AIエンジニアへの転職を目指す上で押さえておくべきポイント

AIはこれからの世界を支える中心的な技術で、まだまだ成長が期待できる分野です。大企業だけでなく、ベンチャー、スタートアップ企業にも、AI技術で将来性が期待されている企業も少なくありません。しかしその一方で、AIエンジニアは不足しており、人材の奪い合いになっているのも事実です。

ただ、AIエンジニアは専門的な知識が求められる仕事であるため、未経験の募集はまだまだ多いとは言えず、Pythonなどのスキルや統計学といった求められるスキルを自発的に学んでおく必要もあります。今回は、AIエンジニアへの転職などを考えている方向けに、AIエンジニアへの転職を目指すうえで押さえておくべきことをお伝えします。

目次

AIとは

AIとは「Artificial Intelligence」の略で、日本語では「人工知能」と訳されます。AIが具体的にどのようなことを行うものかを説明するのであれば、「人間の知的な行動や思考をソフトウェアで人工的に再現したもの」と言えるでしょう。決まった行動や反応をするプログラムではなく、考えて最適な答えを返してくれるのがAIです。

そんなAIについて、近年最もホットな話題のひとつが「ディープラーニング(深層学習)」です。ディープラーニングは、ニューラルネットワークを用いて、ビッグデータとも呼ばれる大量のデータから共通項を見出して、複雑な問題への答えをAIが自ら引き出せるようにするアルゴリズムで、数年前に将棋でAIがプロ棋士に勝ったという報道がよくされていたかと思いますがこのような事例をはじめ多くのシーンでこの技術は取り入れられています。

ディープラーニングだけでなく、GAN(敵対的生成ネットワーク)などのAI技術の実用化に向けた企業も登場するなど、とてつもないスピードで進化しているAIですが、まだまだビジネスシーンでの実装、あるいはハードウェアとの連動問題などの壁もあり、発展途上の技術とも考えられています。これからのIT産業だけでなく、幅広い業界に多大な影響を及ぼす将来有望なジャンルなのです。

AIが導入されるビジネスシーン

AIに関する産業が幅広い業界に影響を与えている理由は、その汎用性にあります。かつて、パソコンや業務用システムなどが多くの会社に導入されていったのと同じように、AIを使った技術が多くの業界にDXの手段などとして取り入れられるようになっているのです。例えば次のようなものが挙げられるでしょう。

自動運転

自動運転と言えばアメリカのテスラ社エヌビディア社、あるいは2021年に香港市場でIPOをした中国のセンスタイム社などが有名ですが、このような自動運転技術にはAIの力が欠かせません。

自動運転を支える画像認識技術で、画像認識の精度を高めるためにディープラーニングを中心としたAI技術が活用されています。日本においてもトヨタ自動車が「Woven City」というプロジェクトを立ち上げ、自動運転の実証実験を行う準備を進めています。

また、2018年にはヤマト運輸などを擁するヤマトホールディングス社ではDeNA社と提携の上、「ロボネコヤマト」という名称でAI技術を物流業界に組み込むことでの課題解決を目指す取り組みも話題になりましたが、現在は取り組みを終了しています。このような結果を鑑みた際に、自動運転の観点においては世界より複雑な交通事情にある日本という土地柄もあり、導入に苦戦を強いられている様子もうかがえます。

自動レジ

近年、新型コロナウイルスの対策として一気にセルフレジが普及しましたが、さらにその先を行く技術として注目されているのが自動レジです。これまでの日本で導入されるレジでは、スタッフや来店客が商品のバーコードを読み取るなどして金額を入力しなければなりませんでした。しかし、AI技術とカメラを連動させたIoTソリューションにより、カメラが認識できる範囲内に商品を置くだけで金額を自動入力することができるようになるといわれています。

2016年にはAmazon GOが話題になりました。来店した人が棚から商品を取れば金額が加算され、棚に戻すと減算され、店を出るときに持っている商品分の金額が決済されるという仕組みです。これは、今の段階で考えられる自動レジの最も進化した形と言えるかもしれませんが、このような技術にもディープラーニング(画像認識など)を主体としたAI技術が活用されていると言われています。

