TAM、SAM、SOMとは?スタートアップ企業が向き合う市場規模について解説!

どのようなビジネスにおいても、そのターゲットとなる市場の大きさを知るというのはとても大切なことです。しかしながら、市場規模という言葉だけではどのような範囲を指しているかが不明確であり、認識にズレが生じてしまうリスクがあります。そのような認識の齟齬を回避するために、スタートアップ企業などが向き合う市場の大きさを表す際に用いる「TAM」「SAM」「SOM」という言葉について解説いたします。

目次

TAM、SAM、SOMとは?

TAM、SAM、SOMとは、それぞれ市場規模を表す言葉です。新規事業に取り組むべきかどうかを意思決定する際には「その事業の全体の市場規模はどのくらいの大きさか」「その中で自社が獲得しうる最大の範囲はどれくらいか」「その中で現実的にアプローチできる範囲はどれくらいか」などいくつかの段階に整理して市場の大きさを知ろうとするはずです。そういった市場の大きさに関するそれぞれの段階を表すのがTAM、SAM、SOMです。TAMが最も大きな範囲で市場を捉える言葉で、次にSAM、最も狭い範囲がSOMです。

このTAM、SAM、SOMという言葉を理解することで、認識のズレなく市場の大きさについて表現したり、議論したりすることができるようになります。ではTAM、SAM、SOMそれぞれについて、順にご説明していきます。

TAM(Total Addressable Market)とは

TAMとは、「Total Addressable Market」の略です。ある事業が対象とする全体の市場規模を意味する言葉で、市場全体の取引額が年間でいくらあるのかを表します。その事業で市場シェア100%を獲得したとしたら売上高がその金額になるというように言えば理解しやすいのではないでしょうか。

TAMは、スタートアップ企業などが新たな事業を立ち上げる際に、その提供するサービスの対象となる顧客が最大でどれだけあるかを表します。TAMはかなり広い範囲を含む概念で、自社が想定しているものとは異なるアプローチで提供される商品やサービスによる部分も含まれます。例えばUberのようなライドシェアサービスの場合、その事業のTAMは対象地域における人の移動ニーズ全てを含む(タクシーだけでなくバスやレンタカーによるものも、ライドシェアサービスに置き換え得るものとしてTAMに含まれる)と言えます。

TAMが大きければ大きいほど、その事業に取り組むスタートアップは魅力的な市場を開拓しようとしていると言うことができます。スタートアップ企業への投資を行うVC(ベンチャーキャピタル)などの投資家に自社の魅力を伝える際などには、このTAMを用いて説明することが多いでしょう。

SAM(Serviceable Available Market)とは

SAMは、「Serviceable Available Market」の略です。TAMのうち、自社が提供する商品やサービスの対象となり得る範囲を指しています。

TAMがかなり幅広い概念だったのに対し、SAMは自社が想定している商品やサービスの提供方法でターゲットとなり得るニーズの範囲を表しています。TAMには「そのニーズに対してどのような方法で自社の商品やサービスを提供するのか?」という視点が入っていませんが、SAMはTAMのうち自社が想定している商品やサービスの提供方法ではターゲットとなり得ない範囲を排除したもので、より現実的にその事業のポテンシャルを表したものであると言えるでしょう。

さきほど例に挙げたUberのようなライドシェアサービスの場合、TAMは「対象地域における人の移動ニーズ全て」と言いましたが、実際にはライドシェアサービスがスマートフォンを使って提供されるものである以上、スマートフォンを持っていない層は(そのままのサービス提供方法では)顧客となり得ませんので、SAMに含めることはできないと考えるべきでしょう。その事業が実際に商品やサービスを提供できる範囲はどこからどこまでで、その総額はいくらかを表しているのがSAMだと理解いただければと思います。

SOM(Serviceable Obtainable Market)とは

SOMは、「Serviceable Obtainable Market」の略です。上述のSAMよりもさらに狭い範囲を指す言葉で、実際にその市場に参入した際に、自社の商品やサービスの提供能力などを踏まえて獲得しうる市場の範囲を表しています。製品を製造して市場に提供するような事業の場合は生産能力を上回る売上を獲得することは現実的にできませんから、SOMはその生産能力の範囲に限定されることになります。また営業やマーケティングなどのような販売能力によってSOMが決まることもあります。SOMは現時点でその企業が目指すべき最大の売上高目標であると言うことができ、SOMを拡大しようとすれば、製品の生産能力や販売能力に追加投資を行うことでそれらを高める必要があります。

自社が現時点でその事業によってどれくらいの売上高を上げる能力があるのかを表しているのがSOMであり、売上高がSOMに達していない場合はなんらかのリソースを余らせてしまっていることを意味していると言えますから、その課題を解決すべく対応すべきでしょう。

また自社の売上高がSOMに近い値になっている場合には、そのままではそれ以上に売上高を伸ばすことができないということになります。さらなる成長を実現させるためには、必要な投資を行ってSOMを高めていく努力をすべきでしょう。

TAM、SAM、SOMが使われる場面はどのようなものか

ここまで、TAM、SAM、SOMという言葉についてそれぞれの意味をご説明しました。それでは、スタートアップ企業などにおいて実際にこれらが使われる場面にはどのようなものがあるのでしょうか。そのいくつかについてご紹介していきます。

