同じ人事、HRの仕事とはいえ、大手企業とベンチャー企業ではその役割が大きく異なります。「自分の力を試してみたい」「もっとやりがいのある仕事をしたい」「会社経営を支える人事になりたい」と、ベンチャー、スタートアップ企業への転職を考えている方も多いのではないでしょうか。
そこで今回はベンチャー、スタートアップ企業の人事に転職を検討している方に向けて、ベンチャー企業の働き方など転職活動の前に理解しておくべきポイント、さらにはCHRO(Chief Human Resource Officer)やプロフェッショナルリクルーターなどベンチャーでの人事ならではのキャリアパスなどについて解説します。
ベンチャー人事の仕事内容
ベンチャー、スタートアップ企業の人事担当が請け負う仕事は多岐に渡ります。特に多くのベンチャー、スタートアップ企業では、人事担当者が1人しかいないことが多く、例えば採用、教育研修、労務管理、退職に関する手続きなどの他、入社された方用の備品を揃えるなど総務関係の業務などまですべてを1人で担うことがあります。
しかし、大手企業では人事担当者が多く在籍しており、採用担当、教育研修担当など分業制を導入している企業がほとんどです。そのため、採用部門に在籍する人事は人材採用のための業務を一任しており、採用のスペシャリストとして専門性を身に着けられる部分はあるかとは思いますが、その他の業務に携わることがない方も少なくないでしょう。
一方でベンチャー、スタートアップ企業での人事業務は任される裁量範囲は広いため、会社全体を俯瞰した仕事ができること、あるいは組織が小規模であるが故に自分が採用した人の活躍を肌で感じやすいなとのやりがいを感じやすいかと思います。
ベンチャー企業で働く人事のメリット
ベンチャー、スタートアップ企業の人事として働くメリットには以下のようなものがあります。転職活動の際にはこれらのメリットを踏まえ、応募企業の中から自分に合った企業を選択しましょう。
主体性、スピード感をもって業務に取り組める
大手企業の人事では小さな業務でも多くの管理職の承認を得る必要があります。しかし、ベンチャー、スタートアップ企業では、少ない人数で事業を動かすことが多いため、実力があれば、1人の裁量権の範囲が広く、主体性、スピード感をもった業務遂行がしやすい環境であることが多いです。また、前述の通り、仕事の幅が広いため、さまざまな知見を学ぶことができることもベンチャー、スタートアップ企業での人事だからこそのメリットと言えるかと思います。
事業・組織を俯瞰して見る力が身につく
採用、教育研修、人事異動などまで広く業務に携わることで人材、組織に関して俯瞰して見る力が自然と養われてくるでしょう。例えば営業組織でも立ち上がり初期はまず営業メンバーの採用に力を入れていくものの、営業の勝ちパターンが見えてくる段階に入ると、その勝ちパターンを入社間もない営業メンバーでも再現性をもって取り組める仕組みづくりなどに着手しなければならないフェーズに入ってきます。このような事業、組織の変わり目などを間近で目の当たりにすることが多い中、人事として例えば仕組みづくりに長けた人材を採用するか、あるいは今のメンバーの人員配置でうまく運用できないかなど、組織が最も機能する施策を考える機会を通じて事業・組織を俯瞰して見る力が培われていくかと思います。
事業・組織の成長に貢献している実感をもてる
ベンチャー、スタートアップ企業は小規模な組織が多いです。自分が採用した方の働く様子は間近で見ることになるので強い責任感も芽生えると思いますし、また自分が採用した人材が活躍する様子などに触れた際にはとてもやりがいを感じられるかと思います。
そしてこのような小規模組織から自身が採用活動に奮闘する中、100名をこえる規模にまで成長をさせるのは、言わずもがな事業・組織の成長に貢献している実感をもてるかと思いますし、そのプロセスを通じて自身の成長実感をもてる瞬間も多いかと思います。
ベンチャー、スタートアップ企業で働く人事のデメリット
ベンチャー、スタートアップ企業の人事として働くデメリットには以下のようなものがあります。転職後のギャップなどが無いよう、以下のデメリットについても理解を深めておきましょう。
特定分野のスペシャリスト的働き方は難しい
ベンチャー、スタートアップ企業の人事として働くメリットの裏返しになりますが、採用などの特定分野に特化した専門性を身に着けるという観点では大手企業などと比較すると厳しい部分があるかと思います。大手企業の場合は採用や教育研修などの専門部門に配属される形になりますので、採用担当であれば新卒・中途なども含めた採用のスペシャリストへと成長できるかと思います。
一方、ベンチャー、スタートアップ企業では当然ながら採用だけではなく、人事領域に関して広く担当していかなくてはなりませんので採用だけに100%パワーを割くわけにはいきません。なかなか人事をはじめとしたバックオフィスに十分な人員を配置できることは厳しいというのが現実な中、事業フェーズがある程度進まないと専門分野に特化した人事のような働き方はしづらいかと思います。
業務の幅が広い分、労働時間が膨らみやすい