チャットボット

ホームページ、企業の公式SNS、Webサービスのお問合せ対応などで、AI技術を搭載したチャットボットが自動で対応する仕組みを導入している企業も珍しくなくなってきました。このようなチャットボットが進化するような形で、コールセンターにおいても問い合わせ内容を電話に話せば最適な対応方法を自動音声で返答したりするサービスが登場しています。

その他のAI導入事例

その他にもさまざまな業界でAIの活用が進んでいます。例えば中国では国策で監視カメラを街中に設置し、AIの画像認識技術を活用し、誰がどこにいたか記録できる仕組みを導入することにより、治安維持を行っているというのは大変有名は話です。

その他にも翻訳の領域では大量の音声データでディープラーニングを行うことで、音声の自動翻訳ツールの精度がどんどん上がってきていると言われています。

また、物流業界では自動運転は前述の通り、まだまだ導入は容易とは言えないものの、検品や仕分けの自動化、積荷の状態に合わせた最適な配送ルートの作成など、熟練した技術が求められる場面でのAIによる自動化が進められています。このように、私たちの生活に密着した業界にも、AI技術は活用されるようになっているのです。

日本のAI業界

前述の通り、アメリカや中国などではAIのビジネスシーンでの導入事例が多数でてきているものの、日本ではまだまだAIが浸透していないのが現実です。ボストンコンサルティンググループの2018年の調査(※)によれば、日本は中国・アメリカ・ドイツなどと比較して、業務の一部をAIに置き換えている割合が少ないという結果が出ています。IT技術が導入される時もそうでしたが、どうしても日本では先進技術の導入が遅れてしまう傾向があるようです。

しかし、日本でもAIの普及が進んでいるのは間違いありません。他国と比べて導入率が低いということは、AI技術を使ったシステム開発を行う会社にとってはビジネスチャンスがたくさんあると考えることもできるのではないでしょうか。また、国内だけでなく、グローバルも含めて将来性があるのがAIの分野だと言えるでしょう。

参考情報:ボストンコンサルティンググループ「企業の人工知能(AI)の導入状況に関する各国調査」

AIエンジニアの仕事

ではここから、AI技術を使ったシステム開発に不可欠なAIエンジニアにの仕事について見ていきましょう。前提として、AIエンジニアはITエンジニアと異なり、独特の知識や技術が必要であり、活かせる要素はあるものの、特性などは大きく違います。

また、ITエンジニアがシステム開発を行う場合は、ビジネスサイド(またはクライアント)が実現したいこと、現場の実務などをもとに開発を行うのが一般的です。しかし、AIエンジニアの場合は、どのようなデータを用いてAIを活用することによって課題解決ができるかという観点でビジネスサイド(またはクライアント)に対して提案するところから行います。

このような前提の下、AIエンジニアの仕事について解説していきます。AI領域では開発業務を手掛ける機械学習エンジニアの他、データサイエンティスト、データアナリストと大きく3種類に分けることができます。こちらではこの3つについてご紹介します。

機械学習エンジニア

機械学習エンジニアはPythonなどによる開発を担当します。機械学習はAIが実力を発揮するための根幹部分にあたる技術で、ディープラーニングも機械学習に含まれ、機械学習をするためのシステムやWebプロダクトの開発を行います。

AIの分野で多く用いられる開発言語であるPythonは、1991年にリリースされた30年以上の歴史がある言語ですが、AI分野のライブラリー、フレームワークが最も充実していることから、日本でAIブームが起こりだした2015年頃よりAIエンジニアを中心にPython関係の書籍などが多く売れ出したと言われています。

データサイエンティスト

データサイエンティストは名称の通り、アルゴリズムや統計など情報科学理論を活用したビッグデータの分析を行い、課題抽出の上、課題解決に向けた施策立案、実行後の検証などを担当します。

コンサルティング企業であればクライアント、事業会社の場合は事業サイドにデータを起点にした課題解決の施策を提案する役割であるため、AIに関する知識はもちろん、データを分析するための統計学、課題解決に繋がる論理思考力などが求められる仕事になります。

例えばゲーム業界であればユーザーの動向などのビッグデータ分析の上、ゲーム難易度の調整、課金などの施策を提案するような役割を担っていたりします。その他にもAmazonのようなECサイトでの購買ユーザーの特性を分析し、高い精度でのレコメンドを実現するなどWebサービスの様々なシーンに活躍の場がある仕事といえるでしょう。

