法務が転職で押さえるべきポイントを解説!

会社経営においてコンプライアンスをはじめとしたリスクマネジメントが重視される昨今、それらを支える上で法務部門の重要性はますます高まりを見せています。そのような背景を踏まえ、今回は法務担当者が転職活動に臨む際に理解しておくべきポイントなどを解説します。現在、転職活動中の方だけでなく、将来的に転職をご検討の方もぜひご参考ください。尚、今回は事業会社における「企業法務」担当者に係る内容にて解説をしています。

目次

法務とは

事業会社における法務とは、名前の通り、法律に関わる業務を行う部門であり、契約書関係、訴訟対応、コンプライアンス推進などの他、権利関係を取り扱う事業会社の場合には特許取得などの業務を行う場合もあるでしょう。

1990年代までは法務は訴訟をはじめとしたトラブルへの対処をはじめとした「守り」の色合いが強くありました。しかしながら、高度経済成長期のような国内市場の広がりが期待しがたい2000年代以降は、M&A、特許取得の上でのグローバル進出、新規事業におけるリーガル面でのリスク排除、あるいはIPO(新規株式公開)においても会計領域以上に法務面での体制構築が求められるなど、「攻め」の役割を期待される機会が増えるようになりました。

特に会社のコンプライアンスに関わる法律上の問題は、メディアなどで触れることも多く、数年前に大手広告代理店のパワハラ・過労死問題が大きく取り上げられたことは記憶に新しいのではないでしょうか。メディアが取り上げるこのようなコンプライアンス問題は、会社規模の大小問わず許される時代ではなく、会社の存続をも揺るがす大問題になる可能性もあるのです。

例えば顧客情報漏洩で主要な取引先から取引停止処分を受けたり、労務関係のトラブルで一斉離職などにつながって業務が停滞してしまったりしてしまえば、あっという間に経営危機に陥ってしまいかねません。社内規程や契約書の整備などを通して、「目に見えない、いつ起きるか分からないリスク」を未然に防ぎ、万が一の場合でもダメージを最小化できるように備えるのが、経営者を支える法務の重要な役割といえるでしょう。

法務のキャリアパス

ここまでは法務の役割の変化などについて解説してきました。ここからは事業会社の中で想定される法務のキャリアパスについて解説していきます。

法務実務のスペシャリスト

言うまでもなく、法務は専門職です。そのような法務のキャリアパスとしては企業法務に関する高い専門知識や実務スキルなど専門性を磨き続け、他の法務担当者が手を焼く難易度の高い業務も難なく遂行できる法務実務のスペシャリストが第一に挙げられるでしょう。

必要な能力の範囲やレベル感は所属する会社によって異なることになりますが、一般的にどの会社でも共通して必要になるのは契約法務の能力です。事業に関わる重要な契約の作成、レビュー、締結を適切に行う能力はどの会社にとっても重要であり、会社のリスクマネジメントの根幹となります。一方で、あらゆる契約を最も厳格な程度感で扱えばよいかというと必ずしもそうではなく、重大なリスクを適切にコントロールしたうえで事業を円滑に進行させるようなバランス感覚も求められます。そのためには事業そのものへの理解や現場感覚、事業部門や弁護士など社外とのコミュニケーション能力、契約相手との折衝能力なども必要となるでしょう。

契約法務の他にも、法務実務のスペシャリストが力を発揮すべき領域はあります。たとえば知財法務の領域です。知財に関する社会的な意識は高まる一方であり、事業会社にとっては自社の知財を守る能力、意図せず他人の知財を侵してしまうことを防ぐ能力などが求められています。ブランドに関わる事業を行う会社や研究開発を行う会社などにとって知財の領域は大変重要であり、法務実務のスペシャリストにとって無関係ではいられない領域だと言えるでしょう。

組織法務(会社法法務)の領域も重要です。上場会社やIPOを目指す上場準備会社などにとって会社法や金融商品取引法などに関わる実務領域への理解もまた会社のリスクマネジメントを考える上で大変重要です。株主総会を適切に運営するなど、株主の権利を適切に守るためにも、法務実務のスペシャリストがこの領域に関わる必要があります。

