上場会社、IPO準備会社に欠かせない内部監査とは

組織運営に関し、コンプライアンスが厳しくなる中、内部監査の重要性が年々高まってきています。しかしながら、内部監査がどのような役割を果たすのか、なぜ必要なのかまで正しく理解されている方は多くはないのではないでしょうか。こちらの記事では、内部監査の設置が必要な組織、内部監査の役割などについて解説していきます。

目次

内部監査とは

内部監査は社内の人間が、管理部門、事業部門などに対して不正防止などを推進する役割を担います(外部より中立的な立場で監査業務を行う場合は、「監査役」という位置づけになります)。社内の人間が担う仕事ではあるものの、合法性と合理性の観点から公正かつ独立の立場で監査業務に臨むことが求められます。

内部監査の仕事内容としては監査手続書の作成や、J-SOX(内部統制監査制度)の運用などが挙げられます。基本的には現場に赴き、事業運営、組織運営の実態を把握の上、改善点を指摘し、健全なあるべき会社経営の状態に運んでいくことが内部監査の仕事になります。また、社外監査役(常勤監査役・非常勤監査役)とは違い、内部監査は財務状況や業務状況の調査に加え、経営者や部門責任者に対して問題点を助言することができることも内部監査の仕事の特徴といえるでしょう。

このように内部監査には、業務の不正防止、効率化に向けた改善提案などが期待されるものの、売上を立てるような役割を担う立場ではないため、経営層が内部監査の役割を軽視している、あるいは正しい知見を持って監査業務を実施できる人材が不足している問題などもあります。

また、昨今の新型コロナウィルスの問題により、在宅勤務が推奨される形となり、今ではフルリモートでの組織運営を行う企業も珍しくなくなりました。このような働き方の柔軟性が進むことは喜ばしい反面、内部監査の立場からは事業運営、組織運営の実態が掴みづらい状況でもあり、このようなご時世を加味した上で、監査業務を行いながら、改善を進めていくことは内部監査の方の取り組むべきテーマの一つといえるでしょう。

内部監査の流れ

内部監査の仕事の流れは会社により当然異なりますが、こちらでは比較的多くの企業が取り入れる工程について解説していきます。

予備調査

まずは予備調査を行います。内部監査は会社全体を確認する業務であり、効率よく進めなければ膨大な時間がかかってしまうものです。そのため、本調査の前に予備調査を行うことで内部監査を行う側と受ける側の双方があらかじめ課題を整理したり、本調査で必要となる資料を把握したり、業務の状況を説明するために誰の時間をどの程度確保しておく必要があるのかなどをすり合わせたりして、内部監査全体をなるべく効率よく、かつ効果的なものにすることを目的としています。

監査計画

予備調査後は、会社の規定に沿って監査計画を立てます。内部監査では一般的な課題をチェックすることも必要ですが、その会社の経営者がいま何を重視しているかや何に課題を感じているかを把握し、それに関して内部監査の手続きを通じてどのような情報を経営者に報告し、どの点について改善を促すことが効果的なのかという視点を持っている必要があります。また、その時々の社会情勢の中で重視されるようになった点(例えば、コンプライアンス、働き方、個人情報保護など)を織り込むことも必要でしょう。ですから過去の監査計画を踏襲するだけでなく、毎回新鮮な視点から監査計画を策定するという姿勢で臨みたいところです。

内部監査でチェックすべき課題について予備調査を待たずに把握できている場合は、予備調査に先立って、または同時進行で監査計画を作成する場合もあります。このあたりも、効率よく内部監査を行うために工夫すべきところといえるでしょう。

監査実施

監査計画を立てた後には本調査を実施します。内部監査の目的は、手続きを通して現状や課題を把握し、将来の改善につなげていくことです。問題が発見されるというのは言い方を変えれば内部監査が有効に機能しているということであり、将来の改善につながることになりますから、ポジティブに捉えたいところです。

多くの場合、監査を受ける側は問題が発見されることを恐れますが、監査を行う側は問題に対して叱責するような態度ではなく、前向きに改善につなげていこうとする姿勢を発信しながら内部監査手続きを進めていただくのがよいでしょう。そうすることで、監査を受ける側と適切な協力関係を築くことができ、結果的に効率よく内部監査ができる環境がつくられるものだと思います。

