スタートアップでよく使われるGMV(Gross Merchandise Value)について解説!

スタートアップ企業でよく使われる言葉として、GMVという言葉があります。GMVはEC事業やマーケットプレイス事業、あるいは決済関連事業などにおいてよく使われる言葉で、その事業がどのくらいの大きさのマーケットとなっているかを表しているものです。それらの事業においては、どのくらいの量の商取引を行われたかが事業の価値そのものと言えますので、GMVは重要なKPIということになります。本記事ではそのGMVについて、具体例も交えて解説いたします。スタートアップ企業を中心に頻繁に使われる用語ですので、ぜひ知っておいていただければと思います。

目次

GMVとは

GMVは「Gross Merchandise Value」の略で、日本語では「流通取引総額」や「総流通額」などと訳されます。GMVは、一定期間の間に取引された商品やサービスの合計金額を表しており、一般的に、オンラインのマーケットプレイスやEC(電子商取引)プラットフォームにおいて使用される概念です。

GMVは、取引された商品やサービスの金額を合計したものであり、企業の実際の売上高や利益を示すものではありません。なぜなら、GMVには返品やキャンセル、割引などが含まれていない場合や、企業会計上は預り金として扱われる金額が含まれる場合があるからです。

例えば「じゃらん」「楽天トラベル」に代表されるOTA(オンライン旅行会社)においては、ホテル予約などのために支払われた代金の全額がGMVとして積み上げられていきますが、それはそのOTAを運営する会社の売上高とイコールではなく、代金に一定の料率(テイクレートといいます)を乗じて計算された手数料部分だけがその会社の売上高として扱われたりする場合もあります。

このようにGMVは企業の売上高や利益そのものではありませんが、そのプラットフォーム上で行われた商取引の総額を表しますので、そのマーケットプレイスやプラットフォームがどのくらい使われているのかの規模や成長を評価する指標として頻繁に使用されます。

マーケットプレイスや決済サービスなどのプラットフォーム事業を展開する際には、それらのプラットフォームの利用者を増やし、多くの商取引を行うことで一定の収益を得ることを目指すことが一般的です。そのため、プラットフォーム上で行われる商取引の総額(GMV)は、事業を展開する企業にとって収益基盤そのものです。GMVが大きければ、そのプラットフォームを運営する事業者の収益は安定し、その収益基盤を活用して資金調達や次の事業展開を考えることができます。GMVは、プラットフォーム事業に取り組む企業にとって事業の現状や成長度合いを知るために欠かせないKPIであると言ってよいでしょう。

GMVを増加させるには

ここまでのご紹介しました通り、GMVは取引の総額を表しています。企業はこの値をより大きくするための施策を考え、実行していくわけですが、その施策を考えるためにはGMVを更に分解して理解する必要があります。

GMVは取引の総額であり、「総取引件数×1件あたりの取引金額」と分解することができるでしょう。つまりGMVを大きくするには、取引件数を増やすか、1件あたりの取引金額を大きくするかのどちらかが必要ということになります。また、総取引件数を「ユーザー数×1人あたり取引件数」と、更に分解することもできます。つまりGMVは、「ユーザー数×1人あたり取引件数×1件あたりの取引金額」ということになります。ここから、GMVを増加させるには以下のような方法が考えられます。

GMVを増大させる方法

ユーザー数を増加させる
広告やキャンペーン等の施策を用いて新たなユーザーを獲得することでユーザー数を増加させ、GMVを増加させます。

1人あたり取引件数を増加させる
ユーザーに繰り返し使ってもらえるような施策を用い、1人あたり取引件数を増加させることでGMVを増加させます。

1件あたり取引金額を増加させる
より大きな取引が行われるような施策により、1件あたり取引金額を増加させることでGMVを増加させます。

このように企業はGMVを増加させるにあたり、GMVをさらに分解して理解した上で、効果的な施策を考えて実行していく必要があります。多くの企業が新規入会キャンペーンや友達紹介キャンペーンなど新規ユーザーを獲得するための取り組みや、ECサイトなどでたくさん買えば割引が得られるようなプロモーションが行われているのを見かけることはないでしょうか。それらはこのような目的のために行われている施策であることが多く、そのような前提でEC企業の取り組みを見ていくと戦略理解などに繋がるかと思います。

テイクレートとは

GMVと売上高の関係を理解するうえで、テイクレートというものについても説明しておく必要があるでしょう。テイクレートとは、GMVのうち、プラットフォームを運営する企業の取り分がどれだけあるかを表すものです。クレジットカードの手数料率などが分かりやすい例と言えるでしょう。

プラットフォームを運営する企業の売上高は「GMV × テイクレート」で計算することができ、このGMVとテイクレートそれぞれがどのような数値になるかによって、その企業の収益力が決まることになります。運営企業にとってはテイクレートが高いほど取り分が多いことになり利益を上げやすくなるように思われますが、一方でテイクレートを高く設定してしまうとユーザーは離れてしまい、サービスが利用されなくなってしまいます。自社の収益を確保することとGMVを最大化することのバランスを取れる最適値でテイクレートを設定する必要があり、多くの企業がそのための日々試行錯誤を繰り返しています。

スタートアップ企業がGMVを用いる理由

GMVはマーケットプレイスなどの事業に関して使われる指標でありスタートアップ企業に限ったものではないのですが、スタートアップ企業で頻繁に使われるものでもあります。そこにはいくつかの理由があり、主に以下のようなものが挙げられます。

