ベンチャー、スタートアップ企業がVCより資金調達を行う理由とは

ベンチャー企業、スタートアップ企業に注目していると、資金調達に関するニュースを目にすることがとても多いと感じられると思います。このようなニュースが報道されるのは、ベンチャー企業、スタートアップ企業にとって資金調達がとても重要なものだからなのですが、ニュースで資金調達金額などを見ているだけではその全容を知ることはできません。今回は、資金調達にはどのような種類があるのか、どのような目的で行われるものなのか、資金調達を行うとどのようなメリットやデメリットがあるのかといったことを考えてみたいと思います。

目次

3つの資金調達方法

資金調達とは文字通り、資金(現金)を新たに調達する活動のことですが、それを行う会社は具体的にどのような方法で資金を獲得するのでしょうか。実は資金調達と一口にいってもその方法にはいろいろなものがあり、それぞれにメリットやデメリットがあります。資金調達を行う会社は、いろいろある方法の中から自社の目的に照らして最も適切なものを選択して資金調達を行っているわけです。資金調達の種類は、デットファイナンス、エクイティファイナンス、アセットファイナンスの3つに大別することができます。まずはこの3つの資金調達それぞれについて簡単に説明したいと思います。

デットファイナンス

デットファイナンスとは「負債による資金調達」のことであり、その代表例は銀行など金融機関からの借入による資金調達です。ある程度の資金が必要となった際に「銀行から借りる」というのは一般的によく行われることですから、多くの方にとって最もイメージしやすい方法かもしれません。ベンチャー企業、スタートアップ企業にとっても銀行など金融機関からの借入というのは常に選択肢に入ってくるものであり、特に創業間もない場合は創業融資などの制度も用意されているので、資金調達を考えるときに最初に選択肢にあがるものだと言えるでしょう。

ただし、ベンチャー企業、スタートアップ企業というのは担保になる資産を持っていないことが普通であり、十分な裏付けのない信用によって借入を行うしかないことになるため、必然的にこの方法で調達できる金額には限りがあることになります。大きな金額を要する事業でなければデットファイナンスで十分ですが、まとまった額の初期投資を要する事業や、継続的に資金が必要で利益を出すまでに時間のかかる事業に取り組む場合にはこの方法では足りないため、次に説明するエクイティファイナンスの補完的な位置づけとなることも少なくありません。

しかしながら、商品の仕入れのような運転資金に充てる場合など、一時的な資金ニーズに対応する場合などは他の方法よりも活用しやすく、いちど借りても返済してしまえば元の状態に戻りますので、そういう意味では最も利用しやすい資金調達方法であるということもできるでしょう。また上場会社など信用力の強い会社であれば、社債を発行することにより資金を調達する場合もあります。これもデットファイナンスの一種です。

エクイティファイナンス

エクイティファイナンスとは、株式を発行することなどにより行う資金調達の方法です。会社は新たに株式などを発行し、投資家がそれを引き受け、その対価を会社に対して払い込みます。会社としては銀行口座に資金が払い込まれることになりますので、その資金を使って事業に投資することができます。株式を引き受ける投資家は、個人やエンジェル投資家だったり、ベンチャーキャピタル、PEファンド、事業会社など様々です。

創業間もないベンチャー企業、スタートアップ企業は担保資産や信用力がさほどないことが多いですが、事業の構想次第では将来の期待を大きく持つことができます。その将来の期待こそが、その会社の株式の価値です。将来の期待を事業計画としてまとめ、投資家に「この会社の株式を保有したい」と思ってもらうことで、資金を調達するわけです。このようなエクイティファイナンスは、多額の投資資金を要する事業をやろうとする際には有力な選択肢となります。

また、エクイティファイナンスで調達した資金はその会社の自己資金となり、デットファイナンスのように将来返済するというものではない為、財務基盤が安定し、銀行なども融資をしやすくなります。そのため、エクイティファイナンスをした後、もしくは同時期に補完的にデットファイナンスを行うという場合も最近では多く見受けられるようになりました。

