起業に向けたキャリアパスについて解説!

近年、多くのベンチャー、スタートアップが台頭してきています他、フリーランスをはじめ日本でも徐々に起業しやすい環境が整備されてきました。しかしながら、将来的に起業したいという気持ちがありつつも、いざ起業するにしても今の生活は維持できるのかなど、起業につきまとうリスクについて不安に思う方は多いでしょう。こちらの記事では起業について知っておくべきことについて解説をしていきます。将来的に起業を考えている方、まさに起業準備中の方などはぜひ参考にしてみてください。

目次

起業とは

起業とは「新しく事業を起こす」ことを意味し、「創業」「開業」「独立」なども同じ意味合いで使用されます。起業は株式会社などの法人として新しく事業を起こすスタートアップの他、フリーランスなど個人事業主として事業を開始することも含みます(「開業」という言葉は個人事業主として起業する際に用いられることが多いです)。尚、起業する人のことを「アントレプレナー」「起業家」と呼びます。

起業と併せて覚えておきたい言葉としては「アントレプレナーシップ」「起業家精神」という言葉です。アントレプレナーシップの定義は様々ありますが、こちらの記事ではハーバード・ビジネススクールのハワード・スティーブンソン教授が提唱するアントレプレナーシップについてご紹介させて頂きます。

同氏の提唱する「アントレプレナーシップ」とは「コントロール可能な資源を超越して機会を追求すること」とされています。起業し、事業を始める際に資金や人材などをはじめとした資源が揃っているということはまずありません。しかしながら、起業家はそのような環境で自身が思うチャレンジを形にしなければなりません。自らの創意工夫、あるいは足りない資源を外部を巻き込みながら調達していく姿勢などが起業家には必要であるということを「アントレプレナーシップ」の一つの解釈としてぜひ覚えておいてください。

日本の起業家を取り巻く環境

日本全体の開業率は概ね4~5%で推移しており、2022年は5.1%になります。都道府県別でいくと1位が沖縄県(8.8%)、2位が同率で東京都、埼玉県、福岡県(いずれも6.0%)と続いていきます。都道府県別の開業率は下表についてもご参照ください。

2022都道府県別開業率ランキング

1位:沖縄県(8.8%)
2位:東京都(6.0%)
2位:埼玉県(6.0%)
2位:福岡県(6.0%)
5位:愛知県(5.9%)
6位:千葉県(5.8%)
6位:神奈川県(5.8%)
8位:山梨県(5.6%)
9位:大阪府(5.4%)
10位:熊本県(5.3%)

海外に目を向けると日本の起業における状況は芳しいとは言い難いものといえます。例えば中国では2011年から20年までの10年間に4,400万社以上のベンチャー起業が誕生したという記事などをご覧になった方も少なくないのではないでしょうか。中国では北京、上海といった中核都市の他、経済特区として事業の勃興が昔から多い深圳(シンセン)を中心に多くの起業家が起業を志し、2013年に習近平氏が国家主席に就任してからは更にその勢いが加速したといえるでしょう。

また、中国だけではなく、インド、イスラエルなども起業が盛んな国として年々勢いが加速しています。このような勢いのある海外諸国では開業率は20%を超える国もあり、そのような状況と比較した際に、日本での起業はまだまだ敷居が高いものといえるでしょう。

世界においてこのような立ち位置にある中、2022年1月の年頭記者会見にて、岸田総理は「スタートアップの創出」を掲げ、スタートアップ育成5か年計画を打ち出し、継続して議論を続けていると報じられています。また、2022年11月24日の総理大臣官邸で行われたスタートアップ育成分科会ではスタートアップへの投資額を現在の8,000億円規模から5年後の2027年度には10兆円規模にまで高めること、将来的にユニコーンを100社創出し、スタートアップを10万社創出し、「日本をアジア最大のスタートアップハブ」にしていくことを目指す表明がありました。このような表明の下、今後は国からの後押しも期待される中、日本での開業件数、開業率はさらに高まっていくことが見込まれるでしょう。

日本における起業のリスク

このように起業を考えている方にとってその後押しとなり得る社会の流れがある一方で、起業におけるリスクについても目を向けておかなければなりません。起業は新しいことに取り組むという意味では、とてもポジティブなものですが、一方でちょっとした失敗によって自身や周囲の生活に大きな影響を与えてしまうこともあります中、具体的にどういったリスクがあるのかを知っておくことは重要です。起業のリスクには様々ありますが、こちらでは代表的なものについてご紹介します。

