法務がベンチャー企業へ転職する際に押さえるべきポイントを解説!

ベンチャー、スタートアップ企業の法務は、非常に重要なポジションです。例えば契約法務や社内規程の整備にはじまり、業務提携やM&A、株主総会やIPO関連の業務などが挙げられます。大変なことも多いですが、法務の立場で事業や経営を支えているやりがいも感じられるでしょう。

そこで今回はベンチャー、スタートアップ企業で法務として働く心構えとして、どのような役割が求められているのかを解説します。法務としてベンチャー、スタートアップ企業への転職をご検討の方のご参考になれば幸いです。

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ベンチャー経営に欠かせない法務の役割

法務は事業を行うにあたり必要な「法律が関係する業務全般」に携わります。ベンチャー企業・スタートアップ企業にとって法務は「会社の生命線」になり得る重要なポジションです。法務は経理・財務の仕事と並び、経営者が苦手としているものの、非常に重要なバックオフィス業務のひとつです。

会社のコンプライアンスに関わる法律上の問題は、メディアで触れられることも多く、数年前に大手広告代理店のパワハラ・過労死問題が大きく取り上げられたことは記憶に新しいのではないでしょうか。メディアが取り上げるこのようなコンプライアンス問題は大手企業や有名企業などを取り上げることが多いですが、ベンチャー、スタートアップ企業だからといって許される時代ではありません。こういった類の問題が、会社の存続をも揺るがす大問題になる可能性もあるのです。

例えば顧客情報漏洩で主要な取引先から取引停止処分を受けたり、労務関係のトラブルで一斉離職などにつながって業務が停滞してしまったりしてしまえば、あっという間に経営危機に陥ってしまいかねません。社内規程や契約書の整備などを通して、「目に見えない、いつ起きるか分からないリスク」を未然に防ぎ、万が一の場合でもダメージを最小化できるように備えるのが、経営者を支える法務の重要な役割です。

契約書関係が未整備なことが多い

ベンチャー、スタートアップ企業は、ビジネスを成長させることに注力し、製品・サービスの開発・改善に全力を挙げる一方で、バックオフィス関連の業務が後回しにされがちです。法務関連では契約書関係が未整理なままであるケースが非常に多いと言えます。

例えば資金余力が十分とは言えないベンチャー、スタートアップ企業の運営を考えると支払、損害賠償、どの範囲はどちらが費用を負担するかといった金銭に関わる部分などは言うまでもなく非常に重要です。しかしながら、実際には取引先との契約で、一般的な契約書のひな形や他社との契約書をそのまま流用していたり、相手方から提示された契約内容にしっかりと目を通すことなく契約締結していたりする場合がある他、会社によっては、契約書なしで取引を続けているケースもあります。

ベンチャー、スタートアップ企業での法務として働くことになった場合、はじめに取り組むのが契約書関係の整備になるでしょう。先に挙げた取引先との契約、あるいは社内での労使関係の契約などについて、不備がないかをチェックし、必要なものは新たに作成します。

取引先との契約書では、自社にとって不利な内容に気付かず契約締結している場合があります。放置していると、思わぬことが原因となって足元をすくわれてしまいかねないため、先々のリスクを想定し、契約内容の改善交渉なども行わなければならないでしょう。

労使関係の契約では、就業規則や雇用契約書・賃金規程などが不十分である場合は、自社のビジネスに適した形で整備しなければなりません。特にこのような整備にあたって一般的なものを適用するのではなく、自社や業界の特徴、会社の将来像も意識して作成することが法務の役目と言えます。例えば就業規則や雇用形態の在り方一つで人材の採用力、定着率などにも大きく影響を及ぼします。大手企業と比べて人材の獲得などが難しいベンチャーにとっては、そのような観点などを踏まえながら規定を定めていくことが大切になるかと思います。

