経営企画への転職で知っておくべき仕事とキャリア

経営企画は、会社の事業戦略やプロジェクトの立案を担当する、事業運営の中枢とも言える重要な仕事です。とてもやりがいのある仕事ですが、成長戦略を掲げる大企業、ファンド傘下での事業再生企業、あるいはIPO(新規株式公開)などを目指すベンチャー、スタートアップ企業かなど、会社の状況やフェーズによって求められる役割が異なります。

そしてM&A戦略などを推進する大企業、あるいは事業再生フェーズにある企業など、どういった会社で経営企画の業務に携わっていたかも、自分のキャリア形成に影響を与えます。こちらの記事では経営企画へ転職する場合に知っておきたい、仕事内容やキャリアへの影響などについてご紹介します。

目次

経営企画の仕事内容

経営企画は会社の事業運営の中枢にあたる業務とも言え、中小企業やベンチャー、スタートアップ企業などの規模感では経営陣の右腕のような存在にもなってきます。それだけ重要な業務を任され、やりがいのある職務です。

「経営企画」という名前の通り、基本的な仕事内容は「企画」です。事業全体の戦略やプロジェクトを立案するほか、中長期的な方向性を打ち出す「中期経営計画」の作成や、新規事業にも携わります。あくまで経営企画であり、自らが実行部隊の最前線に立つことはあまりありませんが、現場がより高い確度で成果を上げられるよう、調査・分析・社内調整などを行います。

どの会社でも経営企画部が置かれているわけではありませんが、経営企画のような業務はすべての会社で必要です。中小企業やベンチャー、スタートアップ企業では、経営企画部は存在しなくても、事業部長や管理部で経営企画の業務に携わっている人がいます。では、具体的な実務ではどのような仕事をしていくのかについて以下にて解説します。

企画(調査・分析・資料作成)

経営企画の仕事の根幹部分です。事業戦略やプロジェクト・新規事業等を推進するために、社内外を問わずさまざまな情報を調査・分析します。その上で、経営陣が方向性を考えるための資料を作成します。また、社内のリソースや取り組む内容によっては、外部の調査機関やコンサルティングファームの力を借りて、企画や社内調整(後述)の業務を行います。

経営会議等の運営

取締役、事業部長などの経営会議に経営企画のメンバーが参加することもあります。このような経営陣が意思決定するために必要となる情報(市場・競合調査、現場の課題など)をまとめて報告し、確からしい判断に繋げられるようにサポートをするのも経営企画の大きな役割の一つです。

社内調整

実行することになった戦略やプロジェクトをスムーズに進めるための社内調整も、経営企画の重要な仕事の1つです。社内の関係各所にヒアリングしながら、予算や人的リソースを配分していきます。グループ会社や持株会社の経営企画であれば、グループ会社間の調整や子会社同士の調整を行うこともあるでしょう。

渉外対応

事業戦略によっては、取引先や業務提携先などとの交渉や調整が必要となる場合もあります。このときに窓口となるのも経営企画です。事業提携を行う他社の経営企画と一緒になって仕事をすることもあり、経営者の方針などを汲んだ代表者となる責任の大きな役割です。

上記のような仕事が、経営企画の主な仕事内容です。中小企業やベンチャー、スタートアップ企業の場合は、社長が打ち出した方向性に会社全体を向けさせて、目標を実現させていく「実行役のトップ」として業務を遂行することも少なくありません。また、組織がそこまで大きくない中小企業の場合は、「経営企画部」という組織名になっていなくても、実質的に経営企画の仕事をしているということもあります。

事業フェーズにより、求められる役割は変わる

このような経営企画の仕事ですが、どの会社でも同じような役割を果たすわけではありません。会社の規模や事業フェーズによって必要な経営判断が異なるのと同じように、経営企画に求められる役割も各社でさまざまです。

例えば成長基調にある会社で経営企画を経験した人が、事業再生フェーズにある転職先企業で経営企画の職に就いても、まったく同じスタイルで仕事ができるとは限りません。事業フェーズ、現場社員のビジネスリテラシー、ファンド等のステークホルダーの存在の有無など企業を取り巻く変数によって、大きく仕事の進め方が変わる中、どの会社でも実績を上げられる経営企画の転職者は、引く手あまたと言えるでしょう。

一般的には、大きな組織になればなるほど調整に関する業務が多くなりがちです。また、組織が大きい分だけ、経営企画が携わる業務範囲が広くなるため、例えば市場調査などリサーチ担当や戦略企画担当など経営企画部に所属するメンバーで役割を分担される傾向にもあります。

