医療・ヘルスケア業界のベンチャー、スタートアップ企業のトレンドとは

医療・ヘルスケア業界は、少子高齢化が進む日本において、2025年問題や人手不足といった深刻な問題を抱えています。そんな中で注目されているのが、ベンチャー、スタートアップ企業です。国も医療系ベンチャーの育成が急務と考えており、転職先としての注目度も上がっていると言えます。

そこで今回は、医療・ヘルスケア業界のベンチャー、スタートアップ企業への転職を少しでも考えている方向けに、業界の現状や展望、トレンドについて解説します。

目次

医療・ヘルスケア業界の現状

医療・ヘルスケア業界は、時代の流れから見ても、世界的に成長が見込まれる業界です。医療技術の進化や、世界的な長寿化が要因です。そのため、業界の将来性を感じて、医療・ヘルスケア業界への転職を考えている人もいるのではないでしょうか。製薬メーカーに勤めるMRの方であれば、必要とされる業務内容の変化を感じて、業界内での転職を考えている方もいるでしょう。

医療・ヘルスケア業界は、ベンチャー、スタートアップ企業がとても注目されている業界でもあります。次々と有望なベンチャー、スタートアップ企業が生まれており、転職希望者の採用を強化している会社も少なくありません。医療・ヘルスケア業界への転職を検討している方のために、まずは、業界の現状からお伝えしましょう。

現在の日本は、少子高齢化が想像以上のスピードで進んでいます。そのため、医療機関や介護施設では、患者・利用者が増加していく一方です。それに対して、医師や看護師、介護士は不足し、社会問題にもなっています。医療機関での人手不足の影響は、現場の混乱や疲弊にもつながっており、特に、看護師・介護士などは転職がとても多く、離職率の高い業界としても知られています。転職が多いということは、採用コストの増加にもつながるため、医療機関や介護施設によっては、離職率の高さが経営状態にも悪影響を及ぼしているケースもあるようです。

病院などの現場ではなく、医薬品や医療機器関係ではどのような状況なのでしょうか。新薬や医療機器の開発などでは、グローバルレベルでの激しい競争が展開されています。従来からある化学合成品の医薬品以外に、バイオ医薬品などの新しい薬が生み出されており、新薬の研究開発を行う創薬ベンチャーも多数生まれています。また、昨今の新型コロナウイルスのような、未知のウイルスに効果のある薬をめぐる開発競争も盛んになってきている傾向にあります。

医療・ヘルスケア業界の展望

日本の医療・ヘルスケア業界は、このままでは現在の状態がさらに深刻になっていくと考えられています。それが「2025年問題」です。2025年には、団塊の世代(1947~49年生まれ)の人たちが75歳以上になります。厚生労働省が公表している最新の健康寿命は、2016年のものですが、男性で72.14歳、女性で74.79歳です。つまり、2025年には、団塊の世代の人たちが、日常生活に制限がある状態になっている可能性があるということなのです。

そうなると、今以上に、医療機関や介護施設の利用者が増えることが想定され、さらに医療・介護の現場が大変な状況になると考えられます。今よりも職場環境が悪化してしまえば、看護師や介護士などが、転職で医療・介護業界から出て行ってしまうことも起きてしまいかねません。こういった問題を解決するために、政府は「地域包括ケアシステム」の実現に向けて、さまざまな取り組みを行っています。

それ以外にも、医療費の削減や健康寿命を延ばすことも大きな課題です。そこで、医療・ヘルスケア業界には、従来のような「病気を治す」という視点だけでなく、「病気を未然に防ぐこと」や「長く健康でありつづけること」を実現するための取組みも求められるようになってきました。

それには、AIやビッグデータといった新しい技術が活用できます。しかし、新しいことを進めるには、先進的な考え方ができるプレイヤーが必要であるため、ベンチャー、スタートアップ企業が注目されているのです。

転換期にある医療・ヘルスケア業界

医療・ヘルスケア業界は、前述のような大きな課題を抱えています。2025年問題を控え、早く課題解決しなければならないことがたくさんあるのです。

日本は先進国の中でも最も高齢化が進行している国のひとつです。そして、他の先進国でも、日本よりは遅れるものの、高齢化が進んでいくのは確実です。日本が世界に先駆けて、健康寿命を延ばし、高齢化社会での医療・ヘルスケア業界の負担を軽減することができれば、他の先進国にとってのモデルになることができ、医療・ヘルスケア業界における日本企業の国際競争力につながると考えられています。

そこで、政府も注目しているのが、医療・ヘルスケア業界でIT技術を活用することであり、その原動力となるベンチャー、スタートアップ企業です。平成29年には、厚生労働省が、医薬品・医療機器・再生医療等の研究開発を行うベンチャー、スタートアップ企業の支援策を企画立案する「ベンチャー等支援戦略室」を設置しています。更には医療・ヘルスケア業界は、治療以外にも、健康維持・疾病予防・介護予防なども求められるようになっています。

