どちらが良いの?日本型雇用とジョブ型雇用の違いを解説!

日本の雇用形態には、長年「日本型雇用」が主流として存在してきましたが、コロナショックの中で「ジョブ型雇用」の導入が注目されるようになりました。これらは雇用契約や働き方に大きな違いがあり、企業や労働者に与える影響も異なります。この記事では、両者の違いについて解説し、企業と個人にどのような影響を及ぼすかを見ていきます。

目次

日本型雇用とは

「日本型雇用」とは、終身雇用や年功序列を基盤とした雇用形態を指し、「メンバーシップ型雇用」という表現をされることも多いです。日本型雇用では、ジョブ型雇用と比較した際に企業と社員の長期的な関係が重視される傾向にあり、具体的には次のような特徴があります。

終身雇用


日本型雇用の代表的な特徴としてまず第一に終身雇用が挙げられるでしょう。終身雇用は社員が一度企業に入社すれば、定年まで雇用され続けることが期待され、安定した職業生活が送れる仕組みです。終身雇用により、社員が転職することによる業務運営のリスクを負わない他、企業は長期的に人材を育成する前提での人事制度、教育研修制度の設計・運用が可能となります。

年功序列


年功序列という言葉はご存知の方も多いかと思いますが、日本型雇用では社員の昇進や給与が年齢や勤続年数に基づいて決まる人事制度を敷いている企業が非常に多かったという歴史があります。

これは終身雇用の考え方が前提であり、また高度経済成長期には生成AIのようなビジネスルールをがらりと変えてしまうような環境変化がないとされている中、勤務年数とともにスキルや経験が蓄積されると考えられており、長く働くことで高い地位や報酬が得られる仕組みが成立していました。現在は言うまでもなく、連続的な成長が約束される時代ではありませんので、このような年功序列は廃止となる企業が増えています。

新卒一括採用とジョブローテーション


中堅・大企業を中心に新卒社員を数名~数十名単位で受け入れる新卒一括採用制度を導入していることが多いです。新卒一括採用の後には、社員を営業部門、管理部門など様々な部署でジョブローテーションさせ、広範な経験を積ませる人事制度を敷いていることが一般的です。社員は企業全体の理解を深め、会社を俯瞰して物事を捉えるような視座視点を持つビジネスパーソンへと成長していくことが期待されます。

このようなジョブローテーションの運用の際には、時として営業課長が異動し、経理未経験ながらに経理課長になるというケースもあります。このような職域を大きくこえた異動は日本型雇用の特徴的なものであり、後述するジョブ型雇用では滅多にないものといえるでしょう。

日本型雇用のメリット・デメリット

ここまでは日本型雇用の特徴について解説してきました。ここからはジョブ型雇用のメリット、デメリットについて解説していきます。

日本型雇用のメリット


日本型雇用は終身雇用をはじめ長期的に安定した雇用を提供することで、長期的な視点でのキャリア形成が可能です。社員は転職のリスクを避けつつ、企業内で広範な経験を積むことができます。

また、人事の観点としては退職などが起こった場合、中途採用という選択の他、異なる部署からの人事異動による人材調達が可能というのは、日本型雇用の圧倒的なメリットといえるでしょう。

日本型雇用のデメリット

日本型雇用のデメリットとして挙げられるのは終身雇用、年功序列制度による若手社員のモチベーション低下が挙げられるでしょう。このような組織運用の色が強い組織の場合、若手社員の観点では成果に対して正当に評価されない感覚になり、またなかなか管理職へのポストも空かないことにより、モチベーションが低下、ひいては退職リスクを孕みかねません。

併せて組織の大きな新陳代謝を仕掛けにくいという側面もあり、市場環境が大きく変わり、大規模なビジネスモデルの転換などを余儀なくされるような局面において、短期的に

ジョブ型雇用とは

一方、「ジョブ型雇用」とは言葉の通り、ジョブ(ポスト)に紐づいた雇用契約を結ぶ形態です。欧米では一般的な雇用の仕方であり、以下のような特徴があります。

職務内容が明確


ジョブ型雇用はポストに紐づく雇用形態であり、そのため具体的な職務や役割が雇用契約に明記されます。社員はその職務に必要なスキルや成果を基に評価され、雇用契約が結ばれます。尚、事業撤退などの場合、日本型雇用であれば別部署への異動などを検討する流れとなりますが、ジョブ型雇用の場合、同様のケースなどでは雇用契約が更新されないことが多いです。

スキル・経験を重視した評価


ジョブ型雇用では年齢や勤続年数に関係なく、個々のスキル・経験、成果に基づいて評価がなされます。そのため何でも出来るゼネラリストよりも、特定のスキルを持つ専門家が高く評価される傾向にあり、ジョブ型雇用が基本の欧米の場合、専門性を活かせない領域を変えた転職などは比較的少ない傾向にあります。

