SaaSプロダクト導入の要となるフィールドセールスを解説

SaaSプロダクトを展開する企業の多くでセールスフォース・ジャパンで活用されてきた「THE MODEL」と呼ばれる営業組織の運営方法を導入するようになり、「THE MODEL」の中で用いられる「フィールドセールス(FS)」というセールス用語が一般的になりました。こちらの記事ではこのようなフィールドセールスの概要、SaaSプロダクトを展開する多くの企業に導入されている理由などをご紹介していきます。SaaS企業のフィールドセールスがどのようなものかを知りたい人は、ぜひ参考にしてみてください。

目次

SaaSとは

SaaSとは「Software as a Service」を略したもので、パッケージソフトを購入して自分のパソコンにインストールするのではなく、インターネット上でソフトウェアにアクセスし、利用することができるクラウドコンピューティングサービスです。そのサービスを提供する企業を「SaaS」と呼びます。

昔は「ASP(Application Service Provider)」と呼ばれていましたが、2000年代中頃から「SaaS」と呼ばれるようになりました歴史のあるSaaS企業としては、米国で1999年に創立されたセールスフォース・ドットコムなどが代表格といえるでしょう。また、新型コロナウイルスの影響で出勤や顧客先への訪問が難しくなり、一躍有名になったビデオ会議ツールの「Zoomビデオコミュニケーションズ」も代表的なSaaSモデルの企業のひとつです。

SaaSは、通信技術の発展に伴い、より多くのデータ通信が可能になったことで、大企業からベンチャー、スタートアップ企業まで数多くの企業が参入し、次々と新しいプロダクトが生まれています。ベンチャー、スタートアップ企業にも、将来有望なSaaS企業がたくさんあると考えられています。

SaaS企業が提供するプロダクトは、パッケージソフトとして販売されていたものが形態を変えたものです。しかし、プロダクトを導入するにあたって複雑な設定をする手間も少なく、バージョンアップで常に最新版が使えるため、ユーザーにとって、パッケージソフトよりも利用しやすくなっていると言えます。

SaaS企業の多くが毎月定額のプロダクト利用料を受け取る「サブスクリプションモデル」を導入しているため、長く利用してもらうことができれば、パッケージ型のソフトウェアよりも収益性が高くなる傾向にあります。また、サブスクリプションモデルで利用頂いている顧客に対し、アップセル、クロスセルなどのマネタイズの仕組みを導入していくことで顧客単価を上げていきやすいという特徴もあり、SaaSはまだまだ成長する分野だと考えられています。

また、従来のパッケージソフトとして提供されていたものだけでなく、これまでパッケージソフトでは提供できなかったニッチな分野にもSaaSが進出するなど、プロダクトの可能性を高まっている傾向にあります。それだけにベンチャー、スタートアップ企業界隈でも、まだ未開拓の市場で新たにSaaSビジネスへ参入を目論む企業が少なくありません。

フィールドセールスとは

「THE MODEL」の特徴は営業プロセスをマーケティング、インサイドセールス、フィールドセールス、カスタマーサクセスに分類し、セールス活動の生産性、組織の専門性向上などに繋げる考え方になります。この「THE MODEL」が広まったのはただ単にトレンドという訳ではなく、その背景には人材難である今のご時世も影響していると言えるでしょう。

1人の営業担当者が新規開拓からサービス導入後の顧客フォローなどまで一挙に手掛ける従来のセールスモデルでは育成にも時間を要しますし、投資家などより急成長を要求されるスタートアップ企業などでは目指す成長スピードに追い付かないなどの問題も起こり得ます。 そのような背景もある中、短期間での人材育成が可能であり、業務効率化も進めやすい「THE MODEL」が一気に広がっていきました。

「THE MODEL」のフィールドセールスはインサイドセールスが顧客の関係を築いてくれた後にパスを受け、商談を確実にクロージングする役割になります。電話やWeb会議システムを中心に顧客との関係構築を進めるインサイドセールスと比較すると、実際に顧客のオフィスにまで足を運んでの商談機会が多いですが、昨今の新型コロナウィルス問題の影響もあり、フィールドセールスもWeb会議システムを利用した形で行うことが主流となりつつあります。

フィールドセールスはインサイドセールスが関係構築を行ったとはいえ、顧客と商談を開始して間もなくクロージングに運ばなければならない役割を担うこともあり、一連の流れを1人の営業が担当する従来のセールスモデルと比較した際に、その難易度は決して低いとは言えないでしょう。

フィールドセールスに求められる3つのスキル

SaaSプロダクトの導入初期においては、フィールドセールスが機能することが事業の成長に直結すると言っても過言ではないでしょう。ではフィールドセールスで活躍していくためにどのようなスキルが必要かご紹介していきます。

