EdTechベンチャー、スタートアップ企業への転職で押さえるべきポイントとは

少子化問題で市場成長性が危ぶまれていた教育業界は今、大きな転換点にあり、転職先としても注目されており、最近では教育系ベンチャー、スタートアップ企業が台頭しています。このような教育系ベンチャー、スタートアップ企業の中にはAIなどを活用した「EdTech(エドテック)」と分類される新しい教育サービスも増えてきました。

そこで今回は、教育系ベンチャー、スタートアップ企業に転職するために知っておくべき、教育業界の動向と転職活動時の注意点についてお伝えします。

目次

教育業界の動向

少し前まで、教育業界と言えば、少子化の影響で市場規模が縮小し、過当競争に陥っているという業界でした。また、教育業界への転職といえば塾や予備校の講師、教材販売などのイメージが一般的だったかと思います。

しかし、現在の教育業界ではその様相が変化しはじめており、例えばAIなどを活用したEdTechと称されるベンチャー、スタートアップ企業なども転職先候補として挙がるようになってきました。ただし、このような教育系ベンチャー、スタートアップ企業への転職を考える際には、まず教育業界全体の動向について理解を進めていくと良いでしょう。教育業界の大きな変化、展望などについて以下の観点で解説をしていきます。

e-learningの一般化

教育業界は集団授業、個別指導などのサービス提供モデルが多く、映像を活用したオンライン授業は大手予備校などでは導入されてはいたものの一般的とはいえるものではありませんでした。そのような教育業界の在り方を覆したのが2011年にリクルートグループがリリースしたスタディサプリ(当時は受験サプリ)と言えるでしょう。

サブスクリプション型でスマートフォンやPCでいつでもどこでも学習可能なスタディサプリのビジネスは、当時まだ珍しく、大きな注目を集めました。そしてリリース当時は大学受験に関する講座などでしたが、現在は英会話学習など他分野でのサービス提供も進めています。

このスタディサプリのサービスが広がったことで、スマートフォンなどのデバイスでの学習が一般的なものになったと言えるでしょう。そして現在ではスタディサプリのようなアプリケーションの他、Youtubeなどの動画プラットフォームにアップされる教育コンテンツなどで学習する人も増えてきています。

「子ども向け教育」の変化・トレンド

教育業界のトレンドを押さえる上で欠かせないのが小学生など「子ども向け教育」に関してです。子供向け教育において近年最も大きなトピックとしては学習指導要領の改訂に伴う小学校で英語とプログラミング教育が必修化です。既にこの学習指導要領は2020年より施行されています。

これからグローバル化が進み、またテクノロジーが社会構造を大きく変えていくであろうことは自明の理と言えるでしょう。そのような未来を見据え、小学校でも英語とプログラミング教育が必修化されたのですが、それを受けてより実践的な英語やプログラミング教育を提供する教育系ベンチャー、スタートアップ企業が急増しています。

子供向けプログラミング教育事業者では、株式会社サイバーエージェントが展開する「Tech Kids school」、夢見る株式会社(エディオングループ)が展開する「ロボ団」などが代表例と言えるでしょう。

「社会人向け教育」の変化・トレンド

もう1つの大きなトピックが、「社会人向けの教育」の拡大です。ビジネスのスピードが早くなり、10年、20年前の技術や知識が通じないといったシーンはあらゆる業界で起こっており、若い頃に身につけたスキルだけで一生働き続けることは困難と言えるでしょう。

そのため、社会人になってからも新たなスキルを身につけ、昇進や社内異動、あるいは転職や起業などを通じ、キャリアアップをしたいというニーズも高まっているのです。特にDX(Digital Transformation)という言葉が多用されるようになった通り、各分野でテクノロジーを活用した業界革新が進んでいます。

具体的には前述したEdTechだけにとどまらず、「ヘルスケアTech」「不動産Tech」のように「●●業界×テクノロジー」と称される変化が一般的になりつつあります。例えば「ヘルスケアTech」であればIoTデバイスを活用した遠隔診療、ビッグデータを活用した将来的な疾病予測といった新たなサービスが台頭してきています。

このような背景により、「非エンジニア」の人材がエンジニア人材をマネジメントしながらプロジェクトを進めなければならないシーンも珍しくなくなりました。非エンジニアでも最低限のIT知見を学ぶ必然性がある中、社会人向けのプログラミング教室をはじめとしたDX人材を育成する教育サービスに注目が集まっています。

