社外取締役、社外監査役の違いと役割について解説!

社外取締役と社外監査役という言葉はなんとなくは知っていても、両者の違いやそれぞれの役割についてはっきりとはわからないという方も多いのではないかでしょうか。社外取締役や社外監査役は上場企業をはじめとした大手会社に置かれている役職で、株式上場を考えている会社にとっては上場準備の過程ではじめて必要になることが多いものです。

社外取締役と社外監査役はどちらも「役員」に含まれますが、それぞれにどのような違いがあるのでしょうか。今回は社外取締役と社外監査役について、どのような違いがあるのかや、それぞれの役割がどのようなものかについて解説します。

目次

「社外」とはどういう意味か

社外取締役と社外監査役はどちらも「社外」という言葉がついていますが、この「社外」とはどういう意味なのでしょうか。社外取締役と社外監査役で「社外」の要件は若干異なるのですが、おおまかにいうと現在や過去の一定期間において、その会社や子会社などの一定範囲の関係者であったことがない人ということを意味しており、その明確な定義は会社法に規定されています。それぞれの役割を果たすためには客観的な目線が必要であり、そのためにはその会社の内部の人ではいけないということから、このような要件が課されています。

ここで「社外というのは、普段社内にいないという意味ではないのか」と思われた方がいるかもしれません。多くの場合、社外取締役や社外監査役は普段は社内におらず、月に数日程度、必要なとき(取締役会の際など)だけ会社に来るというものなので、そのように認識されている方もおられるかもしれません。実は「普段社内にいない」ことを意味する言葉は別に「非常勤」という言葉があり、「常勤」(=普段社内にいること)と区別されます。このように、「社外」であることと「非常勤」であることは必ずしもイコールではないのですが、実務においては「非常勤」という意味で「社外」という言葉が使われていることも少なくありませんので、注意が必要です。

また、近い意味の言葉で「独立役員」というものもあります。独立役員とは、証券取引所が上場会社に対し設置を義務付けているもので、社外取締役や社外監査役のうちさらに厳格な要件を満たす人のことです。詳しい説明はここでは割愛しますが、株式上場を考える際などはこれについても理解しておく必要があります。

社外取締役、社外監査役の違い

あらためて社外取締役と社外監査役の違いから解説をしていきます。社外取締役や社外監査役を設置する会社には多くの場合「取締役会」というものが設置されており、会社経営における重要な意思決定はここで多数決によって決められます。この取締役会を構成する人のことを「取締役」といい、取締役会で多数決を行うときの票を持っています。社外取締役は「社外」ではありますが取締役ですから、他の取締役と同様にこの票を持っています。

一方、監査役は取締役などの職部の執行を監査(チェック)することが役割です。監査役も取締役会に参加しますが、これはチェックのために参加しているものであり、多数決を行うときの票は持っていません。社外取締役と社外監査役はどちらも会社の経営機能を強化するための役割ですが、この「票を持っているか否か」というのが大きな違いのひとつであると言えるでしょう。

また、社外取締役はその会社を経営するうえで必要になる知識を補う役割も担っているため、実際に社外取締役に選ばれる人は、元経営者だったり、その会社の事業に関係の深い大企業出身者、あるいは大学教授のような研究者や、官僚や政治家から転身した方が就任することもあるなど、様々なケースがあります。それに対し社外監査役は、企業法務や会計などの専門家が就任することが多いです。

社外取締役に期待されること

ここでは、社外取締役に期待されることについて見ていきたいと思います。社外取締役には幅広い役割が期待されていますが、主には以下のようなものがあります。

コーポレートガバナンスの強化

コーポレートガバナンスは「企業統治」とも言われるもので、企業において不祥事が起きたり、社長など特定の人物ひとりの意思決定で暴走してしまうことがないよう、また投資家や株主、関係者と適切な情報共有などが行われるような体制を確保するものです。特に社長の立場が強い会社では、社長の言うことには誰も何も言えなかったり、迎合してしまう雰囲気があったり、あるいは良くない報告が社長に上がってこなかったりするようなことが起きがちです。それが結果的に粉飾決算や法令違反などの不祥事の温床になったり、正しい意思決定の妨げになったりすることがあるため、それを防ぐ役割が社外取締役に期待されています。

