「ベンチャー」や「スタートアップ」という言葉は以前と比べるとかなり一般的になり、多くの方にとって就職や転職を考えるときの選択肢にも入ってくるようになったのではと思います。今回は漠然と使われることが多い「ベンチャー」「スタートアップ」について、その意味や違いを解説したいと思います。
「ベンチャー」と「スタートアップ」の由来
ベンチャーという言葉は、清成忠男氏(元法政大学総長)らによってつくられた概念とされており、和製英語です。英語のAdventure(冒険)という言葉が語源になっているとも言われますが、ビジネスモデルや事業内容について冒険的・革新的な取り組みを行う企業を指す言葉です。
主に設立間もない会社で売上や社員数の面で比較的小規模な企業を指すことが多く、それ故に意思決定や事業推進において機動的であることがベンチャーの特徴といえるでしょう。派生語として、ベンチャーとして始まった会社がその規模を拡大した会社を指す「メガベンチャー」、次世代に事業が引き継がれベンチャー企業化した会社を指す「アトツギベンチャー」という言葉もあります。
一方、「スタートアップ」という言葉は英語でも「Startup」「Startup Company」と呼ばれ、アメリカのシリコンバレー発祥とされている言葉です。一般的には、創業から3年未満程度であったり、そうでなくても今後数年間の短い期間で急激な成長を遂げる可能性のある事業体を指して使われることが多いです。実際に急激な成長を遂げた会社の顕著な例としては、いわゆるGAFA(Google、Apple、Facebook、Amazon)がその代表格といえるでしょう。
このように「ベンチャー」と「スタートアップ」という言葉は発祥の違うものであり、意味として重なるところもあり、同じような意味合いで表現されることもあれば、あえて使い分けられることもある言葉です。
「ベンチャー」と「スタートアップ」の違いとは
では、「ベンチャー」と「スタートアップ」という言葉があえて使い分けられる場合というのは、どのような違いが意識されているのでしょうか。ここでは、いくつかの点から両者の違いについてご説明したいと思います。
イグジット(EXIT)戦略に関する違い
一つ目の違いは、イグジット(EXIT)戦略に関する違いです。イグジットとは出資者(起業家本人も含む)が企業に出資した資金を回収することであり、IPO(新規株式公開)やM&A(合併や買収)がその代表的な手段ですが、このイグジットについての考え方に違いがあります。
ベンチャー企業は何らかの事業に取り組み、その事業の拡大・成長を目指すことが前提となっていて、多くの場合イグジットそのものを目指しているわけではありません。株式上場を目指したり大手企業に買収されることもありますが、それはイグジットとしてというよりも、事業を拡大・成長させるための手段としてそれらが選択されたという面が強いといえます。
一方でスタートアップ企業は、最初からイグジットが意識されています。簡単にいうと最初から会社を売却することを目指して事業に取り組んでいることが多く、急成長を実現することで企業価値を高め、比較的短期間で会社を売却して利益を確定させることを目指しています。
もちろん、スタートアップ企業でも結果的に会社を売却することにならず、事業に取り組み続けるケースもありますし、IPOする場合もあります。逆に、ベンチャー企業が結果的に短い期間で会社を売却する場合もあります。何を目指すかは状況により変わってくるものであり、ベンチャー企業は会社を売却しないとかスタートアップ企業は事業の長期的な成長を目指さないとかいうことではありませんが、イグジットについてどのように考えているかという点でこのような違いがあるといえます。
資金調達手段に関する違い
ベンチャー企業とスタートアップ企業には、資金調達手段に関する違いもあります。もちろん事業内容やビジネスモデルによる部分もありますが、ベンチャー企業の場合は一定規模まではエクイティファイナンスを行わず自己資金や収益の中から必要な投資資金を確保したり、デットファイナンス(銀行からの借入など)によって資金調達をする場合が多いです。一方、スタートアップ企業の場合は、比較的早い段階からエクイティファイナンスが資金調達方法の中心となる場合が多いです。
これはベンチャー企業が事業の持続的な拡大・成長を目指しているのに対し、スタートアップ企業は当初からイグジットが意識されていることや、スタートアップ企業のほうがよりリスク(不確実性)の高いビジネスに挑戦しているケースが多いことによる違いであるといえます。
スタートアップ企業のほうがより革新的な事業に取り組もうとする場合が多く、それは必然的にリスクの高いビジネスということになりますから、デットファイナンスで必要な資金を集めることは難しくなり、エクイティファイナンスが中心になりやすいということです。
中小企業、スモールビジネスとは何が違うのか
次にベンチャー、スタートアップ企業が、中小企業、スモールビジネスという言葉とはどのように違うのかについても解説します。
中小企業との違い
中小企業の定義もいくつかありますが、一般的には資本金や社員数が一定未満の企業を指します。その意味ではベンチャー企業やスタートアップ企業も規模が小さいうちは中小企業に含まれると言えるでしょう。
