転職市場で需要の高まるDX人材に必要なスキルとは

近年、DXに力を入れる会社が急増しており、転職市場でも「DX人材」を求める声が高まっています。本当の意味でDXを推進するのは大変で、DX人材も希少な存在なため、社内に適任者がおらず、転職者で探さなければならないことが多いためです。

DX人材としてのスキルを持っているビジネスパーソンは、転職やキャリアアップという面から見ても魅力的です。DX人材として転職を目指す方のために、今回は、DXとはどのようなものか、そして転職にあたって求められるDX人材に必要なスキルについて解説します。

目次

DXとは

最近、注目されているビジネスにおける大きなテーマが「DX」です。ビジネス関連のニュースでDXという言葉を見ない日はないくらいで、それだけ今の日本企業にとってDXが求められていることがうかがえます。転職市場においてもDXを実現できる「DX人材」の需要が高まっており、DXに積極的に取り組む会社は、DX推進役以外のポジションにおいてもそのような変化に対応できる人材を求める傾向になりつつあります。

DXとは、「デジタルトランスフォーメーション」の略です。デジタルトランスフォーメーションを英語で書くと「Digital Transformation」となり、「X」はどこにもありませんが、英語では一般的に「交差するという意味を持つTrans」を「X」と省略するので「DX」と表記されます。

では「DX」とは一体、どのようなものなのでしょうか。「ITシステムの導入」や「AIを活用した分析」などを思い浮かべる人が多いかもしれませんが、これらは「DXを推進するための手段の一例」でしかありません。DXという言葉は、スウェーデンにあるウメオ大学のストルターマン教授が2004年に提唱したものとされています。その論文には「デジタルトランスフォーメーションとは、デジタル技術によって、あらゆる側面から人間の生活を変化させることだ」という趣旨の内容が書かれており、ここから、DXは「デジタル技術を使って、生活をより良いものに変えること」と言うことができるでしょう。

手書きの書類をデータで処理するようにしたり、システムを導入して業務効率化をしたりするような「デジタル化」「IT化」は、DXを実現するための手段の一例にすぎません。DXは、デジタル化・IT化よりも大きな概念なのです。

しかし、残念ながら、この点を誤解している人が少なくありません。DXのための手段そのものが価値を生み出すのではなく、IT化などの手段を通じて、より良い製品・サービスを提供し人々の生活を良くしていくことが、会社の業績につながっていくのです。この点を理解しないままにDXに取り組んでしまうと、システム導入などの手段が目的化してしまい、DXが業績向上につながらなくなってしまいます。

先日、日本電産が、「今後3年で3割賃上げする」という考えを表明しました。これは、ただ給与を増やすのではなく、DXなどを通して「3割給与を上乗せできるだけの効率的な仕事をできるようにする」ということだそうです。「DXで組織の変革を行い、さらに競争優位性を高めることができれば、日本の実質賃金が低下し続けている現状を打破するきっかけになる」というメッセージだと考えることもできるでしょう。

このように、DXの手段はあくまで「変わるためのツール」であり、何をどうしたいのかという目的をもってツールを導入しなければなりません。これができるかどうかで大きな差が生まれるのです。

DXに注目が集まる背景

前述の通り、DXという言葉は2004年に生まれたものであり、IT業界の感覚ではかなり昔に生まれた言葉だと言えます。しかし、そのDXが近年になってようやく注目されるようになったのは、デジタル技術の発展で、個々の会社単位でもDXを実現できるほどになったからだと言えるでしょう。

経済産業省は、日本企業のDXを推進するために、DXについての研究会を立ち上げ、2018年には「デジタルトランスフォーメーションを推進するためのガイドライン(DX推進ガイドライン)」を発表しています。このガイドラインでは、DXは「企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること」と定義しています。

前述した通り、DXは「デジタル技術を使って、生活をより良いものに変えること」が目的ですが、その実現のためには、「製品やサービスを提供する会社そのものが社内を変革しなければ、競争優位性を高められない」ということに他ならないのです。このような趣旨の下、経済産業省はDX推進を支援するために「産業競争力強化法に基づく事業適応計画の認定」の施策に「DX(デジタルトランスフォーメーション)」を盛り込み、税制支援や金融支援を実施しています。

また、DXは政府が関わる行政事務でも求められています。政府もDX化を推進するために、2021年9月にデジタル庁を設置しました。デジタル庁は「デジタル社会の形成に関する行政事務の迅速かつ重点的な遂行を図ること」を任務としています。具体的にはマイナンバーを活用した情報提供ネットワークシステムを設置したり、情報通信技術を利用して本人確認や電子署名をより便利にしたりすることで、行政のDX化を進めようとしているようです。

