社会の在り方を変えていく挑戦
株式会社Compass セールス事業部マネージャー 通堂高広氏

プロフィール

株式会社Compass
セールス事業部マネージャー
通堂高広氏(つうどうたかひろ)

大学卒業後、不動産会社で営業職に従事した後、リクルート媒体等を扱う求人広告代理店に転職。タウンワーク、リクナビNEXT、Indeedなどの様々な採用ソリューション営業にて中小企業から大手企業まで幅広く担当し、最終的にはプレイングマネージャーの形にてマネジメント業務にも従事。2022年より株式会社Compassに参画。

株式会社Compass

2022年に神戸に本社を置くソーシャルベンチャーの株式会社Compassに転職を決めた通堂氏。彼の過去のキャリアで感じたこと、Compassが向き合う社会課題などについてお話し頂きました。

目次

人材業界への転身

岩崎 新卒ではどのようなお仕事をされていたのですか。

通堂 新卒では取り扱う金額が大きな営業に挑戦したいという思いで不動産会社に入社し、個人営業を中心に担当していたのですが、1年ぐらい経過した頃に物足りなさを感じるようになってきていたんです。個人向けの営業もやりがいはあったのですが、よりダイナミックなB2Bのビジネスに挑戦したいという思いが強くなり、2004年に2社目の求人広告等を取り扱う広告代理店に転職を決めました。

岩崎 なぜ求人広告の営業に身を移すことにされたのですか。

通堂 2社目はリクルート社の広告媒体を主に取り扱う代理店だったのですが、当時はリクルート社が「タウンワーク」をリリースした直後で、アルバイト探しにまだまだ課題があった社会に新しいサービスを普及させて世の中を変えていくぞというチャレンジングなフェーズにあったんです。このようなチャレンジングなフェーズが魅力的だったことと自分自身、新規営業には自信があったので挑戦を決断しました。

求人広告の営業はしんどいことも多かったのですが、それ以上に楽しいと思えることが多い仕事でした。アルバイトの採用は当時も簡単なものではなく、アルバイトの方を採用するためにどのように広告を打ち出していくのか、待遇をどう変えていくのかなどをお客さんと一緒に考えながら形にしていく過程などには非常にやりがいを感じていました。

リーマンショックの頃は雇用が一気に減ったので、求人広告に限らず、人材業界全体が低迷する中、勤務先でも退職者が相次ぐ状況にありました。私個人の当時のモチベーションとしては一緒に働く仲間がとても大切な存在だったので、なんとか売上を立てて会社を支えたい、仲間の雇用を守りたいという思いでひたすら走っていました。

その後は、Indeedなどの新たなサービスの取り扱い、積極的な人材採用、大手企業との取引に向けた施策を敢行するなど成長にアグレッシブな経営方針に変わり、退職時には社員数500名規模の組織体制にまで拡大していきました。そのようなフェーズの中で会社や事業の成長を感じながら仕事をできたことは自分にとってはとても良い経験でしたし、今でも育てて貰った前職には感謝の気持ちが強いですね。

人材業界の大きな構造変化の中での違和感

岩崎 転職を決断されたきっかけを聞かせてください。

通堂 前職の後半は大手企業チームのプレイングマネージャーのような働き方をしていたのですが、予算に対してどのくらいの応募数を獲得するかといった数字の会話がひたすらに続いていました。取り扱う金額も大きくなり、そのようなダイナミックさに面白さはあったものの、人材の仕事というよりはデータと向き合う仕事という感覚を持っていました。

時代の流れとしてもそのような方向にあるのは理解していましたが、仕事の大部分が応募効果の分析など統計に近いような業務になっていく中、自分が思う人材の仕事の在り方と徐々に乖離が広がっていく感覚でした。年齢も40歳をこえ、ビジネスパーソンとしては後半に差し掛かる中、このままで良いのかという違和感はずっと抱えていたというのが当時の本音ですね。

また、自分が前職の仕事をしながらずっと心に引っかかっていたのが、採用に至らない求職者の方の存在です。求人広告を通じて多くの求職者に応募頂き、採用に繋がることはとても嬉しいのですが、その裏側では良縁に至らずにもがき続けている多くの方が間違いなく存在しています。このような求職者の方にとって何かできることはないだろうかというのは、ずっと考えていたんです。

そんなことを考えながら転職活動を開始し、1か月程度経った頃、現職の株式会社Compassと出会いました。求人広告の営業を通じて多くの企業様と仕事をさせて貰ってきましたが、ワーキングプアの雇用という社会課題解決と向き合う会社はなかなかなかったこともあり、存在を知った時からとても印象深く感じていたことを覚えています。

