注目を浴びるバイオベンチャーを解説!

ベンチャー企業と言えばIT・Web関連企業へ注目することが多いと思いますが、新聞やニュースを見ている中で、「バイオベンチャー」という言葉を目にすることはないでしょうか。こちらの記事では、バイオベンチャーの概要、注目されている背景、日本を代表するバイオベンチャーや西日本で注目されているバイオベンチャーのご紹介を記載いたします。ベンチャー、スタートアップ企業に興味のある方、バイオ関連の企業に興味ある方は、ぜひ参考にしてみてください。

目次

バイオベンチャーとは

バイオベンチャーとは、バイオテクノロジーを手段あるいは対象として事業を行っているベンチャー企業を指します。バイオテクノロジーは、「Biology(生物学)」と「Technology(技術)」を合わせた言葉で、生物の持つ能力や特性を活かして、医療やヘルスケア分野をはじめ、農業や食品、環境保全など様々な分野に貢献できる可能性を秘めております。以下にてバイオベンチャーの歴史になぞらえて解説していきます。

黎明期

バイオベンチャーの歴史をひも解くと、1976年に米国でバイオ技術を利用した医薬品開発企業ジェネンテック(Genentech)社が誕生し、同社が世界のバイオベンチャー第1号と言われております。その後、米国ではさまざまなバイオベンチャーが設立されており、1980年代は医薬品開発を行う創薬型バイオベンチャーが活発な時代となりました。1990年代に入ると、遺伝子解析が注目されるようになり、ゲノムブームと呼ばれる時代が到来。大学や研究機関などに研究用の機器やサービスを提供する研究支援型バイオベンチャーが多く設立されました。

2000年代

1990年代の世界的なゲノムブームが火付け役となり、2000年前後に日本のバイオベンチャーの歴史が始まったといわれています。1999年にバイオテクノロジー産業の発展のため、日本政府の関係する5省庁で「バイオテクノロジー産業の創造に向けての基本戦略」が策定されました。その中でバイオベンチャーを1,000社誕生させるという構想も盛り込まれ、国家プロジェクトによって多額の研究資金が大学につぎ込まれた影響により、日本でもバイオベンチャーの創業ブームを迎えました。

2000年代前半は研究支援型バイオベンチャーの創業が活発にありました。しかし、国家プロジェクトによる研究資金の支援が止まったことに伴い、バイオベンチャーの創業ブームはいったん落ち着く形となったものの、それから間もなく、創薬型バイオベンチャーが注目される時代が到来しました。

大手製薬会社で多くの医薬品の主力製品で特許切れを迎える「2010年問題」と、世界的にオープンイノベーションの流れが加速した影響で、大手製薬会社が自社だけで研究開発するのでなく、バイオベンチャーの技術を獲得するため、積極的に買収や提携が行われるようになりました。このような世の中の状況が、創薬型バイオベンチャーにとって大きな追い風となる時代でした。

2010年代

2010年代に入りますと、再生医療へ注目が集まるようになります。これは2012年にノーベル賞を受賞した京都大学の山中教授によるiPS細胞の発見が、再生医療への期待を大きくしたとも言われております。2014年には、再生医療等製品における条件及び期限付き承認制度の導入がされました。これは、有効性が推定され、安全性が認められた製品を条件や期限を設けた上で早期に承認する仕組みです。このような制度導入もあり、日本で再生医療の事業を考えるバイオベンチャーを後押ししました。

また、2015年より台頭した大学発ベンチャーという会社の在り方もバイオベンチャー誕生の一助を担っているといえるでしょう。大学発ベンチャーが台頭した背景には、その前年2014年に内閣府が発表した「科学技術イノベーション総合戦略2014~未来創造に向けたイノベーションの懸け橋~」があります。この中では、政府が「日本は、グローバル競争が激化する科学技術イノベーションについて、後退を迫られて苦境に瀕している」と強い危機感を持っていることが伺えます。現状を打破するためには、科学技術のイノベーションに適した環境を作らなければならないとし、イノベーションを実現させるためのひとつの手段として、大学発ベンチャーへの支援も挙げられています。

