ECベンチャー、スタートアップ企業への転職の際に知っておくべきポイント

2000年代以降、「Amazon」「楽天市場」のようなECプラットフォーマーの台頭で国内EC市場が成長してきました。2020年の新型コロナウイルス問題もあった中、小売を主戦場としたメーカー等のEC市場への参入が相次いでおり、今後もこの流れは加速することが想定されます。こちらの記事ではEC業界全体の動向、またそのような中でどのようなことを考え、転職活動にのぞんでいくべきかなどについて解説します。

目次

ECとは

ECは「Electronic Commerce」の略で、日本語では電子商取引と訳されます。ECはネットショップ、ネット通販などにも言い換えられ、インターネット上でモノやサービスを売買すること全般を指します。具体的にはAmazonや楽天市場のようなECプラットフォームからメーカーが自社で運営するECサイトもECに括られます。

ECプラットフォームにはそれぞれ特徴があります。例えばAmazonと楽天市場を比較した場合、Amazonの場合は商品を軸にユーザーが商品を購入する仕組みであり、一方の楽天市場は楽天市場という商店街に出店するイメージの構成であり、店舗ページの中から商品を選択する仕組みで運用されています。このようにECプラットフォームは、ユーザーにどのような体験を提供したいかの方針によりそれぞれ特徴があります。

また、このようなECプラットフォームに出店する場合、出店する事業者は販売手数料が発生する仕組みであり、利益率を上げたい事業者の多くは、自社ECショップへ集客をしていく体制への移行(あるいは自社ECショップの比率を上げる形での併用)を目指すケースが多いです。

EC業界の歴史

ECが普及したのは1990年代後半からといわれています。Windows95や同98の登場、インターネットの定額制、ブラウザの進化などにより、誰でも簡単にECを利用できる環境が整いました。楽天市場やYahooショッピング、Amazonといった大手が参入したのも、ちょうどその頃です。

2000年代になるとスマートフォンの登場、更にはアパレルに特化したECプラットフォームの「ZOZOTOWN」を運営する株式会社ZOZOをはじめとした領域特化型ECプラットフォームの台頭により、EC市場はさらに拡大しました。特にスマートフォンの普及により、通勤時間などいつでもショッピングができる世界が当たり前になってきたことはEC業界にとって大きなターニングポイントの一つといえるでしょう。

2020年には国内B2CのEC市場は19.3兆円にまで膨らみました。しかしながら、世界と比較した場合に、海外のEC化率は18%と推計されています中、日本は8.0%と世界を基準に置いた際にはEC化率が決して高いとは言えないのが現状です。また昨今の新型コロナウイルスの影響で、デジタルシフトが進んだとはいえ、世界基準にあてはめた場合にはまだまだEC市場が伸びる余白があるとみてもよいかと思います(EC化率を国別でみた場合には、中国が44%、次いで米国が14.5%)。

一方でデジタル市場が飽和傾向にある中、ECだけではなく、実店舗と連携して「O2O(Online to Offline)」など、双方を有効に活用できるオムニチャネル化を進めることで、他社との差別化を図る企業も増えています。日本ではセブン&アイホールディングスイオン無印良品などがその代表格といえるでしょう。

EC業界への新規参入

これまでもAmazonや楽天市場などのECプラットフォーマーの存在で、EC業界への参入障壁が下がりましたが、近年ではBASEメルカリ楽天ラクマのようなサービスの台頭で、個人・小規模事業者のEC業界参入も容易になりました。新型コロナウイルス問題によるデジタルシフトの後押しもある中、小規模事業者の参入、あるいはベンチャー、スタートアップ企業のEC市場参入は今後さらに増えていくことが想定されます。

また、一方でEC業界では既製品の販売だけでなく、会社名などを印刷したカレンダーや文具、あるいはロゴ入りTシャツなどアパレル商品のように、オーダーメイド型EC事業を展開するベンチャー、スタートアップ企業の参入もこの数年で増えてきました。

このようなEC企業は自社で工場を有するメーカーからEC事業者に転じるケースの他、ECに強みを持つ企業がメーカーと提携する形で参入するなどの幾つかのパターンがあります。このような特異性のあるECは前述のようなECプラットフォームではなく、自社独自のECサイトを立ち上げ、運営されるケースが多いです。

小売業界の裾野が広いように、EC業界もニッチな領域などに参入する形でうまく立ち上がっている会社は多いです。そのようなマーケットの間隙を縫ったニッチ領域でEC事業を展開することができれば、ベンチャー、スタートアップ企業であっても、EC市場に参入して成功する勝機は大いに見込めるのです。

