コンサル業界から事業会社へ転職するときに考えるべきこと

コンサル業界からの転職先として、事業会社が選ばれることも少なくありません。コンサルタントとしての経験を活かし、戦略を実行する側として仕事ができることも魅力の1つです。また、事業会社側も、コンサルタントとしてのスキルを持った転職者を受け入れたいと考えています。

今回は、コンサル業界からの転職先として、大手企業、事業再生企業、ベンチャー・スタートアップ企業などまで事業会社を選ぶ場合に考えておくべきことをまとめました。

目次

コンサル業界から事業会社への転職は多い

コンサル業界からの転職先としては、同業のコンサルでの転職以外に、事業会社への転職を選択肢に考える方も多いかと思います。コンサルタントとして働いていた経験は、数多くの企業の問題解決をしてきた実績として、転職市場で評価されやすいキャリアといえます。

採用する事業会社としても、コンサルティングファーム時代の経験・実績を自社で再現してもらいたいと考えて採用しています。以前はコンサルタントから事業会社への転職は、大手企業の経営企画部門、または中小企業の経営者の右腕の様な立場で挑戦されるようなケースが多かったのですが、最近ではベンチャー、スタートアップ企業も積極的にコンサルタントからの転職者を採用しています。

では、コンサル業界から事業会社への転職を決断する理由にはどのようなものがあるのでしょうか。以下にて多くのコンサルタントの方が事業会社への転職を決断する理由について説明します。

戦略を実行する立場で仕事ができる

コンサルタントがクライアントに提供するのは、企業の課題を解決するための支援です。課題の真因を特定し、それを解決するための戦略立案等を行います。戦略の実行を支援することもありますが、基本的には外部のコンサルタントとして課題解決に取り組むケースが多いかと思います。

しかしながら、クライアントとなる事業会社がコンサルタントに期待する課題解決が為された場合には、コンサルティング契約を終了せざるを得ない中、最後の実行フェーズまで関与できないケースも多いです。そのような中、コンサルタントとしての立場から身を移し、自身が主体者として実際にその戦略を実行し、結果に繋げたい、事業に変革させる仕事をしたいと考え、コンサル業界から事業会社へ転職する人は少なくありません。

プロジェクト単位ではない、長期的な会社の成長を目指した仕事ができる

コンサルタントは、プロジェクト単位で仕事を進めます。あるクライアントのプロジェクトが終了すれば、次は別のクライアントのプロジェクトに参加します。勿論、プロジェクトが成功し、同じクライアントの新たなプロジェクトに関与することもありますが、数年がかりの中長期的な視点での取り組みに、最後まで関わり続けられることは滅多にありません。

当然ですが、事業会社は自社を成長させることを目指すため、必然的に、プロジェクト単位ではなく中長期的な会社の成長を目指した戦略を立案実行していくことになります。

ワークライフバランスを実現することができる

業務内容ではなく、働き方を理由として、コンサル業界からの転職を考える人もいます。クライアントへの提案の際には市場・競合調査の他、課題解決の施策が自社で実行可能かの検証など膨大な業務に向き合わなければならない中、多くのコンサルティングファームでは長時間労働が当たり前になってしまっている風潮もあるのが現実かと思います。収入も多いですが、その分だけ私生活を犠牲にしなければならなくなるケースが少なくありません。

しかし、子育てや介護など生活環境の変化で、長時間働くのが難しくなることもあります。また、激務やストレス等で、長く働き続けることができないと判断して転職を決断するケースもあるでしょう。そういった場合に、コンサルタントとしてのキャリアを生かすことができる事業会社への転職が選択肢になります。

事業会社で活かせるスキル・経験を棚卸する

次に、事業会社への転職で活かせるスキルや経験についてです。コンサルタントとして働いていたことで身についたスキルや経験は、事業会社への転職後に役に立つものもたくさんあります。

しかし、コンサルタントとしての経験が豊富であるから必ずしも採用されるわけではなく、事業会社で働く上で必要な能力、活躍可能性をイメージして貰うことができなければ、事業会社への転職も簡単ではありません。では、コンサル業界から事業会社への転職で活かせるスキル・経験、そして求められることにはどのようなものがあるのでしょうか。