同じく2014年には文部科学省が主導となり、国立大学法人が出資を行い、ベンチャーキャピタル(VC)を設立し、ファンドを創設することを可能とする「官民イノベーションプログラム」と呼ばれる制度を進めたことも大きいです。このプログラムは東京大学、京都大学、東北大学の4つの国立大学法人を対象に研究成果の実用化促進を狙うものになります。既に複数社でのIPO、M&A実績もあがっており、今後もバイオ領域以外も含めた大学発ベンチャーの誕生は続いていくでしょう。

バイオベンチャーが注目される背景

前述の「バイオベンチャーとは」をご覧頂いて、バイオベンチャーの歴史をご理解頂けたかと思います。医療分野のバイオベンチャーが中心となり、発展してきた歴史と言えるでしょう。そのため、医療や創薬の分野に関わるような仕事をされている方以外にはあまり馴染みのない分野だったのではないでしょうか。しかし、近年ではバイオベンチャーが一般的にも注目されるようになってきております。

様々な背景があると思いますが、一般的に注目されるようになった大きな要因は3つと考えております。1つ目は、ビッグテックの参入です。デジタルやAI技術の活用により、データサイエンスを活用した創薬プロセスの変革が近年非常に進んでいると言われております。この分野を専門にしたバイオベンチャーは多くありますが、誰もが知るGoogle(Alphabet)のような巨大IT企業もこの分野に参入しており、非常に注目されております。

2つ目は、世界の人口増加による食糧不足問題です。2050年には世界の人口が90億人を超えると推測されており、人口の増加に対して、食料の供給が追い付かない状況です。このような食糧不足問題を解決するために栄養価の高い食料の開発をするバイオベンチャーが注目されており、メディアやニュースで取り上げられるようになりました。

3つ目は新型コロナウイルスの流行です。新型コロナウイルスの流行によって、mRNAワクチンという言葉を聞くようになったかと思います。このmRNAワクチンの開発企業の1社であるモデルナ社は2010年設立のバイオベンチャーです。mRNAワクチンのような技術が確立されたことによって長期的なバイオベンチャーへの投資の必要性が再認識されたと言われております。

日本を代表するバイオベンチャー

こちらではバイオベンチャーの事例をいくつか紹介します。

サンバイオ株式会社

サンバイオ株式会社は、脳の疾患に関する細胞治療薬を開発しているバイオベンチャーです。細胞治療薬とは、培養や遺伝子導入などの加工を施した細胞を投与することで、疾病の治療を行うものです。同社は、2001年にアメリカで創業し、2012年に日本法人を設立。2014年に日本法人を親会社とすべく日米親子逆転の企業再編を行い、2015年に東京証券取引所に上場をしたバイオベンチャーです。製品化を目指している「SB623」と呼ばれる再生治療薬は、不可能といわれた脳神経細胞の再生機能を誘発し、運動機能などの改善を促す治療薬として期待されており、世界から注目されているバイオベンチャーです。

クオリプス株式会社

クオリプス株式会社は、iPS細胞由来の心筋シートの開発・事業化を目的に設立された大阪大学発のバイオベンチャーです。iPS細胞由来の心筋細胞シートの製造方法に関する研究開発を推進し、効率的な生産技術を確立して、世界に先駆けて再生医療製品として製造販売することを目指しています。製薬大手の第一三共株式会社をはじめ、医療機器大手のテルモ株式会社などと業務提携を行っており、世界初の心筋細胞シートの実用化を目指しているバイオベンチャーです。

メトセラ株式会社

株式会社メトセラは、心不全向けの新しい再生医療製品を出来るだけ安価に提供することをミッションとしたバイオベンチャーです。東京女子医大博士課程における研究成果の事業化を目指し創業されており、線維芽細胞と呼ばれる細胞を用いて心不全の治療の研究開発を行っております。2022年6月にはシリーズCラウンドの資金調達が発表されており、創業以来の累計調達額が46億円に到達している最も注目されているバイオベンチャーの1社です。

