IT・Web業界で注目を集めるSaaSビジネスの全体像を解説!

近年、IT・Web業界の中でも特に注目を集めているのが「SaaS」です。スタートアップ企業ではSaaSプロダクトをベースにしたビジネスモデルが多く、将来ユニコーン企業を嘱望されるような企業も次々と生まれています。また、SaaSプロダクトにて急成長を遂げるスタートアップ企業には、事業の成長と併せて一気に採用の強化を進めることも少なくありません。今回はこのようなSaaSビジネスの概要、並びにSaaSプロダクトを展開するスタートアップ企業への転職を考えている方向けに解説をしていきます。

目次

SaaSとは

SaaSとは「Software as a Service」を略したもので、パッケージソフトを購入して自分のパソコンにインストールするのではなく、インターネット上でソフトウェアにアクセスし、利用することができるクラウドコンピューティングサービスです。そのサービスを提供する企業を「SaaS」と呼びます。

昔は「ASP(Application Service Provider)」と呼ばれていましたが、2000年代中頃から「SaaS」と呼ばれるようになりました。歴史のあるSaaS企業としては、米国で1999年に創立されたセールスフォース・ドットコムなどが代表格といえるでしょう。また、新型コロナウイルスの影響で出勤や顧客先への訪問が難しくなり、一躍有名になったビデオ会議ツールの「Zoomビデオコミュニケーションズ」も代表的なSaaSモデルの企業のひとつです。このような歴史の通り、SaaSプロダクトは、パッケージソフトとして販売されていたものが形態を変えたものです。しかしながら、SaaSプロダクトを導入するにあたって複雑な設定をする手間も少なく、クラウドであるが故にバージョンアップで常に最新版が使えるため、ユーザーにとってはパッケージソフトよりも利用しやすくなっていると言えるでしょう。

また、SaaS企業の多くが毎月定額のプロダクト利用料を受け取る「サブスクリプションモデル」を導入しているため、長く利用してもらうことができれば、パッケージ型のソフトウェアよりも収益性が高くなる傾向にあります。SaaSプロダクトをサブスクリプションモデルで提供する場合、顧客に対してアップセル、クロスセルなどのマネタイズの仕組みを導入していくことで顧客単価を上げていきやすいという特徴もあり、SaaSプロダクトのビジネスは成長戦略によっては安定性を持ちつつも大きく成長を実現することも可能です。

また、従来のパッケージソフトとして提供されていたものだけでなく、これまでパッケージソフトでは提供できなかったニッチな分野にもSaaS(このようなSaaSをVertical SaaSといいます)が進出するなど、プロダクトの可能性を高まっている傾向にあります。それだけにスタートアップ企業界隈でも、まだ未開拓の市場で新たにSaaSビジネスへ参入を目論む企業が少なくありません。

近年台頭するVertical SaaS(バーティカルサース)

ベンチャー、スタートアップ企業を含めて、まだまだ成長が期待できるSaaS市場ですが、近年、存在感を高めているのが「Vertical SaaS(バーティカルサース)」と呼ばれる分野です。Vertical SaaSは「業界・業種特化型SaaS」のことで、どのような業界でも利用される汎用型のものは「Horizontal SaaS」と呼ばれます。

汎用型のHorizontal SaaSは、会計ソフトやメール・チャットツールなどが当てはまります。どの企業でもほぼ同じプロダクトで提供でき、ターゲットが広いのが特徴です。例を挙げるのであればチャットツール「Chatwork」を提供するChatwork株式会社、会計プロダクト「マネーフォワード」を提供する株式会社マネーフォワードなどが Horizontal SaaS に該当します。しかし、どんなプロダクトでもHorizontal SaaSが適しているとは限りません。特有の作業が行われるニッチな業界などでは、汎用的なHorizontal SaaSではカバーしきれない領域が出てきます。

