2022年は21社が新規上場!プロフェッショナル向け市場である東京プロマーケットを解説!

株式市場にはいくつかの種類があり、企業の規模や時価総額などに応じて、それぞれの市場にさまざまな企業が株式を上場しています。今回はその中でも特徴的な「東京プロマーケット(TPM)」について解説させていただきます。東京プロマーケットはその名の通りプロ向けの市場であるという点で他の市場と大きく異なります。市場参加者をプロに限定することで他の市場とは異なる柔軟な制度とし、株式上場を考える企業に新たな選択肢を提供しています。

東京プロマーケットに株式を上場している企業の数は他の市場と比べると少数ですが、株式上場を考える企業にとっては選択肢のひとつであると言えます。ベンチャー、スタートアップ企業の経営者、あるいはそうした企業への就職や転職を考える方にとって、東京プロマーケットがどのようなものかはぜひ知っておいていただければと思いますので、ぜひ参考にされてください。

目次

株式市場とは

東京プロマーケットについて説明する前に、まずそもそも株式市場とはどのようなものかについて触れておきたいと思います。株式市場とは企業の株式を売買するための市場であり、日本で最も大きな株式市場は東京証券取引所です。その東京証券取引所の中にもいくつかの市場区分というものがあり、かつては「市場第一部」「市場第二部」「マザーズ」「ジャスダック」という区分となっていましたが、現在は「プライム市場」「スタンダード市場」「グロース市場」という区分となっています。これらの株式市場に上場された企業の株式は、証券会社などを通して誰でも売買することができます。

企業はそうした市場に株式を上場すると、多くの投資家から資金を調達できるようになります。上場企業はそうして調達した資金を事業の成長のために活用することができるわけですが、一方で誰でも売買することができるようになるため、どのような企業でも上場させるというわけにはいきません。証券取引所は、投資家に安心して株式を買ってもらえるよう企業を審査し、審査に合格した企業の株式だけを上場させます。また、上場したあともその上場を維持するためには一定の基準をクリアし続けなければなりません。それによって株式市場の質を保ち、投資家が安心して株式を買える環境を保っています。企業にとって証券取引所へ株式を上場する(IPOする)ことの難易度は非常に高く、審査に合格できる企業の数は限られたものとなっています。

そのように株式市場の質を保つことは証券取引所の重要な役割ではありますが、一方でより多くの企業に資金調達の機会を提供し経済の発展に寄与するという役割も期待されているところであり、そうした期待に応えるために開設されたのが東京プロマーケットです。東京プロマーケットでは市場参加者をプロに限定することで、株式上場や上場維持の難易度をやや低く設定しており、企業に新たな選択肢を提供しています。

東京プロマーケットとは

東京プロマーケットは、東京証券取引所の中にある株式市場のひとつで、2009年に開設されました。当初の目的はIPOにはかなりの労力を要するため、経営資源の豊富な一部の企業しかその機会を掴めない中、将来性のあるベンチャー企業や中小企業に対して新たな資金調達の機会を提供することを目指し、開設されたのが経緯です。

開設当初はロンドン証券取引所のAIM市場を参考にする形でTOKYO AIM取引所という名称であり、当時は東京証券取引所とロンドン証券取引所との共同出資による運営体制にありました。その後、2012年にロンドン証券取引所との共同出資が解消されたのち、TOKYO AIM取引所は東京証券取引所へと完全子会社化されました。同年7月に名称を東京プロマーケット(TOKYO PRO Market)へと変更し、現在まで運営されています(2012年に東京証券取引所へと完全子会社化となり、現在の東京プロマーケットへ名称変更)。東京プロマーケットの設立により、当初の狙い通り、創業間もないベンチャー企業などが資本市場に参入しやすくなりました。

繰り返しになりますが、その最大の特徴は市場参加者をプロに限定していることです。プライム市場やスタンダード市場に上場されている企業の株式は誰でも売買することができますが、東京プロマーケットに上場されている企業の株式は、一般の投資家は売買できなくなっています。東京プロマーケットでの株式売買に参加できるプロの投資家は「特定投資家」といい、一定の機関投資家や、認定された法人・個人投資家などに限られています。

このように投資家をプロに限定することで、上場のために満たさなければならない要件は他の市場よりも緩やかに設定されており、上場のための手続きも比較的簡易なものになっています。

東京プロマーケットの上場企業

東京プロマーケットの上場企業数は2022年末の段階で64社程度であり、上場する企業の業種は建設業、不動産業、EC事業会社など様々です。2019年までは年に数社が上場する程度でしたが、2020年は10社、2021年は13社、2022年にはなんと21社が新たに上場しており、この数年で上場会社数が増加してきています。

東京プロマーケットに上場する際にはJ-Adviserという資格を認証された会社が関与することになるのですが、このJ-Adviserとしての認証を受けた会社の数もこの数年で増加しており、東京プロマーケットが大きな盛り上がりを見せていると言えるでしょう(具体的なJ-Adviserについては日本取引所グループが公表するJ-Adviser一覧もご参照ください)。

東京プロマーケットに上場した企業がさらなる事業拡大に取り組み、一般市場へのステップアップ上場をするケースも増えてきています。東京プロマーケットへの上場が増えれば、そのようなステップアップ上場もさらに増加していくでしょう。企業にとっては、すぐに一般市場へ上場することが難しい場合の選択肢として東京プロマーケットを活用することができるようになってきています。

