【2023年版】関西IPOレポート

2023年は前年から続く円安や急激な物価高など、様々な面でビジネス環境に変化が生じた年でした。2023年のIPO企業数は96社(12月4日時点の見通し)と、前年とほぼ同水準となりましたが、その中で関西に本社を置く企業では12社がIPO(新規株式上場)を達成しています。今回はIPOに関する解説、並びに2023年にIPOを果たした関西発の企業についてご紹介したいと思います。

目次

IPOとは?新規株式上場のメリット

IPOとは「Initial Public Offering」の略で、日本語では「新規株式上場」という意味です。企業が株式を新たに証券取引所へ上場することを指す言葉で、IPOをした会社の株式はその後、証券取引所において一般の投資家が自由に売買できるようになります。以下にてIPOを実現した企業に想定される事象について解説いたします。

IPOによる知名度・信用の向上

企業がIPOをするのにはいくつかの目的があります。IPOを果たし上場企業となれば、一般的な知名度が上がり、社会的な信用も高まります。金融機関や大手企業との様々な取引を行う上で、そうした知名度や信用の向上は大きなメリットとなります。それにより売上増加や優秀な人材を採用しやすくなるという効果も期待できるでしょう。

IPOによる資金調達

株式市場から資金調達を行うことができるというのもIPOの大きなメリットです。未上場の場合の資金調達手段は銀行融資、あるいはIPOを目指す企業などにおいては第三者割当増資による資金調達などが主な手段となりますが、上場企業になると新規株式の発行を含めそれまでよりも格段に資金調達方法の選択肢が多くなり、事業に必要な資金を機動的に確保しやすくなります。

そのため、新規事業への投資、新工場開設、M&Aなどある程度まとまった予算が必要な大きなチャレンジを仕掛け、事業の成長に拍車をかけることが可能であり、大きな事業展望を掲げる企業はIPOを目指されることが多いです。

VC(ベンチャーキャピタル)・エンジェル投資家へのリターンの機会

ベンチャー企業やスタートアップ企業の多くは、事業成長の過程でVC(ベンチャーキャピタル)などの投資家から出資を受けています。VCなどの投資家は投資先企業がIPOを果たすことで、大きなリターンを得ることができます。IPOはそれまでにリスクをとって投資をしてくれたVCなどの投資家にリターンをもたらす機会でもあると言えるでしょう。その他、エンジェル投資家や創業者を含めそれまでの出資者が株式上場によってそれまでの投資を回収することができるなど、様々なメリットがあります。

2023年のIPO

2023年は前年に続き米国で複数回の利上げが行われ、日本国内においても金利上昇圧力のかかりやすい環境でした。一般的に金利が上昇することはIPOを目指すスタートアップ企業の株価にとってネガティブな影響があります。IPOを達成した企業の数も前年に続き100社に届かなかったことからもわかる通り、IPOを目指すスタートアップ企業にとって厳しい環境が続いた年であったと言えるでしょう。

2023年にIPOを果たした企業の内訳

東証プライム…3社
東証スタンダード…23社
東証グロース…66社
名証メイン…3社
名証ネクスト…1社
札幌本則市場…1社

※2023年12月4日時点 早稲田学習研究会まで時点を反映

前年に続き新規IPO企業の半数以上が東証グロース市場への上場であり、いわゆるベンチャー企業、スタートアップ企業の上場が多くIPOを果たしています。一方でオファリング金額(公募売出金額)の大きな、いわゆる大型IPOも複数あり、10月に上場した株式会社KOKUSAI ELECTRIC(プライム市場、オファリング金額1245億2100万円)、4月に上場した楽天銀行株式会社(プライム市場、オファリング金額895億5700万円)、3月に上場した住信SBIネット銀行 株式会社(スタンダード市場、オファリング金額572億2600万円)といったものが2023年の大型IPOとして名を連ねました。2022年までの関西のIPOについては下記コラムをご参照ください。

2023年に関西でIPOを果たした12社

そのような2023年のIPO市場において、関西発の企業としては12社が新規上場を果たしました。前年の8社から数を増やす結果となり、関西のベンチャー企業・スタートアップ企業を取り巻く環境の向上が結果につながっていると言えるのではないかと考えています。本項では、それらの企業について概要をご紹介します。なお、各社の概要は上場承認時に公表されている情報をもとにしたものです。

