多くの方に支えて貰った恩を、次の世代へ送ることが自分の使命
株式会社ペイフォワード 代表取締役 谷井 等 氏

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2010年に米国セールスフォース・ドットコムと国内企業初の提携を実現

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岩崎 2007年に上場を果たされていますが、直後のリーマンショックの影響はいかがでしたか。

谷井 上場当時はホリエモンショックが起こり、さらに追い打ちをかけるように、2008年にサブプライムとリーマンショックが訪れ、経済全体が低迷期に入りました。しかし幸いなことに、「Synergy!」は当時の不況の影響を受けづらい強いビジネスモデルでしたので、僕達の業績は伸び続けました。そして、上場してしばらくした頃にセールスフォース・ドットコムとの提携の話が生まれました。

岩崎 セールスフォース・ドットコムと提携というのは国内で初めてで、しかもそれが関西のベンチャー企業というのは当時ビッグニュースでしたね。

谷井 当時としてはユニークなニュースだったかと思います。セールスフォース・ジャパンとは以前から何か一緒にできないだろうかと話し合ってはいたのですが、あるきっかけで、セールスフォース・ドットコムのCEOであるマーク・ベニオフと会食の機会を頂くことになりました。

マーク・ベニオフは日本が大好きで、よく日本に滞在されていたそうなのですが、滞在中に日本のCRMの動向を調べている中で、シナジーマーケティングのことを知ってもらっていたそうです。この会食がきっかけで事業提携、および資本提携の話がとんとん拍子で進み、セールスフォース・ドットコムからの第三者割当増資が決まりました。余談ですが、そのニュースが出た後は3カ月間株価が上がり続け、2010年の値上がり率ナンバーワン企業になりました(笑)。

提携後、Salesforce連携CRMアプリケーションの「Synergy!LEAD」ができたので、2011年に海外進出を目指し、舵を切りました。自社のツールをアメリカでも展開したいという思いで、毎月のようにアメリカへ行き、セールスフォース・ドットコムと話を進めていきましたが、残念ながら最終的にはアメリカへの展開は実現しませんでした。

一方で世界に出るのであれば、勢いのある中国にも展開したいと考え、香港のウェブマーケティングコンサル会社を買収し、販路の窓口を作って新たなツールの販売を検討していました。中国進出の話は進み、現地の会社とも合意はしましたが、最終的に役員会で否決されて海外進出もできなくなってしまいました。そんな壁を前にし、次の展開をぼんやりと考えていたのが2013年頃でした。

TOB(株式公開買付け)によるヤフーへのM&Aを決断、社長退任

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岩崎 その頃から2014年のヤフーへのM&Aまでの経緯と心境をお聞かせいただけますか。

谷井 海外進出とは別に、当時はCRMとデータベースのNo.1企業を目指し、2008年からはオウンドデータの分析予測の研究開発にも着手をしていました。しかし、オウンドデータだけではデータの量が足りないと思い、ビッグデータ分析ツール事業などを展開していたホットリンク社に資本参加し、ソーシャルメディアデータを集めたりもしていましたが、これでもまだまだデータが足りないと感じていました。

 試行錯誤していた中で辿り着いた結論としては、「日本では国内の90パーセント以上のユーザID、更にはその決済・ECデータなどを保有しているヤフーのような会社が圧倒的にデータ量で優位であり、他社が追随できるレベルではない」ということでした。

その現状を踏まえて考えたことは、ヤフーにある全てのデータをシナジーマーケティングが繋ぐことで、日本規模での予測ができるという事業展望を考え、2014年にヤフーへの売却を決断しました。ヤフーに会社を売却してからも夢中で働いていましたが、2年経ったときに、一度自分の人生を考え直してみようと思い、社長退任を決めました。

2年半の海外放浪後、再びシナジーマーケティング

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岩崎 退任後は海外放浪をされていたとのことですが、その後シナジーマーケティングを買い戻すに至るまでの経緯と心境をお聞かせいただけますか。

谷井 退任してから2年半の間に50か国を旅しましたが、行く先行く先での初めて触れる体験が楽しく、人生の中で最も貴重な体験の一つだったと思っています。しかし、いつのまにか旅の中で「このビジネスは日本にないな」「この店はどれぐらい儲かっているのかな」など、自然と商売のことを考えている自分がいました。そしてオーストラリアのシドニーの空港に降り立ったとき、面白いという気持ちが何も無くなった自分に気づき、真剣に次のビジネスの準備をしようと決めたのが2018年の秋です。

この時、実は非常に大きなプレッシャーを感じていました。1社目が幸いに楽天に売却し、2社目は上場、TOBでヤフーに売却してきた経験から、それ以上に大きなビジネスをしなければいけないというプレッシャーがあったんです。必死にビジネスを考えていましたが、これまで以上のビジネスアイデアがそうそう目の前に転がっているわけはありません。

そんな頃、シナジーマーケティングの代表を託した田代から「谷井さん、会社を買い戻しすという可能性はありませんか」という話を貰いました。思いがけないお話ではありましたが、今も頑張ってくれている社員のことも気にはかかっていましたし、あり得ない選択肢ではないと思ったのが率直な気持ちでした。

