最先端の研究技術を強みとする大学発ベンチャーとは

大学の有する研究開発技術の事業化を目指すベンチャー、スタートアップ企業などのことを大学発ベンチャーと呼びます。大学発ベンチャーの黎明期にはなかなか事業化に苦しんだベンチャー、スタートアップ企業も多かったですが、近年ではIPO(新規株式公開)を果たす会社もあり、近年注目を集めています。

大学発ベンチャーは大学での研究開発技術を既存の民間企業と提携する形で事業化を進める、提携可能な企業がない場合には研究開発技術の事業化を目的に会社設立を行うといった形で立ち上がるケースが多いです。

世間にイノベーションを引き起こす存在として期待されており、ベンチャー、スタートアップ企業への転職を考える人にとっても有力な選択肢の一つと言えるでしょう。今回は、大学発ベンチャーがどのような企業であるかを解説し、その前提を踏まえ、大学発ベンチャーが抱える課題を解決することが期待される人材に求めるスキルについて解説します。

目次

大学発ベンチャーとは

大学発ベンチャーとは、大学に潜在しているさまざまな研究開発技術を元にして、新しい製品や新しい市場を作り出すイノベーションの担い手として高く期待されているベンチャー、スタートアップ企業のことです。大学の知的財産活用方法などによって、5つの形態に分類することができます。

①研究成果ベンチャー大学
での研究成果に基づく特許や新技術・新ビジネス手法を事業化する目的で新規に設立されたベンチャー。「特許による企業型」と「特許以外による企業型」に分けられる

②共同研究ベンチャー
創業者の持つ技術やノウハウを事業化するために、設立から5年以内に大学と共同研究等を行ったベンチャー

③技術移転ベンチャー
既存事業を維持・発展させるため、設立5年以内に大学から技術移転を受けたベンチャー

④学生ベンチャー
大学と深い関連のある学生ベンチャー

⑤関連ベンチャー
大学からの出資がある等その他、大学と深い関連のあるベンチャー

経済産業省が公表している「令和2年度大学発ベンチャー調査 報告書」によると、2020年10月時点で、大学発ベンチャーの企業数は2,905社にものぼります。このうち最も多いのが「研究成果ベンチャー」で、56.3%を占めます。次に多いのが、22.2%を占める「学生ベンチャー」です。

新たに設立される大学発ベンチャーの数も増加傾向にあり、2019年には244社もの大学発ベンチャーが起業されています。このうち、研究成果ベンチャーは136社で、残りが他の形態の大学発ベンチャーです。

近年は、学生ベンチャーや関連ベンチャーの割合が上昇する傾向にあり、研究成果ベンチャーの割合はやや低下しています。そうは言っても、企業数でも設立数でも、研究成果ベンチャーが半数以上を占めているのには変わりありません。

大学発ベンチャーが台頭した背景

大学発ベンチャーの設立数が一気に増加したのが2015年です。この背景には、その前年2014年に内閣府が発表した「科学技術イノベーション総合戦略2014~未来創造に向けたイノベーションの懸け橋~」があります。この中では、政府が「日本は、グローバル競争が激化する科学技術イノベーションについて、後退を迫られて苦境に瀕している」と強い危機感を持っていることが伺えます。

現状を打破するためには、科学技術のイノベーションに適した環境を作らなければならないとし、イノベーションを実現させるためのひとつの手段として、大学発ベンチャーへの支援も挙げられています。

参考情報:科学技術イノベーション総合戦略2014~未来創造に向けたイノベーションの懸け橋~

また、同じく2014年には文部科学省が主導となり、国立大学法人が出資を行い、ベンチャーキャピタル(VC)を設立し、ファンドを創設することを可能とする「官民イノベーションプログラム」と呼ばれる制度を進めたことも大きいです。このプログラムは東京大学、京都大学、東北大学の4つの国立大学法人を対象に研究成果の実用化促進を狙うものになります。

こちらのプログラムでは2018年に東証マザーズ上場を果たした株式会社ジェイテックコーポレーション(大阪大学ベンチャーキャピタル投資先)のIPOを皮切りに、複数社でのIPO、M&Aなどの実績に至っています。

参考情報:官民イノベーションプログラム

勿論、他にも成長を後押しした要因はありますが、2014年頃に主に上記機関が牽引してきたことが大きいです。

大学発ベンチャーの現状

大学発ベンチャーの6割以上が、大学の持つ知的財産を活用する「研究成果ベンチャー」「共同研究ベンチャー」「技術移転ベンチャー」に当てはまります。そのため、大学発ベンチャーの業種は、バイオ・ヘルスケア・医療機器、 IT関連(アプリケーション・ソフトウェア) が多くなっています。

