
2025年もいよいよ終盤を迎える時期となりました。今年は日本経済・世界情勢ともに大きな転換点となる出来事が相次ぎ、国内では賃上げの広がりや生成AIの本格普及による産業構造の再編が進み、金融市場では長らく続いた超緩和政策が終息に向かう中で、金利環境の正常化が大きなテーマとなりました。世界に目を向けると、米国大統領選挙後の外交・経済政策の転換、中国経済の減速とサプライチェーン再構築など、企業活動に影響を与える変化が続く一年でもありました。
こうした環境下で迎えた2025年のIPO市場および関西のIPOの状況について振り返りたいと思います。2025年のIPO企業数は62社(12月末までに上場予定の企業を含む)と前年と比べて減少しています。その中で関西に本社を置く企業は5社となっています。今回はIPOについての解説と、2025年にIPOを果たし上場企業となった関西発の企業についてご紹介したいと思います。
IPOとは?──新規株式上場の意味とメリット

IPOの基本構造
IPO(Initial Public Offering)は、未上場企業が株式を公開し、広く一般投資家から資金を集める手段です。企業は事業拡大や設備投資、M&A、研究開発などの資金を確保することができ、成長戦略の実行力を強化できます。また、上場によって「社会的信用」の確立やブランド認知の向上、取引先・金融機関・人材との関係強化など、企業価値の底上げにつながる多方面のメリットがあります。
上場市場区分とその意味
日本では、東京証券取引所(TSE)が運営する市場区分として、プライム/スタンダード/グロースの3つがあり、企業は自社の成長ステージや戦略に応じて、最適な市場を選びIPOを目指します。
- プライム市場:大企業向け、安定性・規模・流動性重視
- スタンダード市場:中堅企業向け、バランス型の選択肢
- グロース市場:成長企業・スタートアップ向け、将来性重視
IPOのリスクと責任
しかしIPOは「ゴール」ではなく「新たなスタートライン」です。上場後は決算・業績の開示義務があり、常に透明性を維持しなければなりません。また、株主対応、ガバナンス体制の整備、内部管理・コンプライアンスの強化といったコストも発生します。これら対応を怠ると、企業評価は一気に冷え込むリスクがあります。

2025年のIPO市場環境──“量”から“質”へのシフト

経済環境と投資家心理の変化
2025年、金利上昇、コスト高、世界的な需要変動…多くの企業にとって「成長計画の見直し」が迫られる年となりました。一方で、生成AI・DXの波、さらには脱炭素/ESG投資の拡大など、新たなビジネスチャンスも顕在化しています。投資家の目はさらにシビアになり、「将来の夢」ではなく「現在の実績 × 将来の成長可能性」をバランスよく持つ企業が選ばれやすくなりました。
グロース市場の再定義 ― 維持基準の見直し
2025年9月、TSEはグロース市場における上場維持基準の改定案を公表しました。改定後は、従来の「上場から10年後に時価総額40億円以上」という条件から、「上場から5年後に時価総額100億円以上」を目安とする基準に引き上げられます。この変更は、2030年以降に新たに適用される見込みです。
同時に、成長投資を続ける企業のために、他セグメント(例:スタンダード)への移行制度の柔軟化も併せて導入されました。この見直しは、グロース市場そのものを「成長志向の企業が長期的に応えられる厳格な市場」へ再定義するものです。結果として、IPOが“通過点”ではなく“本格的な勝負の始まり”になることを、企業に強く意識させる内容です。