問題解決力

フィールドセールスで重要なスキルとして第一に問題解決力が挙げられます。SaaSプロダクトの導入を最終的に決断して貰うためには、顧客がどのような課題を抱えていて、何を必要としているか、聞き出した上での課題解決提案が必要です。SaaSプロダクトの多くはサブスクリプション型であり、顧客に長期的に利用頂かなければ意味がありません。そのため目先の売上数字に捉われることなく、自社のSaaSプロダクトを導入し、継続的に利用して貰うことで顧客が抱えている課題が中長期で解決できるものであるという、俯瞰した視点での提案が重要といえるでしょう。

また、問題解決力は顧客だけではなく、自組織についても必要になります。インサイドセールスから商談パスを受けて商談に臨んだものの、顧客の意向がフィールドセールスが求める水準にまで達しておらず、クロージングどころではないケースも「THE MODEL」を導入する組織では珍しくありません。このようにフィールドセールスの前工程にあるマーケティング、インサイドセールスで何が起こっているのかも把握の上、組織全体で商談を確実に受注できる体制を構築することにおいても問題解決力は必要となるでしょう。

非対面環境下での関係構築力

2つ目は非対面環境下での関係構築力になります。前述の通り、本来は顧客のオフィスに出向く形が主流であったフィールドセールスも、現在ではWeb会議システムを活用した商談でクロージングまで運ぶことが珍しくなくなりました。そのような中、Web会議システムなど非対面環境下での顧客との関係構築力もフィールドセールスには求められます。

Web会議システムのでの商談においては、対面での商談で当たり前にあった雑談などが生まれにくいといった課題を耳にした方もおられるかと思います。このような雑談を通じて人間関係を築く、あるいは雑談の中で顧客の本音が伺える瞬間があるといったことも営業活動に関わる方の多くが経験されたことがあるかと思います。そのような中でうまく関係を築いていくのは容易ではありません。

また、Web会議システムのそのような特性も相まってWeb会議システムを用いた商談では、これまでの1時間の商談時間が30分程度で設定される機会も多くなりました。このような環境の下、インサイドセールスとの連携の下、短時間で顧客の本音を引き出し、課題解決提案を行うフィールドセールスの役割は他のセールスと比較しても高いと言えるでしょう。

仮説構築力

3つ目は仮説構築力です。問い合わせやインサイドセールスのヒアリングで得られた顧客に関する情報の他、類似する顧客が抱えている課題やニーズなども鑑みた上で、「●●が要因でうまく進んでいないのではないか」などの仮説を構築して営業活動を行うことで受注まで運びやすくできるでしょう。

顧客が本質的に向き合うべき課題何か、成長を妨げているのは何か、解決のために自社の商品やサービスがどのように役立つかを細かくヒアリングしていくことは大切です。しかしながら、Web会議システムなどの非対面でのコミュニケーションが進み、商談時間も短縮傾向にある中、出来る限り、短時間で商談をまとめるためにもこのような仮説構築をしていく力はフィールドセールスとして活躍していく上で必要と言えるでしょう。

SaaSプロダクトを展開するベンチャー企業と出会うために

SaaSプロダクトを展開するベンチャー企業への転職活動を試みた経験のある方の中には、大手企業と比べて企業情報、求人情報を探すこと、また企業概要までは分かったとしてもビジネスモデルや事業優位性など詳細な情報収集が難しいと思った方も多いのではないでしょうか。

言うまでもなく、大手企業や上場企業のように公開情報が豊富な訳ではなく、財務情報やビジネスモデルなど実態が掴みづらいのがベンチャー、スタートアップ企業です。特に設立から間もないベンチャーの場合、HPなどWebサイトに十分な予算をかけることが難しく、最低限の情報のみ記載されているような企業も少なくありません。

また、SaaSプロダクトを展開する企業に限らず、ベンチャー、スタートアップ企業は、まだ世の中にない最新技術などを駆使したビジネスを展開されている企業も多いため、HPの情報だけではなかなかビジネスの特徴や全体像などを掴みづらいというのも、転職者が情報収集に苦労する一つです。

SaaS系ベンチャー、スタートアップ企業への転職活動において企業情報、求人情報を探す過程で、上記のように様々な問題に直面する場合が多く、自分に合ったベンチャー、スタートアップ企業を探し、出会うことは非常に難易度が高いです。このように情報収集が容易ではないという前提の上ではありますが、その上で以下のような探し方をご紹介します。

積極的にPRをするベンチャーと戦略的にPRを控えるベンチャー

こちらではSaaSプロダクトを展開するベンチャー企業との出会いをつくるために参考になる方法についてい解説いたします。特に積極的にPRをするベンチャー、戦略的にPRを控えるベンチャーがありますのでそのような観点について以下ご紹介します。

積極的にPRをするベンチャー

SaaS系ベンチャー、スタートアップ企業の求人情報の探し方、情報収集方法としては、まず「Wantedly」を活用されることをお勧めします。企業側の視点で見た際に、Wantedlyは比較的安価な料金で利用可能なビジネスSNSであり、多くのベンチャー、スタートアップ企業がWantedly上で情報を公開しています。そのため、転職活動の第一歩として利用するツールとしてはよいかと思います。