逆に中小企業などでは会社全体の戦略企画だけでなく、オーナー経営者の相談役のような立ち位置を担うことも珍しくあるでしょうし、急成長を目指すベンチャー、スタートアップ企業ではキャッシュフローなど資金面のことを抜きに事業計画などは立てられませんので必然的にそのような部分に強くなるといったこともあるかと思います。

このように経営企画として期待される役割は会社によって全く異なります。転職活動の際には応募企業がどのような事業フェーズにあり、経営企画に何を期待されるのかなどに関してしっかりと認識を揃えておくことが非常に重要になるでしょう。

ベンチャー、スタートアップ企業で求められる経営企画の役割

ベンチャー、スタートアップ企業・中小企業などのような小さな組織であれば、経営企画部のメンバーも必然的に少人数になります。1人で経営企画に関する全業務を担当することになる場合もあるでしょう。経営企画部がなくても、経営陣の一員として、経営企画の業務を兼任することも少なくありません。

ビジネスモデルが未確定なベンチャーでは、今の事業の可能性を調査・分析して、より勝てる仕組みを作ったり事業をピボットさせたりする判断が必要です。そして、現場がその実現に向けて全力でコミットできるKPIやKGIの設定、事業の進捗管理のためのモニタリングなどが求められます。特にIPOを目指すベンチャー、スタートアップ企業では、予実管理(事業計画と実績)の精度が求められる中、どのような要素をKPI設定と置くことで計画通りに進むかといった観点での仕組み作り、体制整備なども必要となってきます。

また、急成長を目指すベンチャー、スタートアップ企業では事業計画や戦略を立てる際に、資金のお話抜きでは成立しません。この戦略への投資でどれほどの効果が得ることができそうか、そしてその資金はどこから調達をするかなどまで視野に入れた仕事が求められるでしょう。

なお、ベンチャー、スタートアップ企業では、バックオフィス部門が充実していないことや管理監督にあたる人材が不足していることなどから、戦略やプロジェクトの実行支援の役割が求められることもあります。アメリカと比べると、日本ではまだまだベンチャー、スタートアップ企業からのIPOは少なく、ベンチャーの急成長を支える経営企画で成果を出せる人材は非常に希少だと言えます。

事業再生で求められる経営企画の役割

事業再生フェーズにある会社の経営企画ではCEOや経営陣を支え、その意思を関係各所に浸透させるリーダーシップなどが必要になります。具体的には事業再生フェーズにある会社では、業績が苦しく落ち込んでいる状態にある中、短期間での収益改善施策を立て、実行していくことになります。

事業ポートフォリオ再生、不採算事業の整理・売却、あるいはリストラなどによる人員整理の施策などハードな施策を推し進めねばならないことが多く、高い社内調整スキルと実行力が求められます。また一時的にコストカット施策で倒産を乗り切ったとしても、延命処置を施したようなもので、限られたリソースの中での成長戦略も描いていく必要もあり、総合格闘技のようにあらゆる角度から会社経営を支える働き方になります。

企業の寿命はこれまで30年と言われていましたが、近年では20年程度にまで縮まったとも言われています。それほどビジネススピードがますます速くなる中、これまでのビジネスモデルでは通用しなくなり、創業から歴史のある会社でも一気に事業再生フェーズを迎えるということも珍しくなくなりました。

このように事業再生のニーズが高まっている中、事業再生に必要なスキルを持った経営企画は転職市場では希少な人材として重宝されることでしょう。

経営企画への転職で活躍するために必要なスキル

経営企画の転職で共通して求められるスキルは、主に戦略思考、コミュニケーション能力、現場理解です。こちらではそれぞれについて解説していきます。

論理思考力

経営企画の仕事の中心である現状分析、分析結果を踏まえての戦略や施策の立案には、高い論理的思考力と経営戦略に関する知見が求められます。例えば現状分析の際にはPESTや5フォース、3Cなどに代表されるフレームワークを活用し、抜け漏れなく網羅的に論点を押さえ、正しい現状把握に繋げていきます。

また、現状分析の上で戦略を立てる際にも、短期での成果、あるいは長期的な視点での大きなリターンを狙うなど会社経営として何を重視するべきかを押さえた上での意思決定が必要です。

コミュニケーション能力

会社として打ち出した戦略などを実行する際、その支援や調整も経営企画が行いますが、そこで欠かせないのがコミュニケーション能力です。どうしてこの戦略を打ち出したのか、どのようにして成功に導くのか、資料だけではなく、直接、経営陣にプレゼンすることもあります。

