【2024年版】関西IPOレポート

2024年も間もなく終わりを迎える時期となりました。2024年は新NISA制度の開始や歴史的な円安、日銀による17年ぶりの利上げなど、金融市場に目の離せない変化がありました。またパリ五輪の開催、ウクライナや中東での紛争、アメリカ大統領選挙など、世界でも様々な出来事があった年でもありました。

そのような2024年のIPO市場および関西のIPOの状況について振り返りたいと思います。2024年のIPO企業数は69社(11月末時点)と、前年と比べて減少しています。その中で関西に本社を置く企業は4社となっています。今回はIPOについての解説と、2024年にIPOを果たし上場企業となった関西発の企業についてご紹介したいと思います。

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IPOとは

関西IPOレポートのご紹介にあたり、まずはIPOについて解説をしていきます。

IPOの意義

IPOとは「Initial Public Offering」の略で、日本語では「新規株式上場」という意味です。企業が株式を新たに証券取引所へ上場することを指す言葉で、IPOをした会社の株式はその後、証券取引所において一般の投資家が自由に売買できるようになります。

IPO後は上場会社として「プライベートカンパニー」から、社会の公器として情報開示が求められる「パブリックカンパニー」としての責任が発生します。決算情報をはじめ会社経営に係る各種情報の開示ができる体制などを整備するのは負担も大きいですが、IPOまで辿り着ける企業は一握りの中、上場会社として大きな社会的信頼を持たれることでしょう。

IPOのメリット

企業がIPOをするのにはいくつかの目的があります。IPOを果たし、上場企業となれば、知名度が上がり、社会的な信用も高まります。金融機関や大手企業との様々な取引を行う上で、そうした知名度や信用の向上は大きなメリットとなるでしょう(人材採用のシーンなどでも有利に働く場合もあります)。

また、IPOをすることで株式市場から資金調達を行うことができるというのも大きなメリットです。上場企業になるとそれまでよりも格段に資金調達方法の選択肢が多くなり、事業に必要な資金を機動的に確保しやすくなります。

その他に創業者が株式上場によってそれまでの投資を回収することができること、優秀な人材を採用しやすくなることなど、様々なメリットがあります。多くの企業が、そうしたメリットを得てさらに企業を成長させることを目指して、IPOをしています。

スタートアップのIPOに欠かせない資金調達

資金力がないスタートアップ企業の多くは、事業成長の過程でVC(ベンチャーキャピタル)などの投資家から出資を受けています。VCなどの投資家は投資先企業がIPOを果たすことで、大きなリターンを得ることができます。IPOはそれまでにリスクをとって投資をしたVCなどの投資家がリターンを実現する機会でもあると言えるでしょう。

2024年のIPO環境について

2024年3月に、日銀によるマイナス金利の解除がありました。これは国内では実に17年ぶりの利上げであり、その後、7月にも利上げが実施され、企業や個人が金融機関から借入を行う際の金利にも上昇がみられはじめています。

金利の上昇は、一般的に株式市場にとってはネガティブな影響があるとされています。7月の利上げのあと株式市場に大きな動揺が見られたことからもわかるように、株式市場と金利の関係は無視できないものです。

これはIPOを目指すスタートアップ企業にとっても同様です。金利が上昇することで企業が利益を上げることが難しくなったり、将来の利益から株価を計算する際にマイナスの影響をもたらすなど、より企業の実力が問われる環境になりつつあると言えるのではないでしょうか。

2024年のIPO概況

2024年は、11月までに69社がIPOを果たしました。その市場別の内訳は、以下の通りです。

2024年にIPOを果たした企業の内訳

東証プライム…3社
東証スタンダード…10社
東証グロース…52社
名証メイン…1社
名証ネクスト…3社 
札証アンビシャス…1社
福証Q-Board…2社

※11月末までの上場社数、69社をカウントしています
※東証と名証に重複上場した企業が3社あり、それらについては両方の市場でカウントしています

2023年には96社がIPOを行いました。これはリーマンショック以来、2番目に多いですが、2024年は減少傾向にあります。ちなみにリーマンショックのあった2008年の49社や2009年の19社という最悪期と比較すれば、安定したIPO社数の推移を維持していると言えるのではないでしょう

