スタートアップ企業を支えるエンジェル投資家とは

今回はスタートアップを語る上で、なくてはならない存在であるエンジェル投資家についてご紹介します。エンジェル投資家とは創業間もないスタートアップ企業に投資を行う個人や法人のことですが、エンジェル投資家自身もまた元(あるいは現)スタートアップ経営者であることが多いです。自身もスタートアップ企業の経営者として様々な経験をしてこられた方が、次の世代のスタートアップ企業へ投資を行うとともに様々な経験・助言やビジネスネットワークを提供するなど、スタートアップ市場における後進の育成という意味で大きな役割を果たしています。

スタートアップ企業にとってエンジェル投資家の協力を適切に得ることは大変重要なことであり、その役割についてよく理解して必要があります。今回の記事を通してぜひエンジェル投資家について多くの方に知っていただければと思います。

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エンジェル投資家とは

エンジェル投資家は創業前、あるいは創業間もないスタートアップ企業へ投資する個人や法人を指します。エンジェル投資家は出資したスタートアップ企業の成長に伴って収益(キャピタルゲイン)を得ることを目的としており、基本的には投資先となるスタートアップ企業の株式の一定割合を取得し保有する形となります。エンジェル投資家から出資を受ける資金調達ラウンドのことを「エンジェルラウンド」と表現することが多いです。

このようなエンジェルラウンドにおいてスタートアップ企業への投資を行うエンジェル投資家は、以前に自身が経営者として上場を果たす、あるいはある一定程度事業を成功させた実績のある方が担われるケースが多いです。その他に最近では芸能関係の方、元スポーツ選手の方などがエンジェル投資家として出資を行うケースも増えており、代表的なスポーツ選手出身のエンジェル投資家としては元サッカー日本代表の本田圭佑氏などが挙げられます。

エンジェル投資家はスタートアップ企業へ投資を行うとともに、その投資先スタートアップ企業が成長を果たすために必要な様々なものを提供します。自身が経営者として得てきた様々な経験やビジネスネットワークを提供することで、投資先スタートアップ企業が事業を成長させるうえで重要な役割を果たすことになります。

著名なエンジェル投資家

エンジェル投資家には自身も経営者として株式上場や企業売却などを経験していたり、今も企業経営を行っている方が少なくありません。様々な経歴の持ち主がエンジェル投資家として活動し後進の育成に大いに貢献しておられます。ここでは、その一部の方についてご紹介したいと思います。

日本の著名なエンジェル投資家

家入 一真 氏
株式会社paperboy&co.(現 GMOペパボ)を創業し、代表取締役としてジャスダックに上場。その後、株式会社ハイパーインターネッツ(現 株式会社CAMPFIRE)やBASE株式会社など複数社の創業に関わる連続起業家(シリアル・アントレプレナー)。2018年にはシードラウンド向けベンチャーキャピタル「NOW」を設立。

孫 泰蔵 氏
東京大学経済学部在学中の1996年にYahoo! JAPAN の立ち上げに参画。1998年にはガンホー・オンライン・エンターテイメント株式会社の前身となるオンセール株式会社の設立に関わり、代表取締役に就任。2009年にはスタートアップ企業への投資や育成を行うMOVIDA JAPAN株式会社を設立。

山田 進太郎 氏
早稲田大学教育学部在学中に楽天でインターンとして楽天オークションの立ち上げを経験。2013年に株式会社コウゾウ(現 株式会社メルカリ)を設立。その後一度は社長を退いたものの、2019年に株式会社メルカリの社長に復帰した。

千葉 功太郎 氏
株式会社リクルートや株式会社サイバードでの勤務を経て、2001年に株式会社ケイ・ラボラトリー(現 KLab株式会社)の取締役に就任。さらに2008年には馬場功淳氏と共に株式会社コロプラを設立し、副社長として東証一部上場を果たす。その後複数の投資ファンドを設立するなど投資家としても活動している。

