家族を支えるための制度として長年活用されてきた「扶養制度」ですが、共働き世帯や核家族世帯が増え、若い世代を中心に「扶養についてよく知らない」という方も増えてきているのではないでしょうか。扶養制度は様々な種類の控除が受けられるお得な側面もあります。長い人生のなかでは家族を扶養する・もしくは扶養される、という機会があるかもしれません。今回は扶養制度の基礎知識やメリット・デメリット・扶養に関する手続きを解説します。
扶養制度とは
まず最初に「扶養制度」とはどんな制度なのかについて解説します。正しく節税して手取りを増やすには扶養制度の基本知識は不可欠なため、知っておくことで得られるメリットは多いでしょう。
扶養とは何か
「扶養制度」とは家計を担う者が、収入が少ない家族の誰かを「扶養家族」とすることにより、その申請した家族の人数に応じて税金や社会保険料が控除(減額)される仕組みです。つまり、家族の誰かを養うことで、税制上優遇される資格を得るということです。
税法上の定義では、「一定の条件を満たした家族を経済的負担下にあると認定し、その人数に応じて税金を軽減すること」を指します。
扶養には「税法上(所得税や住民税)の扶養」と「社会保険上の扶養」の2種類があります。この2種類はそれぞれ扶養制度が活用できる条件が異なるため、この制度は理解が難しいものとして敬遠されがちですが、共通することは「年収が少ない者がいる家庭の金銭的な負担を軽くすることで、生活に困窮する人を減らすための制度」であるということです。
扶養家族になる条件とは
では、扶養制度を受ける上で、具体的にどのような条件を満たす必要があるのでしょうか。まず重要なのは、扶養家族の年間の所得金額が一定額未満であることです。
2024年1月現在、所得税の税制上の扶養の給与収入基準額は103万円未満、社会保険の扶養対象となる収入基準額は年間130万円未満となっています。この基準額は年々見直される場合がありますので、毎年の税制改正ニュースに注意が必要です。
また、所得条件以外にも、扶養家族になるための各種の要件が設定されています。例えば扶養されるには「生計を一にする家族」である必要があり、その家族が税制上の「生計同一者」と認められるかは、生活の実態をもとに判断されます。
社会保険における扶養制度では非自立の家族(例えば未成年の子供や無職の配偶者)を主に扶養対象と見ますが、税制上の扶養制度では18歳以上の子供や、自分とは別に生計を立てている親など、より幅広い家族が扶養対象になることもあります。
扶養制度のメリット・デメリット
では扶養家族を持つこと・扶養されることで具体的にどのようなメリット・デメリットがあるのでしょうか。ここからは扶養のメリット、デメリットについて解説していきます。
扶養制度のメリット
扶養制度のメリットとしてはなんといっても「各種控除を受けられる点」にあるでしょう。扶養制度を活用することにより、一世帯としての支払う税金・社会保険料の総額を減らすことができ、結果として手取りの収入(可処分所得)が増やすことができます。
もし対象年齢の子供がいる場合は児童手当など、他の社会保障制度のサポートも併せて受けられます。そのような公的な制度とは別に、給与の一部として独自の家族扶養手当を設けている企業もあります。
扶養制度はやや手続きが複雑な部分もありますが、しっかりと理解して適切な申告を行うことで家計の経済的負担の軽減を図ることができるのです。
扶養制度のデメリット
扶養制度を活用するデメリットとしては、支払わなくてはいけない負担が減る分、何かあったときに受け取ることができる手当が減るという点です。たとえば扶養されている家族(被扶養者)が将来的に受け取ることができる年金額は、厚生年金に加入していた人に比べると格段に少なくなる可能性が高いです。また健康保険からの給付も一部制限されます。
また各種扶養控除を受けるには、扶養される側の所得の制限条件をクリアしていなければなりません。「年間所得が〇万円を超えたら扶養に入れない」という基準額(通称「年収の壁」)が決まっているため、扶養家族が就労意欲が高い人であっても、多く働くのをやめて基準額内に収入を抑える「所得調整」が行われがちであるというのもデメリットの1つです。それは扶養される家族(被扶養者)側の長期的なキャリア形成・スキルアップをする機会を阻害している可能性があるとして問題視されています。
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税法上(所得税・住民税)の扶養控除
