ミドル人材がベンチャー転職に臨む際にもつべき心構えとは

ベンチャー、スタートアップ企業への転職と聞くと、「若い世代の転職」というイメージをもつ人が多いのではないでしょうか。しかし、ビジネスのスピードが高まり、より競争環境が激化する中、マネジメント層、即戦力性の高い人材の採用に積極な企業も増加してきている傾向にあります。今回は中間管理職などの立場を担うミドル人材がベンチャー企業へ転職するに際してのメリットとデメリット、後悔しないベンチャー、スタートアップ企業への転職方法を解説していきます。

目次

ベンチャーとは

「ベンチャー」「スタートアップ」という言葉に具体的な定義はありません。創業の浅い企業のことを指す場合もあれば、IT・Web系のビジネスなどにより、まだ世の中にない新しい価値を生み出そうとする企業を指す場合などもあります。

こちらの記事では主にIPO(新規株式公開)やM&AによるEXIT(イグジット)を目指す企業のことをベンチャー企業と定義してご紹介します。このようなベンチャー企業は多くの場合、ベンチャーキャピタルなどより出資を受け、赤字を掘りながら急成長を目指す、所謂、Jカーブと呼ばれる成長曲線を描きながら事業を推進される企業が多いです。

また、関西をはじめ地方では事業承継をきっかけに、事業変革をされ、ベンチャー企業へと変化を遂げることも珍しくありません。例えば関西では先代では繊維を扱う事業を展開していたものの、代替わりのタイミングで繊維とテクノロジーを絡めたIoT事業へと移行し、IPOを目指す企業などがあり、アトツギベンチャーと称するケースもあります。

ベンチャー企業に転職するメリット

ここまでベンチャーとは何か解説してきました。こちらではそんなベンチャー企業へ転職するメリットについてご紹介していきます。

業務の幅が広がる

多くのベンチャー、スタートアップ企業では、割り振られた業務をこなすだけではなく、自身の業務範囲を超えて様々な業務を行う必要があります。これは単純な人員不足の問題もあれば、顧客の声を反映する中で新設部門などの立ち上げなどに紐づくような場合もあります。このように聞くと、業務が多く大変に思われるかもしれません。しかし、幅広い業務に関与することで、事業や会社の全体像を俯瞰した視点で仕事に臨むことができたり、自分の仕事が会社の成長にダイレクトに直結する感覚などに、やりがいを感じたりできます。こういった感覚は、大企業と比較すると多くなるでしょう。

キャリアアップのチャンスがある

入社後に成果を上げれば早期に管理職についたり、事業責任者へ抜擢されたりなど、キャリアアップを実現できる可能性があります。特にベンチャー、スタートアップ企業であれば、プレイヤーとして活躍する社員は20代が中心であることが多いです。実務経験だけでなく、後輩社員の育成経験などを有する30代、40代の年代層には、それらをまとめた仕組み作りなどを期待されることが多くなります。そのため、入社後に早い段階で管理職に登用をされることも多いです。

ただ早期に管理職になれる可能性があると言っても、年代の問題で管理職になれるというわけではありません。明確な成果や周囲を牽引できるなどのリーダーシップを発揮することが前提です。事業成長に貢献度の高い人材が評価されやすい構造になる点にご注意ください。

経営を身近に感じられる

大手企業と比較して従業員規模が小さいベンチャー、スタートアップ企業では、経営陣と近い距離で仕事ができます。経営陣がどのようなことを考え、経営判断を下しているかを身近で感じられる瞬間も多いでしょう。また、社長や役員の方とともに案件を進めることも珍しくありません。

ビジネスパーソンとしてキャリアアップを目指す上で、会社や事業の未来を見据えた「決断をする力」は非常に重要な要素のひとつです。不確実性がますます高まる高いビジネスの世界で、どのような観点で物事を考え、何に時間や予算を投資するのか、このような意思決定を経営者の間近で感じられる環境は、大きな成長の糧になるかと思います。