評価

監査が終了した後は、調査・分析で得た情報や証拠書類をもとに評価をします。ここで取りまとめた情報は、経営者への評価や追加質問に対する回答などに必要となるだけでなく、次回以降の内部監査手続きの精度や効率を向上することに役立ちます。たとえば、すぐに解決できそうなちょっとした課題について次回の内部監査時に正しく改善できているかできていないかは、その課題そのものの重要性とは別に、その部門が適切に課題を解決していける組織かどうかを確認する試金石となります。

内部監査がうまく機能していない会社だと、毎年同じ部門で同じ課題が発見され、それが改善されず繰り返されるという状態になっていることもあります。内部監査はその都度完結するものではなく継続していくものであり、その繰り返しの中でどんどん課題が解決され、組織がブラッシュアップされていくというのが正しい姿だということを理解しておいていただきたいと思います。

報告

報告書を作成したら、取締役や経営幹部、監査対象部門に報告と説明を行います。報告においては、要点をおさえ濃淡をつけるような工夫も大切です。細かい課題も含めた量の多い報告をしたほうが仕事をしている感じがするかもしれませんが、あらゆる課題を同じ温度感で全て報告することは、より重要な課題を経営者に見落とさせてしまうことにもつながりかねません。

発見された課題に一定の優先順位をつけるなどして報告を行うことが、経営者にとっては重要な課題を把握しやすくなることにつながるでしょう。内部監査担当者には単に手続きを遂行する能力だけでなく、経営者にとってどういった課題が重要なのか、把握すべきことはなんなのかを判断できる幅広い視野や知見が求められます。

改善アクションの提案

調査・分析の結果、改善すべき点が見つかった場合は、何が理由で改善すべきと判断されたのか、今後どのように改善していくといいのか、いつまでに具体的な改善アクションを起こすのかなどを、対象部門に対して提案や指示を行います。内部監査の目的は改善を繰り返すことにあるといえるため、この「問題点が改善されているかどうか」が大変重要です。

調査を行い結果をまとめて報告をしてはいるが、そこで発見された課題が改善されないというのでは、手間をかけて内部監査を行っている意味がありません。内部監査部門としては経営者に報告して手続きを終えるのではなく、この改善がどの程度進んだかや、どの部門の改善が進み、どの部門では進みにくいのか、その原因は何なのかというところまで把握することが大切です。

内部監査の仕事で役立つ3つの資格

内部監査の仕事は資格をもたずともできますが、資格を取得しておけば、専門的知識やスキルを有していることが客観的に証明できます。内部監査の業務に関連する3つの資格ついて紹介します。

公認内部監査人(CIA)

公認内部監査人(CIA)は内部監査人協会(IIA)が認定をしている資格で、世界約190カ国で試験が実施されている世界水準の認定資格です。当初は米国で始まった資格になりますが、内部監査の重要性が高まりを見せる中、日本でも内部監査を務める人材のスキルを明示できるために、1999年11月より公認内部監査人(CIA)認定試験の日本語受験を開始しています。

ビジネスに関する様々な領域の知識を身につけることが求められる資格ですので、この資格を取得することで内部監査に必要な幅広い知識を持っていることを証明することができます。

内部監査士(QIA)

内部監査士は一般社団法人日本内部監査協会(IIA-J)が認定する資格です。一度の試験で合格するというものではなく、一年間を通して複数回(6回程度)開催される内部監査士認定講習会を受講し、終了論文を提出して論文審査を受けて合格となるものです。こちらは日本国内のみでの資格ですが、昭和32年から開催されているものであり、知名度の高い資格であると言えます。内部監査に関する基礎知識や、部門ごとの内部監査を行う上でのポイント、三様監査(内部監査、監査役監査、公認会計士による監査)についてや、内部監査報告書の作成など内部監査の実務を行う上で有益な内容がカリキュラムに含まれていますから、この資格の取得を通して得られる知識で、内部監査の水準を一層向上させられることでしょう。

内部統制評価指導士(CCSA)

内部統制評価指導士はCSA(Control Self Assessment)に関する知識とスキルの修得と能力を有することを証明する資格です(CSAはコントロールの自己評価を意味します)。前述しました公認内部監査人と同じく、内部監査人協会(IIA)が認定する資格試験であり、実務経験がなくても受験は可能ですが、CCSAとしての認定のためには試験合格と合わせて1年以上の実務経験が必要となります。