東証グロース市場への上場の多さ

2024年も引き続き東証グロース市場の割合が多い状況となっています。一方でオファリング金額(公募売出金額)の大きないわゆる大型IPOも複数ありました。代表的なところでは、10月に新規上場した東京地下鉄(東証プライム市場、オファリング金額3486億円)を筆頭に、同じく10月のリガク・ホールディングス(東証プライム市場、オファリング金額1124億7300万円)、タイミー(東証グロース市場、オファリング金額538億6400万円)といった会社が名を連ねています。

東京プロマーケットへの上場も増加傾向

上記のIPO社数には東京プロマーケット(TPM)への新規上場数は含まれていませんが、実はTPMへの新規上場数が順調に増加していることをご存じでしょうか。2024年は10月までで実に40社が新規上場しており、2020年が10社、2021年が13社、2022年が21社、2023年が32社と、年々増加しています。

要因は様々あると思われますが、実際にTPMへ上場した企業に人材採用や銀行借入などの面でメリットが生じていること、TPMへの上場を支援するJ-ADVISERの社数が増加していること、TPMを経由して一般市場へ新規上場を果たすケースがあることなどが挙げられるでしょう。2024年には2社がTPMから一般市場へ新規上場を果たしています。一般市場へ直接IPOをするのではなく、TPMを経由するケースというのは今後も増えてくるのではないかと思います。

銘柄コードの変化

その他ちょっとしたこぼれ話として、2024年から銘柄コードにアルファベットが使われるようになりました。2月に新規上場した Veritas In Silico 社の「130A」を第1号として、これまでの数字4桁の銘柄コードから末尾にアルファベットを用いたものが使われるようになりました。数字4桁の銘柄コードのままではいずれ不足することが見込まれることから取られた対応です。

これまでは、総合商社の8000番台、自動車の7200番台のように業種ごとにある程度の使い分けが見られるようなところもありましたが、今後は130Aから順番に番号をあてていくというシンプルな運用が行われることになっています。

2024年に関西でIPOを果たした4社

2024年のIPO市場において、関西発の企業としては4社が新規上場を果たしました。前年の12社から数を減らしていますが、いずれも今後に期待できる企業がIPOを果たしています。ここでは、それら2024年にIPOを果たした関西発の企業について概要をご紹介します。なお、各社の概要は上場承認時に公表されている情報をもとにしたものです。

株式会社STG

会社概要
設立1982年6月
資本金3億2754万円(2024年3月時点)
時価総額19億2300万円(2024年11月8日時点)
売上高52億4200万円(2024年3月期)
代表取締役佐藤 輝明
事業内容マグネシウム及びアルミニウムダイカスト製品の製造・販売
公式HPhttps://www.stgroup.jp/

株式会社STG(大阪府八尾市)は、軽量化金属部品の製造加工事業を行っている会社です。大阪府八尾市に本社を置き、2024年の関西発IPO第1号として東証グロース市場へIPOを果たしました。

2019年6月にTPMへ上場しており、TPMを経ての東証グロース市場へのIPO企業です。そのため、2024年のIPO銘柄としては例外的に、銘柄コードが数字4桁の「5858」となっています。2021年3月期に経常損失を計上していますが、その後は黒字化して増益を続けています。増収増益が続く業績予想を出しており、今後の成長が期待されます。

株式会社ジンジブ

会社概要
設立2015年3月
資本金3億310万2,500円(2024年9月30日時点)
時価総額32億1800万円(2024年11月8日時点)
売上高20億8200万円(2024年3月期)
代表取締役佐々木 満秀
事業内容高卒就職採用支援サービス及び人財育成サービス
公式HPhttps://jinjib.co.jp/

株式会社ジンジブ(大阪府大阪市)は、高校生に特化した新卒採用支援事業、高卒社会人の教育・転職支援サービス事業、DX人材の育成・研修サービス等教育事業を展開いる会社です。設立は2015年となっていますが、代表取締役社長の佐々木満秀氏が前身の事業を個人事業として立ち上げたのは1998年、当初は広告代理店としてフリーペーパー折込広告の事業からスタートした企業です。

上場前の2期間の売上高を見ても2022年3月期は9億7200万円、2023年4月期は15億1700万円、そして2024年3月期は20億8200万円と、急速に事業を拡大させています。人材不足という社会課題の解決につながる複数の事業に取り組んでおり、時流にマッチした企業であると言えるのではないでしょうか。

株式会社D&Mカンパニー

会社概要
設立2015年11月
資本金1億5300万円(2024年5月8日時点)
時価総額18億8700万円(2024年11月8日時点)
売上高11億8900万円(2024年5月期)
代表取締役松下 明義
事業内容医療機関等に対する経営サポート事業
公式HPhttps://www.dmcompany.co.jp/