2025年 IPOの概況

IPO数と市場別の傾向
2025年はIPO全体の件数は前年を下回る展開となり、プライム、スタンダード、グロースの各市場ともに、上場企業の質がより重視される流れが鮮明でした。特にグロース市場では上場のハードルと上場後の維持ハードルの両面で市場・投資家からのチェックが厳格化しています。
業種では、AI/ITベンチャー、SaaS、ヘルスケア、新素材・環境関連など、成長性の高い分野のIPOが目立った一方、安定性を重視する中堅BtoB企業や小売・サービス系企業もコンスタントに存在感を示しました。
IPO後のパフォーマンス傾向
公開直後の初値や公開価格比のパフォーマンスは、従来のような“過熱”というより、「安定した成長期待」による上昇が中心となりました。これは、企業側の事業計画の現実性や収益性を求める投資家の目線がより厳しくなった証左といえるでしょう。また、IPO後の企業にとっては、“上場=出口”ではなく、“上場=新たな責任と成長戦略の実行”という認識が、これまで以上に当たり前になりつつあります。
TOKYO PRO MARKETのIPO件数が上昇
東証グロース等の一般市場へのハードルが高まる中、TOKYO PRO Market(TPM)の活用も新たなフェーズに入りました。TPMを最終ゴールとするのではなく、将来的な一般市場や名証ネクスト等への「ステップアップ」を前提とした登竜門として位置づける企業が増加しており、2025年は全国で40社以上がTOKYO PRO MARKET市場でのIPOを果たしています。
地域の中堅企業にとって、まずはTPMで上場企業としてのガバナンスと信用を確立し、その実績を以て一般市場へ鞍替えするルートは、確実性の高い成長戦略として定着しつつあります。この「段階的な上場」の浸透もまた、市場全体が企業の“質”を重視し始めた結果と言えるでしょう。

2025年にIPOを果たした関西本社企業5社

そのような2025年のIPO市場において、関西発の企業としては5社が新規上場を果たしました。前年の4社から数を増やす結果となり、関西のベンチャー企業・スタートアップ企業を取り巻く環境の向上が結果につながっていると言えるのではないかと考えています。本項では、それらの企業について概要をご紹介します。なお、各社の概要は上場承認時に公表されている情報をもとにしたものです。
NSグループ株式会社
| 会社概要 | |
|---|---|
| 設立 | 2021年8月 |
| 資本金 | 1億円 |
| 時価総額 | 未定(上場日前段階につき) |
| 売上高 | 263.4億円(2024年12月期) |
| 代表取締役 | 大塚 孝之 |
| 事業内容 | グループ会社の経営管理/家賃保証サービスの提供 |
| 公式HP | https://nsg-inc.co.jp/ |
NSグループ株式会社(大阪府大阪市)は、ビルメンテナンス・設備管理・警備・清掃など、総合施設管理サービスを展開する企業です。主な事業としては連結子会社(日本セーフティー株式会社)を通じての「家賃債務保証サービス」および「集金代行サービス」が挙げられます。
2021年に外資系PEファンドであるベインキャピタル社によるMBOにより、上場廃止となった日本セーフティー株式会社が4年の時をこえて2025年12月16日に東証プライム市場に上場しました。2000年代に競合が乱立し、寡占化が進む中、創業家がMBOを決断し、中長期で戦える強い経営体制に移行の上、今回の再上場に至られたようです。今回のプライム上場により、同社成長の更なる躍進が期待されるでしょう。
株式会社フィットクルー
| 会社概要 | |
|---|---|
| 設立 | 2015年1月15日 |
| 資本金 | 48百万円 |
| 時価総額 | 27億7,700万円(2025年12月15日 時点) |
| 売上高 | 24.5億円(2024年11月期) |
| 代表取締役 | 鹿島 紘樹 |
| 事業内容 | トレーニングジム、パーソナルトレーナー養成スクールの運営 |
| 公式HP | https://fitcrew.co.jp/ |
株式会社フィットクルー(大阪府大阪市)は、女性専用パーソナルトレーニングジム「UNDEUX SUPERBODY」を運営する企業です。2015年1月に設立され、女性の健康課題に特化したサービス設計や、管理栄養士による食事サポートを強みに全国展開を進めています。
2025年12月12日に東証グロース市場へ上場を果たし、直近の2024年11月期は売上高24.5億円、経常利益1.09億円を計上し、収益改善が進んでいます。女性のウェルネス需要拡大を背景に、上場を機にさらなる成長が期待される企業です。
株式会社フツパー(Hutzper)
| 会社概要 | |
|---|---|
| 設立 | 2020年4月1日 |
| 資本金 | 2.3億円 |
| 時価総額 | 未定(上場日前段階につき) |