GMVが売上高を構成するKPIであること

ベンチャー企業やスタートアップ企業の成長度合いを確認するにあたって、売上高の伸びや内訳を知ることはとても重要であり、投資家も強く関心を持つところです。マーケットプレイスなどの事業に取り組む企業の場合、売上高はGMVにテイクレートを乗じた金額ですから、GMVの伸び率はそのまま売上高の伸び率となり、その事業の成長度合いそのものを表すことになると言えます。

GMVの伸び率を示すことで投資家の関心を引き、より高い企業価値評価を得たり資金調達を実現したりといったことに繋げることが、そのような事業に取り組むベンチャー企業やスタートアップ企業にとって次の成長を実現するためには欠かせません。ですから、自社のGMVを常時把握し、その大きさや伸び率を社外に説明できるようにしておくことが重要だということになるわけです。

マーケットシェアを知るために必要であること

ベンチャー企業やスタートアップ企業が将来の成長可能性を投資家などに説明する際には、その事業領域にどれくらいのマーケットがあって、その中で現状どのくらいのシェアを得ていて、将来そのシェアがどれくらいになれば売上高がどのように伸びていくのか、といったことを明らかにする必要があります。

Amazon」や「メルカリ」のようなマーケットプレイス型の事業の場合、売上高は「GMV × テイクレート」の計算で決まりますが、この売上高の数値だけではマーケットサイズ(その領域で行われる商取引の総量)と比較することができず、マーケットシェアを正確に知ることができません。そのような事業においてマーケットシェアを知るためには、マーケットサイズと自社のGMVを比較する必要があります。そのようにマーケットシェアを知るためにも、GMVは大変重要なものであるというわけです。

自社のキャッシュフローを知るために必要であること

マーケットプレイスや決済サービスの場合、そのプラットフォーム上で決済される金銭の全額が自社を通るというような資金の流れになる場合が少なくありません。たとえばGMVが10億円でテイクレートが10%という事業の場合、PL(損益計算書)に表示される売上高は1億円(GMV10億円×テイクレート10%)ということになりますが、その会社の口座を通る資金の額は1億円ではなく、GMVの10億円である、ということです。

この場合、売上高の1億円という数字を見ているだけでは、キャッシュフローの状況を誤って理解してしまいます。実際には取引の総額である10億円が自社の口座を通っていくことになりますので、適切な管理を行わないと資金繰りのトラブルを起こしてしまいかねません。ベンチャー企業やスタートアップ企業は資金が潤沢に無いことも多いですし、それだけの決済を扱えるような高い処理能力を備えたシステムを構築する必要もあります。またキャッシュフローの状況は投資家にとっての重要な関心事でもあります。自社のキャッシュフローを正しく知るためにも、こうした事業に取り組む企業にとってGMVはとても重要ということになります。

このようにスタートアップ企業にとって、GMVを適切に把握し管理することは大変重要であり、それ故、多くの企業で頻繁に用いられているわけです。一方で、GMVはスタートアップ企業にとって重要な指標ではあるものの、単独ではビジネスの成功や収益性を完全に表すものではありません。GMVとともに他のさまざまな指標(利益率、顧客獲得費用、LTVなど)を総合的に分析し、ビジネスの健全性や成長の実態を把握する必要があります。

メルカリのGMV

GMVという言葉がベンチャー企業やスタートアップ企業の界隈で一般的となったのは、株式会社メルカリ(以下メルカリ)がきっかけであると言われています。この記事を読まれている方にも、メルカリのサービスを使ったことのある方は多いのではないでしょうか。メルカリではGMVを伸ばし続けることが大変重要視されており、決算発表の際にはGMVも必ず公表されます。メルカリが日本を代表するベンチャーとして台頭したことから、そのようなマーケットプレイス型の事業に取り組む企業価値を評価する際にGMVの伸び率が重要視されるようになってきたように思います。

ちなみにメルカリのGMVは、2022年6月期(2021年7月~2022年6月)で年間8,816億円です。メルカリのサービスが開始されたのは2013年7月ですから、サービス開始からわずか10年足らずで年間8,816億円の商取引が行われる巨大なマーケットプレイスに成長したわけで、まさに日本を代表するベンチャー企業であることがわかるかと思います。このようにGMVを明らかにすることで、そのサービスがどのくらい使われているのかをより具体的に知ることができます。

最後に

今回は「スタートアップでよく使われるGMV(Gross Merchandise Value)について解説!」というテーマでスタートアップ企業でよく使われるGMVという概念について説明させていただきました。GMVは、マーケットプレイスなどのプラットフォーム事業にとって「そのサービスがどのくらい使われているか」を端的に表す重要な指標です。今後更に多くの企業で、より一般的にGMVという言葉が使われることになるようにも思われますし、ベンチャー企業やスタートアップ企業ではそれがより顕著なものとなるでしょう。こうしたキーワードの意味や役割を正しく理解し、ぜひご自身の仕事に役立てていただければ幸いです。

この記事を書いた人

岩崎久剛

1984年兵庫県生。関西大学工学部を卒業後、受験支援事業を全国展開する大手教育事業会社にて総務人事など管理部門を経験し、2012年より人材業界に転身。大手総合人材会社にて求人広告、人材紹介など中途採用領域での法人営業を経験し、従業員数名規模のベンチャーから数10か国に展開するグローバル企業まで多様な業界、事業フェーズの企業の採用を支援。2016年よりハイキャリア領域の人材紹介事業立上げメンバーに参画し、関西ベンチャーを軸とした採用支援に従事。その後、ビズアクセル株式会社を起業。MBA(グロービス経営大学院)。

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