業種名企業数
IT(アプリケーション、ソフトウェア)868
IT(ハードウェア)251
バイオ・ヘルスケア・医療機器907
環境テクノロジー・エネルギー266
化学・素材等の自然科学分野(バイオ除く)223
ものづくり(ITハードウェア除く)514
その他サービス863

※経済産業省「令和2年度大学発ベンチャー調査 報告書」より作成

関連する大学は国立大学が圧倒的に多く、東京大学・京都大学・大阪大学・筑波大学・東北大学の順となっており、この5大学に関連する大学発ベンチャーの数だけで1,000社を超えます。

大学発ベンチャーが注目され、より存在感を増してきたのは最近のことですが、大学発ベンチャー自体はかなり昔から存在していました。その草分けとも言うべき存在が、2002年にマザーズ上場を果たしたアンジェス株式会社です。これまでにIPOを果たし、2021年1月時点で上場している大学発ベンチャーは66社です。その中でも主な企業を下の表にあげました。

企業名上場市場主な事業内容
ペプチドリーム東証1部特殊環状ペプチドの医薬品研究開発
ユーグレナ東証1部ミドリムシを原料とする化粧品・食品・エネルギー開発
アンジェスマザーズ遺伝子治療薬などの開発
CYBERDYNEマザーズ重労働向けロボットスーツ開発
サンバイオマザーズ中枢神経系疾患領域の再生細胞薬開発

※ミクシィ・KLab・リブセンスなども、IPOを果たした大学発ベンチャーに含まれますが、上記の表では、大学での研究等が事業の根幹になっていない企業を除いています。

大学発ベンチャーの壁

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大学発ベンチャーは、非常に優れた技術を保有していますが、その反面、事業経営にあたってたくさんの課題があります。その課題を、事業面・人材面・組織面に分けてお伝えします。

①事業面の課題

研究成果型ベンチャーなどでは、「強みとするシーズ(技術)ありき」で事業を行うことになります。まだまだ研究開発途上で、事業化するには時間がかかる場合もあり、それまでの資金調達が大きな課題となります。中には、研究開発が実を結ばず、失敗に終わるケースももちろんあります。

最先端技術を強みに多くのメディアに注目される大学発ベンチャーが目に留まりますが、大学発ベンチャーは最初からマネタイズが難しく、これまでの売上実績などを重視する銀行の借り入れだけで資金調達をするのは困難です。大学発ベンチャー特有の制度としては競争的資金(グラント)と呼ばれる助成金制度があり、創業当初はこの制度を利用するベンチャーが多いです。

ただし、それ以降のフェーズではベンチャーキャピタルなどからの資金調達前にはこのような制度をまず利用されるケースが多いです。ベンチャーキャピタルからの資金調達や、技術の開発当初の目的とは異なる分野に応用して収益を上げられる体制を作ることなどで、更なる研究開発のための資金を確保する必要があります。

例えば、ミドリムシで有名なユーグレナは、ミドリムシの培養技術で「栄養失調をゼロにする」「CO2の排出量を減らす」などの取り組みをしたいと考えていますが、その研究を化粧品や健康食品に応用することで事業を拡大し、将来の研究開発原資を生み出しています。

②人材面の課題

経済産業省の「令和2年度大学発ベンチャー調査 報告書」によれば、「マーケティング・営業人材」の採用に課題を抱えるベンチャー、スタートアップ企業が多いことがわかります。

CEO・CTO(技術開発責任者)・技術開発の従業員については、「採用ができた」と回答している企業が多いのですが、その一方で、獲得できなかった人材の筆頭が「マーケティング・営業」となっています。マーケティング・営業について高いスキルを持つ転職者は、多くの大学発ベンチャーが求める人材であると言えるでしょう。

ただ、大学発ベンチャーでは、一般企業とは異なるマーケティング戦略・営業手法が求められます。「シーズ(技術)ありき」でスタートしており、その技術が活かせる製品・サービスを見つけ出さなければなりません。

技術をいかに応用するかということは、プロダクトアウト型のマーケティングのように感じられるかもしれませんが、実際には大きく異なります。具体的には大学発ベンチャーはプロダクトの前段階にあるシーズ(技術)をどのような分野で、どのようなプロダクトとしてマーケットに展開していくかというプロセスで事業化を進めていく特殊なマーケティング戦略が必要になります。

