働き方改革が進む中、人事が転職活動で考えるべきこととは

働き方改革、コロナショックにおける働き方の見直しが進む中、副業制度の導入・運用、リモート主体の働き方での人事評価・マネジメント制度の企画運用など人事が求められる役割も大きく変わってきます。

そこで今回は人事としてのキャリアアップを目指す方に向けて、これからの時代に人事が求められる役割、あるいはCHRO(Chief Human Resource Officer)やプロフェッショナルリクルーターなど人事ならではのキャリアパスなどについて解説します。今現在、人事として人事実務に携わっている方も、これから人事を目指す方も是非ご参考ください。

目次

人事とは

人事と一言にいってもその業務範囲は多岐にわたります。例えば新卒・中途採用、教育研修、人事制度企画・運用、労務管理、退職に関する手続きなどの人事業務の他、副業制度の導入・運用、タレントマネジメントなどの成功事例がまだまだ少ない人事テーマに臨む企業も増えてきています。

そして「ヒト」「モノ」「カネ」と言われるように、企業の成長、変革を実現する上で重要な経営リソースであり、人材難と言われる昨今においては人材の採用、定着などが競争優位にもなるくらいに人事の重要性が高まりを見せています。

人事の在り方としては、1990年代~2000年代頃の人事のキャリアは採用業務から始まり、教育研修業務、人事制度の企画・運用などに職域を広げていくような階段を敷く企業が多くありました。しかしながら、この10年で働き方、組織の在り方が大きく変化する中、必ずしもこのような階段がベストという訳ではなく、例えば採用領域に特化する人事、労基法改正などに対するリスクマネジメントなど守りに強い人事など専門領域に長けた人事としてのキャリアパスも珍しくなくなってきました。

これからの時代に人事が向き合うテーマ

こちらでは「働き方改革」「副業・兼業」「ジョブ型雇用」「タレントマネジメント」などこの数年で人事領域において話題に上るテーマをご紹介します。このようなテーマ以外にも「ダイバーシティ」「ティール組織」などまだまだ成功事例が少ない人事領域のテーマはたくさんありますが、このようなテーマと向き合い、組織変革を実現できれば、転職市場での市場価値は一気に高まると言えるでしょう。

働き方改革

「働き方改革」は安倍政権当時に掲げられ、名前の通り、日本の働き方を変革していく取り組みを指します。「働き方改革」の取り組みを掲げた背景として日本国内の労働力不足の解消が挙げられます。言わずもがな少子高齢化にある日本は、単純な人口減少だけではなく、介護などによりフルタイムでの就業が厳しい状況に直面しています。このような状況下において、労働者が定年の引き上げなどを行いはするものの、労働人口の減少に歯止めをかけることは困難な状態にあると言えるでしょう。

働き方改革の実現に向けて「処遇の改善(賃金など)」、「制約の克服(時間・場所など)」、「キャリアの構築」という3つのテーマ、並びにその解決に向けたロードマップを作成されています。そして2018年6月には働き方改革法案が成立し、2019年4月1日から「働き方改革関連法」が順次施行されています。人事としては日本政府が定めるこの取り組みを汲んだ上で、対処できる組織や仕組みを構築していく必要があるでしょう。

副業・兼業

働き方改革の一環として、政府も副業を積極的に推進しています。2017年に閣議決定された「働き方改革実行計画」では、「副業や兼業は、新たな技術の開発、オープンイノベーションや起業の手段、第2の人生の準備として有効」と記されています。テレワークとともに、副業・兼業などを推進する姿勢が明確にされたこともあり、その翌年である2018年は「副業元年」とも言われています。

また、このような政府の方針により、フリーランス人材や副業を始める人が増えてきたことを背景に、ネット上でスキルを持った人材と副業人材を求める事業者とのマッチングをサポートしている企業が増えてきました。有名な副業マッチングサービスではランサーズクラウドワークスココナラビザスクなどが挙げられます。人事としてはこのような副業・兼業の導入は進めていかなければならない一方、社員の健康管理、人材流出のリスクなどに対してどのような打ち手を講じていくか等が重要になってくるでしょう。

ジョブ型雇用

2020年のコロナショックの最中、「ジョブ型雇用」という言葉が多く取り沙汰されました。「ジョブ型雇用」とは主に欧米を本社に置く外資系企業で多く導入される雇用方法であり、日本で主流とされる「メンバーシップ型雇用」と比較されることが多いです。「ジョブ型雇用」とは、必要な業務内容を定義し、その職務に適したスキル・経験を持った人材を採用する形であり、役割や責任の所在が明確な一方、ジョブに紐づく職務以外を課すことができない働き方になります。

