スタートアップ企業の資金調達に欠かせないベンチャーキャピタルの仕組みを解説!

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スタートアップ企業は、銀行からの借入で事業に必要な資金全額を調達することが難しいため、ベンチャーキャピタルからのエクイティファイナンスでの資金調達を考えなければなりません(エクイティファイナンスとは企業が新株発行を通じて、ベンチャーキャピタルや事業会社などから資金調達を行うことを指します。)。

ただ、銀行融資による資金調達と異なり、ベンチャーキャピタルの場合は株主として出資してもらうことになるため、会社の経営への関与度が大きく異なります。このように銀行融資と異なるエクイティファイナンス特有の制約なども発生し得る中、ベンチャーキャピタルからの資金調達をするためには、その仕組みやリスクを理解しておく必要があるでしょう。

今回は、ベンチャーキャピタルがどのような仕組みで運営されているのか、そしてベンチャーキャピタルより資金調達をしたスタートアップ企業は経営にどのような影響があるのか等について解説します。

目次

ベンチャーキャピタルとは

ベンチャーキャピタルとは、スタートアップ企業に出資する投資機関です。その仕組みは、IPO(新規株式公開)やM&Aでのイグジットを目指す企業へ出資し、最終的には、手に入れた株式を売却したときのキャピタルゲインで利益を得るというものです。

スタートアップ企業が急成長するための資金調達ができる強い味方ですが、どのスタートアップでも簡単に出資してもらえるわけではありません。そしてその詳しい仕組みを理解しないまま、資金調達を行うと経営に支障をきたすこともありますので気をつけなければなりません。このようなベンチャーキャピタルの世界の全体像をつかんで頂くために、以下にてベンチャーキャピタルの種類を具体的な会社名と併せてご紹介します。

独立系ベンチャーキャピタル

ベンチャーキャピタルの中でも最も多いのがJAFCO(ジャフコグループ)日本アジア投資(JAIC)グローバル・ブレインなど特定の組織を母体に持たない独立系ベンチャーキャピタルになります。独立系ベンチャーキャピタルは全方位的に投資を展開するベンチャーキャピタルも中にはありますが、当然ながらAI、SaaS、VR/AR、NFT、ライフサイエンスなど様々な分野を網羅した知見を有し、投資する価値があるかどうか見極める目を持つのは至難の業と言えます。

そのような市場特性の中、独立系ベンチャーキャピタルの中でもインキュベイトファンドサムライインキュベートのように創業間もないシード期の支援が得意なベンチャーキャピタル、多額の資金を動かせるためシリーズB以降(2回目以降のVCからの資金調達)を中心とするベンチャーキャピタル、SaaSを専門に投資するベンチャーキャピタルなど、得意とする領域をある程度絞りこんだ投資を行っているベンチャーキャピタルが多いです

金融機関系ベンチャーキャピタル

金融機関系ベンチャーキャピタルはみずほキャピタル三菱UFJキャピタルSMBCベンチャーキャピタル池田泉州キャピタルのような金融機関が母体となっているベンチャーキャピタルです。銀行を母体とする事情もあり、不確実性の高いシード期にあるベンチャー、スタートアップ企業よりも、ある程度リターンの見込めるシリーズA以降のフェーズでの出資に参画する場合が多いです。

コーポレートベンチャーキャピタル(CVC)

JR西日本イノベーションズITV(伊藤忠テクノロジーベンチャーズ)サイバーエージェントキャピタルコロプラネクストのような事業会社が母体のベンチャーキャピタルをコーポレートベンチャーキャピタル(CVC)といいます。他のベンチャーキャピタルのようにキャピタルゲインでのリターンを得る目的もありますが、多くの場合、主眼として置いているのは本業との相乗効果を見込めるかどうかという点にあります。

大手企業がコーポレートベンチャーキャピタルを設立する背景には、ビジネススピードが加速する中、非連続な成長をしていかなければならないものの、なかなか自社単体でそのようなイノベーションを興していくのが難しいという事情があります。そのような背景の中、ベンチャー、スタートアップ企業との協業によりイノベーションの創出を図りたい指針をもって投資を行うケースが多いです。