株式会社メタジェン

『便から生み出す健康社会』をミッションに掲げる株式会社メタジェンは、慶應義塾大学と東京工業大学のジョイントベンチャーとして設立されたバイオベンチャーです。人の健康には腸内環境が密接に関わることが知られているものの、個々人の腸内環境は食生活などにより異なっております。そこで同社は、独自の腸内環境の評価手法を確立し、それぞれの腸内環境に適したヘルスケアソリューションを提供することを推進しております。Well-beingや予防医療が叫ばれる昨今、話題性の高いバイオベンチャーです。

株式会社タベルモ

株式会社タベルモは、スピルリナという品種の藻を人類のたんぱく源として生産するバイオベンチャーです。人類の増加に伴い、世界でタンパク質不足が課題となる中、「スーパーフードの王様」と呼ばれる無味無臭で栄養価に優れたスピルリナの栽培技術を確立しました。最近では新潟県で「タベルモ」と甘酒のコラボ製品や国内外に洋食店を展開する企業とハンバーグのコラボ製品を販売するなど、消費者の身近なところにサービス展開もしているバイオベンチャーです。

西日本を代表するバイオベンチャー

採用情報

こちらでは西日本に拠点を置くバイオベンチャーも紹介します。関西、中四国にも多くのバイオベンチャーが多く存在していますので、是非ご参考ください。

プラチナバイオ株式会社

プラチナバイオ株式会社は、最先端の国産ゲノム編集技術『Platinum TALEN(プラチナタレン)』を活用し、バイオ産業の成長に貢献するために設立された広島大学発のバイオベンチャーです。最適なゲノム編集技術とデジタル技術を融合させた「バイオDX」というコンセプトで、ゲノム編集技術を基に新しいプロダクトやサービスの開発を考えている企業とパートナーとなり、事業を展開しております。すでに凸版印刷株式会社やスシロー等の外食チェーンを運営するFOOD&LIFE COMPANIESと提携しており、今後の動向が注目されるバイオベンチャーの1社です。

株式会社セツロテック

株式会社セツロテックは、「徳島をゲノム編集産業発祥地に」というビジョンを掲げる徳島大学発のバイオベンチャーです。ゲノム編集マウスを簡便にかつ高効率に作製できる技術と培養細胞で高効率ゲノム編集を実現する技術を用いて、医療分野のほか、農業や畜産分野において品種改良を高速化する研究支援を進めています。

ゲノム編集の技術は生物の品種改良を根底から変える技術と期待されており、世界的な市場規模は2020年の200億ドルから2030年には580億ドルに成長することが予測されています。

株式会社グリラス

株式会社グリラスは、世界で叫ばれている食料・栄養不足といった課題を解決するため、食料としてのコオロギ生産に取り組んでいる徳島大学発のバイオベンチャーです。昆虫は他の家畜と比べタンパク質を生産するためのコストが少なく、一定の条件が整えば場所を問わずに生産ができます。その中でもコオロギは、飼育しやすく、必要な栄養素を多く含んでおります。そんなコオロギの革新的な自動飼育システムの開発と、徳島大学でこれまで研究されたフタホシコオロギのゲノム編集に関するノウハウ・特許技術を継承しており、今後の成長が期待されるバイオベンチャーの1社です。

タカラバイオ株式会社

タカラバイオ株式会社は、その前身である宝酒造株式会社のバイオ事業を継承して2002年に設立されたバイオベンチャーです。2004年に東京証券取引所マザーズに株式を上場しております(2016年に東京証券取引所第一部へ上場)。試薬や理化学機器、遺伝子解析の受諾などを行うバイオサイエンス支援事業と、がんなどを対象とした遺伝子治療の事業を展開しております。最近では新型コロナウイルスの検査キットの販売も行い、ニュース等でも話題となったバイオベンチャーです。

株式会社ツーセル

株式会社ツーセルは、人の骨髄、脂肪などに含まれる成体幹細胞の1つであるMSC(間葉系幹細胞)を用いた再生医療の実現と普及を目指している広島大学発のバイオベンチャーです。MSCは、再生医療によく用いられるES細胞やiPS細胞と比較してがん化リスクが低く、安全性が高いと言われております。MSCは従来の培養法では治療に必要な細胞数の確保が困難でしたが、同社がMSCの増殖性を飛躍的に上げる培養方法の開発に成功し、注目度の高いバイオベンチャーの1つです。

