副業を始めるときに忘れてはならないのが、税金です。収入が増えれば、相応の税金が課せられます。課せられる税金を正しく算出するためには、確定申告に記入する所得の仕組みや、白色申告と青色申告の違いを理解しておかなくてはなりません。この記事では、副業を始めるうえで理解しておくべき税金の知識として、所得の詳細や確定申告の注意点を解説します。
経費が認められる副業の所得は大きく3つ
所得に対して課せられる税金、所得税は、本業だけではなく副業の収入に対しても課せられます。尚、課税対象となる範囲は、収入のうち諸経費を差し引いた所得のみになりますが、副業の所得が給与にあたる場合は、経費の計上が認められない点に注意しましょう。
経費の計上が認められる所得は大まかに分けて「雑所得」「事業所得」「不動産所得」の3つです。確定申告をするときは、まず自分の所得が経費の計上が認められる種類に分類されるものかどうかを確認しましょう。所得は10種類に分けられていますが、前述のとおり経費を計上できるのは一部の種類です。
雑所得
雑所得とは、利子所得、配当所得、不動産所得、事業所得、給与所得、退職所得、山林所得、譲渡所得、一時所得のいずれにも該当しない所得のことです。例として、次の所得があげられます。
原稿料
作曲料
講演料
仮想通貨の売却益
ネットオークションでの売上
フリマサイト・アプリでの売上
上記に当てはまらなくても、自己の職務に対して取引先などから支払われる報酬かつ、前述の利子所得などに当てはまらないものは雑所得に含まれます。たとえば副業としてハンドメイド作品をフリマサイトなどで販売している場合、材料費やサイト手数料などの経費を除いた売上は雑所得となります。
事業所得
事業所得は、事業として行われた職務などで得られた所得のことです。実情によっては雑所得として計上できる場合もあり、大まかな判断材料は「継続性や安定した収入があるか」「事業として成り立つ(儲かる)可能性があるか」「相当な時間を割り当てているか」などがあげられます。事業所得に該当する事業は、次の7つです。
農業
漁業
製造業
卸売業
小売業
サービス業
その他
事業所得は、基本的に事業として成り立つ規模であるものです。高額な美術品としてハンドメイド作品を販売している場合は事業所得にあたりますが、余暇を利用して作成したものを販売して、不定期に少額の利益が出る程度では、雑所得といえます。副業の場合は本業に比べて職務に割く時間などの割合が小さくなるため、基本的には雑所得と判断できます。
不動産所得
不動産所得は、所有している不動産の運用などによって得られる所得のことです。たとえば次のケースが不動産所得に分類されます。
アパートやマンションなどの家賃収入
土地の貸付による賃料
名義書換料
承諾料
更新料
頭金
敷金・保証金(返還を要しないもののみ)
共益費
混同しやすい所得のひとつが、事業として賃貸物件を運営しているケースです。単純にアパートやマンションを賃貸している場合は、事業として行っていても不動産所得に該当します。ただし、下宿屋を運営しており、掃除や食事の提供などの役務を含む場合は、事業所得や雑所得に分類される他、保管責任をともなう有料駐車場も事業所得や雑所得となるため、不動産所得には含まれませんので注意しましょう。
経費になる基準を理解する
副業で得た収入が年間20万円以上の所得となれば、確定申告の義務が生じます。確定申告を行う際に、理解しておくべきポイントが、「収入」と「所得」の違いです。収入は入ってくるお金全般、収入から諸経費を差し引いた残りを所得を指します。尚、税金はこの所得に対して発生するものであり、経費の金額によって税金額が上下する形になります。
ただし、支出のすべてが経費として認められるわけではなく、副業を営むために必要となる支出のみが経費に該当する形になるので注意しましょう。ここでは、副業の際に経費に計上できる支出の基準について解説します。
副業で経費になるもの
法人の場合、仕事で使用する目的で購入したものや、事業を継続的に営むために必要となる支出は、経費となります。しかしながら、副業の場合にはすべての経費が額面の100%を計上できるわけではありません。そのような前提の上、経費として計上できる支出についてご紹介します。
仕事に必要な消耗品(文房具など)
備品代(オフィス家具など)
仕事で使用する書籍(雑誌含む)
仕事用の端末の購入費
仕事で使用する通信費(インターネット料金など)
取引先との付き合いのための支出(お歳暮など)
オフィスや倉庫の賃料
事業に必要な物件の維持費(固定資産税など)
商品の仕入れ・発送にかかる送料
広告料
外注費(委託料や管理会社の手数料など)
尚、上記は経費として計上できるものの、前述の通り、必ずしも100%計上はできません。例えばオフィスや倉庫の賃料は、事業用に借りた物件であれば費用の100%が経費となりますが、自宅の一部を利用している場合などは、賃料の100%を経費に計上することが出来ない可能性が高いです。
また、備品代で間違えやすいポイントが、パソコンです。100%経費として計上できるものは、10万円未満かつ副業用に購入したパソコンに限られます。本業や趣味で使用するために購入したパソコンの費用を、副業用として経費に計上することはできませんので注意しましょう。