しかし、その実現のためにはイノベーションが必要であり、ベンチャー、スタートアップ企業の最先端技術やチャレンジングな研究開発によって生み出されたものが欠かせないのです。厚生労働省は、平成28年の報告書の中で、「医療水準の向上と経済成長のためには、医療系ベンチャーの振興策が必要」といった趣旨の発表をしています。

実際に、医療・ヘルスケア関連のベンチャー、スタートアップ企業が存在感を高めています。「ヘルステック(HealthTech)」と呼ばれる、AIなどのテクノロジーを活用して、新しいウェアラブルデバイスや医療機器を開発している企業が多数現れています。中には、「ウェアラブルデバイスが保険とセットになっており、その記録で保険料が変わる」といったものもあり、「インシュアテック(InsurTech 保険×テクノロジー)」への広がりも見せています。

医療・ヘルスケア業界は世界的に見ても巨大な市場で、日本経済を成長させるためのひとつのジャンルとしても位置づけられています。繰り返しになりますが、政府は、医療・ヘルスケア業界の成長を促すための重要な役割を果たすのがベンチャーだと考えているため、今後もベンチャー、スタートアップ企業への注目は増していくことでしょう。

医療・ヘルスケア領域のベンチャー、スタートアップ企業の種類

医療・ヘルスケア領域のベンチャー、スタートアップ企業といっても、さまざまな領域で活躍している企業があり、例えばこれまで治療が困難であった症状の回復を目指した事業を展開する創薬ベンチャーの他、医師の治療が簡単に受けられない地方、離島などにお住まいの方に向けた遠隔医療ベンチャーなど様々あります。

これまで医療・ヘルスケアと一括りにお話をしてきましたが、転職の際に求められるスキルや知見も、どのような領域に事業を展開する企業かによって変わります。ここからは医療・ヘルスケア領域にはどのようなタイプのベンチャー、スタートアップ企業があるのか、ジャンル分けの上、解説していきます。

医療関連事業

創薬


従来からある化学合成品での創薬以外に、バイオ医薬品なども注目されています。アンジェス(大阪大学)やオンコセラピー・サイエンス(東京大学)など、上場を果たしている大学発の創薬ベンチャーも多数あります。創薬に関してはベンチャー、スタートアップ企業に限らず、IT・Web業界などと比べると研究成果が形になるまで非常に年月がかかるビジネスであり、そのような前提を理解しておくことが大切でしょう。

治療

遺伝子治療や再生医療など、新しく先進的な治療法を研究開発しています。これらは、高度な研究や技術が元になっており、大学発ベンチャーも多く含まれています。2015年には脳梗塞や外傷性脳損傷など中枢神経系疾患を対象に再生細胞薬の開発・製造・販売などを手掛けるサンバイオ株式会社(慶應義塾大学)が上場しています。

医療機器

AIなどを活用した、より精度の高い診断結果が出せる検査機器などを開発しています。上場会社では高齢者の運動補助に使われるパワードスーツ「HAL」を開発したサイバーダイン(CYBERDYNE)株式会社(筑波大学)が知られています。

医療関係のベンチャー、スタートアップ企業は、高度な技術や研究開発がベースになっている企業が中心です。転職にあたっては、業界や技術に関する深い知識が求められるでしょう。尚、医療関連分野では前述の通り、大学発ベンチャーの台頭が目立ちます。このような大学発ベンチャーの詳細について以下記事も参考にしてみてください。

ヘルスケア関連事業

遠隔診療

医師の治療が簡単に受けられない地方、離島などにお住まいの方、あるいは足腰が悪く、医療機関に出向くことが難しい方に向けた遠隔診療を展開する事業者が増えています。代表的なベンチャー、スタートアップ企業では2017年に設立されたUbie(ユビー)株式会社などが挙げられるでしょう。

また、遠隔診療においては特定分野に特化する形で事業を展開されているベンチャー、スタートアップ企業が多く、2022年にエア・ウォーターグループへのM&Aを発表した株式会社リモハブは遠隔でのリハビリテーション支援事業などを展開しています。

予防医療


健康増進・維持、重症化予防、介護予防などのための機器やサービスを提供しているベンチャー、スタートアップ企業があてはまります。服薬のサポートや体のデータを自動的に取得し、体調管理をサポートする機器などがありますが、IT・Tech系に限らず、鍼灸整骨院など東洋医学の分野で予防医療に向けた治療を進める企業、あるいは要介護度の改善に向けたリハビリテーションを主体に事業を展開する企業などもでてきています。

広い意味では、運動管理、食事管理などをサポートしてくれるアプリなども予防医療の分野に含まれると言えるでしょう。特に医療費削減は言うまでもなく、日本が向き合うべき大きなテーマであり、今後ますます予防医療の分野でのベンチャー、スタートアップ企業が台頭してくることが予測されます。

生活支援


一人暮らしの高齢者の生活に異変がないかを監視する見守りや、生活に軽い支障がある高齢者が日常生活を送りやすくするための機器などの開発を行っています。ヘルスケア関連のベンチャー、スタートアップ企業は、AIやビッグデータなどを駆使したテクノロジーをベースにした事業を行っているところが多いと言えます。医療・ヘルスケア業界の中でも「ヘルスケアIT」の市場規模は、グローバルで見ても高い成長が続くと言われています。転職を考える場合、医療関連の深い知識というよりは、AIなどのテクノロジー関連の知識が求められるケースが多いと言えます。