中小企業はベンチャー、スタートアップ企業ほどの革新性や成長性で勝負するというよりは、何十年と積み上げてきた技術などを活かしながら安定的に事業を展開していることが多いです。また、中小企業は創業者が社長を務め、将来も事業承継で創業家が経営をしてくことが前提となっていることも特徴といえるでしょう(最近は後継者不在の問題を受け、M&Aによる会社売却のケースもあります)。
スモールビジネスとの違い
中小企業に類似する言葉でスモールビジネスという言葉があります。スモールビジネスは、規模が小さく、一般的には少数の従業員で運営される企業のことを指し、大企業や大規模な組織とは異なり、小規模な資本投資やリソースを利用して経済活動を行います。尚、このようなスモールビジネスを展開する業種としては小売、サービス、SIerなど様々あり、業種で括られるものでもありません。
創業が若い会社という意味で「ベンチャー」と一括りにされることもありますが、大きな違いはスケーラビリティをもったビジネス展開を目指しているかどうかということが最も大きいです。スモールビジネスもベンチャー、スタートアップ企業も創業時は数名程度になるかとは思いますが、その後、どのような事業展望を描いているかによって分類が変わるかと思いますので、そのような違いがあると認識しておくと良いでしょう。
会社経営の在り方に優劣はない
補足しますとベンチャー、スタートアップ企業がそれらではない中小企業やスモールビジネスよりも優れているという話ではなく、取り組む事業の内容や目指すものの違いといえます。例えば労働集約型のビジネスの場合、ITスタートアップ企業のような高い成長を実現することは難しく、必然的に企業価値の高まりも限定的となります(中小企業の場合、企業価値というものがそもそも意識されていない場合も多いでしょう)。
その反面、事業のリスクは比較的限定されていることになりますから、安定的な事業継続や雇用維持という面では中小企業やスモールビジネスに分があるでしょう。
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ベンチャー、スタートアップ企業で働くメリット・デメリット
就職や転職の際にベンチャー、スタートアップ企業が選択肢に入ることも多くなってきていますが、就職先としてそれらの会社を選ぶことにはもちろんメリットやデメリットがあります。ここではそのメリットやデメリットの代表的なものをご紹介したいと思います。ベンチャー、スタートアップ企業で働くことを考えておられる方には、ぜひ参考にしていただければと思います。
ベンチャー、スタートアップ企業で働くメリット
ベンチャー、スタートアップ企業で働くことのメリットには、主に次のようなものが挙げられます。
- 年齢や社歴に関係なく評価され短い期間で権限のある立場に就ける
- 社員数が少ない分、幅広い仕事を任されることが多い
- 社長や経営陣との距離が近く、経営感覚を身につけることができる
- 企業の成長を実感しやすく、やりがいを感じられる
- 社内ルールがさほど厳格でなくスピード感ある仕事ができる
- 変化に柔軟で、自由な働き方がしやすい
- ストックオプションなどによる報酬面でのメリットが得られる場合がある
ベンチャー、スタートアップ企業といっても立ち上げ間もないシード期の会社なのか、ある程度成長したミドル期・レイター期の会社なのかなど、フェーズによって違う部分もありますが、多くの場合、大手企業と比べてこういった点でメリットを感じられる場合が多いでしょう。
特に立ち上げ当初のベンチャー、スタートアップ企業の場合、少ない人数で事業に取り組むことになりますから、必然的に一人一人が果たすべき役割や責任の範囲が広くなります。また社長や経営陣との距離も近く、彼らが日々考えていることや意思決定の悩みなども知ることができるでしょう。それによって得られる成長の機会は、他の場所では得難いものであるといえます。
ベンチャー、スタートアップ企業で働くデメリット
一方、ベンチャー、スタートアップ企業で働くことには当然ながらデメリットもありますのでメリットと併せて認識しておくと良いでしょう。ベンチャー、スタートアップ企業で働くメリットには主に次のようなものが挙げられます。
- 組織体制が整っておらず、不安定で変化が多い
- 事業の計画や戦略が変わることが多い
- 仕事量が多く、働き方がハードになりやすい
- 研修制度や評価制度、福利厚生などが整っていないことが多い
- 事業がうまくいかず人員削減や廃業のリスクがある
- 管理体制が整っていないことから、不正やトラブルが発生することがある
大手企業も終身雇用や年功序列の時代ではなくなってきていますが、とはいえベンチャー企業やスタートアップ企業にはやはり不安定な要素が多いといえます。ベンチャー、スタートアップ企業は市場環境などによって事業計画や戦略を機動的に変更できることが強みではありますが、それは社内で働く方にとっては仕事環境が不安定であることも意味します。事業内容そのものが変わることもあるでしょうし部署異動や組織再編によって自身の役割が大きく変わることもあるかもしれません。またオフィス移転や新拠点の開設などにより働く場所が変わることも少なくありません。
そうした変化の多い環境にストレスを感じやすい方にとっては、ベンチャー企業やスタートアップ企業はよい就職先とはいえないかもしれません。一方でそれは成長の機会ととらえることもできるでしょうから、どのような仕事観をもって働こうとするのかによって、ベンチャー企業やスタートアップ企業がお勧めできるかどうかが決まるといえるでしょう。
