【2022年版】関西IPOレポート

採用情報

2022年も間もなく終わりです。ただIPOに限れば、新規上場銘柄の上場承認から上場日までが約1か月なので、一足先に、2022年のIPO企業が出そろったと言えるでしょう。2022年は92社がIPOを果たしました。前年の125社と比べるとかなり減少しましたが、その背景にあるのは、今年前半の金利上昇に伴い、新興市場を中心に株価が低迷したことが考えられます。実際、上場日が決まった後に上場を中止した企業が9社もあり、そのすべてが6月までに上場予定だった企業です。

関西に本社を置く企業では、8社がIPOを果たしました。今回は、直近のIPOを取り巻く環境の解説と、2022年にIPOを果たした関西発の8社について概要をお伝えします。

目次

IPOとは

IPOとは、非上場企業が証券取引所に上場することで、「Initial Public Offering」の略です。日本語では、「新規公開株」「新規上場株式」などと呼ばれることもあります。証券取引所に上場することで、一般の投資家が自由にその会社の株式を売買できるようになるもので、多くのベンチャー、スタートアップ企業が目指していることとも言えるでしょう。

IPOを果たすメリットはたくさんあります。上場企業となると、知名度が上がり、社会的信用も一気に高まります。新規の取引や採用活動面でもプラス効果が期待できるでしょう。株式市場を通して資金調達できるようになるのも大きなメリットです。それ以外に、ベンチャー、スタートアップ企業の経営者などにとっての大きなメリットは、株式市場で株式を売却して、これまでの投資を回収できることです。

IPOを果たしたときには、資金調達名目で行われる「公募(新株発行)」と既存株主の株式売却である「売り出し」が行われます。公募による調達金額(公開価格×公募株数)は会社の資金になり、新規事業や広告宣伝費などの事業投資に使われます。一方、売り出しによる調達金額(公開価格×売り出し株数)は、売り出しによって株式を手放す株主が手にします。売り出しで株式を手放すのは、ベンチャーキャピタルなどが中心で、経営陣が手放す株式はあまり多くないのが一般的です。

ベンチャー・スタートアップ企業の多くは、IPOに至るまでに、ベンチャーキャピタルなどからの出資を受けています。ベンチャーキャピタルは、投資先企業がIPOを果たすことで、投資資金を大きなリターンとともに回収することができるのです。つまり、IPOは、ベンチャー・スタートアップ企業のようなハイリスクな会社に投資してくれた投資家への最大の報酬だと言えるでしょう。

2022年のIPO

2022年は、前半に金利が急上昇したこともあり、新興市場に上場する銘柄にとっては厳しい環境でした。それを受けて、IPOを果たした企業数も、前年の125社から大きく数を減らし、92社にとどまりました。上場市場の内訳は下表の通りです。

3月までの旧市場区分で上場した15社

東証一部・・・1社
東証二部・・・3社
東証マザーズ・・・11社

4月以降の新市場区分で上場した77社

東証プライム・・・2社
東証スタンダード・・・10社
東証グロース・・・61社
名証メイン・・・1社
名証ネクスト・・・2社
札幌アンビシャス・・・1社
※重複上場をしている場合は、主要な市場でカウント

上場した市場ごとに分類すると、マザーズ・グロースへの上場がほとんどで、ベンチャー系企業が多くIPOを果たしている状況に変わりはありません。2022年は「物価上昇」が大きな問題として取り上げられました。その流れは、株式市場も例外ではありません。物価が上昇する環境では、金利も自然と上昇します。

米国債利回りは、2021年末の1.5%程度から、4%近い水準まで急上昇しました。大規模な金融緩和を続けている日本でも、住宅ローンの金利が上昇し始めるほどの勢いです。そして株式市場は、グローバルの金利変動の影響を真正面から受けます。その結果、マザーズ指数は年初から6月にかけて、35%もの下落に見舞われました。※東証グロース指数は2022年4月からのトラックレコードしかないため、マザーズ指数で推移を見ています

2022年に関西でIPOを果たした8社

そんなIPO市場の中で、関西初のベンチャーでは、8社が新規上場を果たしました。それらの会社を簡単に紹介しましょう。尚、各社の概要は2022年11月30日時点のものです。

株式会社ノバック

会社概要(2022年11月30日時点)
設立1965年
資本金12億2,786万4,000円
時価総額126億4,800万円
売上353億7,000万円(2022年4月期)
代表取締役立花 充
事業内容土木工事、建築工事
公式HPhttps://www.novac-cnst.co.jp/