ノバシステム株式会社

会社概要
設立1982年9月
資本金2億9,810万5,000円(2023年12月25日時点)
時価総額31億7,200万円(2023年12月25日時点)
売上46億2,600万円(2022年12月期)
代表取締役芳山 政安
事業内容金融・保険業界向けを中心としたSI事業
飲食店向け店舗運営支援システム「 Order Revolution」
受付業務支援システム「 アイウェルコ」 
公式HPhttps://www.d-edp.jp/

ノバシステム株式会社(大阪府大阪市)は、金融・保険業界向けを中心としたシステムインテグレーション事業、クラウドサービスの提供を行っている会社です。1982年に設立された業歴の長い企業ですが、2021年12月度に4,173百万円だった売上高を2022年12月期には4,626百万円に伸ばしています。

また、IPOを経た2023年12月期の業績予想では5,386百万円(2023年10月31日開示の業績予想)の売上高となっており、IPOを経て更なる成長が期待されます。

南海化学株式会社

会社概要
設立1951年6月
資本金4億5,400万円(2023年9月30日時点)
時価総額105億1,000万円(2023年12月25日時点)
売上196億100万円(連結2023年3月期)
代表取締役菅野 秀夫
事業内容化学工業薬品、農薬、医薬部外品及び食品添加物の製造・販売
産業廃棄物の収集
運搬及び中間処理に関する事業
塩の製造、加工、販売に関する事業
公式HPhttps://www.nankai-chem.co.jp

南海化学株式会社(大阪府大阪市)は、化学工業薬品、農薬、医薬部外品及び食品添加物の製造・販売、産業廃棄物の収集、運搬及び中間処理に関する事業などを手掛けている会社です。

設立は1951年となっていますが、前身の会社が創業されたのはなんと1906年まで遡るという、100年を超える業歴を持つ歴史ある会社です。化学品を取り扱う様々な事業に取り組むほか、塩の製造や販売を行う連結子会社を持っています。

株式会社オービーシステム

会社概要
設立1972年8月
資本金1億9,000万円(2023年9月30日時点)
時価総額50億8,900万円(2023年12月25日時点)
売上61億6,300万円(2023年3月期)
代表取締役豊田 利雄
事業内容以下サービスラインを展開するSI事業
・金融事業
・産業流通事業
・社会公共事業
・ITイノベーション事業
公式HPhttps://www.obs.co.jp/

株式会社オービーシステム(大阪府大阪市)は、金融、産業流通、社会公共及びITイノベーションの4つのサービスラインを展開するシステムインテグレーションサービス事業を手掛ける会社です。株式会社大阪ビジネス(現、株式会社オービック)向けソフトウェア開発会社として設立された会社で、現在も同社が主要な株主となっています。地銀を中心とした金融向け開発が主力となっているほか、地方自治体のクラウド化なども取り扱っています。

株式会社エリッツホールディングス

会社概要
設立2012年3月
資本金2億4,500万円(連結、2023年9月30日時点)
時価総額63億400万円(2023年12月25日時点)
売上(連結)55億6,200万円(2023年9月期)
代表取締役槙野 常美
事業内容不動産賃貸事業
不動産ファンド事業
不動産の企画・コンサルティング事業
人材紹介事業
不動産仲介及び管理事業
システム開発・販売事業を行うグループ会社の経営管理
公式HPhttps://www.elitz-holdings.co.jp/

株式会社エリッツホールディングス(京都府京都市)は、企業グループ全体にて不動産賃貸事業、不動産ファンド事業、不動産の企画・コンサルティング事業、人材紹介事業、不動産仲介及び管理事業などを手掛けており、ホールディングスとしてそれらのグループ会社の経営管理を行っています。京都府や滋賀県でマンション管理などを手掛けていた株式会社長栄ホームが前身であり、現在も京都府近郊が主要な事業エリアとなっています。

株式会社プロディライト

会社概要
設立2008年6月
資本金2億4600万円(2023年8月31日時点)
時価総額21億5,200万円(2023年12月25日時点)
売上20億800万円(2023年8月期)
代表取締役小南 秀光
事業内容クラウド型IP PBXを基盤に以下事業を展開
・システム開発事業
・電話回線事業
・モバイル・通信事業
公式HPhttps://prodelight.co.jp/

株式会社プロディライト(大阪府大阪市)は、自社開発のIP電話用クラウドPBX「INNOVERA」等、音声コミュニケーションのDXに向けたワンストップ・ソリューションの提供を手掛ける会社です。システムサービスのほか、電話回線サービスや端末販売も手掛けています。

