退職時、どのように挨拶をすべきでしょうか。終身雇用が当たり前だった頃と比べ、現在はどの業界でも勤続年数は短くなっており、入退社する人も以前より増えています。感染症の流行の影響で送別会のようなセレモニーも形を変えている職場が少なくありません。働く人の意識が多様化している中、退職に際しどのようにふるまえばいいか迷う人も増えています。この記事では、退職の挨拶の基本や具体的なフレーズ集、退職後の関係維持に至るまで、円満退職成功するためのコツを実例とともにご紹介します。
退職挨拶の基本パターン
退職するときの挨拶は、これまでの職場に別れを告げる重要なステップです。周囲の人の心象にも大きな影響を与えます。では具体的にどのような点を抑えておくと良いのでしょうか。基本のフォーマットを確認していきましょう。
退職の挨拶には3つの要素を盛り込む
退職挨拶文に必要な要素は3つあります。
1つ目は「感謝の表明」です。ここではこれまで支えてくれた職場の人々への感謝を伝えます。
2つ目は「退職についての連絡事項」です。退職日(または最終出社日)は〇月〇日付けであること、後任はいつ着任予定の誰であることなど、必要に応じて退職にまつわる連絡事項を伝える必要があります。
最後の要素は「未来に向けた言葉」です。自分の未来に前向きな姿勢を示すと同時に、残る上司や同僚との関係を継続する意欲を表現することが望まれます。心から伝わる言葉を選び、印象に残るメッセージとすることが重要です。
退職の挨拶スピーチ 文例で見る基本形
退職の挨拶スピーチ文を実際にご紹介しましょう。この文例には、退職挨拶文の基本形が盛り込まれております。気持ちをこめつつ、長尺になりすぎないように気を配りましょう。
「私、〇〇年間この〇〇会社○○部に勤めてまいりましたが、この度、新たなチャレンジを求め、〇月〇日をもって退職させて頂くことにいたしました。これまで多くの支援と温かい励ましをいただき、心より感謝申し上げます。すべての皆様と共に過ごした時間は私の貴重な財産です。今後は新しい道を歩んでまいりますが、ここで学ばせて頂いたものを今後に生かし、自分なりに社会に貢献できるように努めてまいります。私の担当業務については後任の〇〇さんに引き継がせて頂きましたので、今後もお力添え頂ければ幸いです。最後になりましたが、皆様の今後のご成功とご健康をお祈りして、私の挨拶とさせていただきます。長い間、本当にありがとうございました。」
必ず退職挨拶をしなくてはいけないのか
退職の挨拶は社会人のマナーとして認識されている方が多いとは思いますが、在職した期間が短い場合・職場の人間関係が希薄な場合・何か職場でトラブルがあって退職する場合など、挨拶するべきかためらうこともあるかもしれません。その場合は、退職挨拶のメールができるように準備しておくようにしましょう。退職挨拶は、一緒に働いてきた上司・同僚への感謝を示すだけでなく、退職後の人脈形成に役立つこともあります。退職時の挨拶が新たな人間関係が構築のきっかけになったり、ビジネスチャンスが生まれることもあります。
ちなみに退職代行サービスを使うと直接退職の挨拶することなく退職することになります。礼を欠く印象を与えることになる可能性が高いので、職場に退職後も関係性を継続したい人・企業がある場合は退職代行サービスを使って退職しないほうがいいでしょう。
退職の挨拶で言わなくていいこと2点
退職に際し、どのような挨拶が定番なのか、いつ退職挨拶のメールを送るのがタイミング的に良いのかなど、退職時のマナーはその職場ごとに異なります。在籍中にその会社で自分より前に円満退職した人がどのようにしていたかを参考にして、前例を踏襲するのが無難です。本項では、言及すべきか迷う事柄についてご紹介します。
退職理由・経緯に言及すること
退職の挨拶時、退職の理由や経緯について言及する必要はありません。退職理由はネガティブな経緯につながることも多いですし、退職理由が一つではないこともあります。挨拶のように短い時間で誤解がないように説明するのも困難です。質問を受けた場合であっても、誰からどのように伝わるか分からないものですので、「一身上の都合により」と濁した表現で問題ありません。
