経営者を支える顧問という働き方

会社経営を支える経営幹部人材などの採用難で悩んでいる、あるいは新規事業立ち上げを進めているもののノウハウがない等の課題を抱える企業を助ける存在として、「顧問」が注目されています。昔のように「経営者の補佐をする専門家」だけが顧問と呼ばれるのではなく、人事・営業などの「事業の一部分について高い専門性で補佐や指導を行う人材」も顧問として求められるようになっています。

そして、顧問を活用する企業も、変革を目指す大企業、中小企業だけではなく、急成長を目指すベンチャー・スタートアップ企業などにも広がっています。今回は、副業としてセカンドキャリアとして、自身のスキルや経験を活かすことができる「顧問」という働き方について解説します。

目次

顧問とは

顧問とは、高度な専門知識や経験を駆使して、企業などの補佐や指導を行う存在です。「アドバイザー」や「ブレーン」などと呼ばれることもあります。顧問を分類すると、元社内人材が務める「内部顧問」と、外部の人材と顧問契約を結ぶ「外部顧問」に分けられます。外部顧問は、必要なときに必要な分だけ活用することができるメリットがあり、客観的な意見を取り入れられるものでもあります。

顧問と言う言葉を聞くと、社長や役員がその役割を全うした後に名誉職的に相談役や顧問という役職で経営陣にアドバイスを行っているケースや、弁護士や税理士といった専門性の高い士業が法律や税務についてのアドバイスを行う顧問契約を思い浮かべる人も多いのではないでしょうか。

しかし、経営者や士業だけが顧問になると決まっているわけではありません。高度な専門知識や経験を活用したアドバイザーも顧問であり、近年では、後者の意味での顧問が注目されており、30代や40代で顧問の役割を担うケースも珍しくなくなりました。そして顧問を活用するのも変革を目指す大企業や中小企業だけとは限らず、販路拡大やIPOに向けてノウハウなどに課題を抱えるベンチャー・スタートアップ企業が活用しているケースも増えているようです。

経験豊富な顧問を迎える企業が増えている

近年、経験豊富な顧問を迎える企業が増えています。それも、経営レベルの顧問だけではなく、「特定の業務について専門的な知識と経験を持つ人材」を顧問として迎えるケースが増えているのです。こちらでは顧問を迎える企業の内情の一例について解説していきます。

事業成長に拍車をかけたい

事業成長へのショートカットの観点での顧問導入が最も多いと言えるでしょう。営業課題を一例とした場合、海外展開を目指す中堅・中小企業、あるいは販路開拓などを目指すベンチャー、スタートアップ企業などが、それぞれの企業が目指す市場に対して顔の利く人材などを顧問に据えることで、新市場での気を付けるべきポイントなども押さえた上で顧客開拓を一気に進め、事業成長に拍車をかけるというケースも増えてきました。

製造業の場合であれば、工場の生産性改善や、より優れた製品の開発に際して顧問を活用するケースがあります。製造業の経営者としては最新設備を導入することなども意思決定の一つではありますが、そのような金銭で解決できる課題だけでなく、工場の技術者が持つスキルをさらに高めるためにはどうすればいいのか、自社が有する技術を使うことで新たな製品を作ることができないのかといった、会社の可能性を高めることも選択肢として頭にあるはずです。製造業において工場の改革などを牽引してきた顧問を据え、このような課題の解決に取り組むというケースもあります。

その他にもAI技術を駆使したベンチャー、スタートアップ企業が、類似するAI技術などによってIPOを果たした企業に在籍するCTO(Chief Technology Officer)、PdM(プロダクトマネージャー)などの知見を借りることも多いです。例えばIPOを目指す上では良いプロダクトであることだけではなく、情報漏洩などに耐えうるセキュリティ対策などの観点も必要となります。IPOを実現するまでの過程で見た景色を共有して貰うことで、早い段階からそのような観点も踏まえたプロダクト開発に臨むことが出来るでしょう。