国内のDX事例

では、国内でDXを行っている事例をいくつか紹介しましょう。

経済産業省と東京証券取引所が、デジタル活用の優れた実践企業として「DX銘柄2021」を発表しています。そのグランプリは、電機メーカー「日立」と不動産業の「SREホールディングス」でした。この結果を見ると、ITに関する高度な技術を持つ企業やFintechで注目される金融関係といった、テクノロジーに非常に近い業界だからDXを行うことができると感じてしまうかもしれません。しかし、デジタル技術を使って変わることができるのは、どの業界でも可能になっています。

家庭教師で知られるトライグループは、2015年7月から「Try IT」というサービスを開始しています。その名の通り「トライ×IT」で、パソコンやスマホで映像授業が受講できるサービスで、100万人を超える会員登録者を集めています。

AGC(旧・旭硝子)は、工場でのノウハウや熟練工のスキルをデータ化しています。これにより、スキルの伝承を進めやすくなり、工場作業員の熟練度を高めるのも容易になり、製品の品質も安定させることが可能になるでしょう。

コロナ禍への対応でも、DX推進が役立っています。

資生堂は、コロナ禍で店舗での販売やカウンセリングが困難になったことを受けて、購買行動やニーズの変化にすばやく対応しました。ライブコマースやオンラインでのメイクアップカウンセリングを行い、Withコロナ時代に合わせた形で、企業のミッションとして掲げる「ビューティーイノベーションでよりよい世界を」を体現していると言えるでしょう。

トライと資生堂の事例は、対面で行っていたものをオンラインに変えて、これまで以上のサービス提供を実現した例です。一方、AGCの事例は、属人的なスキルを定量化し、誰でも活用できるようにしたものです。

いずれも、従来はITやデジタル技術とは縁遠いと思われていたものですが、まさに「デジタルで大きく変化した事例」と言えるのではないでしょうか。

上記のような有名な大企業でも、簡単にDXに成功したわけではないはずです。ペーパーレス化などのレガシーな業務を変えていくことから始めるなど、社内がDXに向けて変わる風土を作り上げたことによって、手段が目的化してしまうことなく、DXを実現できたのではないでしょうか。

ということは、大企業だけではなく、中小企業やベンチャー、スタートアップ企業など、どのような会社でも、DXで自社を変革し、ライバルとの競争優位性を高めていくチャンスがあると言えます。

進まない日系企業のDX

このような高く評価されているDX事例がある一方で、日系企業のDXは進んでいないと言われることも少なくありません。その理由は、次の3つがあると考えられます。

日系企業各社でDXが進まない背景

・DXについての理解が足りない
・DXを推進するための手段が目的化している
・会社全体がDX推進に向けて一丸になれていない

DXについての理解が足りない

最初に述べたとおり、会社にとってのDXとは「デジタル技術を活用して、より良いものを提供し、競争優位性を高めること」です。

DXを推進するためには、これまでの業務内容や働き方の変革やIT投資が必要になります。そのため、経営陣が決断しなければならないことですが、経営陣が「自社もやらなければならないから、DXを推進しよう」となってしまいがちです。DXの理解が不足したままでは、適切なDX推進はできません。

DXを推進するための手段が目的化している

ITシステムの導入などは、DX推進のための1つの手段にすぎません。しかし、①のように経営陣がDXを理解していない場合や、DXを担当する部署が理解不足の場合には、「IT化でDXが実現できる」と誤ったゴール設定がなされ、手段が目的化してしまいます。当然、KPIもツールの導入や、デジタル化の進捗度合いが基準となってしまうでしょう。

その結果、次々と導入されるIT化ツールによって、現場が過剰な業務に振り回され、ツールの保守・管理にコストがかかり、DXを推進するつもりがかえって業績を圧迫してしまうことにもなりかねません。

会社全体がDX推進に向けて一丸になれていない

DXのために社内改革を進めるためには、全社を挙げてDXに取り組まなければなりません。経営陣がDXを理解しており、担当部署によって適切なゴール設定がなされていても、現場の理解なしにDXを実現することはできません。

一部の部署だけがDX推進に積極的だったり、特定の部署からの反発があったりすると、DX推進の成果は限定的なものになってしまうでしょう。こういった理由があり、日系企業ではなかなかDXが進まないと言われています。

経済産業省のDXレポートでは、DXが進まなかった場合の悪いシナリオを「2025年の崖」と表現しています。ITシステムを導入している会社とベンダー企業との関係に問題があり、このままでは、DXで価値を創出できるのではなく、データ活用ができずに維持管理費だけが高騰してしまうリスクがあるということです。そのための対応策として、「DX人材の育成・確保」も挙げられています。

