人材業界と言えば漠然と転職支援などを行っているイメージはあるものの、例えば人材紹介、人材派遣、求人広告など各社がそれぞれどんなことをしているか違いが理解できている訳ではないという方も多いのではないでしょうか。本記事では人材業界の全体像、人材業界で働くメリット、転職を成功させるためのポイントなどについて解説します。
人材業界とは
人材業界は人と企業を繋ぐ業界です。戦後の人材業界の歴史を紐解くと、1947年に労働者派遣法が制定されたことを皮切りに人材派遣、人材紹介などの業態生まれ、高度経済成長期で雇用が高まる中、一気に世の中に浸透していった形となります。
その後、人材派遣、人材紹介、求人広告、ダイレクトリクルーティング、組織・人事コンサルティングなど人材業界の中でも異なるビジネスモデルが広がり、またそれぞれのビジネスモデルの中でも「管理部門に特化した人材紹介」「IT・Web業界に特化した求人広告」など領域特化の事業者が誕生していく中、業界では細分化が進んでいった形になります。また、近年ではHR Techと呼ばれるITによるHRの課題解決領域に踏み出す事業者も増えており、例えばAIが採用すべき人材選定のアシストをしてくれるサービスなども誕生しています。
少子高齢化社会において人材不足がさけばれる昨今、企業の人材獲得は更に困難になることが予想される中、外国人の雇用、生産性向上に向けたタレントマネジメント、副業人材の活用など人材業界が向き合うべきテーマはまだまだ広がりをみせてくることでしょう。
人材業界で働くメリット
未経験で人材業界へ転職することについて、ハードルの高さを感じる方もいらっしゃるでしょう。まずは人材業界で働くメリットについて解説させて頂きます。
成長産業である
人材獲得難の時代でもある中、人材業界市場は5年連続で拡大しており、2022年度の人材ビジネス主要3業界(人材派遣業、人材紹介業、再就職支援業)の市場規模は、事業者売上高ベースで前年度比6.9%増の9兆5,281億円です(出典:㈱矢野経済研究所 人材ビジネス市場に関する調査 2022年)。
過去にはリーマンショックなどをはじめとした金融危機などのように景気が低迷すると大規模な人員削減の削減などが行われるため、景気の影響を受けやすい業界というイメージがあるかもしれませんが、正社員の求人数が減ると派遣社員の求人が増えるような相関もあり、意外と不景気に強い側面もあります。
幅広いビジネスの知見が得られる
人材業界に転職することで、ビジネスに関する幅広い知識を学ぶことができます。人材会社によって特定の業種、職種に強いなどの特性に違いはあるものの、さまざまな業種の企業、求職者の方と接点があるため、広範囲な分野のビジネスについて知見を深めることが可能です。
特に人材業界の法人営業や人事コンサルタントは、経営層や現場責任者などと直接コンタクトをとる機会が多いため、他業種の営業職などと比べると幅広さもさることながら、深い知見に触れられる機会も多いでしょう。
異業界での経験が活かしやすい
未経験の業界へ転職した場合、転職先ではそれまでの経験が評価されなかったり活用できないこともありますが、人材業界では前職が異業界の経験でも生かすことが可能です。どのようなキャリアを歩んでいたとしても、類似のキャリアを歩んできた人の転職サポートに経験を生かすことができます。
例えば理系出身でメーカー勤務をしていた人が、人材紹介に転職して、理系の知識を生かしながらメーカーの研究職や技術職の求人を扱うケースはよくあります。また自分自身がそれまで転職活動やキャリア形成に苦労してきた場合、その経験を求職者向けの転職サービスに活かすことも可能です。多様なキャリアを持つ業界未経験者たちが活躍している間口の広さが人材業界の魅力でもあります。
若い人や女性が活躍している
人材業界の歴史は浅く、現在業界をリードしている人材会社も1999年職業安定法改正以降に創業されている会社が多く、比較的新しい業界です。人材業界の先駆者でもある株式会社リクルートが早くから女性や若手に基幹業務や管理職を任せる形での成長をしてきた経緯もあり、追随する各社においても女性や若手が活躍する文化が育まれてきました。
働き方や評価制度に関しても、新しいやり方を積極的に導入している会社が多い業界です。また人材業界で数年働いた後に独立・起業する人が多く、若い経営者を多く輩出しています。分け隔てなくチャンスがあり、自分らしく働くことができる点で魅力的な業界といえるでしょう。