ベンチャー企業に転職する際にデメリットに感じ得ること

多くの魅力があるベンチャー、スタートアップ企業ですが、一方でデメリットと感じ得ることもあります。ベンチャー、スタートアップ企業に転職をした際に、どのようなことがあるか事前に認識して、後悔しないようにしてください。

年収が下がる可能性がある

これまで大手企業に勤務されてきた場合、ベンチャー、スタートアップ企業へ転職すると年収が下がる可能性があります。30代、40代などの転職の場合、子育てや家庭との両立なども考えなければならない方も多いかと思います。そのような中、綺麗事抜きに年収は決断する上での大きな要素のひとつになるでしょう。特に創業から間もないベンチャー、スタートアップ企業の場合、最初から十分に利益を確保できるとは限りません。そのような中、業務量に対して報酬が伴わないと感じる可能性もあります。早期にキャリアアップをし、管理職や責任者へ抜擢されたとしても、事業が軌道に乗るまでは大手企業の同じポジションと比べると、水準が低いことがほとんどです。

但し、事業フェーズが進み、収益力がある程度担保できるようになったベンチャーであれば、それなりに人件費にも還元が出来るようになります。家庭との両立を度外視した無理のある転職をしても、結局は長続きしません。そのような点を踏まえ、どのような事業フェーズのベンチャーであれば長期的に頑張ることができそうか検討の上、転職活動に臨まれることをおすすめします。

まだ世の中にない新しいビジネスだからこその不安定性

ベンチャー、スタートアップ企業の展開するビジネスは、まだ世の中にない新しい価値の創造などを目指したものが多いです。その為、良いプロダクトだったとしても最初はなかなかマーケットに受け入れて貰えず、売上獲得に苦戦することがほとんどです。今では上場を果たした企業でも、創業当初のビジネスモデルはうまくいっていなかったということもあります。その中で、ビジネス方針を転換(ピボット)し、当初のターゲット顧客を変更する、あるいはビジネスモデルをがらりと変えるなど、試行錯誤をしながら事業を形にしているケースも珍しくないのです。

またある程度事業が軌道に乗ったとしても、大手企業の参入などが待ち構えています。事業の収益化、そして競合優位性の確立が実現できるまでは、なかなか安心はできないかと思います。家庭を持つ方や、安定した生活を求める人は、ベンチャー、スタートアップ企業への転職にはリスクがあることを理解しておく必要があります。転職活動を始める際に、その認識を家族と共有の上、ベンチャーへの挑戦を決断してください。

カルチャーアンマッチの可能性がある

従業員規模の小さいベンチャー、スタートアップ企業では、経営者の考え方が職場環境に色濃く影響します。例えば、営業出身の経営者であれば、体育会系のような会社風土であったり、エンジニア出身の経営者であれば、モノづくりを第一にした組織の作り方をしていたりします。その他にも複数の起業経験がある連続起業家の場合には、創業当初より仕組み作りに力を入れているなど、経営者のバックグラウンドや考え方に組織は非常に影響を受けます。

自分がどのような企業文化、経営方針の環境であれば頑張れそうか自己認識を深め、その上でカルチャーフィットしそうな企業を選択されると良いかと思います。最近では代表の方がTwitter、noteなどでどのように会社経営を考えているか情報発信をしているケースも多いので、是非応募の前に、そのような情報も参考にすると良いでしょう。

ベンチャー企業への転職を成功させるポイント

実際にベンチャー企業へ転職し、キャリアアップを実現するためにはいくつかのポイントがあります。こちらでは転職に際してのポイントや手法について解説していきます。

自分が思うキャリアアップは何かを具体化する

ある人は役職が上がることを、ある人は年収が上がることをキャリアアップと捉えるなど、当然ながらキャリアアップの定義は人によって違います。転職した後に後悔しないためには、自分自身が目指す姿を具体的にイメージし、その目指す姿に近付ける可能性が高いベンチャー、スタートアップ企業を選ぶ必要があります。

自分の目指す姿を明確化した上で転職活動に臨むと、企業のどのような点を確認すべきか具体化できます。例えば早期に役職を上げ、経営ポジションを目指したいのであれば、どのような基準でマネジメントポジションへの登用を決定しているのかを確認するのが良いでしょう。自分が食い込める余地があるか、現在の経営体制などについても理解をしておく必要があるでしょう。