次に税法上の扶養(所得税・住民税とのかかわり)について説明します。昇格や転職などのイベントに合わせて所得税も変動するため、事前に所得税の計算方法や税金についての知識があれば扶養制度を受ける際も安心でしょう。
扶養する側・扶養される側、双方の所得税が控除される
扶養家族がいることで、扶養する側の所得税が控除されます。控除額は、被扶養者と扶養者それぞれの合計所得金額に応じて異なりますが、最大38万円(年間)が控除されます。また被扶養者についても所得税が控除されて実質0円になります。
扶養される側の住民税が控除される
被扶養者は、住民税も控除されます。しかし住民税の非課税基準については一律ではなく、その人の住んでいる各市区町村の条例で定められています。所得税の基準額とは異なるため、注意が必要です。
社会保険における扶養制度
ここまでは税制上の扶養について説明してきましたので、ここからは社会保険上の扶養制度について解説を行います。社会保険とは、主に健康保険や厚生年金保険の総称で、日本の社会保障制度の根幹をなしているものです。この制度があるからこそ、私たちは病気や老後のリスクに対して安心を持って暮らすことができるわけですが、この制度の中にも「扶養」という制度が存在します。
扶養される側の医療費負担が3割となる
社会保険のうち、健康保険における「扶養」とは、被保険者である人(扶養する側)だけでなく、その家族を保障の範囲に入れることができる制度です。つまり、扶養する人が会社員・公務員であった場合、一人分の保険料を支払うことによって、その人の扶養家族は健康保険料を負担することなく、医療費負担が3割になるという恩恵を受けられるのです。
扶養される側は、年金の支払いを免除された上で、受給できる
被扶養者は国民年金保険料の支払いを免除されます。そのうえで納付していた期間としてカウントされるため、将来的には国民年金を受け取ることができます。ただし同じ期間、厚生年金に加入していた人に比べると、受給金額は少なくなります。
扶養控除の申告方法
扶養控除を受けるには、適切な手続きを踏むことが必要です。扶養控除の申告は、年末調整や確定申告で行うことになるため、扶養控除を適切に申告する具体的な方法や、その際の注意点について解説していきます。
年末調整と扶養控除
年末調整とは、1年間の所得税が過不足なく支払われているかを確認し、必要な調整を行う手続きです。この時、扶養控除の適用を受けることで、従業員は実質的に手取りを増やすことができます。
会社に提出する「扶養控除等申告書」に、扶養する家族の情報を正しく記入することが求められ、具体的には各家族成員の氏名・生年月日・続柄等の基本情報や、その年の所得状況に関する情報を正確に申告する必要があります。また、誤った情報に基づいて申告すると、後に修正が難しい場合もあるので申請する際には注意が必要です。
確定申告での扶養控除の取り方
自営業者やフリーランサー、年間の所得が204万円以上(年収240万円)の副業をしている人は、年末調整ではなく、確定申告を通じて扶養控除を行います。確定申告での扶養控除を正しく行うには、まず基礎控除の申告を行い、その上で扶養する家族がいることを申告し控除を受けます。
また、提出する書類には「扶養控除申告書」や、配偶者の場合は「配偶者控除・配偶者特別控除申告書」などがあり、関連する証明書類が求められる場合もあります。確実な処理のためには期限内に必要書類を揃え、漏れや間違いのないように申告することが大切です。
変更があった場合の扶養控除の更新
もし扶養家族の人数に変動があった場合(家族が増えた、減った)、または扶養家族の収入が基準以上になった等の変更は、扶養控除に影響します。このような場合、速やかに扶養している人の所属する会社の人事や管轄の税務署へ変更届けを出すことが求められます。
特に配偶者が扶養から外れる場合や、18歳を超える子供が独立する場合は、その年の初めに所得税の申告書類を更新しておくことが重要です。もし適切な更新を怠ると、不正受給として、後から追徴課税を受けるリスクもありますので、家庭の状況が変わったときは速やかな手続きが求められます。
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最後に
ここまで扶養制度と税金について解説してきました。扶養制度は理解しておくことで得られるメリットも大きいため、特に結婚や育児、親との同居などのライフイベントを迎える予定の方は、知っておくと良いでしょう。また、2024年内にも社会保障上の扶養に関して適応対象者と保険料と保障内容の変更が行われるため、申請予定の方は特に最新情報が得られるように注意しておく必要があります。