達成感、やりがいを感じやすい
人材業界の仕事の多くは人材を探す企業と仕事を探す求職者の双方の役に立つ業界です。この人材獲得が困難な時代に、自社に合う人材が採用できた法人顧客には非常に喜んで貰えます。また採用された人材の活躍により、法人顧客の中で新規事業が立ち上がるなどの変化が実現できた際などにもこの仕事の意義などを感じられるのではないかと思います。法人・個人双方から多くの感謝の言葉を寄せて頂けることがあり、達成感ややりがいを感じやすいのではないでしょうか。
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人材サービスの種類
一口に人材業界と言っても、そのビジネスモデルは複数存在します。それぞれの特徴や仕事内容などを確認し、転職先選びのヒントにしてみてください。
人材紹介
人材紹介は、名前の通り、企業にマッチする人材を紹介するビジネスモデルであり、転職エージェントという表現をすることも多いです。比較的、参入障壁も低いビジネス形態でもあり、この10年で人材紹介事業者は2倍にも膨れ上がり、現在、有料職業紹介免許を取得する事業者は3万社にものぼります。
人材紹介の仕事は、大別すると法人側を担当するリクルーティングアドバイザーと求職者側を担当するキャリアアドバイザーの2種類に大きく分かれます。リクルーティングアドバイザーは、企業からの求人依頼を受け、募集要件をヒアリングの上、最適な人物像のすり合わせなどを行うのが主な仕事です。キャリアアドバイザーは、求職者との面談やキャリアカウンセリングを行い、求職者が納得して転職先を決定できるように面接アドバイスや面接日程調整、内定時の各種確認等のサポートをしていきます。
大手の人材紹介会社ではリクルーティングアドバイザーとキャリアアドバイザーとの分業体制をとっていることが多く、代表的な企業としては株式会社リクルート(リクルートエージェント)やパーソルキャリア株式会社(doda)、株式会社マイナビ(マイナビエージェント)、レバレジーズ株式会社(レバテック、レバテック)などが挙げられます。分業体制であるため、働く人にとっては自身の得意分野に注力ができるというポイントは魅力といえるでしょう。
一方で分業体制ではなく、一気通貫で両方を1名の担当者が担う企業も多くあり、代表的な会社としては、株式会社ジェイエイシーリクルートメント、株式会社インターワークス、フォースタートアップス株式会社などが挙げられます。一気通貫で人材紹介を行う場合、転職という大きな転機の瞬間に立ち会うことができ、その喜びを企業・求職者両者と分かち合うことができるのが人材紹介で働く醍醐味と言えるでしょう。
人材派遣
人材派遣は、派遣会社に登録している求職者を企業に派遣し、労務管理をするビジネスモデルです。人材を企業に紹介するフェーズまでは上記の人材紹介と似ていますが、派遣会社がその派遣社員を雇用し、派遣後の労務管理や契約管理などを継続的に対応する点が異なります。また人材派遣は成果報酬型ではなく、派遣社員が就業した時間・期間に応じて法人からの料金が発生するという点でも人材紹介とはビジネスとして異なります。
代表的な企業としては、パーソルテンプスタッフ株式会社や株式会社パソナ、株式会社スタッフサービス、アデコ株式会社、ランスタッド株式会社などが挙げられます。また、技術職の人材専門の派遣会社もあり、株式会社メイテックやパーソルクロステクノロジー株式会社、株式会社テクノプロなどが挙げられます。人材派遣は、一人の求職者の方と長く接点を持ち、その人のキャリアを応援し続けることができるのが働くモチベーションになっている人が多い業態です。
求人広告
求人広告はWebサイトなどで求人広告を掲載し、採用支援をするビジネスモデルになります。掲載した求人広告は必ずしも成功に繋がる訳ではありませんので、採用率を高めるために、求人内容を提案するなど、求職者の関心を引くような求人広告になるようフォローする必要があります。
求人広告では法人営業や制作スタッフなどがチームとなり、求人広告の完成を目指すことが多く、人材業界の他のビジネスモデルと比べると、よりチームワークが問われます。また、かつては求人広告は紙媒体のみでしたが2000年代以降はWeb媒体が主流になり、動画やSNSと、様々な形態で求人広告が掲載されるようになりました。法人の採用課題や戦略に踏み込み、より多くの情報をわかりやすく届けるクリエイティビティが試される業態です。