このような背景から、既存の教育系企業は、社会人向けに事業拡大を急いでいます。そして、「教育業界×テクノロジー」を活用し、新しい教育サービスを打ち出す教育系ベンチャー、スタートアップ企業が激しい競争を繰り広げるようになりました。

EdTech(エドテック)に注目が集まる教育業界

このような動向の教育業界ですが、最も注目を集めているのが「EdTech(エドテック)」です。EdTech(エドテック)は「教育(Education)×テクノロジー(Technology)」のことであり、教育系ベンチャー、スタートアップ企業だけでなく、既存の教育系企業もEdTech領域での事業開発に力を入れています。

前述のスタディサプリのような教育サービスの台頭もある中、学校でのパソコンやタブレットを使った教育やオンラインでの教育は2010年代に普及し、またオンラインツールの進化やAI技術の発展などとともにクオリティーの向上も目覚ましい傾向にありました。

そのような市場拡大の傾向にある中、2020年の新型コロナウイルス問題により、平常時の授業ができなくなる中、EdTechや教育系ベンチャー、スタートアップ企業にとって大きな注目が集まり、追い風となりました。このようなマーケット変化の中、EdTechと称されるベンチャー、スタートアップ企業は大きな注目を集め、AIで学習を個別最適化する「atama+(アタマプラス)」を全国の塾・予備校に提供するatama plus株式会社が2021年に第三者割当増資で51億円の資金調達をされたことなども話題となりました。

※EdTech以外に、Edutech(エデュテック)と呼ばれることもあります

EdTechで教育にどのような変化を起こせるのか

ではEdTechによって、教育の世界にどのような変革を起こすことができるのでしょうか。Edtechにより期待される変化について大きく3つの観点でご紹介します。

教員の負担軽減ができる

教員は多くの業務にあたらなければならず、とてもハードな職場としても知られています。授業以外にも、テストの採点や行事の準備、家庭への対応など、多くの業務もこなしています。この中でも特に、授業の準備や採点などは、EdTechで業務負担を軽減することが可能です。

教育格差を解消できる

都心部と比較して、地方では進学校や塾などが少なく、教育格差が生じています。どこに住んでいても、どんな環境で生活していても、誰もが同じ高いレベルの教育が受けられるようにしなければなりません。

地方にいながら都心の進学校の授業が受けられるようになったり、教育系ベンチャー、スタートアップ企業が提供するコンテンツを視聴することで、全国どこでもハイレベルな講義が受けられるようになったりするなど、EdTechには教育格差を解消できる力が秘められています。

それぞれに最適な教育が提供できる

そして3つ目が、ひとりひとりの進捗状況や能力に応じた教育を行う「アダプティブラーニング(適応型学習)」の実現です。従来のような全員が同じカリキュラムを同時に学ぶのではなく、それぞれの学習状況を分析して、最適な教材や学習内容を学べるようにするものです。

一見すると、②の「教育格差の解消」と相反するように感じるかもしれませんが、これらはつながっているものです。教育格差を解消して「誰もが学べる環境」を作り、その環境下で「最適な学びを得られる」ということなのです。

EdTechを活用することで、教育業界にこのような変革が期待されています。中でも、教育格差解消(②)とアダプティブラーニング(③)は、教育のクオリティーを飛躍的に高められるものですが、そのためにはEdTechの力が不可欠です。

教育格差解消にはネットを活用した教育サービスが必要で、アダプティブラーニングの実現には、マンパワーでの分析・提案には限界があり、AIなどの技術が欠かせません。まさに、教育系ベンチャー、スタートアップ企業の力が求められている分野と言えます。

EdTechベンチャー、スタートアップ企業の主なサービス

ではここからは、教育系ベンチャー、スタートアップ企業が提供するサービスにはどのようなものがあるのかをお伝えします。

オンラインでの教育コンテンツ提供

教育系ベンチャー、スタートアップ企業のなかでも、最も身近なものが、オンラインで教育コンテンツを提供するタイプではないでしょうか。

塾や予備校などは対面授業のオンライン化という形式が多いですが、教育系ベンチャー、スタートアップ企業の場合は、英語やプログラミングなど、特定の分野に特化した教育コンテンツを提供している会社が中心です。さらに、オンライン上で1対1の対面授業を行うものや、オンデマンド形式でいつでも自分のペースで学ぶことができるものなどに分けることができます。