株式会社ノバック(兵庫県姫路市)は、土木工事・建築工事を行うゼネコンです。姫路に本社があるとはいえ、地域に特化したゼネコンではなく、全国に支店を持つ「中堅ゼネコン」に属する規模を誇ります。1965年創業で、バブル崩壊を生き抜いた建設会社と言えますが、財務体質が安定していることでも知られています。直近の決算資料では「無借金」であり、建設業全体の自己資本比率が約40%なのに対して、60%という高い水準になっています。

ヤマイチ・ユニハイムエステート株式会社

会社概要(2022年11月30日時点)
設立1989年6月
資本金8億3,322万8,938円
時価総額57億8,400万円
売上191億7,774万円(2021年12月期)
代表取締役山田 茂
事業内容分譲マンション・注文住宅の設計・施工・販売、不動産賃貸事業など
公式HPhttps://www.yueg.co.jp/index.php

ヤマイチ・ユニハイムエステート株式会社(大阪市中央区)は、近畿圏全域を営業エリアとして、分譲マンション・戸建住宅の販売や不動産賃貸事業を展開しています。分譲マンションでは、「ユニハイム」「ユニハイムエクシア」「アウラ」「ユニエス」の4ブランドを展開しており、近畿圏では比較的知名度のあるブランドです。今後は関東進出を進めていく方針で、2024年8月に関東進出第1号の分譲マンションが竣工される予定です。

マイクロ波化学株式会社

会社概要(2022年11月30日時点)
設立2007年8月15日
資本金27億8,290万6,000円
時価総額396億6,900万円
売上8億6,051万円(2022年3月期)
代表取締役吉野 巌
事業内容マイクロ波プロセスの研究開発・エンジニアリング、ライセンス事業
公式HPhttps://mwcc.jp/

マイクロ波化学株式会社(大阪市吹田市)は、電子レンジなどに使われているマイクロ波の製造プロセスを開発しており、大阪大学吹田キャンパス内に本社を置いています。医薬・電子材料・食品・環境など、化学産業が関わるさまざまな業界に対して、マイクロ波プロセスによって、開発や製造についての課題解決策を提供するビジネスモデルで事業を行っています。マイクロ波プロセスで使用する電気を自然エネルギー由来のものとすることで大幅な二酸化炭素削減につなげられる、カーボンニュートラルに資する有望な技術として各界から注目を集めています。

株式会社イーディーピー

会社概要(2022年11月30日時点)
設立2009年9月8日
資本金14億7,331万円
時価総額15億6,226万円(2022年3月期)
売上8億6,051万円(2022年3月期)
代表取締役藤森 直治
事業内容合成ダイヤモンドとその原料である種結晶の製造販売
公式HPhttps://www.d-edp.jp/

株式会社イーディーピー(大阪府豊中市)は、合成ダイヤモンドに関する事業を行っています。ダイヤモンドは宝石だけでなく、電子部品の材料や切削工具などにも活用されていますが、同社は合成ダイヤモンド(人工ダイヤモンド)の製造に必要な種結晶を製造しています。

天然のダイヤモンドでは手に入らない大型のものを生産することも可能で、今後は、ダイヤモンドという素材の安定性を武器に、通信や電気自動車への応用も視野に入れています。

株式会社eWell(イーウェル)

会社概要(2022年11月30日時点)
設立2012年6月11日
資本金3億2,590万7,000円
時価総額321億5,200万円
売上11億9,279万円(2021年12月期)
代表取締役中野 剛人
事業内容訪問看護事業者向け電子カルテSaaS
公式HPhttps://www.d-edp.jp/

株式会社eWell(大阪市中央区)は、訪問看護事業者向けの電子カルテサービス「iBow」を提供している会社です。医療介護系の中でも訪問看護に特化した、典型的な「Vertical SaaS」で成長してきた会社と言えます。高齢化の進展にともなって構築されてきている「地域包括ケアシステム」の中で、訪問看護の需要が高まっています。しかし、慢性的に人手不足の業界であり、そこでの業務効率化に役立つサービスとして、着実にシェアを伸ばしています。

株式会社グラッドキューブ

会社概要(2022年11月30日時点)
設立2007年1月(設立時は合同会社GladCube)
資本金2億8,488万8,950円
時価総額12億1,500万円(2021年12月期)
売上11億9,279万円(2021年12月期)
代表取締役金島 弘樹
事業内容ウェブサイト解析SaaS、ウェブマーケティング
公式HPhttps://www.d-edp.jp/