分析力・問題解決能力

多くの企業の経営課題解決に向き合ってきたからこその知見も活かしつつ、企業が抱える顕在化していない問題も発見し、その原因を特定・分析し、課題解決に向けて戦略立案をして実行に移します。論理的な思考を土台とした分析、問題解決力はコンサルタントとして培われる重要なスキルの一つといえるかと思います。  

業界・企業を俯瞰して見る力

コンサルタントはプロジェクト成功に向けて市場・競合調査など多くの事例に触れる為、マーケットリーダー企業がなぜ今のポジションを確立できたが、業界が今度どのように変わっていくかなど、業界構造や企業を俯瞰して見る力が養われる機会が多いかと思います。

事業会社一筋の方はその会社での実務などに関しては強いものの、業界の先行きなどを見据えた視点で取り組めている方は少なかったりします。業界や企業を俯瞰してみることのできるコンサル出身者だからこその観点を活かし、企業の中長期の視点での成長施策などを進めることは、事業会社で重宝されるスキルかと思います。  

事業会社への転職で大切なポイント

次に、コンサル業界から事業会社への転職で認識しておくべきポイントについてです。コンサルタントから事業会社に身を移すも、なかなか早期に成果に繋げることに苦労される方も多いです。以下では転職先の事業会社で早期にパフォーマンスを発揮するために大切なポイントについて記述します。

コミュニケーション能力

コンサルタントとしても重要な能力ですが、事業会社の「内部の人間」としてのコミュニケーション能力が必要です。コンサルタントの立場では、クライアントの関係者に対してだけ説明するだけでよかったのが、社内のあちこちの部門に対して説明や調整をしなければなりません。

また、コンサルタントの業務の中で「理論的には最善の提案のはずなのに、クライアントに受け入れられなかった」という経験をしたことがある人もいるかもしれませんが、そこには感情的な意識が働いている可能性があります。上から正論を振りかざしたとしても「コンサル出身者が言うことだから」と話を聞いてくれるはずもなく、寧ろ「現場のことも分からないくせに」とハレーションが起こることは多いです。現場の方への敬意、配慮を払ったコミュニケーション能力が必要になると言えるでしょう。

多くの事業会社では実務は避けられない

事業会社の規模にもよりますが、転職先が大規模な会社でない場合は、戦略立案や実行支援だけでなく、自らが手を動かさなければならない場面も多くでてきます。事業会社の多くがコンサルタントの様にビジネスリテラシーが高い人材を擁した体制をつくれているわけではなく、複雑性の高い業務などに関しては自身で手を動かして前に進めなければならないということが必然になります。また、現場の方との信頼関係を築く上では、口先だけではなく、自身が実行者として行動する姿勢を見せていくことで周囲を動かすということも必要であるという観点もあるかと思います。

事業会社への転職では、こういったスキルや心構えをもってのぞむことが重要です。実際にコンサルから事業会社に転身された方の中には、現場に毎日のように足を運ぶ、自分の作業着をまとって一緒に作業を行う、あるいは現場社員一人一人と飲みにいくことで関係を築くなど、現場の方との関係づくりに泥臭くのぞまれているお話は珍しくありません。もし不足している部分、心構えとしてもてていなかったことがあると感じたことがあれば、今のうちに準備をしておきましょう。

では、コンサル業界か業界業会社への転職で大切にすべきことが分かったところで、ここからは、転職先のタイプ別でどのような違いがあるのかをお伝えしましょう。

M&Aなどに積極的な成長フェーズにある事業会社への転職

転職先が成長基調にある会社の場合は、M&Aやグローバル展開などのように伸びていく会社の中での成長戦略を形にしていくようなミッションが多く、やりがいを感じやすい環境かもしれません。しかし一方で、評価基準が厳しい可能性もあります。成長基調にあるということは、現在と同じ水準での成長は当たり前と評価され、成長性をさらに高められてこそ能力が高いと判断されるかもしれません。特に、外資系企業やメガベンチャーの場合はその傾向が強いでしょう。

事業を成長させることが出来れば、その分だけ高い報酬を求めたくなるでしょう。ただ、年功序列の様な企業文化が残る日系の大手企業では、よほど高いスキルを持った人材でない限り、周囲とそこまで大差のない給与・昇進になるかもしれません。また、成長企業に限った話ではありませんか、オーナー色の強い会社の中には、オーナー一族以外の人材が取締役、執行役員などの要職につけないこともあります。

