M&A業界への転職を検討する際、押さえるべき業界の全体像

M&A業界と言えば、成長市場であり、また非常に年収の高いことが知られており、転職市場でも非常に人気のある業界です。しかし、裏を返せば、転職先として「採用ハードルの高い業界」であるとも言えます。

そんな競争率の高いM&A業界へ転職するためには、業界について詳しく知り、自身のスキルや経験にマッチした企業にエントリーすることが大切です。そこで今回は、M&Aコンサルタントへの転職を考えている方向けに、M&A業界、M&Aコンサルタントについて知っておくべきことと転職に活かせる経験についてお話しします。

目次

M&Aとは

M&Aとは「Merger and Acquisitions」の略で、日本語に直すと「合併と買収」という意味になります。M&Aと言うと「企業買収」というイメージが強いですが、「合併」や「企業の分割」もM&Aの一種です。M&A業界は、コンサル業界などと同様に、転職市場で注目を集めている業界です。高待遇が期待できるため転職希望者が多いものの、金融知識をはじめ専門性の高いハイレベルなスキルが求められ、転職するのは簡単ではないと考えられています。

しかし、近年のM&Aマーケットの拡大にともない、転職希望者の採用に積極的になっているM&A関連企業も増えています。「転職先としてM&A業界にもチャレンジしてみたい」と考えている方にとっては、よいタイミングと言えるかもしれません。

M&A業界の構図

M&A業界への転職を考えるのであれば、まずはM&A業界のプレーヤーについて知っておきましょう。有形商材を扱う事業者ではないため、それぞれのM&A事業者にどのような違いがあるのかの理解の上、転職活動に臨むと良いでしょう。また、同じM&A業界でも「転職しやすいプレーヤー」と「転職しにくいプレーヤー」がありますのでその点も押さえて、転職先を検討してみると良いかと思います。

M&A仲介会社

M&A業界の会社として真っ先に上がるのが「M&A仲介会社」でしょう。M&A仲介会社は、M&Aを検討している買い手企業・売り手企業双方の間に立って、スムーズなM&Aをサポートします。M&Aを行う顧客は中小企業が中心となっているところが多いのが特徴です。

主なM&A仲介会社には、「日本M&Aセンター」「M&Aキャピタルパートナーズ」「ストライク」などが挙げられます。これらの3社は「M&A仲介の大手3社」としても知られており、M&A業界が高収入を得られることを示している存在でもあります。東洋経済が発表している「平均年収ランキング」でも、M&Aキャピタルパートナーズの1位を筆頭に、各社ともに上位に名を連ねています。

M&A仲介会社は、M&A業界の市場成長の恩恵を最も受けているプレーヤーであり、業界の中でも採用活動に積極的な企業が多く、転職市場でも注目されている存在です。

FA(ファイナンシャル・アドバイザリー)

ファイナンシャル・アドバイザリーは、M&Aを行う企業の一方からの依頼を受け、M&Aに関するアドバイスやM&A相手との交渉を行います。「FA」「FAS(ファイナンシャル・アドバイザリー・サービス)」「M&Aアドバイザリー」などと呼ばれることもあります。M&Aの買い手・売り手の間に立つ仲介会社と異なり、買い手・売り手のいずれか一方のサポートを行います。顧客の利益を最大化できるM&Aを実現しようと交渉にあたるスタイルで、顧客は大企業が中心です。

ファイナンシャル・アドバイザリーは、大きく金融系とコンサル系に分類することができます。金融系は銀行や証券会社系列のM&A支援専門企業・事業部で、コンサル系は「山田ビジネスコンサルティング」「フロンティア・マネジメント」「PwCアドバイザリー」など会計・税務・法務などの専門性を武器にしたコンサルティングファームが多いのが特徴です。

その他のM&A業界のプレーヤー

この他に、M&Aを行う投資家側にあたるプレーヤーも存在します。投資銀行やプライベート・エクイティ・ファンド(PEファンド)といった投資ファンドとしてM&Aを実行する企業や、M&Aを積極的に行っている事業会社のM&A関連部門も、M&A業界にあたります。

ここまでM&A業界を大きく3つに分類しましたが、「転職先としてのM&A業界」という意味では、M&A仲介会社が中心になります。ファイナンシャル・アドバイザリーや、投資ファンドは、転職者を探す場合に「非常に高い専門スキルを持った即戦力」を求める傾向にあるため、転職先としては非常に狭き門だからです。

拡大するM&A仲介市場

M&A業界への転職を成功させるためにも、どうしてM&A仲介会社が採用活動を積極化しているのかを知っておくことが重要です。今後M&A業界がどのような展望かなどの業界動向を理解しておくことは、M&A業界への転職で何が必要となるかの理解にも繋がるでしょう。