その他、所属する会社によっては契約法務を英語など多言語で行う能力が求められたり、契約書の書き方による会計処理への影響を考慮できる能力なども必要となることがあります。法務実務のスペシャリストは、一般的なイメージ以上に守備範囲の広さが求められる役割だと言えるでしょう。

法務部長

法務部長とはその名の通り、法務部門をとりまとめマネジメントを行う管理職のことです。一定規模の会社になると、前述したような法務実務のスペシャリストを役割ごとに複数置くような体制を作ることになります。そのため、それぞれの役割に隙間や矛盾が生じるようなことのないよう全体の調整役となったり、業務の優先順位を決定したり、経営メンバーや他部門との調整役を担ったりする役割として法務部長が必要となります。

法務部長は実務担当者である法務のメンバーをマネジメントする役割ですから、法務のスペシャリストとして企業法務の実務を経験した方が昇進して就くのがイメージされやすい姿ではありますが、一方で経営メンバーや事業部門の要請に適切に応えられる法務部門であることが求められると考えると、他部門から異動して法務部長となるケースもあり、この方が事業理解の深い法務部長となり会社全体としては円滑な事業運営ができるという考え方もあります。あるいは法務部門の担当者だった方が事業部門での経験期間を経て法務部門に戻り、法務部長となるケースもあります。

このあたりは会社の考え方によるところが大きいですが、いずれにせよ法務部長の職責を担うには一般的なマネジメント能力に加え、企業法務の実務への理解と、企業経営、事業運営への理解が幅広く求められます。

総務部長

総務部長は、総務という守備範囲の広い部門のまとめ役として、幅広い役割が求められます。総務部門の担当範囲自体が会社によって様々であり、会社によって法務部門出身の方が総務部長となるケースの他に、経理財務部門出身の方が総務部長となるケース、人事部門出身の方が総務部長となるケースなど様々あります。

総務部長は会社全体のバランスを取る役割であり、各部門とのコミュニケーション能力や、日常業務でない特殊業務が生じた際の受け皿を担える能力が求められ、会社組織全体や経営への理解が必要となります。法務部門の役割というのはそもそも会社全体への理解が求められるため、その意味で法務のキャリアパスとして総務部長というのはとても親和性の高いものだと言えるでしょう。

管理部長

管理部長の役割は、総務部長以上に広くなります。管理部長は会社の内部統制の中心となるポジションで、社内の各業務を円滑に運用できる業務フローの構築や部門間の調整といった業務を担います。

社内の全業務が円滑に運用されることについて責任を負っていると言っても過言ではなく、やはり会社全体への深い理解が不可欠ですから、総務部長と同じく法務部門からのキャリアパスとして自然であると言えますが、管理部長は経理財務など会計領域の理解などについて必要となる分、ハードルは高いといえるでしょう。また、上場会社や上場準備会社では開示に関する業務などについても責任を負うことになります。

管理部長の管掌範囲が広範囲となります中、多くの場合、法務部門の中でキャリアを重ねてから管理部長というキャリアステップではなく、総務人事などをはじめとした複数部門での経験を経て、管理部長に就くケースが多いです。

リスクマネジメントコンサルタント

法務として培ってきた会社の守りに関する知見を活かす形でリスクマネジメントの領域におけるコンサルタントへの転身というキャリアパスもあります。言うまでもなく、一つのトラブルが会社経営の致命傷になりかねない時代にあります中、残業代未払いをはじめとした労務管理、情報漏洩対策、ハラスメント行為の撲滅など幅広い分野にてコンプライアンス遵守の教育や仕組み作りが求められています。

今後、このようなコンプライアンス遵守の動きはより厳格になっていくことが予想される中、法務として幅広いリスクマネジメントの知見に携わる経験は転職市場で更に高く評価されることでしょう。

法務として転職市場での価値を高めるスキル

法務の領域でキャリアを積み、いずれは転職をと考えている方にとっては、法務とし転職市場で自身の価値を高めるにはどのようなスキルを身につければよいのかと悩むこともあるでしょう。ここでは法務として転職市場での価値を高めるスキルの例をいくつかご紹介させていただこうと思います。