転職先の企業名を伝えること
また転職先の企業・キャリアプランといったことについて言及しなくても問題ありません。「かねてから応援してもらっていたので伝えたい」など、自分からあえて伝えたい理由がない限りは言わずにおくのが無難でしょう。もしも聞かれた場合は「まだ正式には決まっていないので」など、ぼかした表現に留めておくのがよいでしょう。
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退職挨拶文を相手別・ケース別に作成しよう
退職の時が近づき、感謝の気持ちを形にしようとするとき、どのように伝えるべきか非常に悩ましいものです。まずは退職挨拶文の実例集を参考にすることで、相手ごとに適した表現を見つけることができます。上司、同僚へ―それぞれの関係性と経験を踏まえた言葉を紡ぎ出すことが大切です。このセクションでは、相手の立場を意識した挨拶文の作成方法を具体例を交えて解説していきますので、スケジュールに余裕をもって退職の挨拶を行えるように準備していきましょう。
上司へ向けた心に響く退職の挨拶文
職場における上司への挨拶文は、日頃の感謝とこれまでのサポートに対する敬意を表す重要な機会です。このような挨拶文においては、自分が学び取った教訓や上司との思い出を適切に語り、敬意と感謝のバランスを取ることが不可欠です。また、未来に向けた良い関係を継続するための意志を示すことも忘れてはならないポイントです。
「〇〇さんの的確な助言と心強いサポートには、深く感謝しております」
「入社して○年。最初は右も左もわからず悩みましたが〇〇さんのご指導と丁寧なアドバイスのお陰で〇〇することができるようになるまでに成長することできました」
「特に印象的なのが○○です。多くの困難がありましたが、○○さんのおかげで、目標を達成することができました」
「○○さんには入社当初から気にかけていただき、大変多くのことを学ばせていただきました。」
「今後も〇〇さんから教えていただいたことを糧にし、活かしていきたいと思っております。」
職場の同僚・チームメンバーへ伝える感謝のメッセージ
同僚たちとの日常は、数えきれない思い出や絆で形作られているものです。退職する際には、そんな同僚たちへの感謝のメッセージを綴ることが、互いの関係をこれからも大切にするための礎となります。挨拶文で伝えるべきは、単純な感謝の言葉だけでなく、一緒に乗り越えた困難、分かち合った成功の瞬間、支え合った日々のことも共有することが重要です。具体的なエピソードを挿入することで、同僚も共感しやすくなります。
「一緒に過ごした〇〇でのランチタイムが私の活力源であり、同じチームで達成した時の成功は、かけがえのない経験でした」
「至らぬ点も多々あったかと思いますが、皆様からいただいた叱咤激励の言葉が私の励みとなり、多くの学びを与えてくれました。」
「この職場で得た経験を今後も活かしていきたいと思っています。これまで、ありがとうございました。」
「機会がありましたら、またご一緒できる日を楽しみにしております」
取引先へ伝える退職連絡で気をつけること
取引先への退職は社内向けのメッセージとは異なり、対外的な連絡事項になりますので、勝手に連絡するのではなく、上司や後任とタイミングや内容を打ち合わせた上で、余裕のあるスケジュールで連絡しましょう。
丁寧に挨拶が必要な関係性の取引先には、まずメールで連絡し、必要な場所には上司や後任と一緒に直接引き継ぎのアポイントをとりましょう。取引先との関係性にもよりますが、社外宛の退職メールには、私用連絡先は書かないほうが無難です。勤務先から機密情報漏洩や顧客を引き抜くリスクがあるとみなされる場合があります。
「私事で大変恐縮ですが、一身上の都合により、○月○日をもって株式会社○○を退職することになりました。最終出社日は○月○日の予定です。」
「後任は、同じ部署の○○が担当させて頂きます。退職までに〇〇の件についてしっかりと引き継ぎを行いますので、ご安心くださいませ。」
「○○様には何かとお力添えをいただき、心より感謝しております。改めてお礼を申し上げます。」