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契約法務、会社法など業務範囲は多岐にわたる

ベンチャー、スタートアップ企業の法務の業務は、広範囲にわたります。成長著しい会社であればあるほど、どんどん増える新しい取引先との契約法務の業務が飛び込んできます。業務提携契約や技術・サービスの利用契約など、特殊な契約書のリーガルチェックもしなければなりません。M&Aをする場合は、専門家の補助を受けながら法務デューデリジェンスをして、最終契約にあたっては詳細な契約書を作成しなければならないでしょう。

会社法に則った社内規程の作成・精査も必要です。IPO(新規株式公開)を目指す場合はもちろんですが、その前段階としてベンチャーキャピタルなどから出資を受ける場合でも、社内制度が整備されていることが求められます。IPOを目指す上で社内規程が不十分であることが会社の潜在的なリスクになるため、ベンチャーキャピタルなど投資家が出資の際にはこのような観点で出資をしない決断をすることも珍しくありません。

また、業界特有の法規制についての理解について法務にも求められます。これは新規事業に参入する場合も同様です。先進的なビジネスを行っている場合は、市場環境に法整備が追いついていないケースもあります。しかし、将来のことを考えるならば、「法律がないなら何をしてもいい」と考えるのではなく、必要に応じて官公庁への確認・弁護士への相談をして、コンプライアンスを意識したビジネスの取り組み方について経営者に説明することも法務の仕事の一つといえるでしょう。

その他自社のビジネスが特許等によって成り立っている場合は、特許の権利関係も確認が必要で、場合によっては裁判の対応をしなければならないこともあるでしょう。テレビドラマ化された池井戸潤氏の小説「下町ロケット」にもあったように、特許の取り方ひとつで自社の主力事業が危うくなる可能性もあるのです。

なお、会社のリソース次第では、法務以外の業務も担当をする場合も想定されます。ある程度組織が出来つつあれば法務専任でという立場もあるのですが、組織がまだこれからというフェーズであれば、法務業務に加え、総務的な役割も担って頂くような立場で設定されている会社などもあります。

IPOに向けて重要な法務の役割

IPOを目指すベンチャー、スタートアップの場合は、法務の重要性はさらに大きくなります。上場企業として適切な手続きが行えるようになっていなければならないため、上場審査までに多くの準備が必要です。

先に記載しましたようにベンチャーキャピタルからの出資を受ける場合にも社内規程の整備は必要になりますが、上場するとなると、さらに多くの対応が求められます。上場企業には、「企業経営が健全であること」や「コーポレートガバナンスや内部管理体制が整備されていて機能していること」が求められます。さらに、東証一部・二部に上場する場合は、「企業の継続性と収益性」も基準となっています(※)。こういった上場基準を満たすためにも、法務担当者が会社のビジネスモデルにあった問題点を整理し、問題への対処ができているかが大切です。

またこのような投資家を株主として迎え入れ資金調達を行う際には、当然ながら株主構成比率も重要となってきます。いくら多くの資金調達を実現できたとしても、投資家の株式保有比率があまりにも高くなってしまうと経営陣だけでの意思決定がしづらくなります。このような会社法関連の法務に関しても、ベンチャー経営の中で決して軽んじてはいけないことといえます。

そして株主総会も、法務が関わる非常に重要なイベントです。経営陣や従業員だけでなく、一般の投資家が株式を保有するようになるため、正式な手続きを踏んだ株主総会を開催しなければなりません。招集通知のための資料を作り、株主総会の日の2週間前までに送付して、議決権行使書の集計をし、株主総会の議事録を作るなどしなければなりません。IR対策室などが組織されていないうちは、法務がすべて担当することになるでしょう。

ベンチャーキャピタルをはじめ投資家から出資を受けた場合は、上場準備を始める前から、株主総会関係の業務が多くなります。たとえ経営陣が大多数の株式を握っている場合でも、出資の条件として、重要な経営判断について「株主総会に諮る前の協議」を求められているケースが一般的です。そのため、株主総会での重要な議題について、事前にベンチャーキャピタルをはじめとした複数の投資家(株主)の了解を得る必要があります。