| 売上高 | 6億円(2024年12月期) |
| 代表取締役 | 大西 洋 |
| 事業内容 | 製造業向けAIサービスの企画・販売 |
| 公式HP | https://hutzper.com/ |
株式会社フツパー(大阪府大阪市淀川区)は、製造業向けにAIソリューションを提供する企業です。主力サービスは外観検査自動化AI「メキキバイト」をはじめ、受託AI開発、スキル最適化システム等になります。
2025年12月24日、東京証券取引所グロース市場へ上場予定しており、IPOにおける想定時価総額は約96.4億円と報じられています。直近の2024年12月期は売上高約6.03億円ながら純損失を計上していましたが、2025年9月時点の四半期決算では単体で売上約7.50億円、経常利益2.12億円と黒字化を果たしています。製造業のDX(デジタルトランスフォーメーション)需要拡大を背景に、AIで“現場の省力化 × 品質向上”を両立できる同社は、上場を機に成長軌道に乗る可能性が高い企業と言えるでしょう。
株式会社ミライロ
| 会社概要 | |
|---|---|
| 設立 | 2010年6月2日(創業:2009年5月28日) |
| 資本金 | 3億1,070万円(2025年4月末時点) |
| 時価総額 | 43億7,500万円(2025年12月15日時点) |
| 売上高 | 8.3億円(2025年9月期) |
| 代表取締役 | 垣内 俊哉 |
| 事業内容 | デジタル障害者手帳「ミライロID」の企画・設計・提供/ユニバーサルデザインに関するコンサルティング、研修サービス |
| 公式HP | https://www.mirairo.co.jp/ |
株式会社ミライロ(大阪府大阪市)は、デジタル障害者手帳「ミライロID」の開発・提供を中心に、ユニバーサルデザインのコンサルティングや研修サービスを展開する企業です。2010年6月に設立され、バリアフリー分野のDXを牽引するスタートアップとして注目されています。
同社は2025年3月24日に東証グロース市場へ上場し、直近の時価総額は約43.2億円となっています。2025年9月期の売上高は8.3億円で、行政・交通事業者・商業施設など導入先が拡大し、社会インフラとしての普及が加速しています。インクルージョンへの社会的要請が高まる中、上場を機に事業の拡大と影響力のさらなる向上が期待されます。
株式会社ブッキングリゾート
| 会社概要 | |
|---|---|
| 設立 | 2013年5月 |
| 資本金 | 3.9億円 |
| 時価総額 | 57.4億円(2025年12月15日時点) |
| 売上高 | 14億5,600万円(2025年4月期) |
| 代表取締役 | 坂根 正生 |
| 事業内容 | 宿泊施設への集客支援事業 |
| 公式HP | https://www.booking-resort.jp/ |
株式会社ブッキングリゾート(大阪府大阪市)は、宿泊施設への集客支援事業を展開する企業で、予約プラットフォームの運営や直営施設の運営支援も行っています。2013年5月の設立以来、中小宿泊施設の課題に寄り添う伴走型支援を強みに全国へサービスを拡大してきました。
同社は2025年2月21日に東証グロース市場へ上場。2025年12月2日時点の時価総額は62.4億円、2024年4月期の売上高は10億円となっており、観光需要回復の追い風を受け事業規模を着実に拡大しています。宿泊業のDX需要が高まる中、上場後の成長加速が期待される企業です。
2025年の展望

2025年のIPO市場は、「単に上場する企業」から「上場後も持続的に成長できる企業」を選別するフェーズへと、明確に舵を切った一年となった印象です。東証グロース市場の上場維持基準見直しを受け、今後IPO件数が安易に急増することは考えにくい状況です。しかし裏を返せば、事業の実質性や収益性を兼ね備えた企業には、これまで以上に強い注目と支持が集まるのではないでしょうか。
今後の成長企業には、IPOを「ゴール」ではなく「長期成長の出発点」と捉え、上場後5年間を見据えた戦略設計が求められます。適切な成長戦略と透明性を確保できれば、地域企業や中堅企業にも大きな好機が広がっており、市場全体として“質の高い上場”が主流になっていくでしょう。
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最後に
2025年はIPO市場において“量”から“質”への転換がより明確になった一年でした。グロース市場の基準見直しは、企業にとって厳しい側面もある一方、持続的な成長企業が評価される健全な市場づくりにつながっていくのではないでしょうか。
そしてIPOはゴールではなく、その後の“成長責任”を果たす覚悟が明確に問われることとなった2025年の市場動向が、これからIPOを目指す企業、そして既にIPOを果たした企業にとって、更なる成長戦略を描くきっかけとなれば幸いです。