業務の幅が広いために各分野のことを学ぶ時間が発生する、あるいは人事の業務は採用活動での面接や内定者フォロー、教育研修など自動化しにくい業務が多い中、労働時間が膨らみやすい傾向にあります。そしてこのような事情の中で人事メンバーを増員したくとも、初期のベンチャー、スタートアップ企業では管理部門にそこまで人件費の投資予算をとることが難しく、一人に業務が集中しやすいということもあるかと思います。
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ベンチャー人事のキャリアパス
ベンチャー、スタートアップ企業の人事へと転職したのち、どのようなキャリアパスが期待できるのでしょうか。ここからは、人事領域で考えられるキャリアパスを紹介します。
人事部門のマネジメント職
人事担当として実務経験を積み、マネジメントの立場を目指していく選択肢が第一に挙げられるかと思います。人事に関して採用、教育研修、人事制度などまで幅広い領域を自身の采配でまとめる立場になりますので、事業・組織を動かすダイナミックな感覚にはやりがいを感じられるかと思います。
特にベンチャー、スタートアップ企業の場合には事業成長に伴い組織の形が大きく変わる中、ある程度組織規模が大きくなると人事評価制度の企画・改訂等の必要性がでてくるなど人事企画的な要素も高まってくることが想定されます。
バックオフィス業務に広く関与する人事総務
ベンチャー、スタートアップ企業の人事担当として人事業務に関わるだけでなく、総務業務などバックオフィスに関して幅広く業務に関わる機会も多い中、ある程度幅をもったバックオフィス業務に関わるゼネラリスト的な人事総務にシフトしていくケースもあります。その場合には人事・総務などバックオフィス業務に広く関与するケースもあれば、IPOなどを目指すベンチャー、スタートアップ企業では法律などの知識・専門性(労基法などに基づく人事規定などの仕組み作り、会社法などを踏まえた株主総会の準備・運営など)を身につけてキャリアを磨いていくというケースもあります。
プロフェッショナルリクルーター
ある程度、事業・組織規模が拡大した際に、人事業務全般からベンチャー、スタートアップ企業の拡大の肝である「採用」に特化したリクルーターという役割にキャリアを尖らせる選択肢も最近では増えました。経営をリードするCxOクラスの採用、あるいはプロダクト開発を握るエンジニアの採用が出来るか否かが、事業成長の鍵を握るといっても過言ではありません。
尚、リクルーターとして採用実務を行うだけでなく、事業・組織規模が拡大した際には新卒・中途を含めた年間での採用計画立案の他、採用市場の相場感に精通したリクルーターだからこそ会社や組織課題を鑑み、「●●のような人材を迎え入れることで事業を前進させていきましょう」という社内に閉じない課題解決提案などによる貢献などのシーンも出てくるかと思います。
CHRO(Chief Human Resource Officer)
人事の最終的なキャリアパスとして人事最高責任者を意味するCHROを目指す方が多いかと思います。人事の観点により経営を支える役割にはなりますが、当然、組織の課題や目指す姿は企業ごとに違いますので企業により、コアになるミッションは変わってきます。
例えば採用が難しい人材難の時代だからこその生産性・定着率の向上などが求められる中で、VVM(ビジョン・ミッション・バリュー)を如何に策定して落とし込むのかといったプロジェクトの推進、タレントマネジメントの仕組みの導入などを主なミッションとするようなケースなどがあります。自分の在籍している組織、あるいは今後転職先候補となり得る組織において、どのような人事課題があるかなどを捉え、企業の成長を支えられるCHROを目指していくことが大切かと思います。
これからの成長に期待のできる「勝てるベンチャー」と出会うために
ベンチャー、スタートアップ企業への転職活動を試みた経験のある方の中には、大手企業と比べて企業情報、求人情報を探すこと、また企業概要までは分かったとしてもビジネスモデルや事業優位性など詳細な情報収集が難しいと思った方も多いのではないでしょうか。
言うまでもなく、大手企業や上場企業のように公開情報が豊富な訳ではなく、財務情報やビジネスモデルなど実態が掴みづらいのがベンチャー、スタートアップ企業です。特に設立から間もないベンチャーの場合、HPなどwebサイトに十分な予算をかけることが難しく、最低限の情報のみ記載されているような企業も少なくありません。
また、ベンチャー、スタートアップ企業は、まだ世の中にない最新技術などを駆使したビジネスを展開されている企業も多いため、HPの情報だけではなかなかビジネスの特徴や全体像などを掴みづらいというのも、転職者が情報収集に苦労する一つです。
ベンチャー、スタートアップ企業への転職活動において企業情報、求人情報を探す過程で、上記のように様々な問題に直面する場合が多く、自分に合ったベンチャー、スタートアップ企業を探し、出会うことは非常に難易度が高いです。このように情報収集が容易ではないという前提の上ではありますが、その上で以下のような探し方をご紹介します。
積極的にPRをするベンチャーと戦略的にPRを控えるベンチャー
こちらでは今後、成長性に期待のかかるベンチャー、スタートアップ企業との出会いをつくるために参考になる方法についてい解説いたします。特に積極的にPRをするベンチャー、戦略的にPRを控えるベンチャーがありますのでそのような観点について以下ご紹介します。