コロナショック以前には社員の日々の取り組みを見ながら昇給・昇格等の評価を行っていた企業が多い中、コロナショックでテレワーク、リモートでの就業が余儀なくなった結果、仕事ぶりが見えづらく、管理監督者が部下を評価しづらい問題などがしばしば取り上げられるようになりました。

このような背景の中、「ジョブ型雇用」により、社員の仕事を評価する人事制度への移行を検討する企業が増えました。しかしながら、これまでの「メンバーシップ型雇用」ならではの組織運営のメリットもある中、「ジョブ型雇用」の導入は、各社賛否両論のテーマと言えるでしょう。

タレントマネジメント

日本では終身雇用が前提とされており、異職種への異動、転勤など、会社の方針に適応できる人材が評価される時代が従来型でした。しかしながら、少子高齢化が進む日本では、多くの企業は人材獲得に苦しみ、また人材の流動性が高まる中、会社の方針に無理に適用する働き方を選ばなくとも良い社会に変化してきました。

そのような中、注目度が高まってきたのがタレントマネジメントです。タレントマネジメントとはそれぞれの社員(タレント)が持つスキルを経営資源と考え、人事が各社員の有するスキルを管理し、人員配置などに活用することで、組織パフォーマンスを高めるマネジメント手法のことを指します。これまでは比較的、経営幹部層、スペシャリスト人材などを対象としたマネジメント手法でしたが、現在はカオナビタレントパレットのようなタレントマネジメントツールの普及により、全社員を対象にしたタレントマネジメントを運用されている企業が増えています。

人事のキャリアパス

このような人事領域テーマと向き合い実績を上げていくことができれば転職市場での価値は高まるでしょう。しかしながら、まずはその前に人事としてキャリアアップを目指す上で、どのようなキャリアパスがあるのか認識しておくことも大切です。ここからは人事で考えられるキャリアパスについて紹介します。

マネジメント

人事に関して採用、教育研修、人事制度などまで幅広い領域を経験し、人事領域の課題を一挙に引き受けられる存在となり、管理職として人事組織を率いる選択肢がオーソドックスなキャリアといえます。人事領域において守備範囲広く経験を重ねてきた場合、転職市場にでた際には中小企業やベンチャー、スタートアップ企業で求めれる機会が多いでしょう。

特にスタートアップ企業のような若いフェーズの組織の場合、人事に限らず、管理機能が脆弱である中、このような守備範囲の広い人事は重宝されます。また、事業成長に伴い組織の形が大きく変わっていく変化を支える重要な役割であり、手触り感、やりがいなどを感じられることも多いかと思います。

HRBP(HRビジネスパートナー)

HRBPという人事の在り方も一般化してきました。HRBPとは事業部に紐づく人事であり、事業部長などと連携の上、事業成長を人と組織の面からサポートする役割を担います。人事としての業務内容は多岐に渡り、人材採用、教育研修、人事制度設計まで人事・組織課題解決に向けたあらゆる観点で事業成長を支援します。

HRBPの場合は人事の他のキャリアと比較し、事業やビジネスの理解が求められる傾向が多く、人事一辺倒でキャリアを重ねてきた方にとっては、キャッチアップが必要なシーンも多いかと思います。人事としての守備範囲も広く、また事業やビジネスの理解も求められる難しいポジションではありますが、事業成長にダイレクトに活きる業務が多い環境でもあり、やりがいを感じられる瞬間も多いでしょう。

プロフェッショナルリクルーター

企業の拡大の肝である「採用」に特化したリクルーターという役割にキャリアを尖らせる選択肢も最近では増えました。経営をリードするCxOクラスの採用、あるいはIT・Web業界の場合にはプロダクト開発を握るエンジニアの採用が出来るか否かが、事業成長の鍵を握るといっても過言ではありません。

尚、リクルーターとして採用実務を行うだけでなく、事業・組織規模が拡大した際には新卒・中途を含めた年間での採用計画立案の他、採用市場の相場感に精通したリクルーターだからこそ会社や組織課題を鑑み、「XXのような人材を迎え入れることで事業を前進させていきましょう」という社内に閉じない課題解決提案などによる貢献などのシーンも出てくるかと思います。

CHRO(Chief Human Resource Officer)

人事の最終的なキャリアパスとして人事最高責任者を意味するCHROを目指す方が多いかと思います。人事の観点により経営を支える役割にはなりますが、当然、組織の課題や目指す姿は企業ごとに違いますので企業により、コアになるミッションは変わってきます。