また、自身の成長機会を大切にする場合であれば、どのような事業展望を描いているのかを具体的に伺うことで、会社の成長と共に、どのような挑戦機会が期待できそうかイメージできるかと思います。

キャリアプランから自分のやるべきことを具体化する

ベンチャー、スタートアップ企業へ転職する際は先に記載の通り、どのようなキャリアを歩みたいか具体的にイメージをして臨むと良いでしょう。自身の目指す姿が具体的であれば、その実現に向けて短期、中長期で何に取り組むべきかが明確になります。目的意識をもって仕事に取り組むのと、漠然と目の前の仕事に向き合う働き方では、当然ながら成長スピードに差がつきます。

ベンチャー、スタートアップ企業は教育制度が十分と言えない環境の企業が多く、また大手企業のように、会社がキャリアステップなどを具体的に提示しているようなケースは稀です。つまり、入社後にキャリアを築いていくのは、自分自身に他なりません。

特にベンチャー、スタートアップ企業に挑戦される方には、経営の一角を担える人材になりたいと考える方も多いと思います。今の自分には何が足りないかを具体的に考え、あるいは経営陣として活躍している方と自分との差分など冷静に捉え、自分に必要なことを意識しながら仕事に臨まれることをおすすめします。

スカウトサイトを活用した転職活動

スカウトサイトを活用した転職活動も取り組むべき転職活動手法の一つといえるでしょう。2010年代に入り、これまで主流であった転職サイトなどからスカウトを待つ転職プラットフォームに移行しつつあります具体的には「ビズリーチ」「リクルートダイレクトスカウト(旧キャリアカーバー)」「エンミドルの転職」などが挙げられます。このような転職プラットフォーム市場はこの数年で急激に市場が拡大し、2021年には前述のビズリーチを運営するビジョナル株式会社が東証マザーズにも上場を果たしています。

これら転職プラットフォームに情報を登録しておくことで、経歴を見た転職エージェント、または企業より直接スカウトを貰うことが可能です。どのような企業がこれまでの経験を評価してくれるのかという観点も含め、自分の経歴に合った求人情報をある程度網羅的に情報を集めることができるため、多忙なビジネスパーソンにとっては有効な転職手法の一つと言えるでしょう。

ベンチャー企業に強い転職エージェントを利用する

自力で企業研究を行っても、ベンチャー、スタートアップ企業は大手企業と比べて公開されている情報が少ないため、情報収集しきれない部分もあるでしょう。そんなときは、転職エージェントの力を借りることもひとつの手段です。

転職エージェントは国内に数万社あり、職種や業界に特化した転職エージェント、あるいは経営層、マネジメント層に特化した転職エージェントなどそれぞれ特色があり、信用金庫、銀行などをはじめとした金融業界に強い転職エージェントも存在します。これまでの経験、自分が描きたいキャリアなどを踏まえ、自分に合った転職エージェントをパートナーに選びましょう。

最後に

20代などの若手ビジネスパーソンが挑戦するイメージが強いベンチャー、スタートアップ企業ですが、スキルや経験のあるミドル人材だからこそ、活躍できる可能性も大いにあります。今の職場環境でミドルの立場を務めつつも、でまだまだチャレンジングな挑戦をしたいとお考えの方はぜひご参考になさってください。

この記事を書いた人

岩崎久剛

1984年兵庫県生。関西大学工学部を卒業後、受験支援事業を全国展開する大手教育事業会社にて総務人事など管理部門を経験し、2012年より人材業界に転身。大手総合人材会社にて求人広告、人材紹介など中途採用領域での法人営業を経験し、従業員数名規模のベンチャーから数10か国に展開するグローバル企業まで多様な業界、事業フェーズの企業の採用を支援。2016年よりハイキャリア領域の人材紹介事業立上げメンバーに参画し、関西ベンチャーを軸とした採用支援に従事。その後、ビズアクセル株式会社を起業。MBA(グロービス経営大学院)。

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