大学系ベンチャーキャピタル

京都大学イノベーションキャピタル大阪大学ベンチャーキャピタルをはじめとする、大学が有する研究技術などを基にした大学発スタートアップなどへの出資を主に行うベンチャーキャピタルを大学系ベンチャーキャピタルといいます。

大学発ベンチャーは大学での研究成果などを鑑み、法人化、事業化のタイミングをはかり、投資を進めるスタイルであり、前述のベンチャーキャピタルの投資スタイルとは一線を画す形と言えます。ベンチャーだけでなく、大手企業の新規事業も含めて世の中の「ニーズ」主導でビジネスモデルを構築するケースが多いかと思いますが、大学発ベンチャーの場合には研究により生まれた事業化できるかもしれない「シーズ」を主導でビジネスモデルを構築していかなければならない難しさなどが特徴と言えるでしょう。

政府系ベンチャーキャピタル

産業革新機構DBJキャピタル(日本制作投資銀行グループ)東京中小企業投資育成、名古屋中小企業投資育成、大阪中小企業投資育成のような政府や公的機関が運営するベンチャーキャピタルを政府系ベンチャーキャピタルといいます。

このような政府系ベンチャーキャピタルが誕生した背景には1963年に制定された中小企業投資育成株式会社法という法律が関わっています。東京中小企業投資育成株式会社はこの法律を機に設立、次いで大阪中小企業投資育成、名古屋中小企業投資育成が設立されています。他のベンチャーキャピタルの多くがキャピタルゲインに重きを置いている経営指針であるのと異なり、配当などに重きを置く傾向にあることも政府系ベンチャーキャピタルの特徴と言えるでしょう。

一般社団法人日本ベンチャーキャピタル協会にはCVCを含む120社以上ものベンチャーキャピタルが加盟をしていますが、国内だけでも当然これ以上にベンチャーキャピタルは存在しています。また近年では海外からの調達という事例も少しずつ増えてきました。このように国内外でみた場合に特徴の異なる多くのベンチャーキャピタルが存在する中、自社の業界・フェーズなどにあったベンチャーキャピタルを探すことが大切です。

なぜベンチャーキャピタルからの資金調達が必要か

ベンチャーがベンチャーキャピタルから資金調達する必要がある最大の理由は、「必要な資金を銀行からの借入金だけでまかなうことができないから」です。銀行から融資される仕組みは「間接金融」と呼ばれ、預金者への利息を保証し、融資先のリスクを銀行が一手に引き受けます。そのため、「確実に返済されること」が重視されます。そのため、会社のキャッシュフロー等に依存する与信の範囲内でしか融資が受けられません。金額が大きくなれば担保の差し入れも必要です。

しかし、創業間もないベンチャー、スタートアップ企業では銀行融資を受けるために用意できる担保、銀行からの多額の借入金を返済できると保証できるだけのキャッシュフローがない企業が大半かと思います。急成長を目指すベンチャー、スタートアップ企業は、多額の先行投資が不可欠ですが、その投資はすぐに回収できるわけではなく、中長期的に大きく成長していくことで回収できるものだからです。

例えばネットサービスであれば、Webサイトやアプリを作り、大量の広告を出してユーザーを集め、サービスを拡大して、ユーザー数の増加に耐えられるようにサーバーを増強するなど、非常に多くの投資を必要としています。これを繰り返し、一定のシェアを取れてようやく売上や利益が大きくなります。ここまでに数億円必要だとして、「返済開始が5年後になってから」というのでは銀行が貸してくれるはずもありません。しかも、必ず勝ち残って大成功している保証もありません。

一方、ベンチャーキャピタルなどから投資される仕組みは「直接金融」であり、投資家自体が投資先のリスクすべてを引き受けるもので、出資を受けた企業の返済義務はありません。その代わりに、投資先が成長すれば、それに応じたリターンが得られます。だから、ベンチャー、スタートアップ企業は、返済義務のないエクイティファイナンスという形で出資を受け入れて、資金調達をするケースが多いです。その資金源となる投資家の代表格がベンチャーキャピタルなのです。