グローバル法務

グローバル化した現在の社会においては、輸出入や日本のコンテンツを海外に広げるなど何らかの形で海外との関係が生じる事業というのがとても多くなっています。その中では海外企業との仕入や販売の取引はもとより、海外での知財管理、海外からの資金調達、海外企業のM&Aなど、事業において様々な形で海外との関わりが生じ、その際には国内取引と同じように法務部門も関与することになります。

海外取引においては外国語対応はもちろんのこと、関係する各国の法制度や税制への理解、取引慣習や文化への理解など様々なもとが求められることになり、いずれも一筋縄にはいきません。経験のない状態での対応は容易ではありませんから、そうした海外対応の経験やスキルを身につけた法務担当者を必要としている会社は多く、この領域で経験を積むことは転職市場での価値を高めることにつながるでしょう。

M&A

日本におけるM&Aの件数は増加傾向にあり、業種や企業規模に関わらずM&Aを検討する場面というのは多くなっています。M&Aには様々な利害の調整やスキームの選択、手続きの管理といった点が不可欠であり、そこには法務部門が担うべき役割が多くあります。複雑な利害を調整しながらM&Aを実現に向けて推進し、またそれに関わる法律や税制を理解したうえでリスクを適切にコントロールするという複雑な要素を同時並行で扱う必要があり、高いスキルが求められる領域です。

またM&Aというのは会社の利害はもとより、経営者や株主にとっては自身の経済的利益に直結するものでもありますから、M&Aの実務に関わる法務担当者には信頼できる人材を置きたいと思うはずです。それだけにM&Aに関わる実務経験やスキルは法務としての市場価値を大幅に高めることにつながると言えるでしょう。

IPO

IPO準備企業の場合は、法務の重要性はさらに大きくなります。上場企業として適切な手続きが行えるようになっていなければならないため、上場審査までに多くの準備が必要です。例えばベンチャーキャピタルからの出資を受ける場合にも社内規程の整備は必要になりますが、上場するとなると、さらに多くの対応が求められます。

上場企業には「企業経営が健全であること」や「コーポレートガバナンスや内部管理体制が整備されていて機能していること」が求められます。さらに、東証プライム市場などへの市場変更をする場合は、「企業の継続性と収益性」も基準となっています。こういった上場基準を満たすためにも、法務担当者が会社のビジネスモデルにあった問題点を整理し、問題への対処ができているかが大切です。

またこのような投資家を株主として迎え入れ資金調達を行う際には、当然ながら株主構成比率も重要となってきます。いくら多くの資金調達を実現できたとしても、投資家の株式保有比率があまりにも高くなってしまうと経営陣だけでの意思決定がしづらくなります。このような会社法関連の法務に関しても、IPO準備の最中にある経営の中で決して軽んじてはいけないことといえます。

そして株主総会も、法務が関わる非常に重要なイベントです。経営陣や従業員だけでなく、一般の投資家が株式を保有するようになるため、正式な手続きを踏んだ株主総会を開催しなければなりません。招集通知のための資料を作り、株主総会の日の2週間前までに送付して、議決権行使書の集計をし、株主総会の議事録を作るなどしなければなりません。IR対策室などが組織されていないうちは、法務がすべて担当することになるでしょう。

ベンチャーキャピタルをはじめ投資家から出資を受けた場合は、上場準備を始める前から、株主総会関係の業務が多くなります。たとえ経営陣が大多数の株式を握っている場合でも、出資の条件として、重要な経営判断について「株主総会に諮る前の協議」を求められているケースが一般的です。そのため、株主総会での重要な議題について、事前にベンチャーキャピタルをはじめとした複数の投資家(株主)の了解を得る必要があります。

またIPO にあたってストックオプション・新株予約権・優先株などの扱いについての規定を定める必要性もあります。ベンチャーキャピタルなどの投資家からの出資を受ける際に、経営者やCFOと協議して、上場を意識した計画的な資金調達プランを立てておくことが重要です。

法務といっても、非常に広範囲の法律に関する業務にあたらなければなりません。法務担当者だけで全てのことが処理できるわけではないでしょう。例えば裁判対応が必要な場合、または専門性を要する契約事項などが発生した場合には法務担当だけでは対応が厳しく、弁護士の力を借りなければならないはずです。