マンツーマンで英会話が学べるレアジョブ英会話や、プログラミングをスライドで学習するprogateなどがあります。また、英語を学べるPROGRITは、学びを継続できるようにするためのツールも提供するなど、コーチング機能に力を入れています。学習方法からも、それぞれの教育系ベンチャー、スタートアップ企業の特色が現れていると言えます。

学習支援アプリ開発

スマホを使って、いつでもどこでもスキマ時間に学べるアプリを提供している教育系ベンチャー、スタートアップ企業がこれに該当します。

アプリでの学習に適したものでないといけないため、英語・英会話に関するものが多い印象です。しかし、今後の技術の進化で、今までにないジャンルの学習ができるアプリを開発する教育系ベンチャー、スタートアップ企業が登場するかもしれません。

なお、リクルートのスタディサプリなど、①にあたるオンライン教育コンテンツを提供する会社が、アプリでコンテンツ配信したり学習支援ツールを提供したりするケースも一般的です。そのため、①と②の両方を提供している教育系ベンチャー、スタートアップ企業が多くなっています。

教育事業者向けサービス

教育を受ける人たちではなく、教育事業者向けのサービスを展開している教育系ベンチャー、スタートアップ企業もあります。オンライン授業やアクティブラーニング(双方向授業)を支援するロイロノート・スクールやスクールタクトなどが挙げられます。

このタイプの教育系ベンチャー、スタートアップ企業には、他業界の業務効率化を図ることができるオンラインツールや進捗管理システムを応用したサービスを提供しているところもあります。

EdTechベンチャー、スタートアップ企業への転職

教育系ベンチャー、スタートアップ企業へ転職したい場合、どのような点に注意して転職活動をすればいいのでしょうか。

最も重要なのが「教育への思い」です。これは、対面で講義を行う塾であっても、オンラインで教育サービスを提供する教育系ベンチャー、スタートアップ企業でも変わりありません。他の業界と比べて、「儲かるから」ではなく、「こんな教育がしたい」という思いをもって事業に取り組んでいる人が多いためです。

教育系ベンチャー、スタートアップ企業への転職でも、教育への思いを含めた志望動機が、企業理念や経営者の理想像とマッチしているかが重視されます。転職活動をするにあたって、どうして教育の仕事がしたいのか、どうして数ある教育系ベンチャー、スタートアップ企業からこの会社を選んだのかという点について、はっきりと話せるようにしておきましょう。

これまでのキャリアを振り返り、自身の棚卸しをして、教育業界へ転職したいと思った原体験や理由を整理しておくことをおすすめします。教育系ベンチャー、スタートアップ企業は、エンジニアや営業・管理職など、いろいろな職種からの転職が可能です。しかし、ベンチャー、スタートアップ企業であるため、まだまだ充分なリソースやノウハウがあるわけではありません。

エンジニアや営業職での転職であれば、他のテック系企業での経験や教育機関へのルートがあることが評価されるでしょう。管理職での転職であれば、組織作りのノウハウを持って、さまざまな部門の管理や実務に携われることが強みになると言えます。

最後に

教育系ベンチャー、スタートアップ企業は、IT技術の進展にともなって注目されている業界で、転職先としての将来性も高まってきました。EdTechを使った教育サービスは、今後さらに普及していくのは間違いなく、転職者を受け入れてさらなる成長を目指すベンチャー、スタートアップ企業も少なくありません。

ただ、志望動機の中でも「教育への思い」が重視される業界だとも言えます。転職先としてベンチャー、スタートアップ企業を探すのは大変でもあるため、教育業界やベンチャー、スタートアップ企業への転職に強い転職エージェントに、キャリアの棚卸しも含めて相談することをおすすめします。

この記事を書いた人

岩崎久剛

1984年兵庫県生。関西大学工学部を卒業後、受験支援事業を全国展開する大手教育事業会社にて総務人事など管理部門を経験し、2012年より人材業界に転身。大手総合人材会社にて求人広告、人材紹介など中途採用領域での法人営業を経験し、従業員数名規模のベンチャーから数10か国に展開するグローバル企業まで多様な業界、事業フェーズの企業の採用を支援。2016年よりハイキャリア領域の人材紹介事業立上げメンバーに参画し、関西ベンチャーを軸とした採用支援に従事。その後、ビズアクセル株式会社を起業。MBA(グロービス経営大学院)。

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