スムーズに退職するための準備とタイミング
円満退職するには、多くの準備が必要です。キャリアを次のステージに進めるための大切な過程ですから、慎重に計画を立てることが大事です。ステップバイステップで、きちんとした手順を踏むことが成功の鍵です。
いつ退職の意志を伝えるべきなのか
退職の意志を伝えるタイミングは、退職がスムーズに進むか否かを決定づける重要な要素です。通常は退職予定日の少なくとも1か月前、できれば2か月前には上司に意向を伝えることが望ましいとされています。ただし、消化したい有給休暇が多く残っている場合は、最終出社日(予定)から逆算して、1~2カ月前に伝えることが望ましいでしょう。また、業務上のプロジェクトの締め切りや、年末年始などの業務が特に忙しい時期には、それに合わせて通知するほうが良いです。重要なのは、会社が次の人員計画を立てる時間的余裕を確保することと、円満な関係を保つことです。また、退職が決まった場合、辞める理由がポジティブなものであれば、より円滑なコミュニケーションが行えるでしょう。いつ、どのように退職の意志を伝えるかは、今後のキャリアに大きな影響を及ぼします。
退職前の必要準備リスト
退職を決意したら、行うべき準備がいくつかあります。まず、退職する日付の決定と同時に、職場に迷惑をかけないように業務の引き継ぎ計画を立てる必要があります。退職の意志を伝える前に、退職願や退職届などの書類を用意し、提出の方法を知っておくことも大切です。また、税金や社会保険、厚生年金などの手続きに関しても、事前に確認しておくことで後々のトラブルを避けられます。
退職後の人間関係の維持について
退職は、働く人たちの人生において大きな転機の一つです。仕事の関係性を超えても親しくし続けたい人とは繋がりを継続的なものにすることもできますし、苦手な人とは退職を機に自然と距離を置くこともできます。ここでは退職後も良好な人間関係を保つコツをご紹介します。
退職前に連絡先の交換を
退職後も元職場の上司や同僚と良い関係を築くには、退職前にフォローアップの土台を作ることから始めます。フォローアップとは、職場を去った後も以前の同僚や上司との関係を健全に維持し続けることを意味します。連絡先交換から始まり、定期的なメッセージ交換、進展の報告、節目の挨拶などが含まれます。連絡先としてLINEの交換が踏み込み過ぎると感じるようであればLinkedInなどのSNSを利用して軽いつながりで近況を伝え合うのも一つの方法です。
定期的にフォローアップの場を設ける
退職後のフォローアップは、将来的に再就職や推薦、参考になるアドバイスを求める場合など、予期せぬサポートを得る可能性をつなぎとめておくことにもつながります。この過程で肝心なのは、退職時の挨拶を含め、人との繋がりを尊重し、相手の立場や状況を考慮したコミュニケーションを心掛けることです。アメリカのスタンフォード大学のマーク・グラノヴェッター博士が提唱した「弱い紐帯の強み」という論文では、『強い結びつきの人よりもたまに会う弱い関係性の人のほうが有益で新規性の高い情報をもたらしてくれる可能性が高い』という説を発表しています。職場を離れることで共通の話題が減っても、双方にとって無理のない関係性を保持するのがおすすめです。
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最後に
職場での最後を飾る退職挨拶、これはただのセレモニーではなく、将来の円滑な人間関係構築のための大切な役割を担っています。適切な言葉を選び、相手に敬意を表しながらも前向きな気持ちを伝えましょう。人は最後に経験した出来事や受けた印象を強く覚えています。これは「リーセンシー効果」といわれる現象で、最新の記憶が過去の記憶よりも鮮明に残りやすい傾向にあります。退職挨拶は、職場の人との最後のコミュニケーションになる可能性が高いシーンです。その言葉ひとつひとつが、長きにわたる仕事仲間との関係を印象づけるものとなります。ここでポジティブなメッセージを伝えることで、退職後の印象も良いものにすることができるでしょう。