創業者にしかできない唯一のことは、最初に「この指とまれ」とパラダイムを提示することです。僕がこんな事業をするぞと指を立て、そこに面白さを感じ、人が集まり、組織ができる。ただ10数年経って僕はその指を抜いてしまったわけですが、この空いた穴を再び埋め、社員が一番盛り上がる指は第三者のものではなく、創業者の僕以外にないとその時は思いました。

ただ、ヤフーに売却したときよりも会社の価値は上がっており、買い戻す資金もないので、経済的に目途が立てば買い戻そうと考えました。そしてヤフーの今後の方針をお伺いし、同時に銀行とも連携をとり、慎重に進めていきながらこのプランを提示し、シナジーマーケティングの買い戻しを決定しました(※)。

※2019年より持株会社である株式会社ペイフォワードの傘下にシナジーマーケティング社など複数の事業会社を擁する体制に再編

多くの方に支えて貰った恩を次の世代へ

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岩崎 シナジーマーケティングを買い戻し、親会社となったペイフォワードグループとしての展望についてお聞かせください。

谷井 シナジーマーケティングの経営に復帰はしましたが、今後はシナジーマーケティング単体での拡大を目指すのではなく、複数の事業の立ち上げていく、あるいはM&Aにより事業領域を広げていきたいと考えています。そしてシナジーマーケティングに続く収益事業を立てていき、ペイフォワードグループとしての成長を目指す。そのためにも復帰後、ファイナンスに明るい人材にも力を貸して欲しいと話し、参画してもらうなど組織体制の再編も進めています。

ペイフォワードグループが今後目指す形として、事業拡大のエンジンになるあらゆる経営資源のサポートができる体制を進めています。具体的には、既に立ち上げた広報PRの支援事業(ハッピーPR株式会社)、そして今後は人材紹介と管理部門のアウトソーシング事業を予定しています。ここにシナジーマーケティングが持つデジタルマーケティングの知見があれば、これからペイフォワードグループで生み出す会社や新規事業、そして投資先企業が抱える課題をあらゆる形で解決、支援ができると考えています。

岩崎 ペイフォワードとしてもまた支援家としても関西を中心に事業をされていく指針かと思いますが、谷井さんは関西のマーケットをどのように見ておられるのでしょうか。

谷井 関西基盤でビジネスをする理由について情緒的な話でいうと、関西で事業をし、関西の方々に助けて頂いてここまできているというのも大きいです。また、そもそも僕は事業をする上で場所は関係ないと思っており、例えばコカ・コーラの本社はジョージア州アトランタにあり、大阪と同じくらいの規模であるという事実からも明らかです。つまり、東京であれば勝てる、大阪であれば勝てないなんてことはなく、どこにいても勝つべき者が勝つのがビジネスだと思っています。そうであれば僕はお世話になった大阪に基盤を置き、大阪から全国、全世界に向けてやっていけばいいと思っています。

経済的に見ても、東京と比べて人件費やオフィス賃料などの他、関西だからこそメディアで取り上げて貰う機会などメリットはたくさんありますし、大阪万博なども控える中、関西を中心とした時代になってくるだろうと思っています。ただ、全国区でビジネスを行うには課題もあり、例えば東京で仮に有名になれば全国区になるが、大阪で有名になっても全国区にはならないので、東京の会社以上にPRに力を入れる必要がある。そんな問題をペイフォワードグループで解決し、成長を支えられることができればと考えています。

岩崎 これまで関西のベンチャーマーケットをリードしてきた第一人者として見ていること、そしてペイフォワードでこれまで仰って頂いた事業展開を目指すのかをお聞かせください。

谷井 支援家としても3,4年程前から「経営者を鍛えるべきだ」と考え、さまざまな取り組みをおこなってきました。世の中を見渡すと、スタートアップ当事者よりも支援者側の方が圧倒的に多く、市場では資金が余っている状況です。これだけ支援先も多いなかで調達ができず、会社が成長できないのは経営者自身の問題だと考えていました。

また、経営者自身が成長していないのに資金を手にしても、会社は成長するのではなく膨張するだけだと考えています。経営者の強い想いとそれを実現する能力がなければ、会社は成長できません。だから僕は経営者を鍛えていくという活動を一生懸命やっていました。

ただ、その取り組みをするなかで、「どうやら経営者を成長させるだけでなく、事業成長を支える経営資源の問題を解決する必要がある」と感じ始めたのが2年前からで、その課題解決の為に現在ペイフォワードグループでのサポート体制を形にしていこうと進めています。

僕は起業をしてから、本当に様々な方に助けて頂いたことでここまで来ることができたと思っています。この恩を次の世代に返したい、それが社名のペイフォワ―ド(恩送り)に込めた想いです。今後は投資先企業だけでなく、関西を中心に様々な企業の成長をサポートする事業展開をしていきたい、それがこれまで多くの方に育てていただいた、僕の使命だと考えています。

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