スタートアップが知っておくべきCACとは!CPAの違いと合わせて解説!

今回は「CAC」という言葉についてご紹介します。CACはスタートアップ企業でよく使われるマーケティング用語で、Customer Acquisition Cost の頭文字をとった言葉です。日本語では「顧客獲得費用」「顧客獲得単価」などと訳される言葉で、SaaSなどサブスクリプション型ビジネスの増加に伴い、使われることが多くなりました。

CACはサブスクリプション型ビジネスがうまくいっているかどうかを確認するために必要な指標であり、そのビジネスに取り組むスタートアップの企業価値を決める際にも重要な要素となるものです。CACを適切な水準に保ち、さらに改善させることは、サブスクリプション型ビジネスにとって欠かすことのできない経営課題です。CACとはどのようなものなのか、どのように計算し、どのように活用すべきものなのかなどについて解説します。

目次

CACとは

既に触れたとおり、CACとはCustomer Acquisition Cost の略で、日本語では「顧客獲得費用」「顧客獲得単価」などと訳されるもので、その言葉の通り、「顧客1人を獲得するために要した費用の額」を指す言葉です。このCACを正確に計算することで、ある企業が顧客1人を獲得するためにどれだけの費用を使ったのかを把握し、それが合理的なのか、それとも過剰なコストがかかってしまっているのかなどを知ることができます。

CACは、次のような式で計算することができます。

CAC算出方法

CAC = ある期間に新規顧客を獲得するために使った費用の合計 ÷ その期間に獲得した新規顧客数

上述の「ある期間」とは、月・四半期・年などです。スタートアップは1年の間に大きく状況が変わることも少なくないためより短い期間である月で計算することが多いですが、季節変動の大きいビジネスなどであれば月ごとの数字よりも四半期や年間の数値を使って計算したほうが実態を表すような場合もありますので、企業によって適切なものを用いて計算します。

「新規顧客を獲得するために使った費用」はWeb広告などのマーケティング費用の他、集客のためのイベント開催費用、新規営業を行うための人件費、営業所を置くためのオフィス賃料なども含みます。Web広告の費用だけではなく、その企業が新規顧客を獲得するために使っている費用をすべて積み上げて計算するものと理解してください。そのように一定期間に使った費用を、同じ期間に獲得した新規顧客の数で割ることで、新規顧客を1人獲得するために要した金額を計算することができます。

CACとCPAの違い

スタートアップで勤務されていたりマーケティングについて勉強したことのある方は、CACに似たものとしてCPAという言葉を耳にしたことがあるかもしれません。CPAとはCost Per AcquisitionもしくはCost Per Action の略で、日本語にするとCACと同じように「顧客獲得単価」といった言葉になってしまうのですが、CACとCPAは別のものですので注意が必要です。

CPAとはWeb広告などのマーケティング施策について、いくらの費用をかけて、その結果どれだけの新規顧客を獲得したかを表す数値です。CPAの計算に用いる「費用」はその施策に直接要した費用(広告費など)のみを用いて計算するものであり、人件費やオフィス賃料などを含めて計算するCACとは異なります。CPAを用いるシーンを挙げる場合、例えば複数のマーケティング施策(Web広告、テレビCM、ポスティングなど)を実施した場合に、それぞれのパフォーマンスを計測し比較する際などになります。

それに対し、CACは、サービス全体の顧客獲得単価を表しています。ある事業が新規顧客の獲得のためにどれだけの費用を使っていて、その結果獲得できた新規顧客は何人で、そのパフォーマンスはどうなのか(事業全体としてうまくいっているのか、うまくいっていないのか)を知るためには、CACを使うべきでしょう。

なぜCACが重要か

それでは、なぜこのCACがサブスクリプション型ビジネスにとって重要な経営課題なのでしょうか。サブスクリプション型ビジネスの成功は、顧客の積上げがうまくいくかどうかにかかっています。やや乱暴な言い方になりますが、顧客を効率よく獲得し、その獲得した顧客からなるべく多くの売上や利益を上げることでサブスクリプション型ビジネスは成長し、企業価値を高めることにつながっていきます。

その「顧客を効率よく獲得」できているかどうかを表すものがCACです。CACを計算しなければ、企業は新規顧客の獲得をどの程度効率的にできているのか、過去と比べて改善しているのかしていないのかなどを把握することができません。サブスクリプション型ビジネスに取り組む企業が「自分たちはどのくらい効率よく新規顧客を獲得できているのか?」を知るために、CACはなくてはならないものなのです。

CACとLTVの関係、ユニットエコノミクスとは

では、そのように計算したCACが合理的な水準かどうかは、どのように確認すればよいのでしょうか。ここで、もうひとつの重要な指標であるLTV(Life Time Value)を用います。LTVは、獲得した顧客がその後どのくらいの利益をもたらしてくれるかを表す指標です。

LTVの計算方法にはいくつかのパターンがありますが、最も簡単なものは以下のような計算方法です。

LTVの算出方法

LTV = ARPU(平均顧客単価) × 平均継続期間(月)