EC業界を席捲する7つのECプラットフォーマー

EC市場への新規参入を容易にさせるプラットフォーマーの存在についてこれまで触れてきましたが、こちらでは主要なプラットフォーマーについて記載いたします。EC業界で働く上で無視することはできないので、これらのECプラットフォーマーの動向には常にキャッチアップしていくと良いでしょう。

Amazon

「Amazon」はアメリカのワシントン州シアトルに本社を置くEC企業です。創業者であり、現在も代表を務めるジェフ・ベゾス氏がインターネット黎明期にあった1994年1月に自宅のガレージでAmazonを起業し、創業から3年でIPO(新規株式公開)を果たしています。当初は書籍のECから事業を開始しましたが、現在では家電製品、アパレル、食品など幅広い分野を手掛けるECプラットフォームとしての躍進を遂げています。

単純にAmazonのWebサイトに商品を掲載できるだけではなく、物流機能も兼ね備える体制を確立したが故に、人員不足等で受発注から発送までのオペレーションに課題を抱える事業者でもEC業界に参入しやすい構造を築いているのが大きな特徴の一つと言えるでしょう。

楽天市場

1997年に現在も代表を務める三木谷浩史氏が株式会社エム・ディー・エム(現:楽天グループ)を起業。前述の通り、「楽天市場」は楽天市場という名称の通り、商店街に出店するイメージの構成であり、店舗ページの中から商品を選択する仕組みで運用することを特徴とするECプラットフォームとしてこれまで成長を続けてきました。

Amazonと同様にECだけでなく、物流機能を兼ね備えた体制を確立しています他、「楽天経済圏」と称されるように楽天トラベルや楽天銀行など他サービスも絡めた複合的なプラットフォームとしてAmazonと異なるユーザ体験を強みにこれまで躍進を遂げています。

Yahooショッピング

検索エンジンであるYahoo!が運営する「Yahoo!ショッピング」は、美容やファッション、食品、本・雑誌、インテリアから家電、ガジェットまで、幅広い商品を検索、注文が可能なECプラットフォームです。Yahoo!JAPANのIDでログインが可能な為、Yahoo!の各種サイトを日常的に使うユーザーにとっては比較的取っ付きやすいサービスと言えるでしょう。

ZOZOTOWN

「ZOZOTOWN」は1998年に前澤友作氏に設立した有限会社スタート・トゥデイ(現株式会社ZOZO)が運営しており、同社は2007年に東証マザーズに上場も果たしています(現在は東証プライム)。インターネット黎明期からアパレルに特化したECプラットフォームとしてアパレル業界のEC化をリードし、1998年には「ZOZOSUIT」と称する採寸用ボディースーツサービスをリリースするなどアパレル業界に特化したECプラットフォームだからこその取り組みなどを進めてこられています。2019年にはYahooやSoftBankを擁する株式会社Zホールディングスの連結子会社となり、SoftBankグループのシナジー効果を生かした成長が今後も期待される企業です。

Shopify(ショッピファイ)

カナダのオタワに本社を置くShopify(ショッピファイ)は2004年に創業し、世界175ヶ国以上、100万以上の店舗に利用されているグローバル企業です。Amazonや楽天市場と比較した際には、個人や小規模の小売業者にフォーカスをあてたプラットフォームとして運用をしている点が特徴の一つです。また、スマートフォンのようにShopify利用者がshopify app storeにてアプリケーションをダウンロードし、ECショップをカスタマイズできる点もShopifyの大きな特徴と言えるでしょう。

メルカリ

メルカリは2013年に連続起業家である山田進太郎氏が創業し、フリマアプリ事業「メルカリ」の他、連動するFin Tech事業「メルペイ」などを中心に複数事業を展開しています。これまで市場を席捲するプレーヤーがなかなか出なかったC2C市場に参入し、2018年にはIPOを果たすなど躍進を遂げています。

C2C市場と表現した通り、売買される商品の多くは新品ではなく、中古品が中心になります。中古品の場合、商品の品質が十分に担保できないリスクや個人間でのトラブルなどのリスクがある中、出品者・購入者が相互に評価し合う仕組みなどが他社にはない特徴と言えるでしょう。

BASE

BASEは現代表である鶴岡裕太氏が創業したBASE株式会社が運営するECプラットフォームです。BASEは2012年11月にリリースし、わずか1か月で1万店舗の開設を達成、2019年には東証マザーズにIPOを果たすなど創業当初から現在まで急成長を遂げてきています。ECショップ運営に関する必要な機能が網羅的に搭載されており、初心者でも簡単にECショップの開設が可能なECプラットフォームとして現在では160万以上もの事業者が参画しています。

ECベンチャー、スタートアップ企業へ転職する際に重宝されるスキル

このようにEC業界に参入する事業者が増える中、人材の需要は高まりを見せています。こちらではEC業界へ転職するときに、どのような経験やスキルが重宝されるのかご紹介します。