またIPO にあたってストックオプション・新株予約権・優先株などの扱いについての規定を定める必要性もあります。ベンチャーキャピタルなどの投資家からの出資を受ける際に、経営者やCFOと協議して、上場を意識した計画的な資金調達プランを立てておくことが重要です(以下参考情報についてもご覧ください)。

事業特性に合わせた専門領域の弁護士と連携する

法務といっても、非常に広範囲の法律に関する業務にあたらなければなりません。法務担当者だけで全てのことが処理できるわけではないでしょう。例えば裁判対応が必要な場合、または専門性を要する契約事項などが発生した場合には法務担当だけでは対応が厳しく、弁護士の力を借りなければならないはずです。

ただ、弁護士なら誰でも全てのジャンルに対応できるのではありません。弁護士によって金融関連の法務に強い、ベンチャーキャピタルとの契約やIPOに関する法務に強い、あるいは労働問題に強いなどそれぞれのジャンルに特化した弁護士の方がいます。

例えばIPOなどに関連する会社法などに明るい弁護士の方に支援を頂きながら規定整備などは進めつつも、自社事業において商標などの扱いが非常に重要になるのであればそのような分野に長けた先生にも支援を頂くといったように、自社が展開する事業特性や必要としている内容に合わせて、それぞれを専門領域とする弁護士と連携して業務を進めることが大切です。

このように自社の弱点となる分野、あるいは事業の根幹となる分野に長けた弁護士を選定し、パートナーシップをとり、攻守に長けた会社経営の体制を構築することも法務に求められる役割の一つといえるでしょう。

ベンチャー、スタートアップ企業の法務に向いている人とは

ベンチャー、スタートアップ企業は設立してから間もない多く、場合によっては顧問弁護士すら設置出来ていない企業も少なくありません。そして法務に限らず、ベンチャー、スタートアップ企業の管理部門は慢性的な人材不足となっているケースも多くあり、法務や経理など自分の専門領域だけの業務に臨んでいるだけでは組織が回らないようないことが珍しくありません。

法務としてのプライドは大切ではありますが、そのプライドにとらわれ過ぎない柔軟性が、ベンチャー、スタートアップ企業の法務では求められます。そのような会社全体に関わる経験を前向きに捉えていくことで、会社全体を俯瞰してみる力が養え、将来的に法務面で会社経営を支える存在に成長していけることでしょう。

また、新しい分野に挑戦して大きく成長していこうとするベンチャー、スタートアップ企業は、前例がないが故に、ケーススタディのない課題に臨まなければならないシーンもあるなどタフさが求められるシーンが多いです。これまでのケーススタディに当てはめて粛々と法務として判断をしていくことも価値だとは思いますが、そのような前例のない課題をどう乗り越えるかといったチャレンジ精神旺盛な方もベンチャー、スタートアップ企業の法務として向いていると言えます。

法務の転職活動

法務として働く方の多くが組織の中で責任ある立場であるが故に多忙の中、なかなか転職活動に十分な時間を割けないという方も多いでしょう。このような多忙なビジネスパーソンは現職でのパフォーマンスを落とすことなく、効率的に情報収集を行う必要があります。こちらではこのような法務の転職活動で推奨する2つの手法についてご紹介します

スカウトサイトを活用した転職活動

一つ目はスカウトサイトを活用した転職活動になります。これまで主流であった転職サイトなどからスカウトを待つ転職プラットフォームに移行しつつあります。具体的には「ビズリーチ」「リクルートダイレクトスカウト(旧キャリアカーバー)」「エンミドルの転職」などが挙げられます。このような転職プラットフォーム市場はこの数年で急激に市場が拡大し、2021年には前述のビズリーチを運営するビジョナル株式会社が東証グロース市場にも上場を果たしています。