東京プロマーケットに上場するには

企業が東京プロマーケットに上場するためには、J-Adviserという資格を持った企業と契約をする必要があります。J-Adviserと契約をした後は、上場スケジュールの決定や上場のための体制整備などの準備、上場審査および上場申請、上場後の維持までをこのJ-Adviser関与のもと進めていくことになります。J-Adviserは東京プロマーケットへの上場を支援する伴走者であるとともに、上場するにふさわしい企業であるかを確認する役割も担っています。もちろん最初から体制ができあがっている企業はありませんから、上場のための準備を進める中でJ-Adviserの助言を受けながら上場会社として必要な体制を整備し、運用や改善を行っていくことになります。

上場準備の期間はおおよそ1年半程度とされていますが、準備の進み具合や事業のタイミングによって長くなることもあります。この準備期間の間に、内部管理体制やコーポレート・ガバナンスに関する体制、予算策定や業績管理に関する体制、決算や開示に関する体制などを整備していくことになります。

また、東京プロマーケットへの上場の場合も一般市場への上場と同様に、監査法人による監査が必要となります。上場準備を開始するまでは監査法人の監査を受けていない場合が多いでしょうから、この上場準備のプロセスの中で新たに監査法人と契約し、監査を受けることになります。

必要な準備が進み上場直前期の決算が確定するタイミングで、J-Adviserがあらためて上場準備の状況を確認し、上場審査プロセスへ進んでよいかどうかの判断を行います。問題がないと判断されれば上場審査へ進みますが、東京プロマーケットの場合は上場審査もJ-Adviserが行うこととなり、その後の証券取引所への上場申請へと進んでいくこととなります。

このように東京プロマーケットへの上場の場合も一般市場への上場の場合と同様に、準備段階での各種の体制整備が必要となります。時間とコストのかかるものではありますが、この準備を通して企業のリスク管理や業績管理などの体制が整備され、より強い企業へと生まれ変わる良い機会になるとも言えるでしょう。

東京プロマーケットのメリット・デメリット

では、企業が上場する市場を決定するにあたって、東京プロマーケットを選ぶことのメリットやデメリットにはどのようなものがあるのでしょうか。代表的なものをご紹介したいと思います。

東京プロマーケットのメリット

東京プロマーケットは一般市場よりも上場のための条件が緩く設定されています。一般市場の場合は発行済株式のうち市場で売買される状態のもの(流通株式と言います)の割合や金額に下限が定められていて、一定の株主数を確保する必要がありますが、東京プロマーケットの場合はそうした基準が定められていません。

そのため、一般市場よりも支配権(オーナーシップ)を維持したままで上場することができることは他の市場との大きな違いといえます。東京プロマーケットは、支配権を維持したままで資金調達など株式上場のメリットを得たい場合に、東京プロマーケットは良い選択肢となり得るでしょう。

また、上場準備にかかる期間が一般市場よりも短いということもメリットとして挙げられます。監査法人による監査を受けなければならない期間が一般市場よりも短く設定されているため、上場を目指すことを決めてから実際に上場するまでの期間をより短くすることが可能となり、それにより上場準備コストを下げ、資金調達などの上場メリットをより早期に得ることなどが可能となります。

東京プロマーケットのデメリット

では反対に、東京プロマーケットを選ぶことのデメリットにはどのようなものがあるのでしょうか。東京プロマーケットは一般市場と比べて流動性が低く、売買の件数や金額、市場参加者数がとても少なくなっています。そのため上場したものの資金調達の効果が限定的であるなど、株主が株をスムーズに売却できないといった事象が起きる可能性があります。

たとえばベンチャー企業が非上場の段階でVC(ベンチャーキャピタル)などの投資家からエクイティファイナンスをしている場合、そうした未公開株を保有している投資家はその企業が上場することで株式を売却して利益を得ることを期待しています。しかし東京プロマーケットへの上場すると、そうした利益を十分に確保できなかったり、株を売りたい時に売れなかったり、といったことが起こり得ます。そのため、上場市場に東京プロマーケットを選んだ場合、株主から反対意見が出ることもあると考えられます。東京プロマーケットへの上場を考える際には、そうしたデメリットについても考慮する必要があるでしょう。

最後に

今回は、「2022年は21社がIPO!プロフェッショナル向け市場である東京プロマーケットを解説!」というテーマで、近年盛り上がりを見せる東京プロマーケットについてご紹介させていただきました。東京プロマーケットは一般市場と比べると馴染みのないことも多いかと思いますが、企業が将来の事業計画や資金調達について考えるうえで選択肢に含める価値のあるものです。東京プロマーケットと一般市場とではどのような違いがあるのか、メリットやデメリットはどのようなものなのかなどを理解し、将来の選択肢のひとつとして知っておくことは、多くの企業にとって必要なものでしょう。

また東京プロマーケットへの株式上場を考えている企業や、既に上場している企業への転職を考える方にとっても、東京プロマーケットとはどのようなものなのかを知っていただくことは有益でしょう。今回の記事でそのような方々にぜひ理解を深めていただければと思います。

この記事を書いた人

岩崎久剛

1984年兵庫県生。関西大学工学部を卒業後、受験支援事業を全国展開する大手教育事業会社にて総務人事など管理部門を経験し、2012年より人材業界に転身。大手総合人材会社にて求人広告、人材紹介など中途採用領域での法人営業を経験し、従業員数名規模のベンチャーから数10か国に展開するグローバル企業まで多様な業界、事業フェーズの企業の採用を支援。2016年よりハイキャリア領域の人材紹介事業立上げメンバーに参画し、関西ベンチャーを軸とした採用支援に従事。その後、ビズアクセル株式会社を起業。MBA(グロービス経営大学院)。

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