事業部門やその現場メンバーに説明するときは、彼らの感情にも配慮した伝え方が求められます。戦略や施策の全てが現場視点で見た際に納得感のあるものばかりではありません。戦略や施策に取り組む背景を伝えなければならない中、論理的に、かつ感情にも配慮した納得感のある説明をするためには高いコミュニケーション能力が必要です。

現場理解

もう1つ必要なスキルは現場をどれだけ理解しているかです。経営企画として、現場から離れたところで経営陣とともに仕事をしていると、現場目線が疎かになってしまいがちです。しかし、現場の動きを知らずに優れた戦略を打ち出すことはできません。また、優れた戦略であっても、現場への配慮を無視して実行させることだけを要求すると、会社全体が一丸となって事業戦略に取り組む姿勢を持ってもらうことができなくなるでしょう。

ベンチャー、スタートアップ企業の経営企画として転職した場合は、組織が小さい分、現場のより深い理解も必要になるはずです。また、ベンチャー、スタートアップ企業は人的リソースが少ないので、経営企画の担当者が、実際に実行部隊として実務に取り組まなければならないこともあるでしょう。

経営企画のキャリアパス

経営企画の業務内容や必要なスキルは上記の通りですが、経営企画への転職後のキャリアパスはどのようなものになるのでしょうか。

役員へのキャリアアップ・転職

経営企画として実績をあげることができれば、COOやCSO(最高戦略責任者)といった役員へのキャリアアップも可能です。活躍を耳にした他社からのヘッドハンティングで転職というケースもあるでしょう。またその先のキャリアとして、原田泳幸氏(※)に代表されるような「プロ経営者」として企業の変革や経営再建などを担う働き方を目指す選択肢も増えてきました。

※ 原田泳幸氏は日本ヒューレット・パッカード株式会社での勤務を経て、シュルンベルジェグループ取締役、アップルコンピュータジャパン株式会社取締役、アップルコンピュータ株式会社社長、Apple Computer, Inc.副社長、日本マクドナルド株式会社社長、日本マクドナルドホールディングス株式会社社長、株式会社ベネッセホールディングス社長、株式会社ゴンチャジャパン代表取締役会長兼社長兼CEO、ゴンチャグループ グローバルシニアリーダーシップチームメンバーなどを歴任した日本を代表するプロ経営者のお一人。

コンサルティングファームへの転職

経営企画の仕事はコンサルティングファームでの仕事と共通する部分がたくさんあります。事業会社での戦略立案や実行支援の経験は、深い現場理解に基づくコンサルティングができるスキルがあるとして、転職で有利に働くことでしょう。

独立起業

コンサルティングファームへの転職ではなく、自らがコンサルタントとして独立し、外部の経営企画として、たくさんの会社の経営支援をするような独立起業をする方もいれば、これまでの経営企画で培った経験を活かして自らでビジネスプランを描き、起業するという選択をされる方も増えてきました。

経営企画への転職で見るべき企業のポイント

経営企画への転職は、その仕事ができるならどこでもいいという視点ではいけません。採用する側の会社にとっても、重要なポストを任せる人材を外部の転職希望者から採用するのです。どのような会社なのかをしっかりと見て、自分の希望に合い、より活躍できる転職先を見つけなければなりません。ここでは、経営企画への転職で見るべき主なポイントを4つ紹介します。

レポートラインを確認する

前述の通り、会社の状況や規模などによって、経営企画部とそこに所属するメンバーに求められる役割が変わってきます。転職先でどのような指揮命令系統で業務にあたるのかを確認することで、転職後の自分の役割がある程度わかります。社長などの経営陣に直接報告するレポートラインの場合は、経営陣の目が届かない所まで全体を見て業務にあたることになるでしょう。

一方、事業部長への報告をするレポートラインになっているのであれば、事業部長が担当する領域を中心としての業務になることが多いでしょう。例えば、営業を得意とする事業部長のもとで、事業部長の意思決定に必要な営業に関する調査・戦略立案をしたり、逆に、営業以外に関する調査や分析で弱点を補完する役割を求められたりするケースがあると考えられます。

社長の考え方や経営方針を知る

経営企画は、社長の考え方や経営方針の影響を強く受ける部署です。転職したものの、社長や経営方針と相容れないということになってしまえば、転職者にとっても会社にとっても不幸な結果しか生まれないでしょう。エントリー前や面接など、転職活動中に確認しておくことが大切です。