これら転職プラットフォームに情報を登録しておくことで、経歴を見た転職エージェント、または企業より直接スカウトを貰うことが可能です。どのような企業がこれまでの経験を評価してくれるのかという観点も含め、自分の経歴に合った求人情報をある程度網羅的に情報を集めることができるため、多忙なビジネスパーソンにとっては有効な転職手法の一つと言えるでしょう。

転職エージェントを活用した転職活動

ベンチャー、スタートアップ企業への初めての転職に臨む場合には、転職活動のパートナーとして転職エージェントを活用することも選択肢の一つでしょう。大手・中堅企業などへの転職と異なり、ベンチャー、スタートアップ企業ならではの注意点、お作法などについてこのような転職エージェントに事前に情報を貰いながら、面接などの選考過程を有利に進めていくと良いでしょう。

特にベンチャー、スタートアップ企業への転職活動の際には、企業情報をはじめとした情報収集の難しさに直面するケースが多いです。ベンチャー、スタートアップ企業ではプロダクト開発や営業活動などに奔走するあまり、採用広報をはじめとした採用活動に十分にパワーをさける状態にないことが多いです。そのような中、ベンチャー、スタートアップ企業では採用活動へのパワーを最小限にしつつ、採用成功に繋げるため、転職エージェントに依頼するケースが少なくありません。

また、 ベンチャー、スタートアップ企業への転職活動において、PRに積極的な企業ばかりではないことも踏まえて臨むことが大切です。ベンチャー、スタートアップ企業の成長において大きな脅威の一つが、大企業の参入です。資本力のある大手企業が参入する中、資金力や人材など経営資源の足りないベンチャーが太刀打ちするのは至難の業といっても過言ではありません。

認知度を上げることは企業の成長において重要なことではありますが、目立ちすぎることで「この市場は魅力的な市場だ」と、競合の参入を加速させてしまう可能性も高まります。そのような脅威に注意を払っている経営者は、水面下で静かにシェア獲得を推し進めるような戦略をとっていることが多いです。そして、ある程度シェアを獲得できた段階、あるいは大型の資金調達などが実現され、一気に競合各社を引き離したいという瞬間に、ようやく大々的に露出していきます。

このようなベンチャー、スタートアップ企業は、自社の採用活動に関しても慎重です。例えば公に情報を露出する求人サイトではなく、転職エージェントなどを活用し、競合他社に動きが見えないよう、水面下で採用活動を進めるような採用施策をとる企業も多いです。そのため転職活動においては、ベンチャー、スタートアップ企業のマーケットに明るい転職エージェントとコミュニケーションをとりながら、網羅的に情報収集にあたるのが良いでしょう。

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※お話を聞いて頂くだけでもOKです。

最後に

ベンチャー、スタートアップ企業の法務は、リソースが少ないからこそ、1人で数多くの業務をこなさなければなりません。しかも、会社の将来を左右しかねない重要な判断につながることも多くあります。大変な業務のように感じる人もいるかもしれませんが、責任が大きい分だけやりがいのある仕事だとも言えるでしょう。大企業では経験できない幅広い法務の仕事に携わることができる上、IPO準備や株主総会などの上場に関わる法務経験を積むことができれば、転職市場における自身の市場価値は大きく高まるかと思います。

この記事を書いた人

岩崎久剛

1984年兵庫県生。関西大学工学部を卒業後、受験支援事業を全国展開する大手教育事業会社にて総務人事など管理部門を経験し、2012年より人材業界に転身。大手総合人材会社にて求人広告、人材紹介など中途採用領域での法人営業を経験し、従業員数名規模のベンチャーから数10か国に展開するグローバル企業まで多様な業界、事業フェーズの企業の採用を支援。2016年よりハイキャリア領域の人材紹介事業立上げメンバーに参画し、関西ベンチャーを軸とした採用支援に従事。その後、ビズアクセル株式会社を起業。MBA(グロービス経営大学院)。

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