資金のリスク

事業を継続的に展開していくためには、なんといっても資金が必要です。取り組む事業の種類にもよりますが、具体的には起業準備費用や会社設立費用、事業の初期投資資金、その後の事業維持資金などが必要となります。特に取り組む事業が革新的であればあるほど、準備費用や初期投資、あるいはその事業を実現し収益化するまでに必要となる資金は多額になりがちです。

資金計画が十分でなかったために、起業前の準備費用や初期投資資金が足りなくなったり、あるいは起業しても途中で資金が底をついてしまい事業を継続することができなくなってしまうということがあります。そうしたことがないよう、起業時点である程度の資金を確保しておくことのほか、金融機関からの借入やエクイティファイナンスなど起業後に必要に応じて資金を調達する方法について知っておくことはとても重要です。

しかしながら、そうした知識が不足していたことから十分な資金を調達することができないまま廃業に追い込まれてしまうというケースもあります。このように資金のリスクは起業をする上で、一番、気を付けないとならないものといっても過言ではないため、資金調達方法や資金管理などについては早めに知識を身に着けることをお勧めします。

売上のリスク

事業をスタートさせても、想定した通りに集客ができず、見込み客が獲得できないことなどにより、なかなか売上が伸びない場合があります。当然ながら収益を出せなければ、準備費用の回収や運転資金(会社運営に必要な費用)を支払うこともできません。ビジネスモデルにもよりますが、事業を開始すると賃料、人件費、サーバー代など常に一定の固定費がかかることが一般的であり、売上を伸ばし収益を出さない限り手持ち資金は減り続けることになります。そうして資金が底をつけば閉業となってしまいます。

売上を伸ばす、あるいは収益を上げるというのは簡単なことではなく、どんな事業にとっても大きな課題となることが多いため、できれば最低限の売上を確保できる見立てのある状態で起業するというのが理想であるということもできます。あるいは売上がなかなか伸びなかったとしてもすぐに資金不足となってしまわないよう、当初の手持ち資金をなるべく多く確保しておくことのほか、オフィス賃料などのような運転資金、固定費をなるべく少なくしておくこと、本業のほかに売上を上げやすい事業を持っておくことなども考えておきたいところです。

家族のリスク

起業は生活を一変させます。それまで会社員であった方などにとっては働き方も大きく変わり、また会社での福利厚生など生活の助けになっていたものも失ってしまうことが多いでしょう。あるいは事業が思うようにいかなければ生活資金を確保できなくなったり貯蓄を取り崩して事業資金にあてるようなことが必要になったりすることもあり、家族の生活も大きく変えてしまうリスクはゼロとはいえません。そうした点については起業を考える時点で家族とよく話し合い、理解を得ておくことは重要です。

一方で、事業を拡大させれば自身や家族の生活を豊かにできる可能性も多いのが起業です。そのようなリスクも理解したうえでそうしたポジティブな姿を目指してぜひ起業に取り組んでいただきたいと思います。

起業するために必要なスキル・経験

次に、起業のために身につけておくべきスキルや経験にはどのようなものがあるかをご紹介したいと思います。起業には成功した時に生活を豊かにしたり社会に影響を与えたりできるというポジティブな面もありますが、一方で先にご紹介したようなリスクもあります。多くの方の起業がうまくいくよう、ぜひ必要なスキルや経験について知っていただければと思います。

事業を立ち上げる経験

まずは、なんといっても起業に生きるのは事業を立ち上げる経験です。大企業での新規事業立ち上げ、あるいはまだ事業が軌道に乗っていない段階での事業化などに関わることができれば、起業に必要な経験の多くを一気に得ることができるでしょう。

このような経験は不確実性が高く、うまくいかないことも多いかとは思いますが、そのような経験も含めて自身の起業につながる糧となるに違いありません。会社員として働かれている方には、もしも新規事業の立ち上げのような不確実性の高い挑戦に関わる機会に恵まれればぜひ積極的に取り組まれることをお勧めします。

営業の経験

起業をしたとき、間違いなく必要になるのが売上を上げる能力です。いうまでもなく、どんな事業も売上を上げなければ事業を継続することすらできなくなってしまうため、営業活動により、自社の事業・サービスを届けたい方に知ってもらい、売上に繋げなければなりません。

営業の経験・スキルは売上を上げることに直結する経験であり、起業をするうえでとても大きな武器となるでしょう。実際にリクルート、楽天、光通信、キーエンスのように営業力が高いとされる企業出身で活躍されている起業家も多いです。

事業計画を作成するスキル

起業して事業をつくるには、将来どのように売上を伸ばせば収益を得たり事業を維持したりできるのか、どの程度コストをかけることが最適なのかなどを事業計画の作成を通して知る必要があります。この事業計画の作成には事業の収益構造に関する理解や、事業維持のためにどのようなコストが発生するのかなどの理解が必要であり、それを事業計画として整理する能力は起業のための必須スキルのひとつと言えます。