このように事業成長に拍車をかけたい指針で顧問を迎える企業が増えています。中小企業やベンチャー、スタートアップ企業を中心にこのような動きはますます加速していくことが予想されます。

市場変化への適応が難しい

社会・経済の変化が非常に速くなったこともあり、市場環境にすばやく適応しなければ生き残れない時代になりました。しかし、柔軟な視点を持てない、あるいは自社に市場変化の中を生き抜く知見やリソースが不足していることに課題を感じている企業はたくさんあります。

一例をあげるのであれば、昨今の新型コロナウィルスの問題でDX(デジタルトランスフォーメーション)化の推進などが謳われているものの、何から取り組むべきかの段階から分からないという企業も少なくありません。そしてそのようなDX化を実現できる人材を採用しようにも、どのような基準で採用すべきかも見えないという課題を抱えている企業も多いです。

このような企業は自社の知見やリソースの不足により、環境変化への適応を目指したいものの、内部から大きく変革を起こすことができないため、DXに明るいコンサルティングファーム、あるいは外部顧問の知見を求めるより他ありません。また、顧問とまではいかなくとも、政府が主導して働き方改革を進めていることで副業をする人材が増えてきており、IT企業に在籍する副業人材がこのような役割の一役を買っていることも多いです。

次世代経営幹部の育成

顧問を迎え入れる際に、経営課題の解決と併せ、次世代幹部人材などの人材育成も目的の一つと考える企業もあります。例えば将来的にCMO(Chief Marketing Officer)を担って欲しい次世代幹部人材が社内にはいるものの、そのような人材をCMOと務められる人材にまで引き上げられる人材が社内にいない場合、現状抱える自社のマーケティング戦略などの課題解決と併せてそのような人材の育成観点も含めた意味合いでの顧問の導入というパターンがあります。

経験豊富な顧問が中心になってマーケティング戦略を立案・実行していけば、よりよい成果が得られる可能性は高いでしょう。しかしながら、顧問として招聘されている以上、自身が実行役として稼働し続けることは難しい中、そのような戦略立案の過程から実行、検証までのプロセスを顧問先企業のメンバーが実行する形となります。

顧問はこのプロジェクトを遂行するためには顧問先のメンバーと共に形にしていき、またその過程でマーケティングチームに、実践を通してスキルを高めてもらう役回りが求められます。そして顧問としての契約期間が終了した後に、顧問先のマーケティング部門が自走できる状態にまで引き上げていくことが期待されます。

このように、顧問を活用する目的の一つには、経営課題解決に向けた結果を出すことに加え、社員のレベルアップやノウハウの蓄積などを通して、顧問先企業の競争力を高めることが求められる場合があります。

コンサルティングファームから顧問へのリプレイス

顧問を導入する企業の中には、これまでコンサルティングファームに依頼をしていたものの、コンサルティングファームに依頼をする場合、プロジェクトの予算に数千万円、あるいは億単位の予算が必要となることも少なくありません。経済成長が著しい時代であれば、そのような予算の捻出はまだ容易だったかもしれませんが、経済成長率が鈍化する現在においてそのような予算を捻出できない企業も珍しくありません。

そのような中、プロジェクト推進に係る知見を有する顧問を活用することで、プロジェクトを止めないという経営指針をとる企業も増えてきました。勿論、顧問の経歴などによってはそれなりに予算をとらねばならないケースもあるかとは思いますが、多くの場合、コンサルティングファームに依頼するよりも予算は抑えられるでしょう。

また、コンサルティングファームに務めるコンサルタントは実務経験がある方ばかりではありません。実務経験のある顧問を迎え入れることで、海外進出や新規事業創出などに対して、実務経験があるからこそ気を付けなければならないポイントを押さえて取り組めるということも、コンサルティングファームよりも顧問を活用するメリットと言えるでしょう。