また、「注目すべきベンチャー●選」、「優良ベンチャー●選」、「 SaaS企業特集」あるいは経営者にフォーカスをあてた特集など、様々なテーマでベンチャー、スタートアップ企業の情報をまとめたキュレーションサイト(まとめサイト)も存在します。Web上での情報収集においては、このようなWebサイトを参考に情報収集をされると良いでしょう。

また、ベンチャー、スタートアップ企業は自社をPRする場として、行政などが主導するビジネスプランコンテストなどに出場することが多いです。ビジネスプランコンテストは経営者が自社のビジネスモデルの特徴、どのような市場成長性のあるマーケットで戦っているか、将来どのような展望を考えているかなど、具体的な内容を発表し、審査員が評価します。

ビジネスプランコンテストは一般公開しているものも多くありますが、コロナショック以降はYoutubeなどオンライン配信形式(LIVE配信のみ、あるいはYoutubeに残す場合など様々)をとるケースも増えました。そのため、仕事が忙しく、ベンチャー、スタートアップ企業を探すことになかなか時間を割けない方でも、このような場に参加しやすくなりました。

戦略的にPRを控えるベンチャー

ここまでベンチャー企業、あるいは経営者がどのような形で情報を発信しているかお話してきました。しかし、PRに積極的なベンチャー、スタートアップ企業ばかりではありません。認知度を上げることは企業の成長において重要なことではありますが、目立ちすぎることで「この市場は魅力的な市場だ」と、競合の参入を加速させてしまう可能性も高まります。こちらでは戦略的にPRを控えるベンチャー、スタートアップ企業について解説していきます。

ベンチャー、スタートアップ企業の成長において大きな脅威の一つが、大企業の参入です。資本力のある大手企業が参入する中、資金力や人材など経営資源の足りないベンチャーが太刀打ちするのは至難の業といっても過言ではありません。

そのような脅威に注意を払っている経営者は、自社HP含めWebサイト上での発信を控えている他、ビジネスプランコンテストのような表舞台には極力姿を現さず、水面下で静かにシェア獲得を推し進めるような戦略をとっていることが多いです。そして、ある程度シェアを獲得できた段階、あるいは大型の資金調達などが実現され、一気に競合各社を引き離したいという瞬間に、ようやく大々的に露出していきます。

転職エージェントを活用した水面下での採用活動

このような戦略的にPRを控えるベンチャー、スタートアップ企業は、自社の採用活動に関しても慎重です。例えば公に情報を露出する求人サイトではなく、転職エージェントなどを活用し、競合他社に動きが見えないよう、水面下で採用活動を進めるような採用施策をとる企業も多いです(特にCxOクラス、ミドルマネージャークラスの求人募集に際し、転職エージェントを活用するケースが多いです)。

また、このような戦略的にPRを控える企業の場合以外においても、多くの場合、転職活動は孤独です。自身の経歴の棚卸、今後の自分のキャリアプランをどうしていくべきかなど腹を割って話ができる存在がいるかいないかは、自身の転職活動を良い形で進めていく上で重要です。

転職エージェントは国内に数万社あり、職種や業界に特化した転職エージェント、マネジメント層に特化した転職エージェント、SaaS企業に専門性を有する転職エージェントなどそれぞれ特色があります。これまでの経験、自分が描きたいキャリアなどを踏まえ、自分に合った転職エージェントをパートナーに転職活動を進めても損はないでしょう。

上記の通り、経営者の考え方、市場や競合環境により経営方針は様々であり、必ずしも露出が多いから優良ベンチャーという訳ではありません。事業フェーズがそれなりに進んでいるにも関わらず露出が少ない企業の場合には、その背景についても調べてみる、または面接において経営者に直接確認してみるのも良いでしょう。

最後に

今回はフィールドセールスの概要、多くのSaaS企業で「THE MODEL」が導入されている理由、フィールドセールスに必要なスキルなどについて紹介しました。フィールドセールスとして活躍するために必要なスキルを踏まえ、転職活動での自己PRなどに繋げて頂ければと思います。

この記事を書いた人

岩崎久剛

1984年兵庫県生。関西大学工学部を卒業後、受験支援事業を全国展開する大手教育事業会社にて総務人事など管理部門を経験し、2012年より人材業界に転身。大手総合人材会社にて求人広告、人材紹介など中途採用領域での法人営業を経験し、従業員数名規模のベンチャーから数10か国に展開するグローバル企業まで多様な業界、事業フェーズの企業の採用を支援。2016年よりハイキャリア領域の人材紹介事業立上げメンバーに参画し、関西ベンチャーを軸とした採用支援に従事。その後、ビズアクセル株式会社を起業。MBA(グロービス経営大学院)。

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