一方のVertical SaaSは、特定の業界・業種における業務内容に合わせたプロダクトを提供するものです。専門性が必要だったり、独自の慣習があったりする業界向けに、汎用型のSaaSでは提供できない業務に対応したSaaSを提供しています。Vertical SaaSが必要な業界には、医療・建設・ホテルなど個別性が高い業界、あるいはただモノを売るだけではない業界が挙げられるでしょう。

そんなVertical SaaSですが、SaaS業界の中でも開発が難しいジャンルだと言われています。プロダクト開発には開発力だけではなく、その業界についての専門性(実務理解など)が不可欠で、専門的でかつ独特な業務を、使いやすいユーザビリティに構築していく必要があるためです。

SaaSが注目を浴びる以前、パッケージソフトで広く受け入れられているソフトウェアが少ない場合は、特に開発が困難な業界なのかもしれません。しかし、SaaSで提供されるプロダクトはスイッチングコストが高く、先行者利益が大きい業界であるため、開発困難だったVertical SaaSをいち早くリリースできたSaaS企業は、大きな市場シェアを獲得できるでしょう。それだけに、Vertical SaaSでチャレンジするベンチャー、スタートアップ企業もあり、その中から大きく成長する企業が登場するかもしれません。

SaaS企業のIPO事例

日本国内のSaaS企業として有名なサイボウズ株式会社は2000年上場ですが、当時はまだパッケージソフトの会社でした。しかし、SaaSが一般的になってきた近年では、創業当初からSaaSプロダクトを提供するベンチャー、スタートアップ企業のIPOも増えています。その事例をいくつか紹介します。

株式会社マネーフォワード

ソニー、マネックス証券出身の現代表の辻庸介氏が2012年に設立した株式会社マネーフォワードは、法人向けに「クラウド会計」「クラウド勤怠」などの「マネーフォワード クラウドシリーズ」を、個人向けに家計管理ツール「マネーフォワードME」などのSaaSを提供しています。

2017年に東京証券取引所マザーズ市場へ上場されて以降も、M&Aなどによりグループ会社を一挙に増やし、急成長を続けるSaaS系メガベンチャーの1社といえる企業です。株式会社マネーフォワードの提供する前述の法人向けのクラウドシリーズは、どの業界でも使える基本的な業務システムであり、Horizontal SaaSに分類されます。

株式会社Sansan

株式会社Sansanは2019年に東証マザーズに上場しましたSaaS企業です。クラウド名刺管理プロダクトの「Sansan」、個人向け名刺管理アプリ「eight」を主軸にしたビジネスを展開しています。

名刺はどの業界であっても使うものであるため、Horizontal SaaSに分類できるでしょう。ただ、オフラインで使用するパッケージソフトでは名刺管理は手入力するしかなく、画期的な名刺管理ソフトはありませんでした。

そこに名刺を撮影するだけでデータ化できるサービスだけでなく、過去の名刺を郵送することでSansanがすべてスキャンしてデータ化するサービスなどを導入することで急速にユーザー獲得を進めてこられました。現在では株式会社Sansanは80%を超える圧倒的なシェアを獲得し、2021年に東証1部に市場替えも果たされています。

株式会社スマレジ

株式会社スマレジは2019年に東証マザーズに上場した、飲食店・小売店向けのクラウド型POSレジ「スマレジ」などを提供しているSaaS企業です。POSレジ機能だけにとどまらず、在庫管理や商品別売上管理などの経営管理機能を実装することで顧客のユーザビリティ向上を実現されています。

また、現在ではCVC(コーポレート・ベンチャー・キャピタル)となるスマレジ・ベンチャーズを設立し、スマレジの追加機能開発を担う開発会社の資金サポートなども行うといった仕掛けも進めており、今後ますます成長が期待できるSaaS企業の1社といえるでしょう。

スパイダープラス株式会社

建設業の現場管理アプリを提供するスパイダープラス株式会社は2021年にIPOをしたVertical SaaS企業です。1997年に伊藤工業として創業し、2011年より現在の主力サービスである「SPIDERPLUS」を展開し、ゼネコンをはじめとした建設・設備事業者への導入実績を重ねてこられています。HPでも「建設DX」を謳っています通り、建設業界に特化した専門性の高いプロダクト、サービスを形づくられている正にVertical SaaSと呼べる企業といえるでしょう。