株式会社chromocenter

株式会社chromocenterは、最先端の染色体工学技術によって再生医療とバイオ医薬品の研究開発支援を手掛ける鳥取大学発のバイオベンチャーです。同社が得意とする染色体解析技術は、iPS細胞を活用した再生医療を実用化するうえで、欠かせない技術です。また、特許技術である人工染色体ベクターは、細胞に遺伝子を運ぶ役割を果たしており、従来のベクターと比較すると大容量で安定して運ぶことが可能です。同社のサービスの注目度は高く、2020年には総合商社の伊藤忠商事と資本業務提携を行っているバイオベンチャーです。

バイオベンチャーへの転職に向けて

こちらではバイオベンチャーへの転職に向けてのポイントについて解説します。多くのビジネスパーソンが多忙である中、現職のパフォーマンスを落とさないよう、効率的に情報収集を行う必要があるでしょう。こちらではこのような方の転職活動で推奨する2つの手法についてご紹介します。

スカウトサイトを活用した転職活動

一つ目はスカウトサイトを活用した転職活動になります。これまで主流であった転職サイトなどからスカウトを待つ転職プラットフォームに移行しつつあります。具体的には「ビズリーチ」「リクルートダイレクトスカウト」「エンミドルの転職」などが挙げられます。このような転職プラットフォーム市場はこの数年で急激に市場が拡大し、2021年には前述のビズリーチを運営するビジョナル株式会社が東証マザーズ(現東証グロース)にも上場を果たしています。

これら転職プラットフォームに情報を登録しておくことで、経歴を見た転職エージェント、または企業より直接スカウトを貰うことが可能です。このようなプラットフォームに「最先端の研究技術で社会問題を解決したい」「成長性のあるバイオベンチャーに転職したい」等の希望条件の記載をしておくと、必然的にそのような情報が集まりやすくなるでしょう。

また、どのような企業がこれまでの経験を評価してくれるのかという観点も含め、自分の経歴に合った求人情報をある程度網羅的に情報を集めることができるため、多忙なビジネスパーソンにとっては有効な転職手法の一つと言えるでしょう。

転職エージェントを活用した転職活動

前述の様な転職プラットフォームサービスの台頭はあるものの、まずは自身の現状について相談したいという場合には転職エージェントを活用していくこともよいでしょう。多くの場合、転職活動は孤独です。自身の経歴の棚卸、今後の自分のキャリアプランをどうしていくべきかなど腹を割って話ができる存在がいるかいないかは、自身の転職活動を良い形で進めていく上で重要です。

転職エージェントは国内に数万社あり、バイオベンチャーをはじめとしたベンチャー業界に特化した転職エージェント、あるいは経営層、マネジメント層に特化した転職エージェントなどそれぞれ特色があります。これまでの経験、自分が描きたいキャリアなどを踏まえ、自分に合った転職エージェントをパートナーに選びましょう。

最後に

今回は、注目を浴びるバイオベンチャーというテーマについて解説しました。バイオベンチャーの新規事業は、他の分野と比較して大学発の企業が多い傾向にあります。これは専門性の高い分野であり、長期間にかけて多額の研究開発費を要することが多く、産学連携して発展することが多い分野のためです。バイオベンチャーに興味のある方は、今後のご自身のキャリア形成の参考にしてみてください。

この記事を書いた人

岩崎久剛

1984年兵庫県生。関西大学工学部を卒業後、受験支援事業を全国展開する大手教育事業会社にて総務人事など管理部門を経験し、2012年より人材業界に転身。大手総合人材会社にて求人広告、人材紹介など中途採用領域での法人営業を経験し、従業員数名規模のベンチャーから数10か国に展開するグローバル企業まで多様な業界、事業フェーズの企業の採用を支援。2016年よりハイキャリア領域の人材紹介事業立上げメンバーに参画し、関西ベンチャーを軸とした採用支援に従事。その後、ビズアクセル株式会社を起業。MBA(グロービス経営大学院)。

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