【2024年版】人事が認識しておくべき労働基準法第15条に基づく労働条件明示義務を解説!

「入社後、話が違うと言って、すぐに人が辞めてしまった」というようなことは起きていないでしょうか。その場合は、入社前に内定者と認識のすりあわせができていなかった可能性があります。内定通知書(または労働条件通知書)において、法的に正しく労働条件を提示できているか、内定者と合意形成できているか、あらためて確認しておく必要があるでしょう。

採用プロセスにおいて、内定通知書は候補者と企業間の初めての正式な契約文書と言えます。この文書は、労働基準法第15条に基づき、雇用条件を明確にする重要な役割を担うため、本記事では労働基準法第15条の概要と内定通知書にどのような内容を反映させるべきかを解説します。

目次

労働基準法第15条とは

労働基準法第15条では、労働者が職場で直面する不公正な扱いを防ぐため、労働者の雇用時における労働条件の明示が義務付けられています。具体的には、労働時間、休日、休暇、賃金の計算方法や支払い日、退職に関する条件など、労働者が知る権利がある基本的な雇用条件を文書で通知することが求められています。

この条文は全ての労働者に適用され、正社員だけでなく、パートやアルバイトなどの非正規雇用者も含まれます。なお、明示された労働条件と異なる場合、労働者はすぐに契約を解除できることを、労働基準法第15条第2項で定めています(違反した場合に罰則もあり)

労働条件の明示義務は、雇用契約後の誤解やトラブルを防ぎ、労働者が自分の労働条件を理解し、安心して仕事を開始できるようにするためのものです。適切に労働条件が明示されることで、労働者は自身が公正な扱いを受けていることを確認でき、雇用主と労働者間の信頼関係が築かれます。

労働基準法第15条で明示が必要な事項

労働基準法15条に則り、雇用主は労働契約締結時に以下の事項を明示しなければなりません。以下に明示が必要な項目について記載いたします。

労働基準法施行規則第5条によって定められた明示すべき事項

①労働契約の期間に関する事項
➁有期労働契約については更新する場合の基準に関する事項
③就業の場所及び従業すべき業務に関する事項(雇用期間中の変更の範囲を含む)
④始業及び終業の時刻、所定労働時間を超える労働の有無、休憩時間、休日、休暇並びに労働者を二組以上に分けて就業させる場合における就業時点転換に関する事項
⑤賃金の決定、計算及び支払いの方法、賃金の締切り及び支払の時期並びに昇給に関する事項
⑥退職に関する事項(解雇の事由を含む)
⑦退職手当の定めが適用される労働者の範囲、退職手当の決定、計算及び支払いの方法並びに退職手当の支払いの時期に関する事項
⑧臨時に支払われる賃金、賞与及びこれらに準ずる賃金並びに最低賃金額に関する事項
⑨労働者に負担させるべき食費、作業用品その他に関する事項
➉安全及び衛生に関する事項
⑪職業訓練に関する事項
⑫災害補償及び業務外の傷病扶助に関する事項
⑬表彰及び制裁に関する事項
⑭休職に関する事項
⑮契約期間内に無期転換申込権が発生する場合は、無期転換申込みに関する事項及び無期転換後の労働条件の内容

上記項目の内、①と③~⑥が全ての場合に必ず明示しなければならない絶対的明示項目です。⑦~⑭については、使用者がこれらの点について定めをする場合にのみ明示が求められます。また、➁については、有期雇用契約の場合にのみ明示が求められ、⑮については、有期雇用契約でかつ契約期間内に無期転換申込権が発生する場合にのみ明示が求められます。

労働条件の明示時期と方法

労働条件の明示は、労働契約を締結する際や契約を更新する都度行わなければいけません。また明示の方法としては、口頭ではなく、書面や電子文書で行うことが原則です。

具体的には、労働契約の期間、就業の場所及び業務内容、始業及び終業時刻、労働時間の取扱、休憩時間、休日、休暇、賃金の決定、計算及び支払い方法、賃金の締切及び支払時期、昇給、退職に関する事項(解雇の事由を含む)については、労働基準法施行規則第5条4項に基づき、書面の交付により明示しなければなりません。さらに、明示を電子メールやPDF形式の文書で実施する場合は以下の要件を満たす必要があります。

明示を電子メールやPDF形式の文書で実施する場合の提示条件

・労働者本人の希望があること
・受信者を特定できる通信手段を用いること
・明示内容を出力して書面が作成できること

上記要件に加えて、情報が第三者に漏れるリスクを避け、労働者が内容を適切に保存・確認できる形式で提供することが重要です。

労働条件の適切な明示によるメリット・デメリット

ここまでは労働基準法15条に則り、どのような内容の明示が必要かについて紹介してきました。ここからは労働条件の適切な明示によるメリット・デメリットについて解説します。

メリット

法律を遵守し、適切に労働条件を明示することで、労働者と雇用主の双方に多くのメリットをもたらします。例えば、雇用主は労働条件を明確に示しておくことで、双方の認識の違いを減らし、労使トラブルを未然に防ぐことができます。

また、企業の信頼性を向上させることにも繋がります。一方、労働者側は自身の権利と義務を理解しすることで、安心して働くことができ、雇用主との信頼関係の向上やモチベーションの向上に期待ができます。このように、労働基準法第15条に基づく労働条件の明示義務は、日本の労働環境を支える重要な基盤であり、その理解と適用が労働者保護の鍵となります。

デメリット

デメリットとして挙げられるのは認識の相違による労務トラブルにて要する時間をはじめとした負担、並びに罰則による金銭的負担です。金銭的な負担としては具体的に雇用主が上記の労働条件を明示しない場合、あるいは口頭など義務付けられた方法で明示しない場合、30万円以下の罰金が科せられます(労働基準法第120条第1号にて「次の各号のいずれかに該当する者は、三十万円以下の罰金に処する。」と記載)。

雇用する企業の立場としては事業運営に集中するためにも、このような労務トラブル、罰金などは回避したいのは言うまでもないでしょう。このような負担を回避するためにも、今回ご紹介した労働基準法15条に限らず、法令遵守に向けた取り組みを進めていくことが必要です。

最後に

内定通知書は労働基準法第15条に則って労働条件を正確に伝える重要な文書です。企業はこの文書を通じて、透明性を持って新たな労働者との関係を築き、後のトラブルを防ぐためにも正確な情報提供が必要です。法改正に伴い、内定通知書に記載すべき事項が増加し、より細やかな配慮が求められているため、企業は今まで以上に誠実な対応を心掛け、労働者との良好な関係性を築く第一歩を目指しましょう。

この記事を書いた人

岩崎久剛

1984年兵庫県生。関西大学工学部を卒業後、受験支援事業を全国展開する大手教育事業会社にて総務人事など管理部門を経験し、2012年より人材業界に転身。大手総合人材会社にて求人広告、人材紹介など中途採用領域での法人営業を経験し、従業員数名規模のベンチャーから数10か国に展開するグローバル企業まで多様な業界、事業フェーズの企業の採用を支援。2016年よりハイキャリア領域の人材紹介事業立上げメンバーに参画し、関西ベンチャーを軸とした採用支援に従事。その後、ビズアクセル株式会社を起業。MBA(グロービス経営大学院)。

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