CTOとは? 役割やキャリアパスについて解説

ChatGPTのような世界に大きなインパクトを与えるようなAIサービスの出現やビジネスのDX化などが一般的になる中、IT・Web領域のスタートアップはこれまで以上に台頭を続けており、それに伴いエンジニア観点で経営を支えるCTOのポジションを設置する企業がこれまで以上に増加しています。

しかしながら、CTOをこれから目指す方にとっては、CTOに必要な素養、どのような経験を重ねていけば良いかなどについて不明瞭に感じている方も多いのではないでしょうか。そこで今回は、CTOの役割、必要な素養などについて解説をしていきます。

目次

CTOとは

近年、多くの日本企業でCEOやCFO、CTOのような、いわゆるCxOの役職を設定する企業が増加傾向にあります。CxOはもともとアメリカの企業で作られた役職で、特定の領域・分野の業務を指揮する取締役や執行役員、事業責任者などに位置付けられることが一般的です。その中でもCTOは、Chief Technical Officerの略で、最高技術責任者となり、主に技術部門のトップの立場を指します。

世界では1970年代後半から1980年代にかけて、ヒューレット・パッカードやIBMなどのコンピューター企業を中心に、CTOを経営の一角に据える体制を敷くようになりました。その後、1990年代にはインターネットや情報通信技術の発展に伴い、多くの企業がCTOを据えるようになりました。

日本においては2010年代に入り、スタートアップが台頭してきました中、CTOをはじめとしたCxOを複数名設置する経営体制にて組織運用をする企業が増えてきました。多くのスタートアップにとっては優秀なCTOが獲得できるかは、強固な開発体制の構築だけでなく、ベンチャーキャピタルをはじめとした投資家からの評価にも繋がるなど今後の成長を大きく左右する中、多くのスタートアップがCTOの獲得に向けて奔走しています。

CTOの役割

企業によってCTOの役割や業務範囲は異なりますが、企業における技術戦略の責任者として技術に関する意思決定や戦略の策定、技術部門のマネジメントなどを担当しています。CTOが果たす主な役割には、以下の4つが挙げられます。

技術戦略の策定と実行

CTOは企業の事業計画実現に向けて技術観点での経営戦略を策定し、実行することが求められます。ビジネススピードの早い、IT・Web業界においては競合他社の追随を許さないように技術観点での優位性確立は事業成長、シェア維持のために不可欠といえるでしょう。

また、「最新技術の活用により、こんなプロダクトを開発してはどうか」という技術観点での新規事業の種、追加機能の開発などを提言していくこともCTOの役割といえます。例えば現行のプロダクトにChat GPTを搭載させるアップデートなどのプレスリリースも2023年には多くあがっており、CTOはこのような最新トレンドをキャッチして競合他社より先んじて手を打っていくことなどが求められるでしょう。

マネジメント

CTOは開発部門をはじめとしたエンジニア組織のマネジメントもミッションに入ることが多いです。ここでいうマネジメントは具体的には開発に関する予算策定・予算管理、プロダクト開発に際しての開発パフォーマンスの最大化に向けた人員配置、外注も巻き込んだエラー回避・効率的なプロジェクト管理の仕組み、人材育成の仕組みなどが含まれます。また、エンジニア獲得は採用市場においても特に難しい領域でもあり、優秀なエンジニア獲得のためにはCTOが積極的に採用に携わることも珍しくありません。

技術トレンドの把握と分析

CTOは常に技術トレンドを把握と分析を行い、自社の技術戦略に反映させる必要があります。ビジネススピードの速い現代において、新しい技術の調査や競合の技術戦略の分析、市場動向は日ごろより意識をしなければいけません。

最新の技術トレンドを把握し、それに適した技術戦略を策定するに繋がるということも当然あるのですが、最新技術やトレンドの開発言語などを取り入れた開発環境を構築することは、これからの若い優秀なエンジニアの採用にも繋がるという部分もあります。

ビジネスサイドとの連携

CTOは、技術とビジネスを連携し、事業化もしくは事業の成長を図ることが求められます。特にビジネスサイドとエンジニアサイドでは共通言語でコミュニケーションがとれないことも多いので、VPoEのような役割の方が不在のフェーズであれば、CTOがそのような翻訳の役割を担うことも珍しくはないでしょう。

その他、外部機関との提携・連携の上でプロダクトの拡張をしていくような成長曲線を歩む企業も多い中、提携企業との協業やコミュニケーションなどにも積極的に関与しながら事業、プロダクトを形にしていき、ビジネスの成長につなげることが求められます。