今後、上場が期待されるSaaS企業

今後、上場が期待されるSaaS企業の代表格としては労務管理領域を主戦場にHR SaaS「SmartHR」を展開する株式会社SmartHRが挙げられるでしょう。2021年には総額156億円にも上る資金をシリーズDで調達し、ユニコーン企業として大きな注目を集めています。また、京都本社でありながら、Zベンチャーキャピタル株式会社や株式会社ユーザベースなどを主要株主として総額25億円もの資金調達を実現されていますBaseconnect株式会社なども、将来的に高い時価総額での上場が期待できるSaaS企業の1社といえるでしょう。

その他にも近年のDXトレンドも相まって製造業DXを推進するSaaS企業の台頭が目立つ他、新型コロナウィルス問題に伴うテレワーク支援などを推進するSaaS企業も目覚ましい成長を続けています。

SaaS企業で導入される「THE MODEL」

SaaSはパッケージでソフトウェアを販売している企業とは異なるマーケティング・営業戦略が必要であり、特に「売り切り型」ではなく「サブスクリプションモデル」であることを意識した営業活動、UX構築が求められます。

サブスクリプションモデルでのマネタイズを導入するSaaS企業のビジネスモデルは、「一度購入してもらえれば、まとまった売上が立ち、利益も確保できる」のではなく、「サービスに満足してもらい、長く使い続けてもらうことで、大きな売上・利益が実現できる」というものです。だからこそ、顧客が情報収集を始める段階から購入後までの顧客ステージ全体、つまり、カスタマージャーニー全体でマーケティングが機能していなければなりません。これは、会社の規模に関わらず、ベンチャー、スタートアップ企業でも同様です。

そこで、多くのSaaS企業が導入しているマーケティングと営業のプロセスが、「THE MODEL」というものです。「THE MODEL」は、セールスフォース・ドットコムが、自社のSaaSである「セールスフォース」を販売し、拡大するために活用された戦略です。次の章にて「THE MODEL」の詳細について解説していきます。

「THE MODEL」を構成する4つのプロセス

ここで、SaaS企業のビジネスモデルを知るうえで欠かせない「THE MODEL」について、4つのプロセスに分けて、簡単に説明しましょう。「THE MODEL」の営業プロセスは、マーケティング、インサイドセールス、営業(フィールドセールス)、カスタマーサクセスの4段階に分けられていますが、この4つの役割が「共業」するプロセスと位置付けられています。

マーケティング

「THE MODEL」において、マーケティングは「オーケストラの指揮者」にたとえられる重要な存在で、全体の方向づけをする役割を持っています。SaaS企業のマーケティング担当者は、プロダクトに関する問い合わせや顧客情報獲得もWeb上で行うことが多く、例えばSNSやリスティング広告などのWeb広告、ウェビナーなどのイベント、ホワイトペーパー(資料ダウンロード)などの施策を活用していきます。

マーケティング担当者は各アクションに対し、顧客がどのようなコンテンツに興味を持ち、イベント参加やホワイトペーパーをダウンロードをしたかなどの情報を集約していきます。この過程に置いてリード(THE MODELでは見込み顧客をリードといいます)がどれくらい自社プロダクトに興味を持っているかを判断の上、リードの購買意欲向上を促す施策を打っていきます。このようにリードを購買意欲の高い有望な顧客に育成することを「ナーチャリング」といいます。

また、インサイドセールス、フィールドセールスで受注に至らなかった案件を、再度リードとしてナーチャリングしていくこともマーケティングの重要な役割の一つです。このように、興味関心や課題の異なるそれぞれのリードに合わせた営業活動ができるようにするという意味で、商談を作るまでが仕事という従来型のマーケティングとは異なる側面があると言えるでしょう。