事業はたいてい、計画通りにはいきません。しかし精度の高い事業計画が作成されていれば、計画通りにいかなかったとしてもどの点が計画通りでないのか、なにが改善されれば計画に近づくことができるのかなどを経営者自身が理解しやすくなりますし、それを金融機関などの社外関係者に説明することも容易になります。また金融機関から事業資金の融資を受けるための審査においても事業計画が高い精度で作成されているかどうかは重要な要素となりますから、事業計画の作成は資金調達のためのスキルであるとも言えます。

企業経営、会計に関するスキル

企業経営や会計に関するスキルも、起業のための重要なものであると言えます。企業をとりまく環境は複雑で、事業環境や法律、会計などさまざまな要素について理解し、自身の事業がその時ある状況に実際にあてはめて応用していかなければなりません。起業をする前にビジネススクールでMBAを取得したり簿記検定のような資格の取得に取り組んだりすることは、そうしたスキルを高めるうえで効果的でしょう。

起業を見据えたキャリアプラン

ここまでに起業する際に生きるスキルについて解説をしていきました。それでは、将来、起業を見据えた際にどのようなキャリアパスを踏むと良い形でスタートを切れるでしょうか。こちらでは起業に生きるキャリアパスについて解説していきます。

大企業での新規事業立ち上げ

大企業は、ヒト・モノ・カネという事業に必要なリソースを多く持っています。そうしたリソースを使って新規事業に取り組むことは、自身の起業にとって大変有益な経験となり得ます。また大企業がそのリソースを活用しつつベンチャー企業と一緒に革新的な事業に取り組むオープンイノベーションの動きも活発になっています中、そうした活動に関わる経験を自身のキャリアの中で得ることは将来の起業に繋がるとてもよいキャリアプランであると言えるでしょう。

ベンチャーで起業の疑似体験

ベンチャー企業で勤務することも、起業を疑似体験できるとてもよいキャリアプランであると言えるでしょう。特にまだ企業規模の大きくないベンチャー企業では、起業して事業に取り組んでいる経営者のすぐ近くで毎日仕事をすることになり、起業に関するあらゆる物事を目の当たりにすることができます。

売上を上げる難しさ、事業が大きくなっていく喜び、意思決定の重要さ、組織運営や人間関係に関するドラマ、資金不足の恐怖など、ベンチャー企業での勤務経験は他に代え難いものがあります。将来的に起業を目指すステップとして様々な選択肢があるかとは思いますが、フェーズの若いベンチャーで働くことは最もリアリティのある体験ができるキャリアパスといえるでしょう。

副業でのスモールスタート

起業というのはそれまでのキャリアを大転換させて一念発起してするものだというイメージをお持ちの方もおられるかもしれませんが、実際には副業の形で小さくスタートし、ある程度見込みがたってからそれを本業にするというケースも珍しくありません。この方法の場合、キャリアを継続し本業の収入がある状態で事業を立ち上げることになりますから、うまくいかなければ早期に撤退することもできるなどリスクを抑えた状態で起業に取り組むことができます。

政府が副業を含めたフレキシブルな働き方を提言した2018年を目安に副業が認められている会社も多くなってきました。このような時代背景をうまく活用の上、副業でのスモールスタートという方法も選択肢に入れておかれると良いのではないでしょうか。

最後に

今回は、起業家を取り巻く環境、起業のリスクや起業に役立つキャリアプランなどについてご紹介させていただきました。起業は、社会に活力を与え世の中を発展させる重要なものです。事業を発展させることで自身の生活も豊かにすることができるものですから、関心をお持ちの方にはぜひ一歩踏み出していただきたいですし、その成功の可能性をなるべく高められるよう、リスクも含めて情報を得ていただきたいと思います。少しでも多くの起業家が生まれ、その事業をぜひとも成功させていただきたいと思っております。

この記事を書いた人

岩崎久剛

1984年兵庫県生。関西大学工学部を卒業後、受験支援事業を全国展開する大手教育事業会社にて総務人事など管理部門を経験し、2012年より人材業界に転身。大手総合人材会社にて求人広告、人材紹介など中途採用領域での法人営業を経験し、従業員数名規模のベンチャーから数10か国に展開するグローバル企業まで多様な業界、事業フェーズの企業の採用を支援。2016年よりハイキャリア領域の人材紹介事業立上げメンバーに参画し、関西ベンチャーを軸とした採用支援に従事。その後、ビズアクセル株式会社を起業。MBA(グロービス経営大学院)。

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