CTOに求められるスキル、素養

CTOには技術的な観点でのスキルや素養はもちろん、経営陣としてのスキルや素養も必要となります。こちらではCTOという役割を担う上で求められる4つのスキルを以下に解説させて頂きます。

技術的な知見

CTOはエンジニア組織のトップとなる立場であり、新たなプロダクトを作り上げる際には技術的な負債のリスクなど中長期まで見据えた全体設計、あるいは技術観点において競合優位性を構築していく機会などが多い中、技術的な知見は必須となります。

業界のトレンドや最新技術を常に追いかけ、新たなビジネスチャンスや自社の脅威となる技術はアップデートし続けていくことはCTOという立場を担う上で必須条件ともいえるでしょう。

ビジネスに関する知見

CTOは経営戦略に紐づいた上で技術観点での戦略を策定することが必要であり、市場や競合の動向などビジネスに関する理解が求められます。そのため、最新技術などのアップデートと併せてビジネスサイドの知見も培っていかなくてはCTOの役目は務まりません。

特にこの数年、コロナショック、ウクライナ侵攻、シリコンバレー銀行の倒産、株価の乱高下など外部環境の変化が非常に激しい中、自社のビジネス周辺だけでなく、海外も含めた俯瞰した視座、視点を身に着けていくことが、これまで以上に重要になっていくでしょう。

マネジメント力

CTOは開発部門のエンジニア束ねていく必要がある中、開発組織の運営方針等の提言、メンバーの教育や指導、人員配置、業務効率化に向けた仕組み導入などをはじめとしたマネジメント業務は必須といえるでしょう。

近年では開発組織だけではなく、ビジネスサイドも含めてリモート勤務が当たり前の働き方である中、SlackやChatworkなどのチャットツール、Web会議システムなどを活用しながらマネジメントをしていかなければならない中、言うまでもなくマネジメントの難易度はコロナショック以前より高いです。このような世相の中、いかに遠隔でマネジメントを行いながら組織運営をできるかどうかは今の時代のCTOに欠かせないスキルの一つといえます。

コミュニケーションスキル

CTOは開発組織だけでなく、経営陣、ビジネスサイドをはじめとした他部門ともコミュニケーションを取り、企業全体の方向性を把握し、開発サイドとビジネスサイドの通訳として全体調整を図る機会なども多い中、コミュニケーションスキルは必要となります。リードエンジニアとして自ら手を動かすことは得意でも、CTOという役割を担えない方には、このようなコミュニケーションスキルを十分に養い切れていない方が少なくありません。

CTOを目指す方は開発組織のエンジニアだけではなく、ビジネスサイド、コーポレートサイドなどとも共通言語で会話できるように知見をアップデートし続け、まずはコミュニケーションを能動的にとっていくことから始めていくとよいでしょう。

企業の成長ステージにより、CTOの役割は変わる

CTOと一言に言っても成長ステージにより、その役割は大きく変わります。こちらではそれぞれの成長ステージにおけるCTOに必要なスキルや役割を解説しますのでご参考ください。

創業間もないシード期・アーリー期のスタートアップ

プロダクトローンチ前後にあるシード期、アーリー期などの成長ステージのスタートアップでは、創業者と共に経営方針をくみしながらもプロダクトの開発実務までCTOが担うケースが多いです。まずは市場にリリースするプロダクトを形にすることが求められ、かつリリースした初期プロダクトの顧客から得られた反応をどのようにプロダクトへ反映をしていくか検討するフェーズです。尚、このようなプロセスを通じてマーケットに適合したプロダクトへアップデートさせていくことをPMF(プロダクトマーケットフィット)と言います。

創業間もない成長ステージであり、当然ながら組織も未整備であり、プロダクト開発に関する全体像をある程度把握しているレベルのスキルが求められます。このようなシード期~アーリー期にあるスタートアップのCTOになるためには、経験やスキルだけではなく、会社をこれから作りたい、創業間もない中でCTO不在の体制にあるスタートアップとの出会いがないと実現しないため、多くの起業家、起業準備の方との繋がりをもっておくことが大切です。

PMF後のミドル期にあるスタートアップ

ミドル期のベンチャー企業では、事業が本格的に成長を始める段階となります。リリースしたプロダクトの機能追加、改善はもちろん、エンジニアをはじめとした人材採用やそれらの人材が活躍できるマネジメント体制などを考えなければいけません。