新規事業の立ち上げを検討する際

TAM、SAM、SOMは、スタートアップ企業などが新規事業の立ち上げについて検討する際、その事業の対象となる市場の大きさを知るために用いられます。

「これから参入しようとしている市場は、全体としてどれくらいの大きさなのか」「その中で自分たちが考えている方法で商品やサービスを提供するとしたら、ターゲットとなる範囲はどれくらいなのか」といったことを把握することで、検討している新規事業には適切な市場が存在するのかを確認し、意思決定の参考とすることができます。

投資家がスタートアップ企業等への投資を検討する際

TAM、SAM、SOMは、VC(ベンチャーキャピタル)などの投資家がスタートアップ企業などへの投資について検討する際にも重要な判断材料となります。経営者が考えている事業計画は本当に実現可能なものなのか、あるいは無理があるのならどの点に無理があるのかなどを確認するには、その企業が取り組もうとしている事業のTAM、SAM、SOMを知ることは欠かせません。

TAMやSAMが大きく、その大きな市場ニーズを獲得するために資金が必要で、その資金により必要な投資ができればこんなふうにシェアを拡大し売上や利益をあげることができるのだということが確認できれば、投資家は喜んで投資を行うことができるでしょう。

投資家に自社の事業を説明する際、TAM、SAM、SOMという考え方を用いた市場規模についての説明は必須のものであると理解しておきましょう。

TAM、SAM、SOMの計算方法

では、ここまでご説明してきたTAM、SAM、SOMはどのようにすれば知ることができるのでしょうか。TAM、SAM、SOMを計算するための主な考え方として、「トップダウンアプローチ」と「ボトムアップアプローチ」についてご紹介したいと思います。

トップダウンアプローチ

トップダウンアプローチは、マクロの視点から考え始める方法です。業界レポートや統計データなどをもとに、それらを組み合わせたりターゲット市場となり得る割合を計算したりするなどの方法で市場規模を把握します。主にTAMの計算に用いられることが多い方法で、業界レポートなどの公開されているデータから大きな市場規模を知り、そこに自社の事業セグメントや顧客層などに絞ることで市場規模を知ろうとするアプローチです。

自社の事業についてTAMを計算する際には、たいていの場合、自社に最も近い市場の大きさを表すデータを探すところからスタートします。リサーチ会社や金融機関などが公表している業界レポートや統計データ等を確認し、自社が市場規模を知るために最も使いやすいデータはどれなのかをよく考える必要があります。また、そうしたデータには通常、その調査が行われた時期がいつなのかが書かれています。データが古い場合は市場の状況が大きく変わってしまっている場合もあります。特にITなどの領域では数年で状況が一変しているようなこともありますので、なるべく新しいデータを用いるのがよいでしょう。

ボトムアップアプローチ

ボトムアップアプローチは、顧客単位などミクロな視点から市場規模を捉えようとする考え方のことです。想定している顧客層や、もしくは実際に顧客になった方にアンケート調査を行い、そのデータを分析するなどの方法によって、自社の商品やサービスに潜在的なニーズがどの程度あるのかを知ろうとするものです。

ボトムアップアプローチでは、一人ひとりの顧客の声を積み上げることで全体の市場規模を計算します。小さい範囲から考え始めるので、SAMやSOMを知るための方法として使い勝手がよいでしょう。

アンケート調査を行うにあたっては、事前にアンケートの質問内容などをよく吟味してうえで実施する必要があります。アンケート調査を行ってたくさんの回答を集めるのは手間と時間のかかるものですし、失敗したとしてもやり直しをするのも難しいものです。たとえば「あなたはタクシーにどのくらい乗りますか」といったような質問では、市場規模を知るために集めるアンケートとしては大まかすぎるでしょう。回答方法にばらつきが生じてしまわないよう「1カ月に何回乗りますか」といったように聞きたいことを明確にするなどし、そのアンケート内容で多くの回答が集まった際に、市場規模を知るうえで使えるデータになるかどうか、事前によく確認しておきましょう。

最後に

今回は市場規模を表す言葉として「TAM、SAM、SOM」という3つの言葉についてご紹介しました。TAM、SAM、SOMは唯一の正解があるものではなく、それぞれ市場や自社の事業理解、自社の状況に関する捉え方などの影響を受けて決まるものです。新規事業に取り組むスタートアップ企業などにおいては、自分たちが向き合おうとする市場はどのような範囲で、その中でどのような戦い方をしようとしているのは、どのようなポジションを取ろうとしているのかをよく整理し、認識を揃えておくことも大切でしょう。

市場を理解することで、自社の事業がうまくいく道筋が見えるかどうかや競合に対して自社がどのような立ち位置にいるのかを知ることができます。スタートアップ企業や新規事業に関わる仕事をされる方には、ぜひこういった市場に関する考え方を知っていただき、ビジネスに役立てていただければと思います。

この記事を書いた人

岩崎久剛

1984年兵庫県生。関西大学工学部を卒業後、受験支援事業を全国展開する大手教育事業会社にて総務人事など管理部門を経験し、2012年より人材業界に転身。大手総合人材会社にて求人広告、人材紹介など中途採用領域での法人営業を経験し、従業員数名規模のベンチャーから数10か国に展開するグローバル企業まで多様な業界、事業フェーズの企業の採用を支援。2016年よりハイキャリア領域の人材紹介事業立上げメンバーに参画し、関西ベンチャーを軸とした採用支援に従事。その後、ビズアクセル株式会社を起業。MBA(グロービス経営大学院)。

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