インサイドセールス

インサイドセールスは、リードと最初の直接接点をとるポジションになります。マーケティングから引き継いだリードに接触し、購買意欲が高いリードかどうかを直接のコミュニケーションで判断し、フィールドセールスへとつなぐ役割を果たしています。

インサイドセールスは商談当初はなかなか興味関心、購買意欲がそこまで高くないリードの場合でも、抱える課題や興味を引き出し、必要な情報提供を通じて再度アプローチしたり、もう一度マーケティングからリードのナーチャリングのステップを経てアプローチしたりします。

インサイドセールスで重要なことは最初からすべてがうまくいくことはなかなかなく、顧客理解を深め、顧客にとってより良い提案をできるために何ができるかを都度フィードバックし、トークスクリプトなどに落とし込み、仕組み化を進めていくことでしょう。インサイドセールスがうまく機能しなければ、その後の商談プロセスに進めることはできませんので、良い形でフィールドセールスへ繋げるように試行錯誤を繰り返していくことが必要です。

また、「THE MODEL」においては、新規リードを集めるのには限界があるため、商談には至らなかった「リサイクルリード」をいかに商談・受注につなげるかが重要だとしています。従来のような一人で完結する営業体制では商談がうまくいかなかった顧客、あるいは相性の悪い顧客などに対し、営業担当がそのままフォローをせずに、放置されてしまうような状態が起こりえます。分業体制を敷くことでこのような資産の損失を無くすことが出来ることも、「THE MODEL」のセールスプロセスを導入するメリットの一つといえるでしょう。

フィールドセールス

フィールドセールスは、インサイドセールスが取得したアポイントを受けて、顧客との商談を行います。ナーチャリングをした上での商談の為、ある程度、購買意欲のある顧客が商談の相手になりますが、競合プロダクトと比較検討をしている場合も多い中、自社のプロダクトを選定してもらえるように、戦略的に行動する必要があります。

フィールドセールスでは顧客のビジネス課題や現場での問題点を特定し、それに対して、自社プロダクトを活用することで得られる解決策や効果を伝えて、受注につなげます。マーケティング、インサイドセールスで獲得してきた顧客情報を活かし、クリティカルなご提案をしていくことがフィールドセールスで商談を良い形に運ぶポイントといえるでしょう。もちろん、ここで受注に至らなかった場合でも、リサイクルリードとして再度アプローチできるようにすることが重要です。

ちなみにフィールドセールスという名称ではありますが、必ずしも顧客先に訪問しての商談という形ばかりではありません。特に昨今の新型コロナウィルス問題があった中、Web会議ツールなどを活用したオンライン商談を中心にしたフィールドセールス組織の運用を進めているベンチャー、スタートアップ企業も多いです。

カスタマーサクセス

「THE MODEL」のセールスプロセスでは、カスタマーサクセスも非常に重要な役割を担っています。SaaSはサブスクリプションモデルであるため、毎月の契約を更新してもらうことが利益につながります。

一方の顧客側は、プロダクトを利用している以上、何らかの成果につなげたいはずです。極端に言えば、契約更新をしてもらうために、顧客の成功につながるテクニカルなサポートや利用促進をすることで自社の課題解決が実現できている双方の利益になる状態を如何に継続して作っていくかということが重要です。

また、カスタマーサクセスが得た顧客の課題や情報は、プロダクトのブラッシュアップに役立つことに繋がり、さらには今後のマーケティング、セールス活動を有利に進めることができます。特にSaaSの場合、より高いプランを利用頂く「アップセル」、付随するオプションなどを利用頂く「クロスセル」などで顧客の利用単価をどれだけ高めていくことができるかもまた重要なポイントの一つになります。

カスタマーサクセスが顧客の声を聞いた上で、顧客の抱える課題の芯を食ったプロダクトの改善、オプション機能追加等ができるかどうかでその後の成長曲線は大きく変わります。このように単なる顧客フォローではないという点を自覚しながら、カスタマーサクセス組織の運用をしていくことが大切といえるでしょう。

