労務担当者が転職活動で押さえるべきポイント

働き方改革、残業規制などが進む中、労務担当者の役割は企業経営を支える上で、これまで以上に欠かせない存在に高まってきています。今回は人事労務担当者が転職活動の際に知っておくべきこと、多くの企業でどのような役割が期待されているかについて解説します。これまで人事労務として経験を重ねてこられ転職をご検討の方、並びに労務として今後のキャリアアップを目指されている方はご参考ください。

目次

労務とは

労務は一般的には、給与計算、勤怠管理、社会保険の手続きなど企業経営における労働に付随する関連業務全般を指します。大手・中堅企業であれば人事労務、総務労務部門など専任部門を設置している場合もありますが、中小企業やベンチャー企業などをはじめとする多くの企業では人事部、総務部、あるいは経理部が労務を兼任する体制で運営されています。一般的な労務の仕事内容としては具体的に以下のような業務が挙げられます。

労務の仕事内容

・給与計算
・勤怠管理
・社会保険料の手続き
・入社、退職の手続き
・就業規則の作成
・安全衛生管理
・福利厚生管理
・労務トラブル対応

会社規模により、上記業務を複数名で担当することもあれば、一人の担当者が担うこともあります。ただし、労務は労働基準法をはじめとした各種法律の改正などにより、同じ業務でも取り組み方が大きく変わる可能性があるため、法改正をはじめとした世の中の動きには注意の上で業務に臨む必要があると言えるでしょう。

労務に関連するトレンド

労務の仕事に携わる上で法改正や世の中のトレンドを抜きにはできません。数年前に大手広告代理店のパワハラ・過労死問題が大きく取り上げられたことは記憶に新しいのではないでしょうか。メディアが取り上げるこのようなコンプライアンス問題は大手企業や有名企業などを取り上げることが多いですが、中小企業、ベンチャー企業だから許される時代ではありません。こういった類の問題が、会社の存続をも揺るがす大問題になる可能性もあるのです。

例えば労務関係のトラブルで一斉離職などにつながって業務が停滞してしまったりしてしまえば、あっという間に経営危機に陥ってしまいかねません。労務観点において「目に見えない、いつ起きるか分からないリスク」を未然に防ぎ、万が一の場合でもダメージを最小化できるように備えるのが、会社経営を支える労務の重要な役割といえるでしょう。

パートタイム・有期雇用労働法

2020年4月1日より大企業に対し、「同一労働同一賃金」の制度が施行されていました。「同一労働同一賃金」は正社員とパートタイムなどの非正規雇用の従業員との格差をなくすために設けられた制度であり、同じ業務を行う場合には雇用形態に関わらず同じ賃金を支給すべきというものになります。

この「同一労働同一賃金」が2021年4月1日からは、中小企業へも適用される形になっています。労務担当者はそれぞれの部門で業務が同じでありながら、格差が発生している実態がないか管理し、問題が発生している場合には現場の管理職と連携の上、是正していく必要性があります。

パワハラ防止法

2022年4月1日より中小企業では努力義務であったパワハラ防止法が義務化となりました。労務担当者の方はこちらの法改正に適応するために方針策定、現場への周知、相談窓口の設置などの対応が必要となるでしょう。パワハラをはじめとしたハラスメント行為は現場だけの問題ではなく、レピュテーションリスク(企業の信用失墜、ブランドの棄損)などにも繋がる可能性があり、企業経営を支える上でこのようなハラスメント行為に対しての体制整備は最も注力すべき事項の一つと言えるでしょう。

高齢者雇用安定法

2021年4月1日に高齢者雇用安定法の継続雇用制度が65歳から70歳に引き上げられました。このため労務担当者はこの法改正に該当する年齢の従業員に対して意向確認などを行った上、就業規則の改訂なども含めた継続雇用に係る対応をとる必要があります。

言うまでもなく、日本の高齢化は今後、ますます加速していきます。今後、このような高齢者の雇用に関する法改正はまだまだ発生するとみていた方が良いでしょうし、何より人材難な中、高齢者の方が活躍できる就業環境を自社で準備することができないかどうかも労務担当者の取り組むべきテーマといえるでしょう。