ベンチャーキャピタルの仕組み

こちらではベンチャーキャピタルの仕組みについて解説します。ベンチャーキャピタルがどのような仕組みで投資を行っているかを理解できているベンチャー経営者、CFO(Chief Financial Officer)は良好なコミュニケーションをとれていることが多いです。以下内容についてもそのような観点でご参考ください。

キャピタルゲインを得ることが一つのゴール

ベンチャーキャピタルは、投資資金を元手に、ベンチャー企業に出資をしてリターン(キャピタルゲイン)を得る仕組みです。ベンチャー、スタートアップ企業への投資資金は、ベンチャーキャピタルが自己資金として用意するパターンと、ファンドを組成して多数の投資家(金融機関や資産家など)から集めるパターンがあります。このような投資家をLP(Limited Partner/有限責任組合委員)と言います。

ベンチャー、スタートアップ企業に出資することにより得た株式は、投資先の企業価値が高まったところで売却し、キャピタルゲインを得る構造になります。多くの場合ではIPOやM&Aで株式を売却して投資資金を回収するのが一般的ですが、経営者の買い戻しなどのケースも稀にあります。そして回収したキャピタルゲインをファンドへの投資家に分配する仕組みになります。

ただし、前述の通り、コーポレートベンチャーキャピタルなど、キャピタルゲインだけが目的でないベンチャーキャピタルもあります。ベンチャーキャピタルと資金調達交渉に臨む際には、どのような属性のベンチャーキャピタルなのかを理解し、交渉に臨むと良いでしょう。

投資資金の運用期間

そしてベンチャーキャピタルは投資資金の運用期間も決められています。自己資金で行う場合でも、投資家から資金を集めている場合でも、「いつになるかはわからないが、企業価値が上がるかもしれない」といつまでも待っているわけにはいきません。

ベンチャーキャピタル自体の運用期間は10年程度とされることが多いですが、その仕組み上、投資先の選定等もその期間に含まれるため、実際にベンチャー企業に投資している期間は短くなります。一般的には5~7年程度の投資期間と考えておきましょう。つまりは、ベンチャーキャピタルから出資を受ける会社は、5~7年程度の間に大きな成果をあげることを求められるわけです。 ちなみに創薬系ベンチャーなど事業が形になるまでの期間が長いビジネスに投資するベンチャーキャピタルの場合には、運用期間を15年などで設定される場合もあります。

ベンチャーキャピタルはこのような時間軸で投資、投資後の経営サポートを行っています。ベンチャーキャピタルからの資金調達を行う際には、このような時間軸と自社が目指す成長のスピードがフィットしているかどうかを踏まえて臨むようにしましょう。

ベンチャーキャピタルの投資の考え方

ベンチャー企業への投資は非常にハイリスクなものであるため、たくさんのベンチャー企業に少しずつ出資することでリスクを軽減しています。それでも、ベンチャーキャピタルが出資した会社のうち、IPOやM&Aによるイグジットで利益が出せるケースは多くありません。10社に1社しか大きなリターンを産まなかったとしても、それでよしと判断するベンチャーキャピタルもあります。

ただ、投資自体がハイリスクであることは、投資を受ける側に求められるリターンも非常に高いということです。投資資金の利回りは、ベンチャーキャピタルが出資するフェーズにもよりますが、IRR(内部収益率。ここでは「株価の値上がり率」とほぼ同義)で低くても年数十%は求められます。つまり、数年で、企業価値を最低でも2倍以上にしなければならない水準です。

ベンチャーキャピタルは投資先の会社が大きく成長することを求めますが、そのために株主としてさまざまな支援も行うケースがあります。多くのベンチャー、スタートアップ企業を支援してきたノウハウや知見に基づくアドバイス、ベンチャーキャピタルが指名する人物を経営幹部ポジションにアサインするなど、経営者の意思決定に深く関与したりすることがあります。これは会社の企業価値向上のためであり、仕組み上、経営者と目指す方向性は同じです。ベンチャー企業側も、金銭的なものだけでない幅広い支援を受けることで、より成長確度を高めることができるとも言えるのです。