DX推進のカギを握るDX人材

こういった現状から、DX推進のカギを握るのはDX人材だと言うことができるでしょう。DX人材とは、「デジタル技術を活用して成果を出し、自社の競争優位性を高められる人材」です。

ただ、自社や顧客の課題解決につながる変革をしなければならないため、どの会社でも同じ手法でDXが実現できるとは限りません。会社や組織によって抱える問題が異なるからこそ、それぞれの状況に合わせたDXツールを導入・活用できる人材が求められているのです。

DXに本格的に取り組む会社は、これからもどんどん増えていきます。DX化を進めなければ、競争に負けてしまう環境になっていくとも言えるでしょう。そんな中、DX人材の需要もさらに高まっていくはずです。

しかし、社内に適任者がいるとは限らないため、転職者でDX人材を探している会社も少なくありません。では、DX人材として転職するために必要なスキルにはどのようなものがあるのでしょうか。

DX人材に必要なスキル

DXを推進する中心的な人材に必要なスキルには、主に、次の3つが挙げられます。

DX人材に必要なスキル

・デジタル技術の知見
・デジタル技術を自社の変革のために最適化できる能力
・説明力・交渉力

デジタル技術の知見

活用するデジタル技術は、あくまでDXの手段にすぎません。しかし、デジタル技術に何ができ、何ができないかを理解できていないと、DXを適切に推進することは不可能です。また、技術の進化が激しい分野のため、どんどん新しいものが登場します。最新情報をキャッチアップできる高いアンテナを持っていることも重要でしょう。

デジタル技術を自社の変革のために最適化できる能力

DX推進を支えるデジタル技術は、特定の会社用に開発されたオーダーメイドのシステムよりも、基本的な機能にオプションがつけられるタイプのものが主流です。多くの会社が導入できるシステム設計にすることで、自社専用システムを開発するよりも低コストで導入することができます。

そのため、導入にあたって、自社の変革に必要な部分をカスタマイズするなどの最適化が必要です。DX推進によって何を実現したいかを考える能力がないと、必要なデジタル化が行われず、不要なデジタル化が進んでしまうリスクもあります。

説明力・交渉力

DX化を進めることで、業務の進め方を大きく変える必要も出てくるでしょう。そのため、経営陣にも現場の社員にも、「なぜ変えなければならないのか」「どのような業務をするのか」といった説明をしなければなりません。

反発が起きることも予想されますが、会社を変えることでもあるため、交渉・説得が必要な場面もあるでしょう。新しい業務体制となることで、一時的には現場の負担が増えるかもしれませんが、どう合理化・効率化できるのかを伝え、納得して実行してもらえるコミュニケーション能力が求められます。

また、DX推進にあたっては、デジタル化によって不要になる作業をなくす決断力も必要だと言えるでしょう。

こういった3つのスキルがある転職希望者は、DX人材として重宝されるでしょう。大企業では、DXを推進する部署の責任者・担当者として転職しやすいはずです。一方で、DXを推進するためのツールを提供するIT企業やベンチャー、スタートアップ企業でも、顧客へのコンサルティングも含めた営業戦略に携わる重要なポジションで活躍することも期待できるでしょう。

ただ、よく考えてみると、「最新情報を集め、それを自社にあてはめて活用し、周囲を動かす」というスキルは、管理職や役員に不可欠なものです。DX人材に求められるスキルは、DXという括りだけでなく、転職や昇進でさらなるキャリアアップすることにもつながる重要なスキルとも言えるでしょう。

最後に

DXは、デジタル技術が進化した社会において、大企業かベンチャー、スタートアップ企業かという区別と関係なく、切っても切れない考え方です。そのため、会社がDX人材を社内外から求める動きはさらに加速するはずです。DXの知見があり、それぞれの会社にあった具体策を実行に移せるDX人材は、転職市場でも高く評価され続けるでしょう。

DXが会社の競合優位性を高める手段になるということは、DX人材として転職し成果を出すことが、自身のビジネスパーソンとしての価値を大きく高めるチャンスになると言えます。転職を機に、ビジネスパーソンとしてステップアップするためには、DXはとても親和性があるテーマとも言えます。

この記事を書いた人

岩崎久剛

1984年兵庫県生。関西大学工学部を卒業後、受験支援事業を全国展開する大手教育事業会社にて総務人事など管理部門を経験し、2012年より人材業界に転身。大手総合人材会社にて求人広告、人材紹介など中途採用領域での法人営業を経験し、従業員数名規模のベンチャーから数10か国に展開するグローバル企業まで多様な業界、事業フェーズの企業の採用を支援。2016年よりハイキャリア領域の人材紹介事業立上げメンバーに参画し、関西ベンチャーを軸とした採用支援に従事。その後、ビズアクセル株式会社を起業。MBA(グロービス経営大学院)。

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