育児・介護休業法改正

2021年6月には育児・介護休業法の改正があり、具体的には雇用環境整備、個別の周知・意向確認の措置の義務化、有期雇用労働者の育児・介護休業取得要件の緩和などに関しての規制が変更となりました。育児・介護などによる離職防止を進める施策であり、特にこれまで育休などに関しては女性のみが適用される形が多かったですが、2022年10月には産後パパ育休(出生時育児休業)の創設がなされる改正などもあり、男性・女性に関わらず家庭との両立を見据えた社内体制の構築が労務担当者にとっては今後取り組むべきテーマの一つといえるでしょう。

企業が労務担当者に期待すること

労務人材の募集をかける企業が、転職希望者に期待することはフェーズなどにより当然異なります。こちらでは労務の募集に際してどのようなフェーズの企業が、転職希望者にどんな期待をしているかについて解説していきます。

労務機能の内製化

ベンチャー企業、少人数規模の中小企業では労務機能を社労士事務所など外部にアウトソースしているケースが珍しくありません。このような企業では事業拡大を目指す際に従業員の採用を積極的に行っていくこととなりますが、従業員が増えるに際し、当然ながら中途社員の受け入れ、就業規則の改訂、何十人、何百人もの従業員の勤怠管理などが発生します。このようなフェーズの労務求人に期待されるのは、円滑に労務機能の内製化を進めていくことにあるでしょう。労務機能のあるべきを理解し、組織をリードしていくリーダーシップなどが期待されます。

労務における仕組みづくり

100名程度までの組織規模であれば各部門の状態はある程度把握できるかもしれませんが、それ以上となると当然ながら労務担当者も現場実態を把握することは難しいでしょう。それぞれの現場の管理監督者の裁量に依存した属人性が高い労務管理が行われてい状態はリスクであると理解はしつつも、会社全体でマネジメント品質を担保できるような仕組み化にまで体制構築できている企業は少なくありません。そのような中、管理監督者への教育研修なども含めた労務における仕組みづくりの推進を期待する労務求人も多いです。

リスクマネジメント

労務に関して仕組みがある程度出来上がったフェーズにまで進んでいる企業の場合、潜在的なリスクの洗い出し、あるいは先に挙げた法改正などを汲みながら今後の働き方の変化に先んじて適用できる体制づくりなどが期待されます。このような労務求人の場合、面接の中では労務としての実務経験だけでなく、今後の時代の流れを見据えた上での労務の在り方などについての意見などが求められるでしょう。また、このようなミッションの場合には「労務企画」などの名称で求人募集されることが多いです。

労務担当者のキャリアパス

これまでは企業が労務担当者に期待することについて解説をしてきました。ここからは労務担当者が長期的な視点でキャリアを見据えた際に、どのような選択肢が想定されるかについて解説をしていきます。

総務部長

労務担当者のキャリアパスとしては総務部長が王道な選択肢の一つといえるでしょう。労務と総務を同じ括りにした組織運営の管理体制を敷く企業は多く、労務業務と合わせて取締役会の運営、備品管理、施設管理などの総務業務を経験しながら総務部長を目指していくキャリアステップが一般的です。

労務企画

労務のスペシャリストとして労務に関する企画、施策立案、実行していく労務企画という選択肢もあります。前述の通り、労務に関わる法改正などが今後もまだまだ続いていくことが想定されます中、法改正に適用した組織・仕組みづくりの他、今後の未来を見据えた上で施策を敢行していくことなどは会社経営に大きな影響を与える役割といえるでしょう。尚、このような労務企画のポジションを設置する企業は、数百名、数千名の従業員規模になることが多いです。

管理部長

労務担当者のキャリアパスの選択肢の一つとして管理部長も挙げられます。管理部長はその名の通り、管理部門の長として会社経営の守りの部分を司る役割であり、一般的には経理財務出身者が管理部長を務めるケースが多いです。しかしながら、無借金経営をされている会社など財務基盤が安定している企業などであれば、必ずしも経理財務出身の方が管理部長でなくても務まります。そのため労務担当者の方が管理部長を目指す場合には、会社の財務体制などを鑑みた上で管理部長を務められる可能性のある企業選びが大切といえるでしょう。