もとはコールセンター向けの人材紹介や人材派遣を行う会社として設立された後、クラウドコールシステムやビジネス電話システムを取り扱うようになりました。テレワークの浸透や企業のBCP対策強化などで需要が拡大しており、今後の増収・増益を目指しています。

株式会社トライト

会社概要
設立2019年2月(実質上2016年1月)
資本金1,000万円(2023年6月30日時点
時価総額508億円(2023年12月25日時点)
売上(連結)441億9500万円(2022年12月期)
代表取締役笹井 英孝
事業内容医療福祉領域を中心とした人材紹介・人材派遣事業
公式HPhttps://tryt-group.co.jp/

株式会社トライト(大阪府大阪市)は、人材サービス及びデジタルソリューションサービスを中心とした事業を行う企業グループであり、そのグループ会社の経営管理を行っている会社です。2018年に香港系のPEファンドによる買収の後、外部よりプロ経営者を招聘の上、現在に至ります。

介護、看護、保育といった領域の人材紹介や人材派遣が主力であり、2023年7月のIPOを経て引き続き増収・増益を目指しています。財務健全性目標を達成したのちに配当を実施することが検討されています。

株式会社クオルテック

会社概要
設立1993年1月
資本金1億円(2023年6月30日時点)
時価総額40億6,600万円(2023年12月25日時点)
売上32億7400万円(2023年6月期)
代表取締役山口 友宏
事業内容電子部品の不良解析・信頼性試験等の受託
レーザ加工・表面処理技術を中心とした微細加工等
公式HPhttps://www.qualtec.co.jp/

株式会社クオルテック(大阪府堺市)は、電子部品の不良解析・信頼性試験等の受託、レーザ加工・表面処理(めっき)技術を中心とした微細加工等を手掛ける企業です。同社もまた日系PEファンドであるライジング・ジャパン・エクイティ株式会社の資本参画、経営支援の下、IPOに繋げておられます。

デンソーを主要顧客に持ち、電子部品等の信頼性評価事業を中心としていますが、そのほか研究開発部門にて「パワー半導体とオートモーティブ」をキーワードにしたテーマで研究開発を行っていることも大きな特徴です。

株式会社JRC

会社概要
設立1991年3月
資本金1億500万円(連結、2023年8月31日時点)
時価総額88億7,100万円(2023年12月25日時点)
売上89億6100万円(連結、2023年2月期)
代表取締役浜口 稔
事業内容コンベヤ部品の設計・製造・販売
コンベヤ設備の運用改善/メンテナンス
ロボットを活用した自動設備などの設計・製造・販売
公式HPhttps://www.jrcnet.co.jp/

株式会社JRC(大阪府大阪市)は、コンベヤ部品の設計・製造・販売及びコンベヤ設備の運用改善、メンテナンス、ロボットを活用した自動設備などの設計・製造・販売を手掛けている会社です。前身の事業は1961年にコンベヤ製品の製造販売として創業されており、その後工場が建設されて本格的な生産が開始されるなどして事業が拡大しました。

2020年にスカイマーク株式会社の経営再建などで知られる佐山展生氏がパートナーを務めるインテグラル株式会社やその関連ファンドが資本参加し、さらなる経営強化や企業価値向上が図られ、本年のIPOに至りました。

株式会社笑美面

会社概要
設立2010年9月
資本金6,900万円(2022年10月31日時点)
時価総額40億1,700万円(2023年12月25日時点)
売上6億900万円(2022年10月期)
代表取締役榎並 将志
事業内容高齢者等に対するシニアホームの紹介サービス
公式HPhttps://emimen.co.jp/

株式会社笑美面(大阪府大阪市)は、高齢者等に対するシニアホームの紹介サービスを手掛ける企業です。設立は2010年と若く、老人ホーム(同社ではシニアホームと呼んでいます)の入居検討者に施設を紹介するマッチング事業を柱にしつつ、そのほかシニアホーム運営のコンサルティングも行っています。IPO時の調達資金を人材採用やシステム改修などに充てるなどして今後の業容拡大を目指しています。

DAIWA CYCLE株式会社

会社概要
設立1990年8月
資本金1,000万円(2023年7月31日時点)
時価総額55億2,200万円(2023年12月25日時点)
売上130億9,000万円(2023年1月期)
代表取締役涌本 宜央
事業内容自転車及び自転車パーツ・アクセサリー等の商品販売
自転車の整備及び修理サービスの提供
公式HPhttps://www.daiwa-cycle.co.jp/