ベンチャーキャピタルから出資を受けるメリット

ベンチャーキャピタルから出資を受けることのメリットには次のようなものが挙げられます。

返済義務のない多額の資金調達ができる

ベンチャーキャピタルからの出資は、新株の購入などの形で行われるため、会社の純資産となります。つまり、借入金と異なる「返済義務のない資金調達」です。銀行からの借り入れよりも多額の資金調達が可能ですが、上場やM&Aまでに必要な資金の全額を一度に調達できるとは限りません。その時の会社の状況や将来性を元にして、ベンチャーキャピタルが出資できる金額が決められます。

まだまだ成功確度が低いシード期であれば、そこまで多くの資金調達はできないでしょう。ある程度世間からの評価を受けているサービスをさらに拡販していきたいタイミングであれば、かなりまとまった金額の資金調達ができるかもしれません。返済しなくても良い仕組みとはいえ、キャピタルゲインという形で投資家へのリターンを出せなければなりません。投資家が求めるリターンは、銀行から借り入れるよりも遙かに高い利回りです。それだけのリターンを生みだしていなければ、投資家からの要望・圧力が非常に大きくなる点には注意してください。

尚、資金調達できる金額は、1~2年程度の事業資金であることが多いです。ベンチャーキャピタルからの出資が受けられても、その資金を元手に事業を拡大しながら、その次の成長ステージでの資金調達に向けて、また準備を進めなければなりません。その際、シリーズB以降の資金調達では、新しいベンチャーキャピタルの持株数や株価について、すでに出資している投資家・ベンチャーキャピタルへの相談も必要です。

ベンチャーキャピタルからのさまざまな支援が受けられる

ベンチャーキャピタルとしても、出資先の事業が成長していくことを望んでいます。ベンチャーキャピタルにもよりますが、例えば多くのベンチャー、スタートアップ支援のノウハウに基づくアドバイスの他、会社の成長に必要なスキルを持った人材を紹介してくれるといったことがあります。

前述の通り、ベンチャーキャピタルは、AIやSaaS、ライフサイエンスなど、それぞれ得意な領域のベンチャー、スタートアップ企業に投資をしており、その領域での成功事例、失敗事例などを最も間近にしている存在でもあります。そのような実際の事例に基づくアドバイスなどを受け、失敗したベンチャー、スタートアップ企業と同じ轍を踏まない経営に繋げられることには大きなメリットがあると言えるでしょう。

その他にもベンチャーキャピタルが出資している別の会社や持っている人脈等を駆使して、取引先や業務提携先を紹介してくれることもあります。この点が、自社の業界を得意とするベンチャーキャピタルとつながるメリットと言えるでしょう。

ベンチャーキャピタルからの資金調達ができたこと自体が評価に繋がる

資金調達の交渉に入ってもベンチャーキャピタルの多くが、簡単に出資してくれるわけではありません。ベンチャーキャピタルの観点としては、資金調達の打診を受けたベンチャー、スタートアップ企業のビジネス自体の将来性も見ますが、その他にも経営者などの主要メンバーの経歴、現段階でのトラクションなど、幅広い視点で調査し、大きく成長する可能性があると判断できた会社でなければ出資の決断をしません。

このような背景の一つには、ベンチャーキャピタルの多くはLPと呼ばれる投資家より資金を集め、その資金を運用する形で投資活動を行っている構図も影響をしています。LPへの説明責任もある中、不十分なリサーチで投資をし、損失を出すわけにはいきません。そのような事情もあり、ベンチャーキャピタルは安易に投資をしないということも理解しておくと良いでしょう。

だからこそ、「ベンチャーキャピタルが出資したという事実」自体が、その会社の将来性が期待できる確からしさの証明にもなるのです。なかでも、非常にハードルは高いですが、優秀なファンドマネージャーがいる有名で実績のあるベンチャーキャピタルから資金調達できた場合は、会社の評価が大きく跳ね上がることもあるでしょう。

ベンチャーキャピタルから出資を受けるデメリット

ベンチャーキャピタルからの出資を受けるメリットについて説明をしてきましたが、一方で、ベンチャーキャピタルから出資を受けることによるデメリットも存在します。こちらでは資金調達をする前に、知っておくべきデメリット、リスクなどについて解説していきます。