このように、「THE MODEL」を活用するSaaS企業のマーケティング・営業活動は、各部門が独立した存在ではなく、お互いに連携して成果を出す仕組みとなっています。それは、SaaS企業が必要としている重要なポジションやスキルにも大きく影響しています。

SaaS企業を構成するポジション

上記の「THE MODEL」で説明した通り、SaaS企業では、「マーケティング→インサイドセールス→フィールドセールス→カスタマーサクセス」という流れとその連携が非常に重要です。そのため、突出した営業力はあるものの、他組織と連携できない人材などはなかなかうまく機能しない可能性があります。そのような前提の下、多くのSaaS企業では、強い仕組みを作るべく、以下のような組織で構成され、それぞれのポジションにて強みを発揮できる人材を求めています。

セールス

「THE MODEL」では、セールス業務をインサイドセールス・フィールドセールス・カスタマーサクセスに細分化しています。そのため、各部門でマネージャーが置かれています。ただ、人的リソースが少ないベンチャー、スタートアップ企業では、複数部門を兼任することもあるでしょう。

インサイドセールス・フィールドセールス・カスタマーサクセスのマネージャーはセールス組織、あるいは事業全体を統括する事業部長、COO(Chief Operations Officer)等のポジションへのステップアップなどがキャリアパスの一例と言えるでしょう。

プロダクトマネージャー

プロダクトマネージャーはPdMと略して呼ばれることもある職種です。プロダクトマネージャーの仕事はプロダクトを顧客に提供する中でいかにして顧客に導入頂き、顧客満足度を上げ、継続利用頂けるプロダクトに育てていくかにあります。

具体的には開発の進捗管理、営業・マーケティング活動でどのように仕掛けるかの企画実行、導入後のチャーンレート(解約率)のモニタリング・改善案の企画実行など幅広い業務を行うポジションです。また、すべての部門のハブとなる立ち位置でもあるため、プロダクトの成長を支える上で、非常に責任の重いポジションといえるでしょう。

エンジニア

SaaSのビジネスモデルを支えるのが、開発を担当するエンジニアです。カスタマーサクセスやマーケティングが集めた顧客の要望や課題をもとに、よりよいシステムへとアップデートします。創業初期フェーズなどでは、必要に応じてカスタマーサクセス部門のテクニカルサポートとしてアシストしたり、顧客の声に直接触れることを目的にフィールドセールスの商談に同席したりすることもあるでしょう。

SaaS企業への転職で求められるスキルとは

SaaS企業への転職を考えるにあたり、どのようなスキルが求められるのでしょうか。こちらではSaaS企業の主に営業組織で求められるスキルについて解説していきます。

ヒアリング能力

顧客のニーズや課題を把握することがSaaS営業では必要ですが、まだまだプロダクトの機能追加などを進める初期フェーズにおいては顧客の声を反映すべく、フィールドセールスやカスタマーサクセスだけでなく、場合によってはエンジニアでも必要になるスキルと言えるでしょう。

SaaS企業が提供するプロダクトはある程度軌道に乗ったとしても、競合などが台頭する中、チャーンレートをあげないためにも継続してプロダクトのブラッシュアップをしていかなければなりません。そのような体制の実現のためにも顧客からの情報収集が肝であり、このような顧客の声をいかに多く集め、プロダクトに反映させるかがLTV(ライフタイムバリュー・顧客生涯価値)を高めることにもつながります。

課題解決能力

ヒアリングの次には、当然ながらヒアリングした課題を受け、プロダクトへの反映、セールス体制の改善など顧客の抱える課題解決につなげなければなりません。特にここで気を付けておきたいのが、ヒアリング内容から「顧客が本当に困っている課題」を解決しなければならないということです。

要望としてあがってくる内容は、プロダクトの活用方法に沿ったものですが、要望をプロダクト取り入れすぎると、複雑なシステムになるだけでUIUXを崩し、よりよいバージョンアップにならない場合もあります。要望の背景にある課題を本質的に捉え、その課題にフォーカスした解決施策を立てられるスキルが必要になってきます。