近年、日本ではM&A件数が年々増加しています。M&Aキャピタルパートナーズの子会社であるレコフの調査によると、日本企業のM&A件数は、2019年に4,000件を突破しました。2020年は新型コロナウイルスの影響で一時的に減少しましたが、2021年には再び増加に転じ、過去最多の4280件を記録しています。この背景にあるのが、「中小企業の事業承継問題」と「ベンチャー企業のM&A」です。

事業承継によるM&A

オーナー社長の中小企業では、事業承継で何代にも渡り、経営を続けている会社が珍しくありません。しかしながら、晩婚化や少子化が進む中、後継ぎとなる親族がいない、あるいは社内での後継者として経営を任せられるがいないといった課題を抱える会社も多くなりました。

そのような後継者不足による廃業が増加することを、政府も問題視しています。この問題解決策として注目されているのが相乗効果のある企業とのM&Aです。事業承継型M&Aは、国内のM&A実績の中でも比率として高く、M&A仲介会社の中には事業承継型M&Aの案件に特化した会社も少なくありません。

尚、このような事業承継の問題からM&Aの経営選択をする企業の場合、企業と経営者の財布が一緒になっているような経営をされているケースの方が割合としては高く、まずはそのような会計周辺の整理などを数年がかりで進め、会社を売却できる状態にしていくという流れになることが多いです。

ベンチャー企業のM&A

大企業や中堅・中小企業、あるいはメガベンチャーなどが買い手となり、ベンチャー企業を買収するケースが増加しています。IT・Web領域にて事業を展開するベンチャー企業の多くは、創業当初の資金を賄うためにベンチャーキャピタルから出資を受けることが多いのですが、ベンチャーキャピタルより出資を受ける以上、ベンチャー企業はIPO、またはM&AによるEXITを目指す必要があります。

2010年代以降、東京だけでなく、大阪などの地方でも台頭するようになりましたが、IPO件数は年間90~110社と枠数が広がっている訳ではありません。そのため、IPOを達成できないベンチャー企業が多く出てくるため、必然的にM&Aの選択をとるしかないという実態があります。岸田政権が「スタートアップ育成5か年計画」を掲げる中、今後ますますベンチャー企業のM&Aは増えていくことでしょう。

M&A仲介市場をリードする上場企業6社

では、今、勢いがあり、転職市場でも注目される「M&A仲介会社のマーケット」はどうなっているのでしょうか。「M&A仲介会社の市場規模」を直接的に示すデータはありませんが、上場しているM&A仲介会社の業績などを見ると、マーケットの勢いを知ることができます。

M&A業界を牽引する上場企業6社

2022年7月現在で、M&A仲介をメインに行っている上場企業は、2022年6月に東証グロース市場に上場した株式会社M&A総合研究所を含めた下記の6社があります(売上・成約件数、決算月と共に記載)。

M&A成約件数は着実に増加

各社の成約件数の推移をみると、上場会社6社のM&A成約件数の総計(M&A総合研究所はIR情報に2019年の成約件数記載が無い為、割愛)では120%に増加しています。ただし、この数年で大手6社以外に、異業界からも含め、多くのプレーヤーがM&A市場に参入していることもあり、下記のトレンド以上にM&A仲介のマーケットは成長基調にある可能性が高いです。

このように、M&A仲介会社のマーケットは成長していることがわかります。大型案件から小規模案件まで、M&Aが一般的な経営の手法として定着する中、この傾向は、まだまだ当面は続きそうです。

M&A仲介の仕事内容

基本的なM&Aのフローはアドバイザリーでも仲介会社でも同じで、売り手・買い手となる企業との接点を構築の上、M&Aを成約させることにあります。その中でもM&A仲介会社の仕事内容としては、仲介という立ち位置でもあり、売り手と買い手に対し、出来る限り中立の立場をとってM&Aの機会を創出することが特徴と言えるでしょう。

M&A業界全体のトレンドとしては多くの事業会社がM&Aでの成長戦略を掲げ、買い手の需要が非常に高い中、売り手企業の獲得に力を入れていることが多いです。具体的には金融機関、会計事務所など提携機関との連携の上での売り手獲得の他、地道に新規営業を行っていく中で売り手獲得を進めているケースが多いです。また、日本の中堅・中小企業のM&Aの多くがこのようなM&A仲介会社に相談の上、M&Aを進めるケースが一般的です。

しかしながら、M&A仲介の立場でM&Aの成約に運ぶ過程においてもやはり専門性が必要なシーンはでてきます。そのような場面において外部のフィナンシャルアドバイザー、リーガルアドバイザーなどの協力を得る形で友好的なM&Aに向けて適切な企業価値の評価、契約締結を進めていく形になります。