そのため社外取締役は社長や他の誰に対しても第三者的な立場である必要があり、その立場から適切な発言をすることでコーポレートガバナンスが強化されると考えられています。

経営陣への助言

社外取締役は元経営者であったり、あるいは大学教授など、特定の領域について深い知見を持っている方であることが多く、社長や他の取締役が経営上の意思決定を行う上で適切な助言を行うという役割が期待されています。社外取締役が適切な助言を行うことで社長や他の取締役が意思決定を誤るリスクが減らされ、より合理的な意思決定が促されることが期待されています。

事業のサポート

社外取締役は自身が元経営者であったり、その会社の事業に精通している人であったりすることから、その業種に関わる人脈を豊富に持っていることが多いでしょう。そういった自身の人脈から必要な紹介などを行うことで、その会社が事業行ううえで役立つ支援をすることができるでしょう。

あるいは、将来に株式上場を考えている会社の場合は、その準備に必要なタイミングでの証券会社や外部専門人材などの紹介や、株式上場のノウハウやスケジュールに関する助言など、その会社が向き合うことになる課題を解決するための支援も期待されます。特にスタートアップ等の若い会社の場合は社内に経験豊富な人材が少ないというケースも多いため、社外取締役に期待するものは多くなるでしょう。

社外取締役の要件

では、社外取締役になるにはどのような要件を満たす必要があるのでしょうか。社外取締役の定義は会社法第2条第15項に規定されています。条文そのものはここでは割愛しますが、その会社や子会社、取締役などと一定の関係にない人物であることが求められています。

これは、社外取締役に求められる役割としてコーポレートガバナンスの強化というものがあり、会社や取締役との間で何らかの利害関係があるようではその役割を果たすことができないはずだからです。社外取締役は重要なポジションだけに、上場準備段階などで新たに選任するときには個人的によく知っている人などを選びたくなってしまうかもしれませんが、この要件を満たせない人を誤って選んでしまうことがないよう、十分に注意が必要です。

社外監査役に期待されること

次に、社外監査役に期待されることをみていきましょう。社外監査役も社外取締役と同様、コーポレートガバナンスの強化という目的のために置かれるものであることには変わりありません。取締役が法令や定款、社内規程などに反した意思決定をしてしまわないように監視したり、社内の情報が適切に取締役会に共有される体制になっていることを確認したりすることで、企業のリスクを下げる役割が期待されます。その具体的な役割として、「業務監査」「会計監査」という言葉があります。

業務監査

業務監査とは、取締役の職務の執行が法令や定款に反していないことを確認する監査のことです。適法性監査と呼ばれることもあります。この業務監査は社外でない監査役も行いますが、社外監査役は法律や会計の専門家が就任していることが多く、専門家の立場からより厳格なチェックや周到な助言が期待されます。

社長をはじめとした取締役が故意に法令に反した意思決定を行うことももちろん防がなければいけませんが、法律や定款の内容は複雑なものでもあり、知らないうちに違法なことをしてしまうという恐れもあります。社外監査役は法律や会計の専門家の立場から、そうしたことが起きないよう適切なチェックや助言を行うことが期待されています。

会計監査

もうひとつの役割として、会計監査というものがあります。その企業の会計の方法やルールに誤った部分がないか、漏れの無い帳簿が作成されているかなどをチェックする役割です。これも社外でない監査役も行う業務ですが、やはり法律や会計の専門家として、より厳しい目を持ってチェックすることが期待されます。監査役に適切にこの役割を果たしてもらうため、監査役の中に公認会計士や税理士が含まれている会社が多いです。