顧問として会社経営を支える存在になるために

顧問として、自身の実力をいかんなく発揮するためには、どのようなことを考えなければならないでしょうか。顧問として業務にあたる前の準備段階と、実際に業務にあたる場合の注意点に分けて解説します。

準備段階で考えておくべきこと

まず考えるべきことは、自身の経験が発揮できる業界、事業規模がどのようなところかを整理しておくことです。営業経験が豊富だからと言って、営業部門であればどの会社でも顧問として会社経営を支えられるわけではありません。「B2B/B2C」「有形商材/無形商材」「上場企業/IPO準備企業/スモールビジネス」など様々な項目で分類した場合にも、営業としての勝ち筋は異なります。

顧問として自身の経験・スキルが活かせる場所を特定するために、まずはこれまでのキャリアの棚卸しや経験・スキルの整理をしてみましょう。その際に次のような観点で考えると、より具体的にスキルを活かせる環境を見つけることができるでしょう。

顧問として業務にあたる場合の注意点

顧問として迎えられている前提の中、業務にあたる場合には注意が必要です。自身のこれまでの経験・スキルを伝授していくことは大切ですが、その方法だけが絶対的に正しいとは限りません。ビジネスモデル、企業風土、現在の課題やリソースなどに合わせて、顧問先の経営課題解決にとって最善策を提案していくことが望ましいでしょう。

もう1点、注意すべきことは、顧問先の経営者が求めている方向性を理解することです。経営者の経営方針を知り、その方向性に合わせて、顧問としての業務にあたらなければなりません。仮に経営者の方向性が誤っていた場合、良かれと思って自身の判断で方針を決めてしまうのではなく、経営者に説明を行い、理解・納得して貰った上で判断を仰ぐことが重要です。

顧問はあくまで外部アドバイザーであり、最終的な意思決定は当事者になります。経営者、顧問先企業にとってベストな意思決定ができるために、これまでの経験・スキルを還元する感覚で臨むと良いでしょう。

顧問としてのスキルが不十分だと感じたら

ここまで読んで頂く中で「もしかすると、自分はまだ顧問として活躍できないかもしれない」と不安になった方もいるかもしれません。そういった場合は、自身の経験・スキルが活かせる分野を、限定して考えてみることも選択肢の一つです。

将来的に顧問のような働き方を検討している方の場合、自分が目指したい顧問像から不足していると思われる経験・スキルを身につけられる環境で仕事ができるようにすることも選択肢の一つです。今の会社で異動願いを出したり、転職して必要な経験・スキルを身につけられるようにしたりすることで、顧問として会社経営を支えられる存在になれる可能性も高まります。

また、実務者としてではなく、顧問という外部アドバイザーで課題解決を行うのは、当然ながら勝手が違います。このような外部の立場で支援する要領を得るためにも、まずは副業などで一部分だけ外部から支援する経験を重ね、将来的に顧問として経営支援ができる人材になっていく準備をしておくのも良いでしょう。

顧問を求める企業と出会うために

最後に、顧問を求めている企業と出会う方法について紹介します。顧問として働くためには、顧問を求めている企業と接点を持たなければなりませんが、スキルを活かすことができる企業を自分で探して順番に営業をかけるわけにはいかないでしょう。できたとしても、顧問を求めている企業が見つかるとは限りません。

そこで活用したいのが、顧問のマッチングサービスです。顧問のマッチングサービスとは、ネット上で顧問を求めている企業と顧問として働きたい人材とをつなぐ仲介をしているサイトです。これらのサイトは、顧問登録者には料金がかからず、顧問を活用したい企業側が利用料を支払う形式が一般的です。そのため、顧問として仕事を始めたいと考えている方にも使いやすい仕組みになっています。

ここでは以下にて顧問のマッチングサービスをいくつか紹介します。各顧問サービスに特徴があるため、自身のスキルや経験により合うサイトを選びましょう。

Pro Sharing Consulting (プロシェアリングコンサルティング)