川田 尚吾 氏
東京都立大学大学院にて博士号(工学)を取得した後、マッキンゼー・アンド・カンパニーでの勤務を経て1999年に株式会社ディー・エヌ・エーを共同創業し取締役に就任。現在は国内外でスタートアップ企業への投資や支援を行っている。

国光 宏尚 氏
米国Santa Monica College 卒業後、株式会社アットムービーを経て2007年に株式会社gumiを設立し代表取締役に就任。2014年には東証一部への上場を果たした。その後は投資ファンドへの出資を行う等、投資家としての活動も行っている。

岡 隆宏 氏
1998年にドリームビジョン株式会社(現 夢展望株式会社)を創業。2013年に東証マザーズへ上場を果たす。2015年にRIZAPグループ株式会社と資本業務提携をしてグループ入りした後、2016年に日本スタートアップ支援協会を設立し、代表理事を務める。

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エンジェルラウンドでの資金調達とは

先にご説明した通り、スタートアップ企業が設立前や設立間もないタイミングでエンジェル投資家から資金調達を行う資金調達ラウンドのことをエンジェルラウンドと言います。エンジェルラウンドはスタートアップ企業にとって最初期の資金調達であり、まだ事業そのものが始まっていないか、それに近いタイミングです。そのようなタイミングでの資金調達の場合、当然ながらまだ事業の実績はほとんどない段階であり、事業のアイデアのみが存在するような状態です。

そのような段階での投資は高リスクなものであり、情報を積み上げて合理的な投資判断をしようとするような投資家がエンジェルラウンドでの投資を行うことは難しいでしょう。自己資金を用い、自身の判断と責任で投資の意思決定を行うことのできるエンジェル投資家の存在意義はそこにあります。

エンジェルラウンドでの資金調達額はさほど大きくない場合が多く、数百万円からせいぜい数千万円程度です。エンジェル投資家は複雑な意思決定プロセスを経る必要が無い場合がほとんどですから、短い場合は1回の面談や数日の検討で投資が決まり、実行されます。

エンジェルラウンドで調達された資金は、初期のプロダクト開発や製品の試作、そのための人件費などに用いられます。スタートアップ企業はエンジェルラウンドで得た資金を用いて事業を立ち上げることで事業を次の段階へと進め、シードラウンドなど次の資金調達ラウンドに進むことを目指します。

この段階のスタートアップ企業の経営者は、多くの場合まだ経営者としての経験が浅く、事業を成長させるために何が重要なのか、初期のスタートアップ企業にとって注意すべきことにはどのようなことがあるのか、今のうちから備えておくべきことにはどのようなことがあるのかなど、わからないことも多いでしょう。エンジェル投資家からは資金と共にそうした経験も得ることが期待できますので、この段階のスタートアップ企業にとって非常に心強い存在となるはずです。

エンジェル投資家の多くはスタートアップ経営者として先輩であり、次の世代のスタートアップを応援したいと考えています。単に投資家として利益を上げる目的だけでなく、そうしたスタートアップ企業へ貢献したい気持ちを持ってくれているはずですから、自社を応援してくれる心強い先輩経営者として、積極的に助言を求めるとよいでしょう。

ただし、最初期の段階での資金調達には注意すべき点もあります。エンジェルラウンドでは当然まだ事業価値がさほど高くなっておらず、低いバリュエーション(時価総額)の中で資金調達を行うことになります。この段階で多くの資金を得ようとすると高い株式シェアをエンジェル投資家に渡すこととなり、その後の資金調達ラウンドにおいて選択肢を狭めてしまいかねません。

スタートアップ企業にとって資本政策の失敗は致命的なものになることもあります。あまり早い段階で株式シェアを社外に出してしまわないよう、エンジェルラウンドでの調達額は最小限の金額にとどめておくなど、先のことも考えておくことが大切です。

エンジェル投資家とVC(ベンチャーキャピタル)などとの違い

スタートアップ企業が資金調達を行う場合、その資金の出し手にはVC(ベンチャーキャピタル)なども選択肢となり得ます。エンジェル投資家の多くは元スタートアップ経営者などの個人であり、金融機関や事業会社などを母体とするVCなどとは異なる存在です。実際に資金調達を行う上でそれぞれにどのような違いがあるのかについて、いくつかご紹介しておければと思います。