このようなビジネスプロセスを理解頂くと、既存製品がある一般企業、あるいはベンチャー企業でのマーケティング経験者だからといって、転職すればすぐに成果が上げられるというわけではないことを理解してもらえるのではないでしょうか。

③組織面の課題

大学発ベンチャーは、投資先となる大学系ベンチャーキャピタル、研究開発技術を有する大学教授など関与するステークホルダーが創業期から比較的多く、組織や意思決定の仕組みが複雑になりやすいと言えます。このような性質の異なる複数のステークホルダーとの折衝があるのは、大学発ベンチャーならではと言っても良いかもしれません。

EXITはIPOよりもM&Aが多い

大学発ベンチャーは、一般的なベンチャー、スタートアップ企業と同様に、IPOやM&A(バイアウト)を目指していることが多いです。前述の通り、すでにIPOを果たした大学発ベンチャーも多数あります。しかし、ベンチャー、スタートアップ企業がIPOを果たすのは簡単ではないことも勿論ですが、大学発ベンチャーの多くが大学の有する技術を世に出していくことに主眼を置いており、IPOに強い拘りをもってベンチャー経営をされている訳ではなく、M&A(バイアウト)で世に広まるのであれば良しと考えている企業も多いです。そのような傾向もあり、大学発ベンチャーではIPOよりもM&AでのEXITの方が多く、今後もM&AによるEXIT件数は更に高まっていくものとと想定されます。

「大学発ベンチャー設立状況調査」によれば、ここ5年のIPO企業数とM&A企業数は次のようになっています。

201620172018201920205年合計
IPO企業数3633217
(うち、研究成果ベンチャー)(1)(3)(1)(1)(2)(8)
M&A企業数5525421

※経済産業省「令和2年度大学発ベンチャー調査 報告書」より作成
※M&A実施企業は、M&Aをしたことが確認できた場合のみの数

大学発ベンチャーで活躍できる人材

こういった特徴を持つ大学発ベンチャーに転職して活躍できる人材とは、どのような人なのでしょうか。特に重要なポイントを3つ紹介します。

①大学発ベンチャーが持つ技術を事業化できる

大学発ベンチャーで活躍する人材のバックグラウンドも様々であり、活躍人材を定義するのは難しいのですが、強いて言うのであれば、大手の機械メーカー・電気電子メーカー、製薬会社などでの新規事業の立ち上げを経験された方などが多く活躍されています。

大学発ベンチャーが持つ技術は、技術そのものを売るのが困難なものです。その技術を使うことでイノベーションが起こせるマーケットの調査、並びにそのマーケットで受け入れられる製品・サービスを形にしていかなければなりません。

大手メーカーの新規事業の場合も同様に、自社が有する技術をベースにどこか新たなマーケットに進出することはできないかなどといった形で立ち上がるケースが多く、この新規事業立上げのプロセスや考え方は、大学発ベンチャーの事業化に通ずるものがあります。そのため、大学発ベンチャーの多くで、このような大手での新規事業担当者を求めている傾向にあります。

②専門的な知識がある

大学発ベンチャーが持つ技術は、まだ世間には知られていないことがほとんどです。見込み顧客に対して技術の詳細を説明し、それを既存の製品・サービスに応用することで、イノベーションが起こせることを理解してもらわなければなりません。

難解な技術を理解し、わかりやすく説明できることが不可欠であるため、その大学発ベンチャーが持つ技術や周辺分野についての専門的な知識を有していることが重要です。

③調整力がある

大学発ベンチャーは、大学の関係者やベンチャーキャピタルなど、特殊なステークホルダーが多く関わっています。そのような環境下でも、迅速な意思決定ができるよう、関係各所への調整能力は不可欠です。

これら3つの能力は、大学発ベンチャーに転職して活躍するために特に重要なものです。しかし、だからといって、一般的なベンチャー、スタートアップ企業への転職で求められるスキルが必要ないというわけではありません。

最後に

大学発ベンチャーは上記のような特徴があり、一般的なベンチャー、スタートアップ企業とは異なる部分も多くあります。そのため、転職にあたって求められるスキルも特殊だと言えます。

しかし、特に必要とされる「事業化できる力」「専門性」「調整力」を兼ね備えた転職人材は、とても希少です。こういったスキルを持っており、これまで世の中になかった技術でイノベーションを起こしたいという強い気持ちを持つ方にとって、大学発ベンチャーは他にはない魅力を持った転職先だと言えるのではないでしょうか。

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