また、M&A仲介会社の設立に関しては免許制などではないため、毎年、多くのM&A仲介事業会社が新設(あるいは異業種企業のM&A事業参入)されています。このような中、前述の基本的な仕事内容を踏まえつつ、転職活動でどのように自分に合ったM&A仲介会社を見極めていくのかについて解説をしていきます。

転職活動で自分に合ったM&A仲介会社の選び方

M&A仲介会社への転職を検討する際、「M&A仲介会社であればどこでもいい」と考えてしまうのは早計です。ひとくちにM&A仲介会社と言っても各社に特徴があるため、自身のスキルやキャリアプランに合致した会社を転職先として選ぶことが望ましいためです。

どのM&A仲介会社に転職すべきかを考えるときに見るべきポイントには、次のようなものがあります。なかなか公開情報でこのような情報をすべて獲得できる訳ではありませんが、下記情報を踏まえ、事前準備や面接の中で、各社がどのような方針の下でM&Aを行っているのか理解を進めていきましょう。

M&A案件の獲得方法

M&A案件の獲得は、M&A仲介会社の生命線とも呼べる部分です。中小規模のM&A仲介会社では、DMや飛び込み営業・テレアポなどを自ら行って案件を発掘するのが、主な案件獲得手法となりますが、逆に大手になればなるほど、上記のような新規開拓営業だけに依存せず、金融機関などの提携先からの紹介、Webからの集客などを強化し、案件獲得手段を仕組み化している傾向にあります。

このようなWebプロモーションなどをはじめ仕組み化に向けた取り組みをする企業は多いものの、経営者で最初からM&Aを明確に検討している方ばかりではないので、営業が顧客先に赴きながら経営者と信頼関係を築き、経営課題のヒアリングを進める中でM&Aの手段などを選択肢の一つとして提示し、時間をかけながらM&Aという経営判断に至るケースがまだまだ多いです。

M&A案件の規模

M&A仲介会社は、中小企業やベンチャー、スタートアップ企業といった成約金額が小さめのM&A案件を取り扱いますが、その中でも得意とする規模が異なります。案件の規模が大きくなると、成約の難易度が上がり、複雑なスキームの案件が増えます。逆に、小規模案件では、同じ期間でも多くの案件を経験できるでしょう。こういった違いがあるため、転職先で得られるスキルに違いが出てくると言えます。

例えば年商50億円以下ぐらいの中小企業を中心にしたM&A仲介を行う会社であれば、そのような中小企業向けに法人営業を行っていた経験などは評価されやすいでしょう。どのM&A仲介会社に応募するか考える際には、そのような観点も踏まえて検討すると良いでしょう。

どのような業界、事業フェーズに特化しているか

大手のM&A仲介会社の場合はどのような業界でも対応していますが、中小規模のM&A仲介会社では、特定の業界や事業規模に特化することで競争力を高めているケースも少なくありません。例えば医療業界に特化したM&A仲介会社、事業承継案件に強いM&A仲介会社などが挙げられます。

M&A仲介転職先として、金融に関する知識だけでなく、業界知識など自身の知見や経験が活かしやすい業界に対応しているM&A仲介会社かどうかも重要なポイントと言えるでしょう。

M&A業界への転職で活かせる経験

最後に、M&A業界、特にM&A仲介会社へ転職するときに活かせる経験やスキルはどのようなものなのでしょうか。M&A仲介会社への転職で求められる経験は、主に「(特に経営者向けの)営業経験」と「金融関連の専門知識」ですが、それ以外にもM&A業界で評価されやすい経験・スキルについて以下に記載します。

法人営業経験

M&A仲介会社への転職で最も求められるスキルが経営者層への法人営業経験です。M&Aには高度な専門知識が必要ですが、それ以上に営業力が求められるのです。その理由としては最初からM&Aを想定している企業は少ないからです。

中長期での視点でみた際に現経営体制で継続していくことに何かしらの課題を感じている経営者に、M&Aによる事業の売却などもひとつの選択肢であることを理解してもらうところからがスタートとなるため、専門知識も必要ですが、それ以上に営業力が求められるのです。そのため、コンサルタント自身が営業活動も行わなければならないM&A仲介会社では、専門知識と営業力を併せ持っている方が転職に有利だと言えるでしょう。

尚、案件の獲得をメインに行う人材を求めているM&A仲介会社であれば、M&Aや金融知識などに関して未経験でも中途採用で人材を採用していることがあります。医療機器や不動産の営業、大規模投資が必要なシステム開発の営業などで、経営者向けに高い営業力を持っている方であれば、未経験でもM&A業界への転職ができる可能性があるでしょう。