エンジェル投資家は少額の投資が可能

VCなどの投資家には、それぞれに得意な資金調達ラウンドや投資ロット(一度にどれくらいの額の投資を行うか)というものがあります。基本的にミドルステージやレイターステージでの投資を行うVCは投資ロットも大きいことが多く、数百万円程度の出資を募るエンジェルラウンドで投資を行うことは現実的に難しいと考えられます。

一方、エンジェル投資家の場合は少額であることが投資を難しくすることは基本的にありません。エンジェルラウンドで少額の資金を調達しようとする場合、そのように小回りの利いた資金提供のできるエンジェル投資家と相性が良いと言えるでしょう。

エンジェル投資家は自身の意思決定のみで投資ができる

VCなどの投資家が投資を意思決定する際には、投資担当者がスタートアップ企業を開拓して企業調査を行い、稟議書を書き、それを投資委員会で審議するなどして会社として決裁するという流れになることが多いです。そのような手続きはVCなどにとって誤った投資を行うリスクを減らしたり、一人の担当者が勝手な投資を行わないように管理したりといった目的のために必要なことですが、短い期間で少額の投資を決めるべきエンジェルラウンドにおいてはやや煩雑すぎると言えるでしょう。

エンジェル投資家の場合、たいてい個人が自己資金の投資先について自分自身で決められますので、そのような時間のかかる手続きは必要ありません。機動的な投資決定が可能なエンジェル投資家の存在は、初期のスタートアップ企業にとって大変ありがたい存在です。

エンジェル投資家には期間の縛りがない

VCなどの資金にはたいてい、投資期間として10年や15年といった期間が設定されています。その期間を終える際に投資資金を回収・精算し、資金の出し手へ投資元本と利益を戻す必要があります。そのような資金を調達するスタートアップ企業は、基本的にその期間内に株式を上場したり、もしくはM&Aを行うことで株式を売却する機会を作るなど、VCなどが投資資金を回収する機会(EXIT)を作ることが求められます。

エンジェルラウンドのスタートアップ企業はまだ事業がどのように進んでいくかわかりませんし、株式上場を目指すかどうかも決まっていないことが多いでしょう。そのような段階で期限を設定されるのは、経営の自由度を損なうことにつながる恐れがあります。

一方、エンジェル投資家からの資金調達の場合、投資期間の縛りというものは基本的にはありません。エンジェルラウンドにおいては株式上場などについて方針が定まっていない段階だということを理解したうえで投資が行われるものだと思いますし、その資金を回収できる機会がなかなか訪れないかもしれないというリスクを負った投資であるはずです。エンジェル投資家は自身の判断でそうした高リスクな投資を行うことができるという点で、VCと大きく異なります。

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最後に

今回は「スタートアップ企業を支えるエンジェル投資家とは」というテーマで、初期のスタートアップ企業にとって重要な存在であるエンジェル投資家について解説させていただきました。スタートアップ企業が事業の最初期に資金を必要とするとき、エンジェル投資家は大変心強い存在です。スタートアップに関わる方々には、エンジェル投資家の強みや特徴を理解したうえで、ぜひ有意義に付き合っていっていただくのがよいのではないかと思います。

この記事を書いた人

岩崎久剛

1984年兵庫県生。関西大学工学部を卒業後、受験支援事業を全国展開する大手教育事業会社にて総務人事など管理部門を経験し、2012年より人材業界に転身。大手総合人材会社にて求人広告、人材紹介など中途採用領域での法人営業を経験し、従業員数名規模のベンチャーから数10か国に展開するグローバル企業まで多様な業界、事業フェーズの企業の採用を支援。2016年よりハイキャリア領域の人材紹介事業立上げメンバーに参画し、関西ベンチャーを軸とした採用支援に従事。その後、ビズアクセル株式会社を起業。MBA(グロービス経営大学院)。

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