求人サイトや求人誌などの運営する求人広告会社は、広告・メディア業界に分類されることもありますが、人材業界の一つであるとも言えるでしょう。求人を掲載したい企業からの依頼に応え、求職者向けに魅力的な求人広告を制作します。求人広告の媒体数は多いことから競合との差別化が求められるので、自社媒体での採用活動のメリットをきちんと訴求していかなければなりません。代表的な求人広告会社として、株式会社リクルート、株式会社マイナビ、エン・ジャパン株式会社、パーソルキャリア株式会社、株式会社キャリアデザインセンター、ディップ株式会社などが挙げられます。
ダイレクトリクルーティング
ダイレクトリクルーティング(Direct recruiting)とは、企業が求人広告や人材紹介会社などを介さずに、転職プラットフォームに登録する求職者に直接アプローチして募集することを指します。つまり、企業が自社に合った候補者を探して、アプローチする採用手法です。求職者を探す方法として、SNSなどを通じて探す場合や、ダイレクトリクルーティングの代名詞のよう言われているビズリーチのような人材データベースを運営している会社を利用する場合があります。
SNSを通じてダイレクトリクルーティングを行う場合、企業が求人にかかる費用を抑えることができるため、採用コストを削減できるという利点があります。中途領域では「ビズリーチ」、「リクルートダイレクトスカウト」、「エンミドルの転職」、新卒領域では「OfferBox」などのサービスがあります。このような転職プラットフォームサービスを利用する場合、顧客に対して初期費用+成功報酬モデルを導入している企業が多いです。
ダイレクトリクルーティングは、この10年で注目を集めるようになった採用手法です。近年、企業の人材不足は、あらゆる職種で深刻化しており、採用競争が激化しております。そのため、求人広告や人材紹介のような企業側が待ちの姿勢で採用活動をしていた形だけではなかなか人材の確保ができず、企業が求職者へ直接アプローチする攻めの採用として、注目されております。
ダイレクトリクルーティングは、企業が求めるスキルや経験を持つ候補者を、より解像度高く探すことができ、ターゲットを絞って探すことができます。そして、見つけた求職者に対して、自社の魅力を直接お伝えすることもできます。
しかし、ダイレクトリクルーティングには、求人を出すことなく候補者を探し出すためのリソースやノウハウを持つことが必要です。人材紹介会社や求人広告会社は採用に関するノウハウを自社で持っていることが多くあり、サービス提供と併せてアドバイスをしてもらえることがあります。そのため、企業がダイレクトリクルーティングをする際には、採用プロセス全体の管理や求職者へのアプローチのノウハウなどを学ぶ必要があり、課題もあるのが現状です。
人事コンサルティング
人事制度の設計や人事戦略の構築、人材開発の課題解決など、人事にまつわる経営課題をコンサルティングすることが、人事コンサルティングです。経営層や人事担当者へヒアリングを実施し、目指すべき組織体制と現状のギャップを把握し、解決策を提案・実行します。各企業によって抱える課題や目指すべき組織体制は様々であるため、非常に難易度が高いですが、クライアントに与える影響は大きく、やりがいのある仕事です。
人事コンサルティングをするためには、経営や人事にまつわる専門知識や新しい法律のキャッチアップ、プロジェクトマネジメント経験、顧客との折衝能力等、複合的なスキルセットが求められることから、未経験でチャレンジできる求人は少ないものの、社会保険労務士や中小企業診断士、キャリアコンサルタントなどの人事・経営関連の資格を取得しておくことで採用されるチャンスが高まるでしょう。
未経験でも人材業界への転職を成功させるためのポイント
未経験でもチャレンジできるチャンスのある人材業界。異業種から転職する方も多く、転職を成功させるために、以下のポイントを参考にしてみてください。
人材ビジネスについて理解する
人材ビジネスは、企業と求職者を結びつけるプロセスを管理し、企業の課題解決並びに求職者の転職を支援するビジネスです。前述の通り、人材紹介や人材派遣、求人広告、ダイレクトリクルーティングなど、さまざまな業態が存在します。
まずはそれぞれのビジネスモデルの特徴と違いについて、しっかりと把握し、どのサービスであればどのようなことができるのかを理解することが大切です。人材業界を志望する未経験の方で、各事業の違いを明確に理解していない場合が多々あり、自身のチャレンジしてみたい人材サービスを定めましょう。