事業再生企業への転職

会社の立て直しが必要な事業再生企業への転職も、コンサル業界から事業会社への転職先の選択肢になります。ファンドの投資先で事業再生を行うようなケースもあれば、日本でもM&Aが頻繁に行われるようになった中、M&Aにより買収した子会社企業の梃入れや建て直し役として親会社・子会社を行き来するような形で事業再生にのぞむようなケースも増えてきました。このような事業再生フェーズの企業の場合は、同じ事業会社への転職でも、成果を出すために必要な能力が異なります。

事業再生企業ならではの特徴的な事例を挙げるとすると、業績の苦しい事業再生企業では金融機関との調整を進めながら、残された少ない資金余力で業績を好転させなければなりません。場合によっては、リストラや事業部門の閉鎖などの決断を迫られることもあるでしょう。関係各所との調整が非常に重要で、コミュニケーション能力や精神力が求められる職場です。

事業再生が必要な会社へ直接転職するケースもあれば、前述記載のような「事業再生ファンド」から送り込まれる経営者という形もあります。事業再生ファンドは短期間でバリューアップして数年で売却を目指す方針のファンド、あるいは株式を保有しつづけながら長期的な視点で企業価値向上を目指すファンドなど方針は様々です。ファンドの投資先企業へ転職する際にはファンドの方針に関してしっかりと理解してのぞむことも重要です。

事業再生ができる人材は非常に稀有な存在ですが、ビジネスのスピードが年々早まる中での事業再生、あるいは少子高齢化の進む日本だからこその事業承継という2つの課題を持つ中小企業が社会問題になっていることもあり、コンサルタントからのキャリアパスとして有力な選択肢の1つと言えるのではないでしょうか。

ベンチャー・スタートアップ企業への転職

ベンチャー企業・スタートアップ企業でも、コンサル出身者を求める企業は多くなりました。ベンチャー、スタートアップ企業の中でも、会社を大きく成長させて、IPO(新規株式公開)やM&AによるEXITを検討している会社はコンサル出身者の採用には積極的な傾向が強いです。このような背景には不確実性の高いビジネスを分析した上で、ビジネスの勝ち筋などを見出し、戦略立案、実行を進められるような人材がいるかどうかで事業の命運は大きく変わるからになります。

ベンチャー、スタートアップ企業への転職では、コンサルタント時代のような収入は望めないことが多いですが、経営メンバーの一員として早期に役員クラスの立場を担える機会や、IPOを目指すベンチャー、スタートアップ企業の場合にはストックオプションが付与されることもあります。その場合は、IPOやM&AによるEXITで実質的な成功報酬が得られることもあるでしょう。さらに、ベンチャーやスタートアップ企業の経営者を支えて大きな成長を実現させたとして、ベンチャー業界内でも希少な人材という評価が得られます。ストックオプション制度については以下記事についても参考にしてみてください。

事業会社への転職で注意しておきたいポイント

最後に、コンサル業界から事業会社への転職で注意しておきたいポイントを2点お伝えします。コンサルタントから事業会社へ転職活動を進める際には以下の可能性を踏まえた上で、臨むと良いでしょう。

収入が大幅に減少することもある


コンサル業界では、若いうちから1,000万円を超える収入を手にしている人もいるでしょう。しかしながら、多くの事業会社でそれだけの収入を得ている人はほとんどいません。やりがいやワークライフバランスを求めて転職したいと思っても、収入が大きく減ってしまうことを嫌って、転職できずにいる人もいます。そのような事情を理解の上、今のうちから、将来のために貯蓄を増やしたり、生活費の見直しをしたりするなどして、収入が下がってもいいようにできれば、転職先の幅も大きく広がります。

また、すべての事業会社への転職が収入減になるとは限りません。大企業の経営企画、あるいはファンドが出資する事業会社の経営層などへの転職の場合には、コンサル業界の収入を維持できるケースも少なくありません。収入は勿論、大切なことではありますが、何に挑戦する転職にするのか、何を大事にした転職にするかを自身の中で明確に持ち、転職活動に臨むと良いでしょう。