営業経験に不安があるけれども、いずれはM&A業界へ転職したいと考えている方の場合は、まず、M&A業界への転職で評価されるような法人営業経験を身につけるために、上記のような業界に転職して経験を積んでおくのも良いでしょう。

会計領域の専門知識

M&A実務ではDD(デューデリジェンス)、エグゼキューションなどのシーンにおいて高度な専門知識が必要です。このような実務を対応するためには金融、経理・財務、法務などの幅広い知識がなければ、M&Aをスムーズに成立させることはできません。そのため、公認会計士・税理士・中小企業診断士などの有資格者、あるいはM&Aに関する専門知識を有している方は、M&A業界への転職がしやすいでしょう。

また、公認会計士レベルの専門性とまでは言わずとも、最近ではM&Aに関する用語や流れなどの情報をYoutubeやWebサイトなどで得ることもしやすくなりました。詳細なことまでは理解は難しくとも、「デューデリジェンス」「エグゼキューション」「PMI」などM&Aに関する基本的な用語については意味を理解の上、転職活動に臨むと良いでしょう。

ストレス耐性

3つ目はストレス耐性です。M&A業界はハードワークであることでも知られています。これはプロジェクト単位で業務を進めるため、業務が集中して、連日にわたって長時間業務を続けなければならないといった業務量の側面の他、自身が思いを持って創業、承継した会社をM&A(売却)する経営者のセンシティブな部分に触れる仕事でもありますため、繊細さが求められるシーンも少なくありません。

M&Aコンサルタントを目指す上での転職活動

M&Aコンサルタントへの転職を目指す場合、このようなポイントを理解しつつも、自分のこれまでの経験を評価してくれるM&A仲介会社を探すのに苦労される方も多いでしょう。こちらではM&Aコンサルタントへの転職を目指す方が、転職活動で推奨する2つの手法についてご紹介します。

スカウトサイトを活用した転職活動

一つ目はスカウトサイトを活用した転職活動になります。これまで主流であった転職サイトなどからスカウトを待つ転職プラットフォームに移行しつつあります。具体的には「ビズリーチ」「リクルートダイレクトスカウト」「エンミドルの転職」などが挙げられます。これら転職プラットフォーム市場はこの数年で急激に市場が拡大し、2021年には前述のビズリーチを運営するビジョナル株式会社が東証マザーズ(現東証グロース市場)にも上場を果たしています。

これら転職プラットフォームに情報を登録しておくことで、経歴を見た転職エージェント、または企業より直接スカウトを貰うことが可能です。自分の経歴に合った求人情報をある程度網羅的に情報を集めることができるため、特に現職が多忙な方にとっては有効な転職手法の一つと言えるでしょう。

転職エージェントを活用した転職活動

転職プラットフォームサービスの台頭はあるものの、まずは自身の現状について相談したいという場合には、M&Aコンサルタントをはじめとした金融系職種に強い転職エージェントなどを活用していくこともよいでしょう。多くの場合、転職活動は孤独です。自身の経歴の棚卸、今後の自分のキャリアプランをどうしていくべきかなど腹を割って話ができる存在がいるかいないかは、自身の転職活動を良い形で進めていく上で重要です。

転職エージェントは国内に数万社あり、職種や業界に特化した転職エージェント、あるいはマネジメント層に特化した転職エージェントなどそれぞれ特色があります。これまでの経験、自分が描きたいキャリアなどを踏まえ、自分に合った転職エージェントをパートナーに選びましょう。

最後に

M&A業界は、年収の高さなどの魅力で人気があり、転職のハードルが高い業界だと言えます。そんなM&A業界への転職を目指すのであれば、M&A業界について理解し、自身のスキルや経験を評価してもらうことができる企業への転職を考えることから始めましょう。

M&A仲介会社のように、マーケットの拡大で転職者の採用を強化しており、高い営業力などがあれば未経験者でも採用している企業もあります。ただ、専門性の高い特殊な業界であるため、M&A業界への転職を考えている方は、M&A業界を深く理解していて多くの情報を持っている転職エージェントの活用をおすすめします。

この記事を書いた人

岩崎久剛

1984年兵庫県生。関西大学工学部を卒業後、受験支援事業を全国展開する大手教育事業会社にて総務人事など管理部門を経験し、2012年より人材業界に転身。大手総合人材会社にて求人広告、人材紹介など中途採用領域での法人営業を経験し、従業員数名規模のベンチャーから数10か国に展開するグローバル企業まで多様な業界、事業フェーズの企業の採用を支援。2016年よりハイキャリア領域の人材紹介事業立上げメンバーに参画し、関西ベンチャーを軸とした採用支援に従事。その後、ビズアクセル株式会社を起業。MBA(グロービス経営大学院)。

目次