分析力と改善能力

EC業界ではカスタマーサポートなど一部の業務を除いて、顧客と接する機会は滅多にありません。ほとんどは、PV数、CVR、ROI(費用対効果)といった定量的な指標、データを踏まえて如何に施策に繋げるかが重要になります。これらを分析して課題を見つけ、改善したり新たな施策を立てたりすることができれば、EC業界では強みとなるでしょう。ただし、そこに至るまではトライアンドエラーの繰り返しであり、成果を得るまでは時間がかかります。それでもあきらめずに継続できる粘り強さも欠かせません。

Webマーケティングの知識

自社サイト運営企業であれば、自社サイトへの集客が当然肝になります。そのような中、Web広告運用やコンテンツマーケティングをはじめとしたSEO対策、あるいはTwitterやインスタグラムなどSNSの運用などwebマーケティングの知見は活かせることは多いでしょう。

物流などの仕組み作りに関する知識・経験

ECサイトの運営は当然webだけでは成立しません。ECサイトでユーザーに購入いただいてからの受発注体制、更には物流倉庫と連携した在庫管理なども重要になる中、そのような仕組みづくりに関して知見がある方も活かせる部分があるでしょう。特にECで購入いただいたものの、その後のオペレーションが機能せず、結果的に利益率を大きく下げてしまい、最終的に利益が残らないというケースは多く、このような受発注、物流領域に課題を抱える企業はとても多いです。

商品クリエイティブの知識


楽天市場のようなECモールにせよ、自社ECにせよ、ECサイトでの商品写真には売上に大きく影響します。そのような商品写真のクリエイティブ制作に関する写真撮影、撮影後の商品写真に文字など装飾をつけるwebデザインなどの知見はEC業界で多いに発揮いただけるシーンがあるかと思います。

EC事業者の多くの場合は、これらを外注していることが多いのです。ただし、当然外注任せではなく、自社で主導権をもち、どのようなクリエイティブであれば効果が見込めるかなど仮説検証をしながら外注先に具体的なクリエイティブの作成などを依頼できる体制を構築したいという意向をもっている企業は多いです。そのような中、上記のような知見でもってECサイトのUXに繋げられるような方は重宝されるでしょう。

上記のような項目がEC業界への転職の際にアピールすべきポイントといえるでしょう。そしてEC業界のようにweb領域では感覚的、情緒的なアピールよりも、定量観点での実績の方が重視される傾向にあります。問題解決に向けた工夫などによって、どのような定量的な実績がでたかなどを職務経歴書などにまとめておくことも、転職活動の上で重要なポイントといえます。

ECベンチャー、スタートアップ企業を見極めるポイント

いくらEC市場に成長性があるといっても、すべてのベンチャー、スタートアップ企業が生き残れるとは限りません。EC市場に参入したものの伸び悩んでしまうことは往々にしてあるでしょうし、競合のひしめくレッドオーシャンで展開している企業の場合には倒産などに追いやられてしまう可能性も十分にあり得ます。

そのような群雄割拠のEC市場の中、中長期的に成長が見込まれる企業かどうかを見極めるのが大切です。こちらではそのようなEC市場の中で勝てるベンチャー、スタートアップ企業を見極めるポイントをご紹介します。

ブランディング力

EC業界で成長するベンチャー、スタートアップ企業の特徴の一つとしては、ECにおけるブランディングを如何にうまく仕掛けられているかという点があります。ブランディングは言うまでもなく、そのブランドのファンになって頂く仕掛けであり、例えば、今や国内で最も高い価格設定ながら来場客の成長を続けてきたユニバーサルスタジオジャパンなどをイメージいただくとブランディングの重要性はご理解いただけるかと思います。固定のファンとなるユーザーの存在が多くなれば収益安定化、利益率向上など企業経営の強い基盤構築に繋がります。

ECの世界は店舗ビジネスで展開するブランディングと仕掛けが異なります。例えばインフルエンサーの活用、TwitterやインスタグラムのようなSNSでのフォロワー獲得施策などwebならではの仕掛けが必要となってきます。そのような仕掛けに長けたマーケティング責任者などがEC事業を牽引している企業であれば、今後の成長に期待できる可能性は高いでしょう。

商品力

高い技術力による機能性の高い商品、あるいは海外工場などとの提携により他社では実現できない低価格で提供できるなど、自社固有のオリジナリティある商品力をもっている企業か否かという点も重要です。転職活動の際には、応募企業がどのような強みをもって商品を提供されているのかという点もしっかりと押さえるようにしましょう。