分析スキル

SaaS企業のプロダクトは、ユーザーの行動履歴などの大量のデータを見ることができ、それを分析することで、プロダクト改善につなげることができます。そのため開発スキルが高い組織であれば良いプロダクトといえる訳ではなく、ユーザーの行動から課題を特定できる分析力が求められるといえるでしょう。

また、「THE MODEL」を支えるマーケティング・営業プロセスにおいても、見込み顧客の反応やインサイドセールス・フィールドセールスのレポートを分析して、最適なマーケティング・営業戦略につなげなければなりません。

これからの成長に期待できる「勝てるベンチャー」と出会うために

SaaSプロダクトを展開するベンチャー企業をはじめベンチャー、スタートアップ企業への転職活動を試みた経験のある方の中には、大手企業と比べて企業情報、求人情報を探すこと、また企業概要までは分かったとしてもビジネスモデルや事業優位性など詳細な情報収集が難しいと思った方も多いのではないでしょうか。

言うまでもなく、大手企業や上場企業のように公開情報が豊富な訳ではなく、財務情報やビジネスモデルなど実態が掴みづらいのがベンチャー、スタートアップ企業です。特に設立から間もないベンチャーの場合、HPなどWebサイトに十分な予算をかけることが難しく、最低限の情報のみ記載されているような企業も少なくありません。

また、ベンチャー、スタートアップ企業は、まだ世の中にない最新技術などを駆使したビジネスを展開されている企業も多いため、HPの情報だけではなかなかビジネスの特徴や全体像などを掴みづらいというのも、転職者が情報収集に苦労する一つです。

ベンチャー、スタートアップ企業への転職活動において企業情報、求人情報を探す過程で、上記のように様々な問題に直面する場合が多く、自分に合ったベンチャー、スタートアップ企業を探し、出会うことは非常に難易度が高いです。このように情報収集が容易ではないという前提の上ではありますが、その上で以下のような探し方をご紹介します。

積極的にPRをするベンチャーと戦略的にPRを控えるベンチャー

こちらでは今後、成長性に期待のかかるベンチャー、スタートアップ企業との出会いをつくるために参考になる方法についてい解説いたします。特に積極的にPRをするベンチャー、戦略的にPRを控えるベンチャーがありますのでそのような観点について以下ご紹介します。

積極的にPRをするベンチャー

ベンチャー、スタートアップ企業の求人情報の探し方、情報収集方法としては、まず「Wantedly」を活用されることをお勧めします。企業側の視点で見た際に、Wantedlyは比較的安価な料金で利用可能なビジネスSNSであり、多くのベンチャー、スタートアップ企業がWantedly上で情報を公開しています。そのため、転職活動の第一歩として利用するツールとしてはよいかと思います。

また、「注目すべきベンチャー●選」、「優良ベンチャー●選」、あるいは経営者にフォーカスをあてた特集など、様々なテーマでベンチャー、スタートアップ企業の情報をまとめたキュレーションサイト(まとめサイト)も存在します。Web上での情報収集においては、このようなWebサイトを参考に情報収集をされると良いでしょう。

また、ベンチャー、スタートアップ企業は自社をPRする場として、行政などが主導するビジネスプランコンテストなどに出場することが多いです。ビジネスプランコンテストは経営者が自社のビジネスモデルの特徴、どのような市場成長性のあるマーケットで戦っているか、将来どのような展望を考えているかなど、具体的な内容を発表し、審査員が評価します。

ビジネスプランコンテストは一般公開しているものも多くありますが、コロナショック以降はYoutubeなどオンライン配信形式(LIVE配信のみ、あるいはYoutubeに残す場合など様々)をとるケースも増えました。そのため、仕事が忙しく、ベンチャー、スタートアップ企業を探すことになかなか時間を割けない方でも、このような場に参加しやすくなりました。