しかしながら、管理部長を務めるには経理財務実務の経験はなくとも、財務諸表を読めなくては当然ながら務まりません。将来的に管理部長を目指す労務担当者の方は、簿記をはじめとした会計領域の知見を早めに身に着けていくことが大切といえるでしょう。

人事コンサルタント

労務担当者のキャリアパスの一つとしてこれまでの経験を活かし、人事コンサルタントとして外部より支援を行う働き方も挙げられるでしょう。決算情報と異なり、人事の取り組みが公開されるということはあまりなく、各社がどのような取り組みをしてるかに関してはクローズドな勉強会や人事同士の情報交換などが多いです。そのような中、人事コンサルタントとして他社の成功事例、失敗事例などを踏まえた提案していくことは顧客に価値を感じてもらえるでしょう。また、人事実務のご経験がないままに人事コンサルタントの職に就くケースもありますが、労務の実務経験がある方が現場目線で提案を行う方が、顧客への説得力は当然ながら大きく変わってきます。

労務の転職活動

労務として働く方の多くが組織の中で責任ある立場であるが故に多忙の中、なかなか転職活動に十分な時間を割けないという方も多いでしょう。このような多忙なビジネスパーソンは現職でのパフォーマンスを落とすことなく、効率的に情報収集を行う必要があります。こちらではこのような法務の転職活動で推奨する2つの手法についてご紹介します

スカウトサイトを活用した転職活動

一つ目はスカウトサイトを活用した転職活動になります。これまで主流であった転職サイトなどからスカウトを待つ転職プラットフォームに移行しつつあります。具体的には「ビズリーチ」「リクルートダイレクトスカウト(旧キャリアカーバー)」「エンミドルの転職」などが挙げられます。このような転職プラットフォーム市場はこの数年で急激に市場が拡大し、2021年には前述のビズリーチを運営するビジョナル株式会社が東証マザーズにも上場を果たしています。

これら転職プラットフォームに情報を登録しておくことで、経歴を見た転職エージェント、または企業より直接スカウトを貰うことが可能です。どのような企業がこれまでの経験を評価してくれるのかという観点も含め、自分の経歴に合った求人情報をある程度網羅的に情報を集めることができるため、多忙なビジネスパーソンにとっては有効な転職手法の一つと言えるでしょう。

転職エージェントを活用した転職活動

前述の様な転職プラットフォームサービスの台頭はあるものの、まずは自身の現状について相談したいという場合には転職エージェントを活用していくこともよいでしょう。多くの場合、転職活動は孤独です。自身の経歴の棚卸、今後の自分のキャリアプランをどうしていくべきかなど腹を割って話ができる存在がいるかいないかは、自身の転職活動を良い形で進めていく上で重要です。

転職エージェントは国内に数万社あり、職種や業界に特化した転職エージェント、あるいは経営層、マネジメント層に特化した転職エージェントなどそれぞれ特色があり、信用金庫、銀行などをはじめとした金融業界に強い転職エージェントも存在します。これまでの経験、自分が描きたいキャリアなどを踏まえ、自分に合った転職エージェントをパートナーに選びましょう。

最後に

今回は労務の転職について解説しました。働き方改革、法改正など行政が主導する人事労務に関する施策へのキャッチアップが欠かせない難しさがありますが、そのような労働市場の変化に適用した組織づくり、仕組みづくりをリードできる労務はこれまで以上に転職市場で重宝されることでしょう。

この記事を書いた人

岩崎久剛

1984年兵庫県生。関西大学工学部を卒業後、受験支援事業を全国展開する大手教育事業会社にて総務人事など管理部門を経験し、2012年より人材業界に転身。大手総合人材会社にて求人広告、人材紹介など中途採用領域での法人営業を経験し、従業員数名規模のベンチャーから数10か国に展開するグローバル企業まで多様な業界、事業フェーズの企業の採用を支援。2016年よりハイキャリア領域の人材紹介事業立上げメンバーに参画し、関西ベンチャーを軸とした採用支援に従事。その後、ビズアクセル株式会社を起業。MBA(グロービス経営大学院)。

目次