また、商品力に関しては前述の通り、オーダーメイドECのような形で展開している企業も該当します。このような企業の場合にはどのような形でECでの受発注~オーダーメイド品の生産までのビジネスプロセスを構築されているのかなどについて理解をしていくことが大切です。

EC以外の領域でのビジネス展開

前述したO2O(Online to Offline)のようにEC以外の領域でのビジネスと掛け合わせる形で、ユーザーに特別な体験を提供する戦略を進める企業が増えています。例えば普段ECで購入している食品を店舗で自分が作り手として体験できるなどといったイメージになります。

特にこのような戦略をとる企業は元々実店舗を有したビジネスを展開していた会社が、ECと掛け合わせる形で仕掛けるようなケースが多いです。ECだけでなく、実店舗も展開されている企業の場合には、そのような独自のユーザー体験などに力を入れていないかどうかなどを面接の中で聞かれると良いでしょう。

上記は主に有形商材を扱うB2CでのEC事業を展開する企業を見極めるポイントを挙げさせてもらいました。最近ではハウスクリーニングや修理などのようなサービスのECなどを展開する企業も登場しています。EC市場が拡大する中で新たな領域でまだ世の中にないサービスを展開する企業は今後も増えてくるでしょう。そのような新市場で展開するEC企業の場合には市場規模や成長性などを中心に企業理解を深めることをお薦めします。このようなベンチャー、スタートアップ企業の見極めに関して、詳しくは以下記事も参考にされてみてください。

EC業界への転職活動

現職に就業しながら転職活動に臨む場合、なかなか転職活動に十分な時間を割けないという環境にあることが珍しくありません。このような多忙なビジネスパーソンは現職でのパフォーマンスを落とすことなく、効率的に情報収集を行う必要があります。こちらではこのようなビジネスパーソンの転職活動で推奨する2つの手法についてご紹介します。

スカウトサイトを活用した転職活動

一つ目はスカウトサイトを活用した転職活動になります。これまで主流であった転職サイトなどからスカウトを待つ転職プラットフォームに移行しつつあります。具体的には「ビズリーチ」「リクルートダイレクトスカウト(旧キャリアカーバー)」「エンミドルの転職」などが挙げられます。このような転職プラットフォーム市場はこの数年で急激に市場が拡大し、2021年には前述のビズリーチを運営するビジョナル株式会社が東証マザーズにも上場を果たしています。

これら転職プラットフォームに情報を登録しておくことで、経歴を見た転職エージェント、または企業より直接スカウトを貰うことが可能です。どのような企業がこれまでの経験を評価してくれるのかという転職市場での市場価値の理解、あるいは自分の経歴に合った求人情報をある程度網羅的に情報を集めることができるため、多忙なビジネスパーソンの方にとっては有効な転職手法の一つと言えるでしょう。

転職エージェントを活用した転職活動

前述の様な転職プラットフォームサービスの台頭はあるものの、まずは自身の現状について相談したいという場合には転職エージェントを活用していくこともよいでしょう。多くの場合、転職活動は孤独です。自身の経歴の棚卸、今後の自分のキャリアプランをどうしていくべきかなど腹を割って話ができる存在がいるかいないかは、自身の転職活動を良い形で進めていく上で重要です。

転職エージェントは国内に数万社あり、EC専門職のように職種に特化した転職エージェント、ベンチャー、スタートアップ企業に特化した転職エージェント、あるいは経営層、マネジメント層に特化した転職エージェントなどそれぞれ特色があります。これまでの経理財務の経験、自分が描きたいキャリアなどを踏まえ、自分に合った転職エージェントをパートナーに選びましょう。

最後に

EC業界は世界水準と照らし合わせても、まだまだ成長性が見込めるマーケットといえるでしょう。今後も新たなベンチャー、スタートアップ企業のEC市場参入が見込まれるものの、群雄割拠のEC市場の中でどのような企業が成長を続けるのかを見極めること、またそのような企業で必要とされるスキルを身に着けていくことが大切になってきます。転職活動の際には応募企業の強みやビジネスプロセスを理解し、その上で自分がどのように働き、どのように役立てるか明確にしていくようにしましょう。

この記事を書いた人

岩崎久剛

1984年兵庫県生。関西大学工学部を卒業後、受験支援事業を全国展開する大手教育事業会社にて総務人事など管理部門を経験し、2012年より人材業界に転身。大手総合人材会社にて求人広告、人材紹介など中途採用領域での法人営業を経験し、従業員数名規模のベンチャーから数10か国に展開するグローバル企業まで多様な業界、事業フェーズの企業の採用を支援。2016年よりハイキャリア領域の人材紹介事業立上げメンバーに参画し、関西ベンチャーを軸とした採用支援に従事。その後、ビズアクセル株式会社を起業。MBA(グロービス経営大学院)。

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