データアナリスト

データアナリストとデータサイエンティストは名称も似ており、また仕事内容としてもビックデータを解析する仕事であるという点では、一見、類似した仕事といえるでしょう。この違いから解説するとデータアナリストは、データサイエンティストよりもデータ分析に特化した存在だと言えます。また、データアナリストは仕事内容によってコンサル型データアナリスト、エンジニア型データアナリストの2つに分類されます。

コンサル型データアナリストはビジネスサイド(あるいはクライアント)の課題に対し、ビッグデータを解析の上、解決策を提案することが仕事であり、仮説構築力、論理思考力などが求められます。

もう一方のエンジニア型データアナリストは、ビッグデータからユーザーの行動の特性や規則性を探し出すことが仕事です。前述のゲーム業界の例で説明するのであれば、ゲームのどのようなステージでユーザーが離脱しやすいかといった箇所の特定と要因分析などを行うイメージになります。

尚、このようなデータアナリストの仕事を網羅した仕事がデータサイエンティストであると理解いただけると良いかと思います。

AIエンジニアの需要

AIエンジニアは慢性的に人手不足だと言われています。労働人口が減少していることを背景に日本全体が人手不足になってきているという話がありますが、AIエンジニアが慢性的に不足している原因はそれだけではありません。

AIエンジニアの仕事内容でも補足しましたが、ITエンジニアであればAIエンジニアとしての仕事ができるわけではありません。統計についての知識やコンサルティング能力など、AIエンジニア特有の専門性が必要なので、そもそも希少性の高い人材なのです。

それに加えて、AI人材の需要が高まっており、世界中のAIでビジネスを行う企業が人材の奪い合いをしています。海外では、同じAIエンジニアとしての仕事であっても日本の倍以上の給与を出すというケースもあり、実際に、海外の企業で働く道を選ぶAI人材もいるようです。

こういったAI人材の争奪戦の中で、今後は日本国内でも好条件の求人が増えてくるだろうと考えられています。実際にどれくらいAIエンジニアへの需要があるのかを、機械学習で使用されることもあるPythonができる人材を例にしてみてみましょう。

ITエンジニア・Pythonエンジニアの有効求人倍率(求人数÷正社員転職希望者数)

AIエンジニアを含むITエンジニア全体:17.8倍

Pythonが使えるエンジニア:53.1倍

※日本の有効求人倍率は1.21倍(2022年2月)
※参考資料 レバテック株式会社「正社員転職・フリーランス市場動向2021年12月」

こうして比較してみると、人手不足が問題視されている日本全体と比較しても、Pythonが使えるエンジニアを企業側がどれだけ必要としているのかがよくわかります。

AIエンジニアになるために

このようにAIエンジニアが不足しているのは事実ですが、だからといって簡単にAIエンジニアになれるわけではありません。プログラミングだけではない高いスキルが求められるため、そのスキルを磨いておく必要があるでしょう。

AIエンジニアになるためのスキルを学ぶ方法として、こちらでは社会人向けスクールに通う、大学や専門学校に通う、独学で勉強するという3つの方法についてご紹介します。

社会人向けのプログラミングスクールに通う

働きながらAIエンジニアへの転職を考える場合、選択肢が社会人向けのプログラミングスクールに通うことが第一に挙げられるでしょう。エンジニア需要の高まりに伴い、以前よりプログラミングスクール事業に参入する事業者は増えてきましたが、最近ではAI領域に特化したプログラミングスクールなども台頭してきています。

また、対面受講型のスクールだけでなく、オンライン受講型のスクールも増えています。ただ、基本的なプログラミングスキルがあることを前提にカリキュラムが組まれていることが多く、プログラミング未経験者では入学できないこともありますので自身の現在のスキルと照らし合わせてスクールを選択すると良いでしょう。

大学、大学院、専門学校への通学

国を挙げてAIエンジニアをはじめとするIT人材の育成に力を入れていることもあり、AIエンジニアになるためのスキルを学ぶことができる大学、大学院、専門学校が増えています。統計学なども含め、AIエンジニアに求められる高度な専門知識を学ぶことができます。学校によっては最先端の研究を行っていることもあるため、前述のプログラミングスクールよりも最新技術にも触れやすい環境といえるでしょう。

