用しているのか、まずは現体制での在り方を理解しましょう。その上で、これまで勤務先で培ってきた仕事の進め方などを取り入れていくという方法が良いかと思います。

転職理由を明確に

言うまでもなく、転職はあくまで手段です。転職によって何を叶えたいのか、どのような自分でありたいかを明確にイメージすることが大切です。例えば当初はベンチャーを志向していたものの、「風通しの良い職場環境で働きたい」ということが本質的に求めることだと気づき、それを実現できる会社風土の中小企業に転職を決めるというようなケースもあります。

今の組織や仕事のどこが不満で、なにを変えたいのかを具体的に掘り下げてみましょう。その上で応募するベンチャー、スタートアップ企業で何を実現したいのかをクリアにし、自分の中で腹落ちさせることが大切かと思います。

「自分のやりたいことと違った」「前職の転職理由が解消できなかった」などの理由で、短期間での退職が無いよう、多くの企業でも、選考の際に転職理由や転職先に期待していることを確認します。双方のアンマッチにならないよう、転職によって何を叶えたいのか、どのような自分でありたいかについて、具体的に言語化ができるようにしてのぞみましょう。

情報収集を徹底的に

転職の際に求人票の内容だけで転職を決めてしまったり、「自分のやりたい業種で条件も良いから」とよく調べずに転職してしまったりし、入社後にそのギャップで苦しむ方も少なくありません。

応募する企業HPや求人サイト、転職エージェントが提供する求人票のほかにも、口コミサイトでの評価、SNSでどのような発信をしている企業なのかなど、複数のチャネルから情報収集をすすめると良いでしょう。そうすることで、企業の全体像をつかめるかと思います。

最終的には経営者の考え方、現場の実態などに触れて決断するのが良いかと思います。さらに、事前に下調べをする中で、疑問点や確認したい点を整理し、面接にのぞめば、双方にとってより理解を深められる時間にできるでしょう。

転職エージェントを利用する

ベンチャー企業への転職を成功させるために、転職エージェントを活用することもおすすめです。転職エージェントでは、自身のやりたいことや価値観に合った転職先の紹介や、面接対策などのサポートを受けることができます。中でもベンチャー、スタートアップ企業に強い転職エージェントであればベンチャー業界の細かい動きも把握しており、最新の情報をもっていることが多いです。変化の激しいベンチャー業界において、最新の情報を保有する転職エージェントからアドバイスを受けられることは求職者にとって大きな武器となるでしょう。

また、ベンチャー転職の選び方で重要なことは、転職エージェント自体がベンチャー、スタートアップ企業と深くつながっているかということです。ベンチャー、スタートアップ企業は意思決定が早く、資金調達や新規事業開始の情報等、重要ポジションの採用動向など、様々な情報を早い段階で知ることができているかは企業を選ぶ上で非常に重要です。ベンチャー経営者とのネットワークをもっている転職エージェントを見つけるのもよいでしょう。転職エージェントの選び方については以下の記事もご参考ください。

転職活動は多くの場合、孤独であり、なかなか相談できる人がいないです。そのような中、視野狭窄にな形で転職活動を進めてしまうことも珍しくありません。転職を失敗させない為にも、ベンチャー、スタートアップ企業の情報に強い転職エージェントをパートナーに選びましょう。

最後に

ベンチャー、スタートアップ企業への転職は少なからず失敗のリスクがともないますが、ベンチャー、スタートアップ企業には大手企業にはない魅力が豊富であることも確かです。そして失敗の原因の多くには、事前に事業フェーズや組織などの企業理解ができていないことなどが挙げられます。

今回ご紹介しましたポイントをしっかりと考慮して、組織課題などの情報収集を行い、有利な形で転職活動にのぞみましょう。そうするとで失敗してしまう確率を大幅に低減できるはずです。

この記事を書いた人

岩崎久剛

1984年兵庫県生。関西大学工学部を卒業後、受験支援事業を全国展開する大手教育事業会社にて総務人事など管理部門を経験し、2012年より人材業界に転身。大手総合人材会社にて求人広告、人材紹介など中途採用領域での法人営業を経験し、従業員数名規模のベンチャーから数10か国に展開するグローバル企業まで多様な業界、事業フェーズの企業の採用を支援。2016年よりハイキャリア領域の人材紹介事業立上げメンバーに参画し、関西ベンチャーを軸とした採用支援に従事。その後、ビズアクセル株式会社を起業。MBA(グロービス経営大学院)。

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