そのような中、ミドル期におけるCTOにはプロダクトリリース前後の経験をはじめ、技術戦略や予算の策定、組織マネジメント、人材採用など様々なスキル・経験が求められます。創業期のCTOがそのまま継続することもあれば、外部の人材と入れ替わることやCTOの配下にVPoE(Vice President of Engineering)を設置することなどもあります。

※VPoE・・・エンジニア部門のマネジメント責任者

事業・組織が確立されたレイター期のスタートアップ

事業・組織が確立されるレイタ―期では、IPO(新規株式公開)などを具体的に検討するタイミングであり、企業としては収益力は勿論、事業計画の予実管理経などが機能する営基盤構築が必要となります。

この成長ステージのCTOは、創業時のCTOと異なり、技術以上に戦略立案やマネジメントの役割が強くなり、いかに再現性高く、開発や運用をできる体制を構築できるかなどが重要になります。また、この成長ステージのCTOは完全に開発実務から離れていることが多く、CTO直下にリードエンジニア、VPoEなどを設置し、エンジニア組織全体を俯瞰したマネジメント体制となることが多いです。

更なる成長を目指す上場企業

上場企業と一言でいっても東証グロース、東証プライムなどによって全く事業や組織の構成は大きく変わります。そのため、CTOの役割にも様々なパターンがあり、例えば経営者として意思決定に重きを置くCTO、エンジニア組織の相談役のようなCTO、他部署や非エンジニア組織への説明や調整をメインにするCTO、新規事業の創出に重点を置くCTOなどがあります。上場会社はIR情報にて事業計画なども公開されていますので、どのようなビジョンの中、CTOをはじめとしたエンジニア組織に何を期待しているかなどを読み解くと良いでしょう。

転職時の注意点

ここまでCTOとしての役割などについて解説をしてきました。ここからはCTOとして転職をする際に確認しておきべき点などについて解説していきます。

求められる役割

CTOとして転職する際の第一の注意点として、まずは応募企業からどのような役割を求められるかは明確にすることでしょう。前述のように、成長ステージによって求められる役割が異なりますので、入社前に想像をしていた役割と入社後に求められるものが異なるものにならないよう、選考段階でしっかりと認識を併せておくことが大切です。

技術に関する経営方針、企業文化

技術に重きを置いた企業文化なのか、プロダクト開発に対する方針、技術に関する投資意欲などはCTOが転職する際に重要な要素となります。どれだけCTOが優秀であっても企業文化や考え方、経営方針などが合わない場合、仕事の進めやすさが大きく異なります。

また、他の役員メンバーであるCEOやCOOなどの技術への理解や新しいテクノロジーへの投資意欲があるのかによっても変わってきますので、できる限り技術に関する経営方針については確認することをお勧めします。

組織のパワーバランス

応募企業がエンジニアサイド中心の企業か、ビジネスサイド中心の企業か、組織のパワーバランスや関係性は重要になります。エンジニアサイドが強いとプロダクトの完成度にこだわりすぎるなどして開発遅延の発生や、企画部門が思い描いたものと違うプロダクトができるといったことが起きることがあります。逆にビジネスサイドが強い場合、開発側が社内受託のような仕事の雰囲気が生じてモチベーションの低い組織になっておる可能性があります。

ご自身の強みを活かせる組織かどうかはちゃんと理解した上で検討をする方がよいでしょう。また、見極めのポイントの一つとしてCEOをはじめとした経営チームのバックグラウンドなどを参考にするのも一つです。エンジニア出身の経営者の場合には比較的エンジニアが強く、営業畑出身の経営者の場合にはビジネスサイドが強いといったパターンが多いです。

最後に

今回はCTOを目指す上で知っておくべきことについて解説をしました。企業によってCTOに求められる人材は異なることをご理解頂けましたでしょうか。

自身のこれまでのキャリアを振り返り、どの成長ステージであれば自身のこれまでの経験が活きるか、どのような企業文化であればバリューを発揮しやすいか、しっかり検討した上で、転職活動にのぞむようにしましょう。

この記事を書いた人

岩崎久剛

1984年兵庫県生。関西大学工学部を卒業後、受験支援事業を全国展開する大手教育事業会社にて総務人事など管理部門を経験し、2012年より人材業界に転身。大手総合人材会社にて求人広告、人材紹介など中途採用領域での法人営業を経験し、従業員数名規模のベンチャーから数10か国に展開するグローバル企業まで多様な業界、事業フェーズの企業の採用を支援。2016年よりハイキャリア領域の人材紹介事業立上げメンバーに参画し、関西ベンチャーを軸とした採用支援に従事。その後、ビズアクセル株式会社を起業。MBA(グロービス経営大学院)。

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