医療機関・介護事業者向け事業

医療機関・介護事業者向け事業を展開するベンチャー、スタートアップ企業は、医療機関や介護事業所が、より効率的に業務を行うことができるようにするためのオペレーション改善システムや機器の開発などを行っています。

このようなベンチャー、スタートアップ企業は医療・ヘルスケア業界の業務に深く関連する製品・サービスを提供しているため、転職時には業界や病院や介護施設の実態などについての深い知識があるとアピールポイントになるでしょう。

注目の集まる医療・ヘルスケア業界のベンチャー、スタートアップ企業

こういった広範囲の領域で、医療・ヘルスケア関連のベンチャー、スタートアップ企業は活躍しています。とはいえ、日本ではまだまだ医療・ヘルスケア関連のベンチャー、スタートアップ企業が少なく、ベンチャーキャピタルなどからの資金調達も、欧米や中国よりも少ないのが現実です。

ただ、国としても課題だと認識しており、ベンチャー、スタートアップ企業への支援を強化しています。経済産業省の「J-Startup」に選ばれている企業にも医療・ヘルスケア関連企業が多く、今後の医療・ヘルスケア業界のベンチャー、スタートアップ企業の成長が期待されています。

さらなる成長を目指している医療・ヘルスケア業界のベンチャー、スタートアップ企業は、高いスキルと熱意を持った転職人材を積極的に受け入れています。転職市場においても、社会貢献ややりがいも求める転職希望者にとって注目の存在だと言えるでしょう。

医療・ヘルスケアベンチャーへの転職活動

このように医療・ヘルスケア領域のベンチャー、スタートアップ企業は非常に裾野が広く、情報収集も大変です。しかしながら、多忙なビジネスパーソンの方は、現職業務を滞りなく進行しつつ、効率的に情報収集を行わなくてはなりません。こちらではこのような方の転職活動で推奨する2つの手法についてご紹介します。

スカウトサイトを活用した転職活動

一つ目はスカウトサイトを活用した転職活動になります。これまで主流であった転職サイトなどからスカウトを待つ転職プラットフォームに移行しつつあります。具体的には「ビズリーチ」「リクルートダイレクトスカウト」「エンミドルの転職」などが挙げられます。この転職プラットフォームと呼ばれる市場はこの数年で急激に市場が拡大し、2021年には前述のビズリーチを運営するビジョナル株式会社が東証マザーズ(現東証グロース)にも上場を果たしています。

これら転職プラットフォームに情報を登録しておくことで、経歴を見た転職エージェント、または企業より直接スカウトを貰うことが可能です。明確な希望の分野があるのであれば、「遠隔医療、遠隔診療の分野に携わりたい」など、希望条件を明示しておくことも良いでしょう。

また、どのような企業がこれまでの経験を評価してくれるのかという観点も含め、自分の経歴に合った求人情報をある程度網羅的に情報を集めることができるため、多忙なビジネスパーソンにとっては有効な転職手法の一つと言えるでしょう。

転職エージェントを活用した転職活動

前述の様な転職プラットフォームサービスの台頭はあるものの、まずは自身の現状について相談したいという場合には転職エージェントを活用していくこともよいでしょう。多くの場合、転職活動は孤独です。自身の経歴の棚卸、今後の自分のキャリアプランをどうしていくべきかなど腹を割って話ができる存在がいるかいないかは、自身の転職活動を良い形で進めていく上で重要です。

転職エージェントは国内に数万社あり、職種や業界に特化した転職エージェント、あるいは経営層、マネジメント層に特化した転職エージェントなどそれぞれ特色があります。これまでの経験、自分が描きたいキャリアなどを踏まえ、自分に合った転職エージェントをパートナーに選びましょう

最後に

少子高齢化社会の進行による課題を解決するために、医療・ヘルスケア業界のベンチャー、スタートアップ企業は欠かせない存在です。国を挙げた支援策も打ち出されているため、転職先として将来性が有望なベンチャー、スタートアップ企業も次々と出てくると考えられます。

医療・ヘルスケア業界での転職、大企業だけでなくベンチャー等への転職を考えている方は、「医療・ヘルスケア業界のベンチャー、スタートアップ企業」への転職も選択肢の1つとして考えてみるのもよいのではないでしょうか。


この記事を書いた人

岩崎久剛

1984年兵庫県生。関西大学工学部を卒業後、受験支援事業を全国展開する大手教育事業会社にて総務人事など管理部門を経験し、2012年より人材業界に転身。大手総合人材会社にて求人広告、人材紹介など中途採用領域での法人営業を経験し、従業員数名規模のベンチャーから数10か国に展開するグローバル企業まで多様な業界、事業フェーズの企業の採用を支援。2016年よりハイキャリア領域の人材紹介事業立上げメンバーに参画し、関西ベンチャーを軸とした採用支援に従事。その後、ビズアクセル株式会社を起業。MBA(グロービス経営大学院)。

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