働く女性が知っておくべき転職と産休・育休の両立について

「いずれは子どもを授かりたい」と考えている女性にとって、産休・育休の制度は大きな関心事です。転職先企業における産休や育休の状況がどうなっているのか確認したいものの、そもそも雇用条件の何を確認したらいいかが分からないという方が多いのではないでしょうか。今回は働く女性の産休・育休問題、特に転職前後の産休育休取得について詳しくご紹介していきます。

目次

産休・育休の概要

産休は1911年から、育休は1922年から定められた子育て世帯向けの制度であり、今日に至るまで形を変えながらも多くの子育て世帯を支えてきました。現代では少子化や価値観の変化、ライフスタイルの多様化にともない、産休・育休の取得についてさまざまな議論がなされるようになり法整備が進められています。そもそも産休・育休とはどのような制度なのでしょうか。まずは、各制度の概要や特徴などについて見ていきましょう。

産休とは

産休とは、出産前後の母体保護を目的として労働基準法で定められた休業制度です。正式名称は「産前産後休業」で、出産前の6週間(多胎妊娠の場合は14週間前)と出産後8週間の2つの時期の休業を指します。

産前休業に関しては、労働者から企業に対して請求があれば、企業側は労働者の雇用形態に関わらず、この請求を拒否することはできません。産前休業は強制ではないため、労働者自身に「出産ギリギリまで働きたい」といった意思がある場合は、本人の体調を優先したうえで出産予定日近くまで働くことも可能です。

産後休業については出産の翌日から8週間休業するよう定められています。妊娠4か月以降経過していることが条件として、仮に死産や流産であっても上記の期間は休業が可能です。例外として、本人に働きたいといった意思があり、なおかつ医師が労働を許可した場合に限り、産後から6週間経過したら復職が可能ですが、産後6週間はいずれにしても就業が禁止されています。

育休とは

育休とは、休業制度の一つであり「育児休業」が正式名称です。文字通り、育児が必要な期間に子育てをするために取得できる休業制度であり、産休と共に申請・取得するケースが一般的です。育休は1歳未満の子どもを養育している労働者のみが取得できるのが特徴で、原則として休業期間は子どもが1歳になるまでです。ただし、1歳を迎えた後も保育所に入所できないなどの事情があれば、最大で子どもが1歳6か月になるまで、それ以降も事情によって子どもの養育をしなければならない場合には2歳になるまで、と必要に応じて休業期間を延長することが可能です。

産休とは違い、育休は必ずしも取得しなければならないものではありません。産後すぐに働き始めたいのであれば、産休が明けたら育休を取得せずにすぐ復職することもできます。

また、育休は近年段階的に進化を遂げており、2021年6月の法改正により、休業期間を2回に分ける分割取得や男性用の育休である「産後パパ育休」が創設され、非常に注目が集まっています。法律で決められた以外にも特別な休暇や研修を設ける企業も増え、男女ともに育休取得率は増加傾向にあります。

意外と知られていない?!  育児休業と育児休暇の違い

紛らわしいのですが、育児休業と育児休暇は別のものです。

  • 育児休業:育児・介護休業法により定められた従業員の権利。1歳未満の子どもを養育している従業員が対象となる
  • 育児休暇:企業には育児休暇を導入する「努力義務」があるのみで、実際に休暇の導入の有無や取得条件は企業ごとに異なる。小学校就学前の子どもを養育している従業員が対象となる

つまり対象者に「育児休業」を取得させないことは違法ですが、「育児休暇」については詳細が企業の判断に委ねられており、厳密なルールはありません。そのため育児休暇期間中は有給か無給か、取得できる対象者の条件など、企業によって異なります。転職先の「育児休暇」の詳細や取得条件は事前確認しておくと良いでしょう。

転職直後に産休・育休は取得できる?

いずれ子どもを授かりたいと考えている女性が気になるのが「転職直後に産休や育休は取得できるのか」という点ではないでしょうか。子どもを授かるタイミングは完全にコントロールできるものではないため、転職直後に子どもを授かったと判明することもあるかもしれません。転職直後に妊娠が発覚した場合、産休や育休は取得することができるのでしょうか。

産休は取得可能

産休には申請・取得等の条件は一切設けられていないため、転職直後に妊娠が発覚しても産休を取得することが可能です。そもそも、産休の取得に条件を定めたり、休暇の申請を拒否したりすることは違法であり、企業には深刻な罰則が与えられます。労働者は無条件で産休を取得できるため、転職直後であっても一定期間は休業が可能です。

とはいえ、転職して間もないタイミングで長期休業に入ってしまうことは、転職先企業にとっては想定していることではなく、その人に任せる予定だった仕事が任せられないという問題が発生するかもしれません。また職場の人間関係が構築できていない中で休業に入ることは少なからずネガティブな影響がおよぶ可能性があります。休業後の復職のことを考慮し、業務習得が完了して職場の人間関係を築いてから産休に入ることができるよう、できる限り転職時期の調整をするようにしましょう。