事業展望を知る

転職を希望する会社がどのようなフェーズにあるのかを理解しておくのも重要です。会社の状態によって経営企画に求められる役割は変わりますし、自分が仕事をしたいと考えている転職先なのかを判断することができるためです。また、自らのビジネスパーソンとしてのキャリアにも影響すると言えます。転職先での事業の成長や改善が、自分の成長やスキルに対する評価にもつながります。

社内のビジネスリテラシーを確認しておく

経営企画として仕事をする時、経営陣や関係する部門の人たちとコミュニケーションを取る場面が多くなります。転職先の人たちとのコミュニケーションにあたって見落としてはならないのが、車内のビジネスリテラシーです。社内の人たちに馴染みのない言葉で説明をしても、理解するのが困難になるだけです。

また、転職先の社内にどのような人材がいるのかを把握することで、昔からの社員に意識改革をしなければならない場合や、会社自体を大きく変革させなければならない場合に、経営企画として働く自分の味方になってくれる人がいるかどうかを見ることもできるでしょう。

経営企画への転職活動

経営企画を目指す方の多くが組織の中で責任ある役職を任され、多忙の中、なかなか転職活動に十分な時間を割けない状況にあります。このような多忙な働き方を強いられる方の場合、現職でのパフォーマンスを落とすことなく、効率的に情報収集を行う必要があります。こちらではこのような経営企画への転職活動で推奨する2つの手法についてご紹介します

スカウトサイトを活用した転職活動

一つ目はスカウトサイトを活用した転職活動になります。これまで主流であった転職サイトなどからスカウトを待つ転職プラットフォームに移行しつつあります。具体的には「ビズリーチ」「リクルートダイレクトスカウト」「エンミドルの転職」などが挙げられます。ダイレクトリクルーティングと呼ばれる市場はこの数年で急激に市場が拡大し、2021年には前述のビズリーチを運営するビジョナル株式会社が東証グロース市場にも上場を果たしています。

これら転職プラットフォームに情報を登録しておくことで、経歴を見た転職エージェント、または企業より直接スカウトを貰うことが可能です。どのような企業がこれまでのスキル・経験を評価してくれるのかという観点も含め、自分の経歴に合った求人情報をある程度網羅的に情報を集めることができるため、多忙なビジネスパーソンにとっては有効な転職手法の一つと言えるでしょう。

転職エージェントを活用した転職活動

前述の様な転職プラットフォームサービスの台頭はあるものの、まずは自身の現状について相談したいという場合には転職エージェントを活用していくこともよいでしょう。多くの場合、転職活動は孤独です。自身の経歴の棚卸、今後の自分のキャリアプランをどうしていくべきかなど腹を割って話ができる存在がいるかいないかは、自身の転職活動を良い形で進めていく上で重要です。

転職エージェントは国内に数万社あり、職種や業界に特化した転職エージェント、あるいは経営層、マネジメント層に特化した転職エージェントなどそれぞれ特色があり、経営企画をはじめとした経営幹部層の支援実績が豊富な転職エージェントも存在します。これまでの経験、自分が描きたいキャリアなどを踏まえ、自分に合った転職エージェントをパートナーに選びましょう

最後に

経営企画は、会社の命運を左右する重要な仕事とも言えます。転職先で従事する業務としては非常にやりがいがあるでしょう。そして、経営企画のスキルが評価される会社も増えています。大企業で経営企画部の一員として働く以外にも、中小企業やベンチャー・スタートアップなどで、より経営全般に関わる働き方もあります。

自分のためにも転職先のためにも、経営企画への転職に必要な最低限のスキルを持っていても、どういった役割で働きたいか、自分のキャリアパスをどう描くかなどを考えて、転職先選びをするようにしましょう。

この記事を書いた人

岩崎久剛

1984年兵庫県生。関西大学工学部を卒業後、受験支援事業を全国展開する大手教育事業会社にて総務人事など管理部門を経験し、2012年より人材業界に転身。大手総合人材会社にて求人広告、人材紹介など中途採用領域での法人営業を経験し、従業員数名規模のベンチャーから数10か国に展開するグローバル企業まで多様な業界、事業フェーズの企業の採用を支援。2016年よりハイキャリア領域の人材紹介事業立上げメンバーに参画し、関西ベンチャーを軸とした採用支援に従事。その後、ビズアクセル株式会社を起業。MBA(グロービス経営大学院)。

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