株式会社D&Mカンパニー(大阪府大阪市)は、医療事業者や介護事業者に向けた様々なサービスを手掛けている企業です。診療報酬債権の買取(ファクタリング)や医療用機器等のリース、それらの事業の顧客を主な対象として行う経営診断等のコンサルティング、人材紹介・人材派遣やアウトソーシングの受託など、幅広い商材をワンストップで提供する企業として、事業を拡大しています。特定技能外国人材の紹介にも取り組むなど、こちらも人材不足という社会課題の解決につながる事業と言えるでしょう。

IPO時に株式を新規発行したことによる資金の使途は「借入金の返済資金に充当する」とのことで、これは主力事業である診療報酬債権の買取に必要な原資を得るために借入余力を確保するためのものであるようです。東証グロース市場への上場を果たしたことで獲得した信用力を活かし、一層の事業拡大が期待されます。

株式会社WOLVES HAND

会社概要
設立2019年4月
資本金1億700万円(2024年6月時点)
時価総額69億2100万円(2024年11月8日時点)
売上高49億9000万円(2024年6月期)
代表取締役北井 正志
事業内容一次診療から高度医療まで対応可能な動物病院運営、その他周辺事業(トリミングサロン運営、動物病院向けシステム開発、獣医療関係者向け教育コンテンツ配信等)
公式HPhttps://wolveshand.jp/

株式会社WOLVES HAND(大阪府大阪市)は、前身の会社が大阪市西区に動物病院を開業したことから事業を開始し、その後に複数回の経営再編を行いながら、動物病院やペットサロンの運営、動物病院向けソフトウェアの提供、獣医療教育セミナーの配信など、動物医療とその周辺領域に事業を拡大している企業です。

動物医療市場は拡大していて、診療件数、診療単価それぞれが上昇しているとされていて、追い風の吹いている市場であると言えるでしょう。個人経営の動物病院を対象とした事業承継や動物病院向け顧客管理システムの提供など動物医療環境の向上にも取り組み、またオンコセラピー・サイエンス社と共同で獣医療分野でのがん早期発見に関する研究にも取り組むなど、積極的な事業拡大姿勢を感じさせられます。

2025年の展望

2024年は新NISAの制度開始から始まり、日本国内で17年ぶりとなる利上げが行われるなど、株式市場に影響を与える出来事が様々あった年となりました。また10月の衆議院総選挙では与党が過半数を下回り、またアメリカ大統領選挙ではトランプ氏が再び大統領に就任することが決まるなど、2025年に向けて新たな変化も生まれています。株式市場をはじめとしたマーケットは、必ずそうした環境の影響を受けます。変化に対応できる企業が生き残っていくことになるでしょう。

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最後に

今回は「2024年の関西IPOレポート」というテーマで、2024年のIPO市場の状況や、その中で関西発の企業でIPOを達成した企業についてご紹介しました。2024年のIPO数としては前年2023年よりも減少した結果となり、関西発のIPO企業も4社と、前年の12社から大きく数を減らしています。関西で事業に取り組んでいる当社としては喜べない結果ですが、今後も魅力的な事業に取り組むベンチャー企業・スタートアップ企業は必ず登場しますし、そうした企業にたくさん活躍をしていただきたいと思っています。

2024年は日銀が17年ぶりの利上げを行い、これからは金利の上がる世の中になっていくことが予想されます。いま社会で活躍する多くの世代にとって「金利の上がる世界」は初めてのことであり、この変化にいかに対応していくかが、企業にとっても個人にとっても重要な時代となっていくことでしょう。変化に柔軟に対応し、変化をうまく利用していくくらいの前向きな心づもりで、2025年を迎えられると良いと思います。

この記事を書いた人

岩崎久剛

1984年兵庫県生。関西大学工学部を卒業後、受験支援事業を全国展開する大手教育事業会社にて総務人事など管理部門を経験し、2012年より人材業界に転身。大手総合人材会社にて求人広告、人材紹介など中途採用領域での法人営業を経験し、従業員数名規模のベンチャーから数10か国に展開するグローバル企業まで多様な業界、事業フェーズの企業の採用を支援。2016年よりハイキャリア領域の人材紹介事業立上げメンバーに参画し、関西ベンチャーを軸とした採用支援に従事。その後、ビズアクセル株式会社を起業。MBA(グロービス経営大学院)。

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