育休は転職先との労使協定による

育休は原則として「1歳未満の子どもを養育する労働者」という要件を満たしていれば取得が可能とされています。そのため転職直後であっても育休を取得できる可能性はあります。しかし育休は産休とは異なり、取得するための条件を企業が設定していることがあります。

雇用から1年未満の労働者は育休が取得できなかったり、有期雇用でその後の雇用関係継続を想定されていない等、育休取得において合理的な理由がなかったりすると、育休の申請を拒否されてしまう場合があるのです。そのため転職先を選ぶ際には労使協定をきちんと確認し、どのような条件で育休が取得できるのかを確認しておく必要があります。

産休・育休中に転職をするケースについて

「いざ子どもを授かってみたら、これまで同様に働くことは難しいと感じた」「休業中に家族が転勤となった」など、やむを得ない理由で産休・育休中に転職を検討することもあるでしょう。しかし産休・育休中の転職は、勤務していた企業、及び転職活動の中で応募した企業、いずれにも良い印象にはならないという点に注意しなくてはなりません。

そもそも産休や育休は、基本的に復職することを前提として活用する休業制度です。そのため企業はいずれ元の職場に戻ると想定して、その人の担当業務を調整して、復職しやすいようにサポート体制を整えていたりします。復職せず退職することは不誠実な心象を与えかねません。

休業中に転職活動をした場合、応募先の企業からも良い印象にはなりません。産休育休明けは母子ともに体調が不安定になるケースが多く、転職と子育てを両立するのは難易度が高いものです。「採用しても勤怠が安定しない可能性があるのでは」といった懸念から採用される難易度が上がるのはやむを得ないでしょう。

どうしても転職しなければならない場合には、やむを得ない事情であることを元の勤務先や応募先企業に伝え、理解を得られるよう努めましょう。もし転職することができたら、スムーズに勤務開始できるよう、子どもの預け先の早めに探したり、ご自身の体調管理も含め、万全の準備をすると良いでしょう。

ベンチャー企業で産休・育休を取得するのは難しい?

いずれ子どもを授かりたいと考えている女性としては、会社の規模が大きくない中小企業や業務が多忙なベンチャー企業に転職すると、産休・育休を取得するのは難しいのではないかと心配されるのももっともなことです。

しかし、見方を変えれば、大手企業では全社員の待遇を平等にするため、産休育休に関して厳格なルールで運用されているのに対し、昨今のベンチャー企業はリモートや時短などの新しい勤務形態を積極的に取り入れていたり、社員数が少ないことを生かして、個別柔軟な対応ができるケースもあります。ベンチャー企業で活躍する子育て世代も増えているので、転職先として現実的な選択肢になりつつあると言えます。

ベンチャー企業に限らず、産休育休の取得状況は経営方針や企業カルチャー、担当業務によって大きく異なりますので、1社ずつ確認するしかありません。転職活動の際には応募先の人事担当者、または担当する転職エージェント等に確認しましょう。

転職直後の産休育休、受け取ることができる・できない給付金

まず転職直後に産休を取得した場合でも受け取ることができる給付金は「出産育児一時金」です。出産育児一時金とは、原則として子ども1人につき42万円が受け取ることができる制度のことです。会社の健康保険もしくは国民健康保険に加入していれば受給できます。また転職前と転職後の健康保険期間が連続していることが条件になりますが、「出産手当金」も受け取ることができます。金額は標準報酬月額の2/3になります。これらの給付金は出産費用に充てるケースが多く、働く子育て世帯の経済的負担を軽減することが期待されています。

育児休業期間中に一定の給付金を受け取ることができる「育児休業給付金」がありますが、転職直後では受け取ることができない場合があります。企業ごとに給付条件が変わるため、担当者に確認する必要があります。

上記のほか、妊婦健診費の助成や医療費の補助、社会保険料の免除など、妊娠・出産・休業を機に国や自治体、会社から受けることができるサポートはたくさんありますが、どれも自分から申請しないと受けることができません。それぞれ申請期日がありますので、早いタイミングで手続きの準備を進めましょう。

最後に

産休・育休の制度は近年たびたび改正され、育休の分割取得や産後パパ育休導入など、非常に複雑化してきています。自分が当事者でなかったとしても、自分の家族や部下が産休・育休に入ることになった時に適切な対応ができるよう、今や働く方全員にとって産休・育休制度の理解は大切なことです。正しい理解のための一助として本記事を参考にしていただけたら幸いです。

この記事を書いた人

岩崎久剛

1984年兵庫県生。関西大学工学部を卒業後、受験支援事業を全国展開する大手教育事業会社にて総務人事など管理部門を経験し、2012年より人材業界に転身。大手総合人材会社にて求人広告、人材紹介など中途採用領域での法人営業を経験し、従業員数名規模のベンチャーから数10か国に展開するグローバル企業まで多様な業界、事業フェーズの企業の採用を支援。2016年よりハイキャリア領域の人材紹介事業立上げメンバーに参画し、関西ベンチャーを軸とした採用支援に従事。その後、ビズアクセル株式会社を起業。MBA(グロービス経営大学院)。

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