ただし、このようなエクイティファイナンスには注意点もいくつかあります。新たに株式を持つ株主ができることになりますので、創業者や既存株主にとってはその割合の分だけ経営権を失うことになります。今後の資金調達のことも考えるとあまり多くの割合を早期に社外へ出すわけにはいかず、また株主が増えすぎると意思決定のスピードを損なうこともありますので、多くの資金を調達したいというニーズとの狭間で悩むことも多いです。将来どのタイミングでどれくらいの資金が必要であり、そのためにどのようにエクイティファイナンスを行うべきなのかといった計画(資本政策)を作ることが重要です。

アセットファイナンス

アセットファイナンスとは、既に持っている資産を売却したり、担保に入れて借入を行うことなどにより資金を調達することです。不動産を所有していて、それを売却して資金を得る場合などを考えるとわかりやすいでしょう。資産を担保に入れて借入を行うことも含みますので、たとえば売掛金の流動化(ファクタリング)や、敷金の流動化のようなものも含みます。

また、事業の売却という場合もあります。ベンチャー企業、スタートアップ企業の場合、最初からずっと同じ事業を行っている場合ばかりではなく、いくつかの事業に並行して取り組んでいる場合も多くあります。そのような会社が、ある時点でどれかひとつの事業に集中することを意思決定し、他の事業を売却するような場合があります。これもアセットファイナンスということができます。

こちらでは3種類の資金調達方法について説明をさせていただきましたが、会社経営においてはこの中からどれかひとつを選ぶというものではなく、状況に応じて使い分けたり、並行して行っていくものです。それぞれ性格の異なるものですが、ここからはその中でもベンチャー、スタートアップ企業にとってより関連の強いエクイティファイナンスを中心に、資金調達について解説をしていきます。

ベンチャー、スタートアップ企業が資金調達を行う理由

そもそも、ベンチャー企業、スタートアップ企業はどういった理由で資金調達を行うのでしょうか。ベンチャー企業、スタートアップ企業といってもその事業内容は様々ですが、代表例はITやWebに関する事業でしょう。ITという言葉が登場してからもうずいぶん時間が経ちましたが、今でもベンチャー企業、スタートアップ企業が取り組む事業の中心はITやWebに関する事業です。GoogleやAmazonの名前を出すまでもなく、これまでにたくさんの会社がその領域で事業を大きく成長させてきたことはよく知られているとおりです。

新たにそうした事業に取り組むことを想像してみると、まずどのような事業に取り組むかを決め、必要なオフィスやIT環境を用意して、エンジニアやマーケティング担当者の雇用、広告出稿などを行う必要があります。そのような投資をしていく場合、当然ながら最初から多額の資金が必要となります。エンジニアを雇用してもプロダクトがすぐに完成するわけではないですし、マーケティング担当者を雇用してもすぐに売上があがるわけではありません。売上が上がって利益が出るようになるまではそれなりに時間がかかります。また、ある程度ユーザーを獲得して売上が上がるようになると、今度はサーバーを強化したり、セキュリティ環境を整備したりと、追加で資金が必要なことも出てくるものです。

そのようにほとんどの場合、会社が安定して利益を上げられるようになるまでには多額の資金が必要となることから継続して赤字の期間が発生し、その期間は年単位で続くことが多いです。その間会社を維持するために必要な資金の額は決して少ないものではないですし、数年後に本当に利益が出るようになるのかというのが保証されているわけでもありませんから、その資金を自己資金や銀行からの借入で賄うというのはほとんど不可能です。そのため、その必要な資金を得る手段として、ベンチャー企業、スタートアップ企業は数回に渡り、エクイティファイナンスを行うことになるわけです。

資金調達のメリット

資金調達、とくにエクイティファイナンスを行うメリットは、なんといっても大きなチャレンジの機会がとれるようになることです。デッドファイナンスの場合にはこれまでの財務諸表を基準とした融資となるため、まだプロダクト開発段階で世に出る前にあるようなフェーズのベンチャー、スタートアップ企業が融資を得るのは至難の業といえるでしょう。

そのような中、エクイティファイナンスでの資金調達であればベンチャー、スタートアップ企業が創業期より大きなチャレンジの機会を得られるため、エクイティファイナンスによる資金調達を実行することがベンチャーの世界においては一般的に取り入れられています。