内部監査へのキャリアステップ

内部監査を務める方の前の仕事は、経理財務など管理部門に従事していた方が多いですが、一方で営業部門など事業サイドで従事していた方を内部監査に据え置くことも珍しくありません。内部監査の仕事は決算書を作ったりするものではなく、あくまで各部門の業務フローなどをヒアリングなどで調査の上、健全な組織運営の体制に移行していくことが役割になります。

そのため、決算書で何がおかしいかなどを見極められる最低限の知識は必要になりますが、必ずしも管理部門出身者である必要はありません。例えば事業サイドが会社の中で強い位置づけにあるような組織の場合には、事業サイドに顔のきく方が務める方が円滑に監査業務を進められるでしょう。このように各社ごとに組織運営上の課題は異なる中、この課題とご自身のこれまでの経験が合致する場合には内部監査へのキャリアパスは選択肢として持て得るといえます。

しかしながら、監査に関する専門性などについてはキャッチアップが必要となりますので、QIA(内部監査士)、CIA(公認内部監査人)など先に挙げたような資格取得をはじめ監査に関して積極的に学びにいく姿勢が大切になります。

内部監査の転職活動

内部監査への転職を希望する方の多くが、内部監査の求人情報を収集することに苦労された経験がおありではないでしょうか。内部監査は社内異動などで組織編制をする場合が多く、他の職種のように求人数が多い訳ではない中、いかにして効率的に情報を集めていくかが肝心です。こちらでは内部監査の求人を探す方の転職活動で推奨する2つの手法についてご紹介します。

スカウトサイトを活用した転職活動

一つ目はスカウトサイトを活用した転職活動になります。これまで主流であった転職サイトなどからスカウトを待つ転職プラットフォームに移行しつつあります。具体的には「ビズリーチ」「リクルートダイレクトスカウト(旧キャリアカーバー)」「エンミドルの転職」などが挙げられます。このような転職プラットフォームと呼ばれる市場はこの数年で急激に市場が拡大し、2021年には前述のビズリーチを運営するビジョナル株式会社が東証グロース市場にも上場を果たしています。

これら転職プラットフォームに情報を登録しておくことで、経歴を見た転職エージェント、または企業より直接スカウトを貰うことが可能です。自分の経歴に合った求人情報をある程度網羅的に情報を集めることができるため、多忙な管理職の方にとっては有効な転職手法の一つと言えるでしょう。

転職エージェントを活用した転職活動

前述の様な転職プラットフォームサービスの台頭はあるものの、まずは自身の現状について相談したいという場合には転職エージェントを活用していくこともよいでしょう。多くの場合、転職活動は孤独です。自身の経歴の棚卸、今後の自分のキャリアプランをどうしていくべきかなど腹を割って話ができる存在がいるかいないかは、自身の転職活動を良い形で進めていく上で重要です。

転職エージェントは国内に数万社あり、職種や業界に特化した転職エージェント、あるいは経営層、マネジメント層に特化した転職エージェントなどそれぞれ特色があり、内部監査を必要とするIPO準備企業や上場企業に強い転職エージェントも存在します。これまでの経験、自分が描きたいキャリアなどを踏まえ、自分に合った転職エージェントをパートナーに選びましょう。

最後に

内部監査は社内の人間が担う仕事ではあるものの、合法性と合理性の観点から公正かつ独立の立場で監査業務に臨むことが求められ、業務の不正防止、効率化に向けた改善提案などが期待されるものの、売上を立てるような役割を担う立場ではないため、経営層が内部監査の役割を軽視している、あるいは正しい知見を持って監査業務を実施できる人材が不足している問題などもあります。内部監査の仕事を将来的に目指していきたい方はぜひこちらの記事を参考に今後のキャリア形成に役立ててください。

この記事を書いた人

岩崎久剛

1984年兵庫県生。関西大学工学部を卒業後、受験支援事業を全国展開する大手教育事業会社にて総務人事など管理部門を経験し、2012年より人材業界に転身。大手総合人材会社にて求人広告、人材紹介など中途採用領域での法人営業を経験し、従業員数名規模のベンチャーから数10か国に展開するグローバル企業まで多様な業界、事業フェーズの企業の採用を支援。2016年よりハイキャリア領域の人材紹介事業立上げメンバーに参画し、関西ベンチャーを軸とした採用支援に従事。その後、ビズアクセル株式会社を起業。MBA(グロービス経営大学院)。

目次