※サービス提供のために一定の原価がかかる場合は、さらに粗利率をかけることで粗利によるLTVを計算します

このLTVとCACを比較することで、CACが合理的な範囲に収まっているのか、それとも過剰なコストをかけてしまっているのかといったことを把握することができます。

CACがLTVを上回っている場合、そのビジネスは近いうち破綻します。顧客を獲得するためにかかるコストがその顧客からもたらされる利益の額を上回っているわけですから、そのままではうまくいかないことは明らかであると言えるでしょう。もしそのような状況になっていることがわかれば、一刻も早くCACを下げる、もしくはLTVを上げる施策を考える必要があります。

では、CACがLTVを少しでも下回っていればよいかというと、そういうことでもありません。事業内容にもよりますが、SaaSなどのサブスクリプション型ビジネスが健全に成長する目安としてLTVがCACの3倍を超える状態を目指すべきとされています。これを式で表すと、以下のようになります。

サブスクリプション型ビジネスが健全に成長する目安

 LTV ÷ CAC > 3

この「LTV ÷ CAC」によって計算される倍率のことを、ユニットエコノミクスと言います。サブスクリプション型ビジネスに取り組む企業は、自社のCACやLTVを常に把握し、ユニットエコノミクスがどのくらいの水準にあるのか、過去と比べて改善しているのか、ユニットエコノミクスを改善するためにはどのような取り組みが必要なのかといったことを考え続ける必要があります。

CACを改善するには

では、サブスクリプション型ビジネスに取り組む企業がCACを改善するにはどのような方法が有り得るのでしょうか。既に述べた通り、CACは一定期間の「新規顧客の獲得に要した費用」を「新規顧客獲得数」で割った数ですから、これを改善するには費用を減らすか新規顧客獲得数を増やすかしかありません。

費用を減らす方法は、たとえば営業やマーケティングを外注している場合、それを内製化することでコストを下げることが考えられます。代理店営業を用いている場合は自社で営業人員を育てることで代理店手数料を必要無くしたり、Web広告の運用を代行会社などに外注している場合にはそれを内製化することも考えるべきでしょう。

複数のマーケティング施策を進めている場合、パフォーマンスの低いものを止め、パフォーマンスの高い方法に注力するのもよいでしょう。パフォーマンスの高い施策にリソースを集中させることで、全体のパフォーマンスを高めることができます。もしもマーケティング施策ごとのパフォーマンスを比較できるような管理体制が作れていない場合は、まずそうした点から改善に取り組む必要があります。

また、事業規模に対して間接部門の人数が多かったり、過剰なオフィス賃料がかかったりしているような場合もあります。もちろん間接部門は企業の成長に欠かせないものですし、オフィス環境も重要なものですが、CACを改善しなければならない状況にある場合、そうした部分にメスを入れる勇気も時と場合によっては必要です。例えば間接部門の人員を営業やマーケティングに配置換えするなどして、人件費の総額は変えないまま新規顧客をより多く獲得できる体制を作ることができないかなどの検討をしてみるのも改善方法の一つといえるでしょう。

このようなCAC改善の取り組みの際には、同時にLTVの改善も進めていくことがおすすめです。LTVを改善する方法もまた様々あり、アップセルやクロスセルによってARPU(平均顧客単価)を高めることもよいですし、チャーンレート(解約率)を下げることでもLTVは高められ、ユニットエコノミクスは改善します。新規顧客の獲得には顧客維持の5倍のコストがかかるとも言われており、一度獲得した顧客と良好な関係を築き、長くユーザーで居続けてもらうことはLTVやユニットエコノミクスの改善に大きく貢献する可能性があります。いま解約率の高さが課題となっている場合は、カスタマーサクセス部門を強化するなどチャーンレート(解約率)を下げる取り組みにぜひ力を入れてほしいと思います。

最後に

今回は「スタートアップが知っておくべきCACとは!CPAの違いと合わせて解説!」というテーマで、多くのスタートアップが向き合うことになるCACというものについてご紹介しました。CACはマーケティング用語ではありますが、企業価値を決める要素のひとつでもありますから、マーケティング部門や事業部門だけでなく、財務部門や経営管理部門にとっても重要なものです。もちろん経営陣にとって常に把握しておくべきものであり、CACを改善するには何をするべきなのかを考えることは、経営そのものとも言えます。

CACやLTV、ユニットエコノミクスといった指標はもともとSaaSなどのサブスクリプション型ビジネスに取り組む企業で使われる言葉ですが、最近ではそういった事業以外でも、自社に合わせた計算方法を独自に用いるなどしてそれらに似た考え方を取り入れる企業も増えています。スタートアップ企業でのキャリアアップや転職を目指している方には、ぜひこうした言葉や考え方を理解し、ビジネスに役立てていただければと思います。

この記事を書いた人

岩崎久剛

1984年兵庫県生。関西大学工学部を卒業後、受験支援事業を全国展開する大手教育事業会社にて総務人事など管理部門を経験し、2012年より人材業界に転身。大手総合人材会社にて求人広告、人材紹介など中途採用領域での法人営業を経験し、従業員数名規模のベンチャーから数10か国に展開するグローバル企業まで多様な業界、事業フェーズの企業の採用を支援。2016年よりハイキャリア領域の人材紹介事業立上げメンバーに参画し、関西ベンチャーを軸とした採用支援に従事。その後、ビズアクセル株式会社を起業。MBA(グロービス経営大学院)。

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