知財・特許

知財や特許に関する業務は、法務の業務の中でも特殊なもののひとつと言えます。すべての会社にとって重要な要素であるわけでは必ずしもないため、法務の仕事をしていても知財や特許に関わる機会がないということも少なくありません。 それだけに、知財や特許に関するスキルや経験のある法務人材というのは希少価値が高く、企業にとっては採用したくても容易に見つけられないものであるとも言えます。

ブランドを展開するビジネス、メーカーなど知財や特許が事業の根幹を支えているビジネスというのもたくさんあり、そういった会社にとっては知財や特許に関する高い専門知識や実務経験を保有している人材というのは喉から手が出るほど欲しい人材です。知財や特許に関わる機会に恵まれればそれは法務担当者にとっては自身の市場価値を高めるチャンスだと言えるでしょう。

法務の転職活動

法務として働く方の多くが組織の中で責任ある立場であるが故に多忙の中、なかなか転職活動に十分な時間を割けないという方も多いでしょう。このような多忙なビジネスパーソンは現職でのパフォーマンスを落とすことなく、効率的に情報収集を行う必要があります。こちらではこのような法務の転職活動で推奨する2つの手法についてご紹介します

スカウトサイトを活用した転職活動

一つ目はスカウトサイトを活用した転職活動になります。これまで主流であった転職サイトなどからスカウトを待つ転職プラットフォームに移行しつつあります。具体的には「ビズリーチ」「リクルートダイレクトスカウト」「エンミドルの転職」などが挙げられます。このような転職プラットフォーム市場はこの数年で急激に市場が拡大し、2021年には前述のビズリーチを運営するビジョナル株式会社が東証マザーズ市場(現東証グロース市場)にも上場を果たしています。

これら転職プラットフォームに情報を登録しておくことで、経歴を見た転職エージェント、または企業より直接スカウトを貰うことが可能です。どのような企業がこれまでの経験を評価してくれるのかという観点も含め、自分の経歴に合った求人情報をある程度網羅的に情報を集めることができるため、多忙な法務担当者にとっては有効な転職手法の一つと言えるでしょう。

転職エージェントを活用した転職活動

前述の様な転職プラットフォームサービスの台頭はあるものの、まずは自身の現状について相談したいという場合には転職エージェントを活用していくこともよいでしょう。多くの場合、転職活動は孤独です。自身の経歴の棚卸、今後の自分のキャリアプランをどうしていくべきかなど腹を割って話ができる存在がいるかいないかは、自身の転職活動を良い形で進めていく上で重要です。

転職エージェントは国内に数万社あり、法務をはじめとした管理系職種に強みを有する転職エージェント、あるいは経営層、マネジメント層に特化した転職エージェントなどそれぞれ特色があります。これまでの経験、自分が描きたいキャリアなどを踏まえ、自分に合った転職エージェントをパートナーに選びましょう。

最後に

リスクマネジメントに重きがかかる時代の中、法務は会社の将来を左右しかねない重要な判断につながることも多くあります。それだけに法務は企業経営にとって欠かせない領域であり、その法務という領域の中でさまざまな実務経験やスキルを身につけ、会社に貢献できる人材となることは、転職市場においてとても魅力的な人材になることに直結します。

法務の重要性が高まっている今の時代は、法務人材の皆様にとってはチャンスであるとも言えます。法務として活躍されている皆様にはぜひ自身の専門領域をさらに高めていただき、求めるキャリアパスの実現を目指していただければと思います。

この記事を書いた人

岩崎久剛

1984年兵庫県生。関西大学工学部を卒業後、受験支援事業を全国展開する大手教育事業会社にて総務人事など管理部門を経験し、2012年より人材業界に転身。大手総合人材会社にて求人広告、人材紹介など中途採用領域での法人営業を経験し、従業員数名規模のベンチャーから数10か国に展開するグローバル企業まで多様な業界、事業フェーズの企業の採用を支援。2016年よりハイキャリア領域の人材紹介事業立上げメンバーに参画し、関西ベンチャーを軸とした採用支援に従事。その後、ビズアクセル株式会社を起業。MBA(グロービス経営大学院)。

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