残業に対する考え方


ジョブ型雇用では担当する仕事の達成度が圧倒的に重視されます。限られた時間内で効率的に業務を遂行することが求められ、個々の生産性を向上させることで成果を出すことが重要視されます。また、先に記載の通り、明確な職務内容や評価基準が設定されているため、社員は労働時間を管理しやすく、無駄な残業を避けやすい点もジョブ型雇用の特徴といえるでしょう。

ジョブ型雇用のメリット・デメリット

ここまではジョブ型雇用の特徴について解説してきました。ここからはジョブ型雇用のメリット、デメリットについて解説していきます。

ジョブ型雇用のメリット


ジョブ型雇用は、スキル・経験、成果に基づいた公平な評価がされるため、日本型雇用と比べて社員にとっては公平性を感じやすく感じるのではないでしょうか。また、日本型雇用では自分の仕事が終わり、早く帰ろうとした際に、上司から追加で仕事を振られるというケースは珍しくないでしょう。ジョブ型雇用では大前提として職務範囲以外の業務はしないため、自身の仕事を終えた際に職務範囲外の仕事を追加で割り当てられるようなことは少ないので労働時間管理がしやすいです。

ジョブ型雇用のデメリット

ジョブ型雇用のデメリットとしては事業撤退、プロジェクトの終了などポストが不要となったの場合には雇用終了となるケースが多く、他部門への異動などで雇用継続に向けた取り組みが一般的な日本型雇用と比較すると雇用が不安定になるリスクもあります。このような前提を踏まえ、ジョブ型雇用の企業に所属する場合にはこのような不測の事態に対する備えるためにも、自身の転職市場価値などには気を遣うことが望ましいといえるでしょう。

日本型雇用とジョブ型雇用の融合

ここまで日本型雇用、ジョブ型雇用それぞれの特徴などについて解説してきました。いずれもメリット、デメリットがあるため必ずしもどちらが良いという訳ではないのですが、近年ではジョブ型雇用を推奨する世の中の動きもあります。背景には2020年のコロナショックを契機に雇用の当たり前は大きく変わり、リモートワークなどをはじめ企業は柔軟な対応が求められるようになったことなどが要因として挙げられるでしょう。

また、経団連が2020年に実施された「2020年版 経営労働政策特別委員会報告」において、日本型型雇用を維持しつつも、導入可能な企業に対してジョブ型雇用の採用を推奨することを発表しました。その後も「2022年版 経営労働政策特別委員会報告」においてジョブ型雇用の導入・活用の必要性が再び言及されています。

2024年6月21日に閣議決定された「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画 2024 年改訂版」の中で、日本企業の競争力を維持するために、ジョブ型人事(ジョブ型雇用)の導入を進める必要性を提言しています。

そのような中、日本の労働市場ではジョブ型へ移行を進める企業もあれば、日本型雇用とジョブ型雇用両者の良い側面を組み合わせた雇用なども増えてきています。例えばリモートワークを取り入れる場合、管理職の視点でみた際には管理監督が物理的に困難になるのは言うまでもありません。そのため業務範囲が不明瞭な従来の日本型雇用よりも、ジョブ型雇用により、アウトプットされた成果で評価をする形の方が組織運営がしやすいというメリットもあげられます。

また、同一法人の中でも専門職についてはジョブ型雇用にて運用し、他の部門では日本型雇用を維持するハイブリッド型の組織運営などを取り入れる企業もあります。特定分野の専門性を深めていきたい方の場合、異動可能性がある日本型雇用よりもジョブ型雇用の方が中長期でキャリアを積み重ねていけるイメージが持ちやすく感じられるため、採用のシーンなどで有利に働くことなどもあるでしょう

最後に

日本型雇用とジョブ型雇用はそれぞれに異なる強みと課題を持っています。どちらの雇用形態が適しているかは、業界や職務内容、個々のキャリアプランによって異なりますが、日本の労働市場では今後も両者を組み合わせるなど時代に適合した雇用形態が求められるでしょう。

この記事を書いた人

岩崎久剛

1984年兵庫県生。関西大学工学部を卒業後、受験支援事業を全国展開する大手教育事業会社にて総務人事など管理部門を経験し、2012年より人材業界に転身。大手総合人材会社にて求人広告、人材紹介など中途採用領域での法人営業を経験し、従業員数名規模のベンチャーから数10か国に展開するグローバル企業まで多様な業界、事業フェーズの企業の採用を支援。2016年よりハイキャリア領域の人材紹介事業立上げメンバーに参画し、関西ベンチャーを軸とした採用支援に従事。その後、ビズアクセル株式会社を起業。MBA(グロービス経営大学院)。

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