創業者等の持株比率が下がる


ベンチャーキャピタルは出資によって会社の株式を手に入れる形になりますので、出資を受けた分だけ、既存株主の持株比率は低下します。持株比率は経営権そのものなので、ベンチャーキャピタルからの出資を受けることで、経営者の持つ権限が小さくなる仕組みとも言えます。持株比率が下がりすぎた場合、会社を成長させることができなければ、創業者である経営者自身がベンチャーキャピタルをはじめとした株主により解任されてしまうリスクもあるのです。

これを防ぐためには、IPOやM&Aに向けてどのように資金調達するかの財務計画を綿密に立てることが大切です。最初にベンチャーキャピタルから出資を受ける段階で、シリーズB以降の資金調達計画も立てておき、経営陣の持株比率がどれくらいになるかを想定しておきましょう。

多額の出資を受けた場合でもベンチャーキャピタルの保有株式数が少なくするためには、株価を高くするしかありません。事業の状況から想定されるよりも高い株価で出資を受けようとしても、それに応じてくれるベンチャーキャピタルはありません。結局は、資金調達までもそれ以降も、会社を急成長させて企業価値を向上させることに注力しつづけなければなりません。

経営方針の方向性を変えることが難しくなる


一般的に会社は利益を出すために、不採算事業を廃止したり、収益が見込める新規事業に参入したりします。しかし、ベンチャーキャピタルから出資を受けている場合は、そういった方向転換が簡単ではありません。そもそも、出資を希望するベンチャー、スタートアップ企業がプレゼンした事業の将来性を評価して出資したのであり、それらの事業を捨てて別の事業を行う場合、当然ながらベンチャーキャピタルへの説明責任が発生します。

事業の転換(ピボット)以外にも、役員や経営幹部層を外部から迎えるケースなどをはじめ会社経営に影響度合いが大きい意思決定の際には、ベンチャーキャピタルと合意をとって進めなければいけないため、時として経営スピードが落ちてしまうリスクなどもあることを理解しておくと良いでしょう。

株式買取請求リスク等がある場合に注意

前述の通り、ベンチャーキャピタルは、IPOやM&Aなどを通して保有する株式を売却することで利益を出します。もちろん、ハイリスクな投資なので、投資に失敗して損失を出すことも少なくありません。ただし、ベンチャーキャピタルも自らの利益を最大化するための努力をしています。事業がうまくいかなかった場合などに備えて、いくらかでも資金を回収するために、経営者に対する株式買取請求条項などが設けられている場合があります。事業の状況が思わしくなく、あらかじめ定めた条件をクリアできなかった場合には、ベンチャーキャピタルが保有している株式を経営陣が買い取るよう要求される恐れもあります。

投資を受けた企業のEXIT(イグジット)

ベンチャーキャピタルからの投資を受けた企業は、IPOを目標にした経営にシフトしていくケースが多いです。日本国内でのIPOは2020年は93社、2021年は東証の市場再編などに伴う駆け込み需要なども影響し、125社まで躍進しました。ただし、例年、東証の承認するIPO企業件数は90~100社程度であり、2022年以降で急激にIPOの承認社数が増加するとは考えづらいと言えるでしょう。

2019年、2020年には5,000億円規模と言われていた国内ベンチャーキャピタルの投資金額ですが、2021年には8,000億円超にまでのぼるなど、年々投資金額が高まりを見せる中、ベンチャー、スタートアップ企業も活況になってきました。しかしながら、前述のような東証のIPO承認社数が急激に増えない限りは、必然的にIPOではなく、M&AでのEXITを迫られるベンチャー、スタートアップ企業が今後増えていくでしょう。

ひと昔前までは、ベンチャーキャピタルに投資を受けることは非常に有望なベンチャー、スタートアップ企業である証でもありましたが、これからは投資を受けたからと言って必ずしもIPOにまで辿り着けるかは分かりません。このような事情の中、国内でのIPO承認社数の動向、あるいは海外市場でのIPOへのシフトといった可能性もあります。