Pro Sharing Consulting(プロシェアリングコンサルティング)は株式会社サーキュレーションが運営している、外部人材と企業のマッチングを行っているサービスです。「顧問」という言葉ではなく「登録プロフェッショナル」となっていますが、働き方としては顧問と同様です。他の顧問サービスでは、50代・60代の顧問登録者が多い傾向にありますが、Pro Sharing Consultingでは20代~40代の登録者が多いという特徴があります。

顧問バンク

顧問バンクは「経営者が選ぶ顧問サービス」「即戦力の顧問に出会えるサービス」として、2020年の日本マーケティングリサーチ機構の調査でNo.1に輝いた顧問マッチングサービスです。顧問を紹介することができる相手の半数以上が上場企業の役職者で、顧問先を自分で探す場合には接触できないような企業とつながることができると言えます。

クラウドリンクス

クラウドリンクスはアウトソーシング業務のマッチングサービスとして有名な株式会社クラウドワークスが運営している顧問マッチングサービスです。クラウドワークスが母体の顧問マッチングサービスということもあり、案件のほとんどがリモート案件という特徴があります。リモートだからこそ、全国どこにいても顧問として活動することができるメリットがあります。

i-common

i-commonはパーソルキャリア株式会社が運営している顧問マッチングサービスです。営業、人事、購買、物流、法務など、幅広いスキルを持つ顧問が登録しています。導入事例では大手・中堅企業から中小企業までさまざまな企業がさまざまな課題解決のために顧問を活用していることがわかります。

ビズアクセルアドバイザリー

ビズアクセルアドバイザリーは関西ベンチャーに特化している転職エージェント事業を展開するビズアクセル株式会社が運営するベンチャー、スタートアップ企業に特化した顧問・副業支援サービスになります。創業間もないベンチャー、スタートアップ企業からある程度、IPOを控える企業に対して管理系、マーケティング、営業など様々な分野の課題解決に顧問・副業人材の活用を提案しています。

この他にも、たくさんの顧問マッチングサービスがあります。その中から、自身のスキルや経験を活かすことができるWebサイトを見つけて、顧問を求める企業を探しましょう。顧問としての参画を決める商談の場では、先方の経営方針等について考え方が近いか共感できるかという視点を持つようにしてください。

考え方に大きな差があると、方向性の違いで業務がスムーズに進まなかったり、あなた自身の本当の良さを発揮できなかったりしてしまいます。顧問として最善の成果を出すことができ、自身のスキルを高められるようにするためにも、「相性」という側面からも顧問先企業を探すようにしましょう。

最後に

顧問は自身のスキルや経験を活用することができる働き方で、大企業だけでなくベンチャー・スタートアップ企業でも求められるようになってきました。特に市場の変化が激しい中、顧問を活用し、経営課題の解決を目指す企業はこの10年で大幅に増加している傾向にあります。

顧問を求める企業は外部の知見を活用しようとしているため、即戦力として活躍でき、高い確度で期待していることを実現してくれる人材を求めています。だからこそ、案件を探すための準備が重要であり、「自分の経験が、どのような会社で発揮できるのか」を深く考え、相性の良い企業を探すことが大切なポイントだと言えるでしょう。

この記事を書いた人

岩崎久剛

1984年兵庫県生。関西大学工学部を卒業後、受験支援事業を全国展開する大手教育事業会社にて総務人事など管理部門を経験し、2012年より人材業界に転身。大手総合人材会社にて求人広告、人材紹介など中途採用領域での法人営業を経験し、従業員数名規模のベンチャーから数10か国に展開するグローバル企業まで多様な業界、事業フェーズの企業の採用を支援。2016年よりハイキャリア領域の人材紹介事業立上げメンバーに参画し、関西ベンチャーを軸とした採用支援に従事。その後、ビズアクセル株式会社を起業。MBA(グロービス経営大学院)。

目次