DAIWA CYCLE株式会社(大阪府吹田市)は、自転車及び自転車パーツ・アクセサリー等の商品販売、自転車の整備及び修理サービスの提供を行っている会社です。大阪府を中心に全国120以上の店舗を展開しており、IPOを機に首都圏へ攻勢をかけています。2025年1月期は新店20店舗を計画しており、今後の事業成長が期待されます。

株式会社魁力屋

会社概要
設立2003年2月
資本金1億円(2023年9月30日時点)
時価総額99億9,700万円(2023年12月25日時点)
売上88億1,500万円(2022年12月期)
代表取締役藤田 宗
事業内容ラーメンチェーン展開等の飲食事業
公式HPhttps://www.kairikiya.co.jp/

株式会社魁力屋(京都府京都市)は、ラーメンチェーンの展開など飲食事業を手掛ける企業です。京都市に本店を置いており京都市を中心に事業を展開していますが、IPOに至った本年(2023年)の時点で既に近畿よりも関東の店舗数が多くなっており、また同じく2023年には福岡県に進出するなど、全国での店舗展開を進めています。社員独立支援制度があり、130店舗(2023年9月末時点)のうち直営店は102店舗、独立店24店舗、FC加盟店4店舗となっています。

株式会社ロココ

会社概要
設立1994年6月
資本金6,600万円(2023年9月30日時点)
時価総額41億5,400万円(2023年12月25日時点)
売上68億2,600万円(2022年12月期)
代表取締役長谷川 一彦
事業内容IT アウトソーシング・BPO サービス
システム開発・保守・導入支援等
公式HPhttps://www.rococo.co.jp/

株式会社ロココ(大阪府大阪市)は、IT アウトソーシング・BPO サービス及びシステム開発・保守・導入支援等を手掛ける企業です。IT人材の常駐によるアウトソース、コールセンター・BPOサービスや、システムの受託開発などを行っており、海外にも中国とフィリピンに現地法人を設立しオフショア開発体制を持っています。ITを用いたさまざまな事業を手掛けていることが強みで、各事業のシナジー創出やワンストップのサービス提供、クロスセル展開などによる事業強化を図っています。

2024年の展望

2023年は前年に続き、米国で複数回の利上げが行われました。一般的に金利が上昇するとグロース企業の株価はネガティブな影響を受けますので、直近でIPOを果たしたグロース企業やIPOを目指すスタートアップにとって厳しい環境が続いたと言えるでしょう。その点、2024年以降は米国で利下げが行われるとの見立てもあり、IPOを目指す企業にとって市場環境は改善していくのではないかと思われます。

一方、ウクライナやイスラエルでの戦闘や、中国の不動産市場をめぐる状況など、世界には先を見通すことの難しい材料が少なくなく、予断を許さない部分も多いということを指摘しておくべきでしょう。

最後に

今回は「2023年の関西IPOレポート」というテーマで、2023年のIPO市場の状況や、その中で関西発の企業でIPOを達成した企業についてご紹介しました。2023年のIPO数としては前年2022年とほぼ同水準の結果となり、2021年の125社には届かない結果となっていますが、その中で関西から12社がIPOに至った点については、同じ関西で事業に取り組んでいる当社としても大変うれしく思う結果です。

2024年も引き続き容易に見通すことのできない市場環境は続くものの、米国で利下げが予想されていることや、2024年から開始される新NISAなど、株式市場にとってポジティブな材料も少なくありません。ぜひとも2024年が多くの方にとってすばらしい年になり、株式市場やIPO市場にとっても良い年になりますよう、期待したいと思います。

この記事を書いた人

岩崎久剛

1984年兵庫県生。関西大学工学部を卒業後、受験支援事業を全国展開する大手教育事業会社にて総務人事など管理部門を経験し、2012年より人材業界に転身。大手総合人材会社にて求人広告、人材紹介など中途採用領域での法人営業を経験し、従業員数名規模のベンチャーから数10か国に展開するグローバル企業まで多様な業界、事業フェーズの企業の採用を支援。2016年よりハイキャリア領域の人材紹介事業立上げメンバーに参画し、関西ベンチャーを軸とした採用支援に従事。その後、ビズアクセル株式会社を起業。MBA(グロービス経営大学院)。

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