「家事按分(かじあんぶん)」で何割か経費になるもの
100%経費として計上できなくても、何割かを経費に計上できるケースもあります。このような事業で使用する比率分のみを算出する方法を「家事按分(かじあんぶん)」と呼びます。家事按分で経費計上できる主な支出は次のとおりです。
家賃(自宅の一部を副業用に利用している場合)
光熱費(同上)
自動車のガソリン代など
副業の場合には自宅の書斎や個室で作業することも多いのではないでしょうか。自宅で副業をすると、当然ながら水道光熱費や通信費は家庭分の請求とひとまとめになっている場合が少なくありません。このような時に「家事按分」で事業で使用している分を算出すれば、経費計上が可能です。このような家事按分により副業の経費を算出するときには主に次の割合を目安とします。
家賃:総面積に対して利用している面積
光熱費:1日のうち業務にあてている時間
自動車:仕事で使用したときの走行距離
尚、副業にかかる時間などは、当然ながら毎月異なります。家事按分にて経費を算出する場合には、1〜2か月程度の平均をとり、どの程度の割合が副業に算出できるか確認していくと良いでしょう。
また、この時に計算した記録を保存しておくと、万が一税務署から確認を求められたときに、確実なデータにもとづいて算出していることを証明できます。
経費にならないものとは
副業に使用しないものの購入費や利用料、あるいはプライベートに関する支出は経費に計上できません。例えば取引先を訪問するために購入した新幹線のチケット代は経費となりますが、家族や友人と旅行を楽しむためのチケット代は当然ながら経費の対象外です。尚、生命保険や医療費は経費にはなりませんが、確定申告を行うときに別途「所得控除」として記載するため、明細書などは残しておきましょう。
白色申告と青色申告のメリットとデメリット
経費を差し引いた後の所得が、年間20万円を超える場合には確定申告が必要となりますが、確定申告には「白色申告」「青色申告」と呼ばれる2種類の申告方法があります。白色申告にも青色申告にも、それぞれメリットとデメリットがあるため、自分の副業スタイルや所得の実情に合った方法を選ぶことが大切です。申告方法ごとのメリット・デメリットを紹介します。
白色申告とは
青色申告をするには「開業届」と「青色申告承認申請書」を税務署に提出しておく必要がありますが、この届出を事前にしていない場合、自動的に白色申告の形をとります。副業を行う会社員の方でこのような書類を提出することは稀であり、多くの場合、白色申告で確定申告を行う形になるでしょう。白色申告のメリットは次のとおりです。
事前の届出なく申告できる
記帳が手軽
提出書類が少ない
保存書類が少ない
白色申告のメリットを具体的に解説しますと、まずは、事前の開業届などの手続きを踏む必要がないことにあります。そして白色申告は青色申告と比較して記帳が簡易(単式)簿記で良いため、複雑な会計を学ぶ必要がなく、その分、提出書類や保存書類も少なく済むというメリットがあります。
実際に白色申告を行う際に提出する書類は「確定申告書B」「収支内訳書」「各種控除などの添付書類」の3種類になります。尚、申告時に用いる帳簿や書類を5年間(記帳制度適用者が記帳制度に基づいて作成した帳簿については7年間)保存することが義務づけられています。
一方、白色申告のデメリットは次のとおりです。
節税効果が薄い
純損失の繰り越しができない
純損失の繰り戻しができない
事業専従者給与(※)の控除額が少ない
少額減価償却資産の特例が受けられない
※事業専従者は白色申告を行う納税者と生計をともにする配偶者や15歳以上の親族で、年間6ヶ月以上、納税者が営む事業に従事している方
白色申告のデメリットとして、青色申告のような節税につながる特典を利用できないことが挙げられます。副業による事業収入がそれなりに見込まれる場合には、開業届の提出など手間はかかりますものの、青色申告で確定申告を行う方が良いでしょう。
また、白色申告では純損失の繰り越しや繰り戻しができないため、赤字があった場合でも損失を翌年以降に繰り越せない点も人によってはデメリットとなります(青色申告であれば本年の赤字が、翌年の黒字と相殺できる)。例えば、副業で最初は多少出費がかさんでも新たなスキルを身に着け、将来的に収入を上げていきたい方針などの場合などには、青色申告の確定申告を行っていく形が好ましいでしょう。
その他のデメリットとしては、事業専従者(配偶者、親族等)に給与を支払っている場合は、事業専従者給与で控除される金額が青色申告よりも少ない点、あるいは取得価額30万円未満の減価償却資産を、購入した年度の経費として計上できる少額減価償却資産も白色申告は対象外となる点などが挙げられます。
青色申告のメリット・デメリット
青色申告は「開業届」と「青色申告承認申請書」を税務署に事前届出を行った事業者のみに適用される申告方法を指します。青色申告は、あらかじめ届出を行う手間は発生するものの、白色申告にはないさまざまな特典を得られる確定申告の方法です。青色申告のメリットは次のとおりです。
最大65万円の所得控除を受けられる
純損失を最大3年間繰り越せる
家事按分を計上しやすい