社外監査役の要件

社外監査役の要件は、会社法第2条第16項に規定されています。やはり社外取締役と同様に、その会社や取締役などと利害関係がない人であることが求められています。

上場準備段階などではじめて社外監査役を置く場合、その役割や重要性が社内で十分に理解されていないこともあるかもしれませんが、適切な人材を社外監査役として置き、必要なチェックや助言を受けることは、企業を成長させ強化するうえで必要不可欠なものです。取締役会の場で行われる様々な議論を社外監査役がその場で聞いていて危うい点についてその場で助言を得られるというのは、たいへん心強いものです。そうした役割を適切に果たしてくれそうな信頼できる人材を、多くの企業にぜひ見つけてほしいと思います。

社外取締役、社外監査役への就任に向けて

こちらでは社外取締役、社外監査役就任に向けてのポイントについて解説します。多くのビジネスパーソンが多忙である中、現職のパフォーマンスを落とさないよう、効率的に情報収集を行う必要があるでしょう。こちらではこのような方の転職活動で推奨する2つの手法についてご紹介します。

スカウトサイトを活用した転職活動

一つ目はスカウトサイトを活用した転職活動になります。これまで主流であった転職サイトなどからスカウトを待つ転職プラットフォームに移行しつつあります。具体的には「ビズリーチ」「リクルートダイレクトスカウト(旧キャリアカーバー)」「エンミドルの転職」などが挙げられます。このような転職プラットフォーム市場はこの数年で急激に市場が拡大し、2021年には前述のビズリーチを運営するビジョナル株式会社が東証マザーズ(現東証グロース)にも上場を果たしています。

これら転職プラットフォームに情報を登録しておくことで、経歴を見た転職エージェント、または企業より直接スカウトを貰うことが可能です。このようなプラットフォームに「社外役員を希望する」等の希望条件の記載をしておくと、必然的にそのような情報が集まりやすくなるでしょう

また、どのような企業がこれまでの経験を評価してくれるのかという観点も含め、自分の経歴に合った求人情報をある程度網羅的に情報を集めることができるため、多忙なビジネスパーソンにとっては有効な転職手法の一つと言えるでしょう。

転職エージェントを活用した転職活動

前述の様な転職プラットフォームサービスの台頭はあるものの、まずは自身の現状について相談したいという場合には転職エージェントを活用していくこともよいでしょう。多くの場合、転職活動は孤独です。自身の経歴の棚卸、今後の自分のキャリアプランをどうしていくべきかなど腹を割って話ができる存在がいるかいないかは、自身の転職活動を良い形で進めていく上で重要です。

転職エージェントは国内に数万社あり、社外取締役、CxOをはじめとした役員クラスに強みを有する転職エージェント、あるいは経営層、マネジメント層に特化した転職エージェントなどそれぞれ特色があります。これまでの経験、自分が描きたいキャリアなどを踏まえ、自分に合った転職エージェントをパートナーに選びましょう。

最後に

今回は、社外取締役と社外監査役について、その違いやそれぞれに期待される役割などを解説しました。上場企業はもとより、スタートアップにとっても事業を成長させたり投資家からの出資を受けたり、あるいは株式上場を目指す中で、社外取締役や社外監査役に関する理解はとても大切なものです。近年の法改正において上場企業では社外取締役の設置が義務となるなど、コーポレートガバナンス強化の流れの中でその重要性は増していっています。一部では社外取締役や社外監査役のなり手不足を懸念する声もありますから、自身のキャリアを考える上で将来の選択肢のひとつとするのもよいかもしれませんね。

この記事を書いた人

岩崎久剛

1984年兵庫県生。関西大学工学部を卒業後、受験支援事業を全国展開する大手教育事業会社にて総務人事など管理部門を経験し、2012年より人材業界に転身。大手総合人材会社にて求人広告、人材紹介など中途採用領域での法人営業を経験し、従業員数名規模のベンチャーから数10か国に展開するグローバル企業まで多様な業界、事業フェーズの企業の採用を支援。2016年よりハイキャリア領域の人材紹介事業立上げメンバーに参画し、関西ベンチャーを軸とした採用支援に従事。その後、ビズアクセル株式会社を起業。MBA(グロービス経営大学院)。

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