人材業界でやりたいことを明確にする
面接で志望動機を伝える際に、「人と関わる仕事がしたい」「困っている人のサポートをしたい」というような漠然としたことを言ってしまうと本気度が伝わりにくく、人材業界でなくでもよい理由になる方がいらっしゃいます。未経験で人材業界に興味をもった方の多くには、「求職者と企業の出会いを見届けたい」「自分の企画力で魅力的な求人広告を作りたい」「求職者に寄り添えるキャリアコンサルタントになりたい」「企業の人材不足のソリューションを提案したい」など人材業界でやってみたい仕事のイメージや興味をもったきっかけがあるかと思います。
「なぜそう思ったのか」「なぜ人材業界で挑戦したいのか」をしっかり整理、深堀をしてみて、人材業界で働くことを志すにあたり、自分がやりたいことが明確になるまで棚卸をしましょう。その上で「〇〇をきっかけに■■といったことを考えるようになり、▲▲を実現したいため、人材紹介を志望しました」というような流れで語ることができるように準備することが大切です。
過去の経験と人材業界で活かせる点を組み合わせてみる
人材業界が未経験であっても、過去の経験や現時点で保有しているスキル・長所を生かせることが多々あります。人材業界の特徴として、製造業、医療業界など業界に特化して注力している企業、あるいは大手人材会社の場合には担当業界で組織を分けていることが多くあります。そのため、人材ビジネスは未経験であっても業界に関する経験・知識があることで重宝されることがあります。
また、人材の課題は経営に直結する課題でもあるため、社長や役員クラスなどの経営層との商談経験も多く発生します。そのような業界慣習を踏まえた場合、これまでの仕事の中で経営層との対峙経験があるならアピールしていくと良いでしょう。
このように、業界未経験でも応募企業によっては自分のこれまでの経験と紐づけられることが多々あります。応募する人材会社の特徴、併せてこれまでの経験やスキルにしっかりと整理して、人材業界で活かせる点を棚卸してみましょう。
人材業界への転職に向けて
こちらでは人材業界への転職に向けてのポイントについて解説します。多くのビジネスパーソンが多忙である中、現職のパフォーマンスを落とさないよう、効率的に情報収集を行う必要があるでしょう。こちらではこのような方の転職活動で推奨する2つの手法についてご紹介します。
スカウトサイトを活用した転職活動
一つ目はスカウトサイトを活用した転職活動になります。先に記載の通り、このような転職プラットフォーム市場はこの数年で急激に市場が拡大しており、今や転職活動のスタンダードをもいえるでしょう。これら転職プラットフォームに情報を登録しておくことで、経歴を見た転職エージェント、または企業より直接スカウトを貰うことが可能です。
また、どのような企業がこれまでの経験を評価してくれるのかという観点も含め、自分の経歴に合った求人情報をある程度網羅的に情報を集めることができるため、多忙なビジネスパーソンにとっては有効な転職手法の一つと言えるでしょう。
人材紹介会社(転職エージェント)を活用した転職活動
この様な転職プラットフォームサービスの台頭はあるものの、まずは自身の現状について相談したいという場合には人材紹介会社(転職エージェント)を活用していくこともよいでしょう。多くの場合、転職活動は孤独です。自身の経歴の棚卸、今後の自分のキャリアプランをどうしていくべきかなど腹を割って話ができる存在がいるかいないかは、自身の転職活動を良い形で進めていく上で重要です。
前述の通り、転職エージェントは国内に数万社あり、業界に特化した転職エージェント、あるいは経営層、マネジメント層に特化した転職エージェントなどそれぞれ特色があります。これまでの経験、自分が描きたいキャリアなどを踏まえ、自分に合った転職エージェントをパートナーに選びましょう。
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※お話を聞いて頂くだけでもOKです。
最後に
今回ご紹介した通り、人材業界には様々なビジネス業態があり、どんな会社に入るのかによって仕事のやりがいは全く異なります。未経験で人材業界へ転職するケースは決して珍しくなく、異業種から中途採用されて早期に活躍している方もたくさんいらっしゃいます。これまでとは違った業種で働いてみたいと考えている方は、ぜひ人材業界も視野に入れてみてはいかがでしょうか。