青色事業専従者給与を利用できる
少額減価償却資産の特例が受けられる
前述の通り、青色申告は事前に税務署へ「開業届」と「青色申告承認申請書」を提出する必要があり、青色申告を利用したい年の3月15日までに届出を行わなければなりません。青色申告の最大のメリットは、最大65万円の所得控除が受けられるうえ、事業が赤字の場合は純損失を最大3年間繰り越せるといった節税効果といえるでしょう。
また、経費計上の要件も白色申告と異なっています。事業専従者給与への給与を経費計上できる青色事業専従者給与、取得価額30万円未満の減価償却資産を一括で経費計上できる少額減価償却資産の特例等が適用できるのも青色申告ならではのメリットです。
一方、青色申告のデメリットは次のとおりです。
期日内に税務署への届出が必要
記帳が複雑になる(複式簿記)
提出書類が多い
保存義務のある書類が多い
所得が少なくとも必ず申告が必要
節税効果を得られるメリットなどが多い反面、様々な手続きや記帳・書類保管などの手間が増える点は青色申告のデメリットです。また、記帳も白色申告と比べると複雑にはなりますので、青色申告を行う場合にはある程度の会計知識を身に着けていく必要があります。個人事業主にせよ、副業にせよ、日々の仕事が多忙な方にとっては、このような手続きや知識の習得は負担に感じるかもしれません。確定申告の際にはこのようなメリット、デメリットを踏まえて青色申告、白色申告のいずれで運用するのか決めていくと良いでしょう。
税金の確定申告時に知っておくべき20万円ルール
副業を始めて間もない場合、あるいは今後に向けてPC等の設備を買い替えるなど諸経費がかさんだ場合などには、年間所得が20万円を下回ることもあるでしょう(年間所得は「収入-経費」になります)。このように副業での年間所得が20万円以下になる場合には、確定申告を行わなくても問題ありません。
しかしながら、ここで注意すべきなのは「住民税」です。副業での所得が20万円以下の場合には、所得税は課税対象にならないものの、住民税は課税対象であり、お住まいの市区町村への申告は必要となります。この市町村への申告漏れにより、意図せず脱税行為とみなされるリスクもありますので気をつけましょう。尚、確定申告をの情報は市区町村にも送られ、自動的に住民税にも反映される仕組みになっています。
ただし、本業と併せて2,000万円以上になる場合には、副業での所得が20万円以下であっても確定申告が必要となるなど、個々人の置かれている状況によって一概に言えないこともあります。自分が確定申告をしなければならないかどうかについては、国税庁の関連ページ(給与所得者で確定申告が必要な人)についても参考にしてみてください。
副業年収300万円以下は雑所得に
2022年8月1日に国税庁が出した所得税基本通達の改正案を発表しました。その内容には「業務に係る雑所得の範囲の明確化」があり、具体的には副業による年収300万円以下を雑所得扱いにするというものになります。
参考情報:「所得税基本通達の制定について」(法令解釈通達)の一部改正(案)
個人事業主が事業を行って得た収入は「事業所得」として計上されます。事業所得は損益通算の対象で、事業所得で出た赤字分は給与所得などと相殺できます。一方、雑所得は損益通算の対象ではありません。副業が浸透することで、「家賃などの生活費の一部を経費とすれば、支出を増やさず赤字を出せる。そうすれば税金を減らせるから副業をする(したことにする)」など、制度の抜け穴を突く、望ましくない行為が広がることを予想しての対応と考えられます。
「副業による年収300万円以下」という線引きによって、年収300万円(月収25万円)というラインが「事業か副業か」という判断基準を税務署が出したと言えるでしょう。
毎年の申告を忘れない
確定申告を忘れた場合には、ペナルティーとして延滞税と無申告加算税が課されます。所得税の納付期限は確定申告の期限である「翌年の3月15日」で、それ以降の申告が対象です。延滞税・無申告加算税がどのような場合に課され、どれくらいの金額になるのかなど、詳しくは国税庁のホームページ 等で確認してください。確定申告が期限までにされなかった場合(期限後申告)、青色申告特別控除の優遇を受けられません。青色申告特別控除額が「65万円」の事業者であっても、期限後申告では「10万円」だけしか控除が受けられないのです。
この場合、所得が55万円増えてしまいます。税率が10%であれば、所得税額が55,000円増えてしまう計算です。延滞税や無申告加算税もこの増えた所得額で計算されるため、二重で負担が大きくなってしまいます。確定申告は期日までに必ず終わらせるように、普段から伝票入力などをしておきたいところです。初心者でも簡単に使える会計ソフトもたくさんありますので、経理の知識がなくても、そんなに時間をかけずに伝票処理できるでしょう。
最後に
副業で得た収入は、諸経費を差し引いた額を所得として確定申告しなくてはなりません。経費と一口にいっても、額面の100%を計上できるものもあれば、一定の割合しか認められないものもあります。税金を正しく納め、払いすぎた分をきちんと還付してもらうためには、計上できる経費の種類や、確定申告の仕組みを理解することが大切です。