株式会社グラッドキューブ(大阪市中央区)は、ウェブサイトの解析・改善がオールインワンでできる「SiTest」等のSaaS事業とウェブマーケティング事業などを行っている会社です。また、ウェブサイトでのデータ解析技術を応用し、AIによるスポーツ予想解析メディア事業(SPAIA)も展開しています。

大栄環境株式会社

会社概要(2022年11月30日時点)
設立1979年10月17日
資本金5億5,800万円
時価総額
売上333億9,100万円(2022年3月期)
代表取締役金子 文雄
事業内容廃棄物処理と資源のリサイクルを中心とする環境関連事業
公式HPhttps://www.dinsgr.co.jp/

※上場日が12月14日のため、資本金は上場前の金額であり、時価総額は未定

大栄環境株式会社(兵庫県神戸市)は、廃棄物処理とそのリサイクルを中心として、環境関連事業を展開している会社です。2022年の関西発IPOで、唯一のプライム市場への上場を果たしました。廃棄物処理という昔からある業界ではありますが、ESGやSDGsなど、グローバル規模で環境に対する意識が高まっているという意味では、時代にマッチした事業を行っている会社だと言えるでしょう。

monoAI technology株式会社

会社概要(2022年11月30日時点)
設立2013年1月
資本金1億4,900万円
時価総額
売上12億9,130万円(2021年12月期)
代表取締役本城 嘉太郎
事業内容XR事業(メタバース・イベントサービス)
公式HPhttps://monoai.co.jp/

※上場日が12月20日のため、資本金は上場前の金額であり、時価総額は未定

monoAI technology株式会社(兵庫県神戸市)は、バーチャル空間プラットフォームなどのメタバースサービスを事業の柱としている会社です。設立時はオンラインゲームの受託開発などを行っていましたが、「VR元年」と呼ばれる2016年に、VR・ARに特化したXR事業を開始しました。これからメタバースに関する市場規模が急成長すると予測されている中で、注目されているベンチャーのひとつです。

2023年の展望

2022年の年末になっても米国金利は高い水準で推移していますが、来年も新興市場銘柄やIPOを目指すベンチャー、スタートアップ企業には厳しい環境が続くのでしょうか。この点については、今年のIPO企業の月別内訳をみると、「先行きは明るい」と考えている企業が増えていることがうかがえます。

今年のIPO企業数92社のうち、1~6月に上場したのは37社で、7~12月に上場したのが55社です。月別で見ると、12月だけで26社もの新規上場がなされました。もちろん、これだけで2023年の新興市場やIPO環境が非常に明るい状態だとは言い切れません。12月のIPO数は、新興市場の株価が回復基調にあることや、東証の市場再編からしばらく経ったことなども要因であり、一時的な急増と考えるべきです。

相変わらず世界の情勢は不透明ではあるものの、2022年前半のような状況は改善されてきており、IPOをめぐる市場環境はやや好転してくるものと思われます。

最後に

2022年のIPOは、新興市場の相場が苦戦していたこともあり、前年よりも少なく100社を割り込んでしまいました。しかし、年末のIPOラッシュもあり、2023年以降にIPOを果たすベンチャー、スタートアップ企業も多く出てくることでしょう。

2022年の関西IPOには、メタバースや環境関連など、最新トピックとの関係が深いものもたくさんありました。大きく成長し、IPOを果たすベンチャー、スタートアップ企業は、世界の流れに上手に乗ることができている企業が多く含まれます。未来を創るベンチャー、スタートアップ企業で働いた経験と得られたスキルは、さらに変化していく時代にも活用できるものといえるでしょう。

この記事を書いた人

岩崎久剛

1984年兵庫県生。関西大学工学部を卒業後、受験支援事業を全国展開する大手教育事業会社にて総務人事など管理部門を経験し、2012年より人材業界に転身。大手総合人材会社にて求人広告、人材紹介など中途採用領域での法人営業を経験し、従業員数名規模のベンチャーから数10か国に展開するグローバル企業まで多様な業界、事業フェーズの企業の採用を支援。2016年よりハイキャリア領域の人材紹介事業立上げメンバーに参画し、関西ベンチャーを軸とした採用支援に従事。その後、ビズアクセル株式会社を起業。MBA(グロービス経営大学院)。

目次