戦略的にPRを控えるベンチャー

ここまでベンチャー企業、あるいは経営者がどのような形で情報を発信しているかお話してきました。しかし、PRに積極的なベンチャー、スタートアップ企業ばかりではありません。

認知度を上げることは企業の成長において重要なことではありますが、目立ちすぎることで「この市場は魅力的な市場だ」と、競合の参入を加速させてしまう可能性も高まります。こちらでは戦略的にPRを控えるベンチャー、スタートアップ企業について解説していきます。

ベンチャー、スタートアップ企業の成長において大きな脅威の一つが、大企業の参入です。資本力のある大手企業が参入する中、資金力や人材など経営資源の足りないベンチャーが太刀打ちするのは至難の業といっても過言ではありません。

そのような脅威に注意を払っている経営者は、自社HP含めwebサイト上での発信を控えている他、ビジネスプランコンテストのような表舞台には極力姿を現さず、水面下で静かにシェア獲得を推し進めるような戦略をとっていることが多いです。そして、ある程度シェアを獲得できた段階、あるいは大型の資金調達などが実現され、一気に競合各社を引き離したいという瞬間に、ようやく大々的に露出していきます。

転職エージェントを活用した水面下での採用活動

このような戦略的にPRを控えるベンチャー、スタートアップ企業は、自社の採用活動に関しても慎重です。例えば公に情報を露出する求人サイトではなく、転職エージェントなどを活用し、競合他社に動きが見えないよう、水面下で採用活動を進めるような採用施策をとる企業も多いです(特にCxOクラス、ミドルマネージャークラスの求人募集に際し、転職エージェントを活用するケースが多いです)。

また、このような戦略的にPRを控える企業の場合以外においても、多くの場合、転職活動は孤独です。自身の経歴の棚卸、今後の自分のキャリアプランをどうしていくべきかなど腹を割って話ができる存在がいるかいないかは、自身の転職活動を良い形で進めていく上で重要です。

転職エージェントは国内に数万社あり、職種や業界に特化した転職エージェント、あるいは経営層・マネジメント層に特化した転職エージェントなどそれぞれ特色があり、今回ご紹介したSaaS企業に専門性を有する転職エージェントも存在します。これまでの経験、自分が描きたいキャリアなどを踏まえ、自分に合った転職エージェントをパートナーに転職活動を進めても損はないでしょう。

上記の通り、経営者の考え方、市場や競合環境により経営方針は様々であり、必ずしも露出が多いから優良ベンチャーという訳ではありません。事業フェーズがそれなりに進んでいるにも関わらず露出が少ない企業の場合には、その背景についても調べてみる、または面接において経営者に直接確認してみるのも良いでしょう。

最後に

SaaSは、今、最も注目を集めているビジネスモデルのひとつです。ベンチャー、スタートアップ企業にもSaaS企業が次々と生まれており、多くの転職人材を求めています。SaaSのベンチャー、スタートアップ企業へ転職した場合、ポジションによってはストックオプションを付与されることもあり、IPOを果たしたときに利益が得られることもあるでしょう。

ただ、より重要なポジションで転職するためには、その企業が提供しているサービスや顧客の業界についての深い知識があることに加えて、「THE MODEL」を理解し、そのマーケティング・営業プロセスを実行できるスキルが求められます。


この記事を書いた人

岩崎久剛

1984年兵庫県生。関西大学工学部を卒業後、受験支援事業を全国展開する大手教育事業会社にて総務人事など管理部門を経験し、2012年より人材業界に転身。大手総合人材会社にて求人広告、人材紹介など中途採用領域での法人営業を経験し、従業員数名規模のベンチャーから数10か国に展開するグローバル企業まで多様な業界、事業フェーズの企業の採用を支援。2016年よりハイキャリア領域の人材紹介事業立上げメンバーに参画し、関西ベンチャーを軸とした採用支援に従事。その後、ビズアクセル株式会社を起業。MBA(グロービス経営大学院)。

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