積極的にPRをするベンチャー
ベンチャー、スタートアップ企業の求人情報の探し方、情報収集方法としては、まず「Wantedly」を活用されることをお勧めします。企業側の視点で見た際に、Wantedlyは比較的安価な料金で利用可能なビジネスSNSであり、多くのベンチャー、スタートアップ企業がWantedly上で情報を公開しています。そのため、転職活動の第一歩として利用するツールとしてはよいかと思います。
また、「注目すべきベンチャー●選」、「優良ベンチャー●選」、あるいは経営者にフォーカスをあてた特集など、様々なテーマでベンチャー、スタートアップ企業の情報をまとめたキュレーションサイト(まとめサイト)も存在します。Web上での情報収集においては、このようなWebサイトを参考に情報収集をされると良いでしょう。
また、ベンチャー、スタートアップ企業は自社をPRする場として、行政などが主導するビジネスプランコンテストなどに出場することが多いです。ビジネスプランコンテストは経営者が自社のビジネスモデルの特徴、どのような市場成長性のあるマーケットで戦っているか、将来どのような展望を考えているかなど、具体的な内容を発表し、審査員が評価します。
ビジネスプランコンテストは一般公開しているものも多くありますが、コロナショック以降はYoutubeなどオンライン配信形式(LIVE配信のみ、あるいはYoutubeに残す場合など様々)をとるケースも増えました。そのため、仕事が忙しく、ベンチャー、スタートアップ企業を探すことになかなか時間を割けない方でも、このような場に参加しやすくなりました。
戦略的にPRを控えるベンチャー
ここまでベンチャー企業、あるいは経営者がどのような形で情報を発信しているかお話してきました。しかし、PRに積極的なベンチャー、スタートアップ企業ばかりではありません。認知度を上げることは企業の成長において重要なことではありますが、目立ちすぎることで「この市場は魅力的な市場だ」と、競合の参入を加速させてしまう可能性も高まります。こちらでは戦略的にPRを控えるベンチャー、スタートアップ企業について解説していきます。
ベンチャー、スタートアップ企業の成長において大きな脅威の一つが、大企業の参入です。資本力のある大手企業が参入する中、資金力や人材など経営資源の足りないベンチャーが太刀打ちするのは至難の業といっても過言ではありません。
そのような脅威に注意を払っている経営者は、自社HP含めwebサイト上での発信を控えている他、ビジネスプランコンテストのような表舞台には極力姿を現さず、水面下で静かにシェア獲得を推し進めるような戦略をとっていることが多いです。そして、ある程度シェアを獲得できた段階、あるいは大型の資金調達などが実現され、一気に競合各社を引き離したいという瞬間に、ようやく大々的に露出していきます。
転職エージェントを活用した水面下での採用活動
このような戦略的にPRを控えるベンチャー、スタートアップ企業は、自社の採用活動に関しても慎重です。例えば公に情報を露出する求人サイトではなく、転職エージェントなどを活用し、競合他社に動きが見えないよう、水面下で採用活動を進めるような採用施策をとる企業も多いです(特にCxOクラス、ミドルマネージャークラスの求人募集に際し、転職エージェントを活用するケースが多いです)。
また、このような戦略的にPRを控える企業の場合以外においても、多くの場合、転職活動は孤独です。自身の経歴の棚卸、今後の自分のキャリアプランをどうしていくべきかなど腹を割って話ができる存在がいるかいないかは、自身の転職活動を良い形で進めていく上で重要です。
転職エージェントは国内に数万社あり、職種や業界に特化した転職エージェント、あるいは経営層、マネジメント層に特化した転職エージェントなどそれぞれ特色があります。これまでの経験、自分が描きたいキャリアなどを踏まえ、自分に合った転職エージェントをパートナーに転職活動を進めても損はないでしょう。
上記の通り、経営者の考え方、市場や競合環境により経営方針は様々であり、必ずしも露出が多いから優良ベンチャーという訳ではありません。事業フェーズがそれなりに進んでいるにも関わらず露出が少ない企業の場合には、その背景についても調べてみる、または面接において経営者に直接確認してみるのも良いでしょう。
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最後に
今回は、ベンチャー、スタートアップ企業の人事に転職する際のメリットやデメリット、キャリアパスについて解説しました。会社の成長に貢献できている実感、仕事の幅といった魅力があるの裏側で、自動化が難しい労働集約的な業務が多い人事ならではの大変さなどもあるのがベンチャー、スタートアップ企業の人事になります。
その他にも認知度も低いベンチャー、スタートアップ企業だからこその採用の難しさなど壁にぶつかることもあるかとは思いますが、そのような環境の中で考え、工夫していく機会などが多い分、成長機会が多いのもベンチャーの人事かと思います。そのような環境で自身を磨きながら転職活動、さらにはCHROをはじめとした自分自身がありたい人事のキャリアプランの解像度を高めることなどにつなげていただけると幸いです。