尚、学校によって学部名や学科名が異なるため、AIについてのスキルを学ぶことができるかしっかりと確認しておきましょう。また、学校選びには大学名、カリキュラムだけでなく、AIに明るい教授のいる大学を選択するという観点もあるでしょう。特に日本のAI研究の第一人者である東京大学の松尾豊教授、東京都立大学の小野順貴教授などが国内ではAI分野に長けた教授として有名です。

独学で勉強する

AIエンジニアに求められるスキルを独学で学ぶことも可能です。AIに関する勉強会やイベントに参加したり、専門書を読んで自分でコードを書いてみたりすることでスキルを高めることができます。

AIエンジニアに限らず、エンジニアは独学、あるいは書籍などで不明点をキャッチアップしながらスキルアップできるかどうかについて、転職市場では特に重視されます。技術力の高いとされる企業は仕組みでその技術力を実現できているのではなく、優秀なエンジニアの力によって優位性を築いていますが、そのような企業で活躍するエンジニアは総じて能動的に自分で情報収集に動き、技術を吸収しようというスタンスで働いています。

勿論、スクールなどで基礎基本を学ぶことは大切ですが、ある程度基礎固めができたならば、自身で能動的に学び、スキルアップをしていく習慣を身に着けていくことが重要といえるでしょう。

AIエンジニアの転職活動

AIエンジニアの方の多くが多忙の中、 なかなか転職活動に十分な時間を割けないという環境にあることも多いでしょう。 このような多忙なAIエンジニアの方は現職でのパフォーマンスを落とすことなく、効率的に情報収集を行う必要があります。こちらではAIエンジニアの転職活動で推奨する2つの手法についてご紹介します。

スカウトサイトを活用した転職活動

一つ目はスカウトサイトを活用した転職活動になります。これまで主流であった転職サイトなどからスカウトを待つ転職プラットフォームに移行しつつあります。具体的には「ビズリーチ」「リクルートダイレクトスカウト(旧キャリアカーバー)」「エンミドルの転職」などが挙げられます。

特にこのダイレクトリクルーティングと呼ばれる市場はこの数年で急激に市場が拡大し、2021年には前述のビズリーチを運営するビジョナル株式会社が東証マザーズにも上場を果たしています。

これら転職プラットフォームに情報を登録しておくことで、経歴を見た転職エージェント、または企業より直接スカウトを貰うことが可能です。自分の経歴に合った求人情報をある程度網羅的に情報を集めることができるため、多忙な管理職の方にとっては有効な転職手法の一つと言えるでしょう。

転職エージェントを活用した転職活動

前述の様な転職プラットフォームサービスの台頭はあるものの、まずは自身の現状について相談したいという場合には転職エージェントを活用していくこともよいでしょう。多くの場合、転職活動は孤独です。自身の経歴の棚卸、今後の自分のキャリアプランをどうしていくべきかなど腹を割って話ができる存在がいるかいないかは、自身の転職活動を良い形で進めていく上で重要です。

転職エージェントは国内に数万社あり、エンジニアやIT業界など職種や業界に特化した転職エージェント、あるいは経営層、マネジメント層に特化した転職エージェントなどそれぞれ特色があります。これまでの経験、自分が描きたいキャリアなどを踏まえ、自分に合った転職エージェントをパートナーに選びましょう。

最後に

AIエンジニアは慢性的な人手不足で、これからも需要がどんどん高まっていくと考えられます。高いスキルが求められますが、それに見合った高待遇が望める仕事でもあります。

ITエンジニアからのステップアップや、これまでのAIに関わる仕事での実績を武器に、AIエンジニアへの転職を考えている方は、将来性あるAIに関するベンチャー・スタートアップ企業なども含めて考えてみてはいかがでしょうか。


この記事を書いた人

岩崎久剛

1984年兵庫県生。関西大学工学部を卒業後、受験支援事業を全国展開する大手教育事業会社にて総務人事など管理部門を経験し、2012年より人材業界に転身。大手総合人材会社にて求人広告、人材紹介など中途採用領域での法人営業を経験し、従業員数名規模のベンチャーから数10か国に展開するグローバル企業まで多様な業界、事業フェーズの企業の採用を支援。2016年よりハイキャリア領域の人材紹介事業立上げメンバーに参画し、関西ベンチャーを軸とした採用支援に従事。その後、ビズアクセル株式会社を起業。MBA(グロービス経営大学院)。

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