コンサルタントの仕事のやり方だけではうまくいかないこともある


コンサル業界の中でだけ働いていると、当たり前のように専門用語などを使って話をしがちです。しかし、その世界が普通なのではなく、コンサル業界が特殊だということを理解しておきましょう。事業会社に転職したのであれば、転職先の人たちがわかる言葉でコミュニケーションしなければなりません。

コンサル業界出身者が少ない事業会社では「元コンサルタント」というだけで転職先の人たちが構えてしまうかもしれません。このような事業会社に転職する際には、自分の方から相手の立場に立って行動・コミュニケーションすることで、社内の人間関係を構築しやすくなることでしょう。

コンサルタントの転職活動

コンサルタントの方の多くが組織の中で責任ある役職を任され、多忙の中、なかなか転職活動に十分な時間を割けないという方も多いでしょう。このような多忙なコンサル業界の中では、現職でのパフォーマンスを落とすことなく、効率的に情報収集を行う必要があります。こちらではこのようなコンサルタントの転職活動で推奨する2つの手法についてご紹介します

スカウトサイトを活用した転職活動

一つ目はスカウトサイトを活用した転職活動になります。これまで主流であった転職サイトなどからスカウトを待つ転職プラットフォームに移行しつつあります。具体的には「ビズリーチ」「リクルートダイレクトスカウト」「エンミドルの転職」などが挙げられます。このような転職プラットフォーム市場はこの数年で急激に市場が拡大し、2021年には前述のビズリーチを運営するビジョナル株式会社が東証マザーズにも上場を果たしています。

これら転職プラットフォームに情報を登録しておくことで、経歴を見た転職エージェント、または企業より直接スカウトを貰うことが可能です。どのような企業がコンサルタントの価値を評価してくれるのかという観点も含め、自分の経歴に合った求人情報をある程度網羅的に情報を集めることができるため、多忙なコンサル業界の方にとっては有効な転職手法の一つと言えるでしょう。

転職エージェントを活用した転職活動

前述の様な転職プラットフォームサービスの台頭はあるものの、まずは自身の現状について相談したいという場合には転職エージェントを活用していくこともよいでしょう。多くの場合、転職活動は孤独です。自身の経歴の棚卸、今後の自分のキャリアプランをどうしていくべきかなど腹を割って話ができる存在がいるかいないかは、自身の転職活動を良い形で進めていく上で重要です。

転職エージェントは国内に数万社あり、職種や業界に特化した転職エージェント、あるいは経営層、マネジメント層に特化した転職エージェントなどそれぞれ特色があり、中にはコンサル業界から事業会社への支援実績が豊富な転職エージェントも存在します。これまでの経験、自分が描きたいキャリアなどを踏まえ、自分に合った転職エージェントをパートナーに選びましょう。

最後に

コンサル業界から事業会社への転職では、コンサルタントとしてのスキルに加えて、事業会社での働き方についての理解も必要です。特に、事業再生企業やベンチャー、スタートアップ企業など事業フェーズごとに、どのような働き方になるのかを知っておくことが大切です。また、このような局面の事業会社に身を置くことは大変である一方、一般的な事業会社では得られない経験やスキルを身につけることができるという意味で、転職を通してキャリアアップを図ることができるとも言えます。

不安を感じるところもあるかもしれませんが、やりがいのある仕事であるのも事実です。コンサル業界から事業会社への転職を考えている方は、事業再生企業やベンチャー、スタートアップ企業も選択肢に入れてみてはいかがでしょうか。

この記事を書いた人

岩崎久剛

1984年兵庫県生。関西大学工学部を卒業後、受験支援事業を全国展開する大手教育事業会社にて総務人事など管理部門を経験し、2012年より人材業界に転身。大手総合人材会社にて求人広告、人材紹介など中途採用領域での法人営業を経験し、従業員数名規模のベンチャーから数10か国に展開するグローバル企業まで多様な業界、事業フェーズの企業の採用を支援。2016年よりハイキャリア領域の人材紹介事業立上げメンバーに参画し、関西ベンチャーを軸とした採用支援に従事。その後、ビズアクセル株式会社を起業。MBA(グロービス経営大学院)。

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