例えば採用が難しい人材難の時代だからこその生産性・定着率の向上などが求められる中で、VVM(ビジョン・ミッション・バリュー)を如何に策定して落とし込むのかといったプロジェクトの推進、タレントマネジメントの仕組みの導入などを主なミッションとするようなケースなどがあります。自分の在籍している組織、あるいは今後転職先候補となり得る組織において、どのような人事課題があるかなどを捉え、企業の成長を支えられるCHROを目指していくことが大切かと思います。

組織・人事コンサルタント

事業会社人事の場合、自分が在籍する組織では実績を出せたとしても、商習慣の異なる異業界、組織規模の異なる組織においてその取り組みが必ずしも再現性を持って成果に繋げられるとは限りません。

一方で事業会社を飛び出し、組織・人事コンサルタントとして、様々なビジネスの人事課題解決経験を重ねることも人事のキャリアアップの一つです。組織・人事コンサルタントとして様々な組織の課題解決を成し得、人事としての課題解決の引き出しを多く身に着けられるのは組織・人事コンサルタントならではと言えるでしょう。

また、組織・人事コンサルタントとしての経験を重ねた上で事業会社に戻り、組織・人事コンサルタントとして培った引き出しを活かす形で、事業会社人事として活躍するという選択肢もあります。

人事の転職活動

人事に従事される多くの方が、流動的な採用業務、組織課題の解決などで多忙の中、なかなか転職活動に十分な時間を割けないという環境にあることが珍しくありません。このような多忙なビジネスパーソンは現職でのパフォーマンスを落とすことなく、効率的に情報収集を行う必要があります。こちらではこのような人事の転職活動で推奨する2つの手法についてご紹介します

スカウトサイトを活用した転職活動

一つ目はスカウトサイトを活用した転職活動になります。これまで主流であった転職サイトなどからスカウトを待つ転職プラットフォームに移行しつつあります。具体的には「ビズリーチ」「リクルートダイレクトスカウト(旧キャリアカーバー)」「エンミドルの転職」などが挙げられます。特にこのダイレクトリクルーティングと呼ばれる市場はこの数年で急激に市場が拡大し、2021年には前述のビズリーチを運営するビジョナル株式会社が東証グロース市場にも上場を果たしています。

これら転職プラットフォームに情報を登録しておくことで、経歴を見た転職エージェント、または企業より直接スカウトを貰うことが可能です。どのような企業がこれまでの経理財務の経験を評価してくれるのかという転職市場での市場価値の理解、あるいは自分の経歴に合った求人情報をある程度網羅的に情報を集めることができるため、多忙な経理財務の方にとっては有効な転職手法の一つと言えるでしょう。

転職エージェントを活用した転職活動

前述の様な転職プラットフォームサービスの台頭はあるものの、まずは自身の現状について相談したいという場合には転職エージェントを活用していくこともよいでしょう。多くの場合、転職活動は孤独です。自身の経歴の棚卸、今後の自分のキャリアプランをどうしていくべきかなど腹を割って話ができる存在がいるかいないかは、自身の転職活動を良い形で進めていく上で重要です。

転職エージェントは国内に数万社あり、人事総務のように職種に特化した転職エージェント、スタートアップ企業に特化した転職エージェント、あるいは経営層、マネジメント層に特化した転職エージェントなどそれぞれ特色があります。これまでの経理財務の経験、自分が描きたいキャリアなどを踏まえ、自分に合った転職エージェントをパートナーに選びましょう。

最後に

今回は変化スピードの早い現在において、人事として向き合うべきテーマ、キャリアパスなどについて解説しました。今回の記事を参考にして頂き、CHROをはじめとした自分自身がありたい人事のキャリアプランの解像度を高めることなどにつなげていただけると幸いです。

この記事を書いた人

岩崎久剛

1984年兵庫県生。関西大学工学部を卒業後、受験支援事業を全国展開する大手教育事業会社にて総務人事など管理部門を経験し、2012年より人材業界に転身。大手総合人材会社にて求人広告、人材紹介など中途採用領域での法人営業を経験し、従業員数名規模のベンチャーから数10か国に展開するグローバル企業まで多様な業界、事業フェーズの企業の採用を支援。2016年よりハイキャリア領域の人材紹介事業立上げメンバーに参画し、関西ベンチャーを軸とした採用支援に従事。その後、ビズアクセル株式会社を起業。MBA(グロービス経営大学院)。

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