また、エクイティファイナンスを行うと出資したベンチャーキャピタルや事業会社などが新たに株主となり、その事業の当事者となってくれます。彼らは他の会社にも投資していたり、自社の事業に関連する多くのノウハウを持っていたりしますので、事業に役立つ情報やノウハウ、人材を提供してくれたり、経営上の課題に対して一緒に解決策を考えてくれたりします。また、エクイティファイナンスを行うことで信用度が上がり、能力のある人材を獲得しやすくなるというメリットも期待できます。エクイティファイナンスをきっかけに、様々な面で事業を大きく伸ばすことができるという可能性があるわけです。

資金調達のデメリット

他方、エクイティファイナンスにはデメリットもあります。最大のものは、経営権の分散でしょう。株主が増えることで重要な意思決定の際には株主の同意が必要となり、スピード感が損なわれたり、同意が得られずやりたいことができないということもあるでしょう。

株主は当然、経営に大きく関与するべき存在であり、投資を行ったベンチャーキャピタルや事業会社としては投資した以上その会社の状況を把握しないわけにはいきません。そのため、何かを新たな投資の意思決定などを行おうとするたびに、株主に説明を行う必要があったり、業績や事業進捗に関する定期報告なども必要となります。

創業者が株式の100%を持っていた時には必要なかったことをいろいろとやらないといけなくなるため、煩わしく感じることも増えるでしょう。スピード感を大切にしたい経営者は、このようなコミュニケーションコストが高くなる構造にジレンマを感じていることも多いです。そのような意味ではエクイティファイナンスを行うとしても株主の人数はあまり増やしすぎない等、資金調達した後のことも考えながらエクイティファイナンスの方針を考える必要があります。

勝てるベンチャー」を見極めるために

ベンチャー企業、スタートアップ企業への転職を考える際には、事業が大きく伸びたり、株式上場を達成するなどの「勝てるベンチャー」を見極めたいと思われることでしょう。どの会社が「勝てるベンチャー」なのかを見極めるというのはとても難しいものですが、資金調達の状況というのはその見極めを助けてくれる指標の一つといえるでしょう。

実績豊富なベンチャーキャピタル、有名なベンチャーキャピタルが出資している場合など、少なくともその投資家はその会社が事業を伸ばしてリターンを出してくれると考えているからこそ出資しているわけで、そのお眼鏡にかなったという事実は参考になるでしょう。また、その会社の事業領域に関連するような事業会社が出資しているような場合には、その事業会社が事業上も連携していたり有益なノウハウを提供している可能性があり、それが相乗効果となって事業が大きく伸びていくが期待できると言えます。

エクイティファイナンスを行った会社は多くの場合その情報をプレスリリースなどの方法で社外に発信していますので、そうした情報からどの会社が「勝てるベンチャー」なのかを考えてみるのもよいでしょう。

最後に

今回は、「ベンチャー、スタートアップ企業がVCより資金調達を行う理由とは」というテーマで、主にエクイティファイナンスについて解説しました。ベンチャー、スタートアップ企業にとって資金調達は必須のものであり、現にそうした会社に所属している方にとっても、これからそうした会社での仕事に挑戦しようとする方にとっても重要なものです。多くの方に資金調達に関する理解を深めていただき、ご自身の仕事に繋げていただけるとよいのではないかと思っております。

この記事を書いた人

岩崎久剛

1984年兵庫県生。関西大学工学部を卒業後、受験支援事業を全国展開する大手教育事業会社にて総務人事など管理部門を経験し、2012年より人材業界に転身。大手総合人材会社にて求人広告、人材紹介など中途採用領域での法人営業を経験し、従業員数名規模のベンチャーから数10か国に展開するグローバル企業まで多様な業界、事業フェーズの企業の採用を支援。2016年よりハイキャリア領域の人材紹介事業立上げメンバーに参画し、関西ベンチャーを軸とした採用支援に従事。その後、ビズアクセル株式会社を起業。MBA(グロービス経営大学院)。

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