IPOを見据えるベンチャー、スタートアップ企業が最終的にどのようなEXITを目指す形になるのかで、ベンチャーキャピタルに求められる役割も変わってきます。このような観点でベンチャーキャピタル業界の動向をウォッチしていくことで、経営者にとっては良いパートナーとなるベンチャーキャピタルはどこか、ベンチャーキャピタリストを目指す方にとっては有望なベンチャーキャピタルはどこか検討する材料集めをしていくと良いでしょう。

ベンチャーキャピタルへの転職活動

ベンチャーキャピタルの全体像はこの記事で理解頂けたかもしれませんが、身近な友人にベンチャーキャピタルに勤務される方でもいない限りは、ベンチャーキャピタルの具体的な仕事の厳しさなどのリアルに関してはなかなかつかみ切れないのが現実かと思います。こちらではベンチャーキャピタルへの転職活動で推奨する2つの手法についてご紹介します

スカウトサイトを活用した転職活動

一つ目はスカウトサイトを活用した転職活動になります。これまで主流であった転職サイトなどからスカウトを待つ転職プラットフォームに移行しつつあります。具体的には「ビズリーチ」「リクルートダイレクトスカウト(旧キャリアカーバー)」「エンミドルの転職」などが挙げられます。このような転職プラットフォーム市場はこの数年で急激に市場が拡大し、2021年には前述のビズリーチを運営するビジョナル株式会社が東証グロース市場にも上場を果たしています。

これら転職プラットフォームに情報を登録しておくことで、経歴を見た転職エージェント、または企業より直接スカウトを貰うことが可能です。どのような企業がこれまでの経理財務の経験を評価してくれるのかという転職市場での市場価値の理解、あるいは自分の経歴に合った求人情報をある程度網羅的に情報を集めることができるため、多忙なビジネスパーソンの方にとっては有効な転職手法の一つと言えるでしょう。

転職エージェントを活用した転職活動

前述の様な転職プラットフォームサービスの台頭はあるものの、まずは自身の現状について相談したいという場合には転職エージェントを活用していくこともよいでしょう。多くの場合、転職活動は孤独です。自身の経歴の棚卸、今後の自分のキャリアプランをどうしていくべきかなど腹を割って話ができる存在がいるかいないかは、自身の転職活動を良い形で進めていく上で重要です。

転職エージェントは国内に数万社あり、職種に特化した転職エージェント、スタートアップ企業に特化した転職エージェント、あるいは経営層、マネジメント層に特化した転職エージェントなどそれぞれ特色があります。これまでの経験、自分が描きたいキャリアなどを踏まえ、自分に合った転職エージェントをパートナーに選びましょう。

最後に

ベンチャーキャピタルは、スタートアップ企業が急成長して社会に大きな価値提供をするために欠かせない存在です。その一方で、株主として会社の経営権の一部を持つ者として、会社の経営に大きな影響を与える存在でもあります。しかし、数多くのスタートアップ支援をしてきた知見など、パートナーとしてタッグを組むことができれば、より事業の成功確度を高めることも可能です。

ただし、ベンチャーキャピタルから出資を受ける際にはDD(デューデリジェンス)と呼ばれる出資の可否を決める審査の様なプロセスなどを踏んだ後になることが通例であり、資金調達を受けられるまでにはある程度の時間がかかります。ベンチャーキャピタルの仕組みを理解した上で、少しでも早いうちから準備を始めるようにしましょう。

この記事を書いた人

岩崎久剛

1984年兵庫県生。関西大学工学部を卒業後、受験支援事業を全国展開する大手教育事業会社にて総務人事など管理部門を経験し、2012年より人材業界に転身。大手総合人材会社にて求人広告、人材紹介など中途採用領域での法人営業を経験し、従業員数名規模のベンチャーから数10か国に展開するグローバル企業まで多様な業界、事業フェーズの企業の採用を支援。2016年よりハイキャリア領域の人材紹介事業立上げメンバーに参画し、関西ベンチャーを軸とした採用支援に従事。その後、ビズアクセル株式会社を起業。MBA(グロービス経営大学院)。

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