ワーキングプアの現実に直面

岩崎 Compassに入社されて感じていることをお聞かせください。

通堂 真っ先に挙げられるのは「日本からワーキングプアを無くす」をミッションに取り組んでいるからこそ見えるワーキングプアの現実かと思います。入社してからCompassの取り組みを多くの企業様にご案内させて頂いているのですが、このような取り組みに理解を示してくださる企業様もあれば、「ワーキングプアの求職者を受け入れることに何のメリットがあるんだ」と難色を示されることも珍しくありません。

また、求職者の方とのご面談も担当させて頂いているのですが、想像以上に多くの方がお仕事に困っておられる現実に直面しています。例えばあるシングルマザーの方の場合、子育てがあるために時間的制約があり、時間の融通がきく非正規での就業しかできないために収入も不安定という境遇にあったりされます。しかしながら、そのような家庭環境を理解してくださる企業への雇用機会が持てず、今の境遇からなかなか脱却できず、将来に対する悩みや不安を抱えておられるというような感じです。

シングルマザー以外にも色々な事情でワーキングプアに陥り、将来を不安に感じている方と、日々ご面談をさせて頂いています。このような現実は前職の求人広告の営業ではなかなか触れる機会がありませんでしたが、今はこの現実を目の当たりにし、何とか力になれる存在になっていきたいという気持ちでいます。

岩崎 前職よりも経営陣との距離が近い環境の中で感じることなどはありますか。

通堂  そうですね。前職と比べると経営陣との距離が近く、ダイレクトにコミュニケーションをとる機会が多い中で日々多くの刺激を受けています。その中でも私が印象的に思ったことの一つに、代表の大津が社内に対して「日々の仕事が作業になってしまわないように」と継続的にメッセージしているがあります。社会課題の解決に向けて一枚岩で頑張っているつもりではありますが、日々の忙しさに追われる中で、自分たちが目指すべきビジョンよりも目の前の仕事に視点が狭まってくるのは避けて通れないことかと思います。

この言葉の趣旨としては、目の前の仕事がただの業務としてではなく、Compassが目指すビジョンの実現、社会課題の解決に繋がっているかを考えながら一人ひとりが行動していく組織を目指しての言葉だと私は受け止めています。そしてビジョンは掲げているだけでは浸透するものではなく、社員一人ひとりが腹落ちするまで粘り強くコミュニケーションをとっていくことが大切な中、継続的に大津がメッセージを発信し続けているかと考えています。

この一例に限らず、大津はじめ経営陣がどのような事業、組織にしていきたいかを私が汲み取り、いかに現場と接続しながらそれらを形にしていくことが自分の役割かと考えています。特にCompassの事業フェーズはまだまだ仕組みなど未整備な部分も多い体制ですので、足許ではしっかりと事業としての基盤を形にしていきたいですね。

社会の在り方を変えていく挑戦

岩崎 Compassで実現したいこと、今後の展望などについてお聞かせください。

通堂  先ほどもお話しました通り、それ以上に課題なのはワーキングプアに対する社会の目だと考えています。ワーキングプアの受け入れに対して辛辣なことを仰る企業様もありますし、前向きな姿勢で向き合ってくださる企業様はまだまだ多いとは言えません。私としては雇用だけのお話ではなく、このようなワーキングプアを取り巻く社会の在り方、考え方を変えていかなければならないと考えています。

また、私が日々ご面談をさせて頂く求職者の方は逼迫した目の前の生活を何とかするために日々を過ごしているが故に、自分のキャリアとちゃんと向き合う機会を持てていなかったような方が珍しくありません。そのため、自分のこれまでのキャリアに自信を持ち切れていない方も多いですし、ご面談の中では「自分には何ができるだろうか」といった言葉を頂くことも多いです。

ただ、ワーキングプアに陥っているから人より劣っているなんてことは決してなく、どんな方にもそれぞれ得意なこと、性格的な強みなどがあります。まずは一度、立ち止まって貰い、これまで重ねてきた経験や性格的な強み、目指すべき未来を言語化していくことが、今の境遇から脱却する第一歩だと考えています。私としてはそのような一歩を踏み出すきっかけになれるように、一人ひとりの方と対峙していきたいと思っています。

社会を変えるには、小さなことの積み重ねでしか成し得ないと思います。Compassの目指すビジョンに繋がるように、一つひとつの仕事と向き合いながらビジョンを形にしていきたいですね。

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