ベンチャー、スタートアップ企業に向いている人とは
では、ベンチャー、スタートアップ企業はどのような人にとってよい就職先なのでしょうか。様々な考え方がありますが、概ね以下のような人がそれにあてはまるのではないかと思います。
- 個人として高い成長を実現したい方
- 主体性を持って仕事をしたい方
- 変化や新しい挑戦を楽しめる方
- 経営感覚を身につけたいと思っている方
- スピード感ある仕事環境を求めている方
- 新しい事業領域に身を置きたい方
ベンチャー、スタートアップ企業で働く魅力の最たるものは、やはり多くの成長の機会が得られることです。主体的に仕事に取組み、仕組みが無い中でゼロからいろいろなことを自分の頭で考え、様々な変化を受け入れながら仕事をすることは自身の成長に直結します。将来ご自身で起業したいと考えている方にとってもベンチャー、スタートアップ企業はよい選択肢であるといえるでしょう。
勝てるベンチャー、スタートアップ企業と出会うために
ベンチャー、スタートアップ企業への転職活動を試みた経験のある方の中には、大手企業と比べて企業情報、求人情報を探すこと、また企業概要までは分かったとしてもビジネスモデルや事業優位性など詳細な情報収集が難しいと思った方も多いのではないでしょうか。
言うまでもなく、大手企業や上場企業のように公開情報が豊富な訳ではなく、財務情報やビジネスモデルなど実態が掴みづらいのがベンチャー、スタートアップ企業です。特に設立から間もないベンチャーの場合、HPなどWebサイトに十分な予算をかけることが難しく、最低限の情報のみ記載されているような企業も少なくありません。
また、ベンチャー、スタートアップ企業は、まだ世の中にない最新技術などを駆使したビジネスを展開されている企業も多いため、HPの情報だけではなかなかビジネスの特徴や全体像などを掴みづらいというのも、転職者が情報収集に苦労する一つです。
ベンチャー、スタートアップ企業への転職活動において企業情報、求人情報を探す過程で、上記のように様々な問題に直面する場合が多く、自分に合ったベンチャー、スタートアップ企業を探し、出会うことは非常に難易度が高いです。このように情報収集が容易ではないという前提の上ではありますが、その上で以下のような探し方をご紹介します。
ベンチャー、スタートアップ企業のPR戦略
こちらでは今後、成長性に期待のかかるベンチャー、スタートアップ企業との出会いをつくるために参考になる方法についてい解説いたします。特に積極的にPRをするベンチャー、戦略的にPRを控えるベンチャーがありますのでそのような観点について以下ご紹介します。
積極的にPRをするベンチャー、スタートアップ企業
ベンチャー、スタートアップ企業の求人情報の探し方、情報収集方法としては、まず「Wantedly」を活用されることをお勧めします。企業側の視点で見た際に、Wantedlyは比較的安価な料金で利用可能なビジネスSNSであり、多くのベンチャー、スタートアップ企業がWantedly上で情報を公開しています。そのため、転職活動の第一歩として利用するツールとしてはよいかと思います。
また、「注目すべきベンチャー●選」、「優良ベンチャー●選」、あるいは経営者にフォーカスをあてた特集など、様々なテーマでベンチャー、スタートアップ企業の情報をまとめたキュレーションサイト(まとめサイト)も存在します。Web上での情報収集においては、このようなWebサイトを参考に情報収集をされると良いでしょう。
また、ベンチャー、スタートアップ企業は自社をPRする場として、行政などが主導するビジネスプランコンテストなどに出場することが多いです。ビジネスプランコンテストは経営者が自社のビジネスモデルの特徴、どのような市場成長性のあるマーケットで戦っているか、将来どのような展望を考えているかなど、具体的な内容を発表し、審査員が評価します。
ビジネスプランコンテストは一般公開しているものも多くありますが、コロナショック以降はYoutubeなどオンライン配信形式(LIVE配信のみ、あるいはYoutubeに残す場合など様々)をとるケースも増えました。そのため、仕事が忙しく、ベンチャー、スタートアップ企業を探すことになかなか時間を割けない方でも、このような場に参加しやすくなりました。
戦略的にPRを控えるベンチャー、スタートアップ企業
ここまでベンチャー企業、あるいは経営者がどのような形で情報を発信しているかお話してきました。しかし、PRに積極的なベンチャー、スタートアップ企業ばかりではありません。認知度を上げることは企業の成長において重要なことではありますが、目立ちすぎることで「この市場は魅力的な市場だ」と、競合の参入を加速させてしまう可能性も高まります。こちらでは戦略的にPRを控えるベンチャー、スタートアップ企業について解説していきます。
ベンチャー、スタートアップ企業の成長において大きな脅威の一つが、大企業の参入です。資本力のある大手企業が参入する中、資金力や人材など経営資源の足りないベンチャーが太刀打ちするのは至難の業といっても過言ではありません。そのような脅威に注意を払っている経営者は、自社HP含めWebサイト上での発信を控えている他、ビジネスプランコンテストのような表舞台には極力姿を現さず、水面下で静かにシェア獲得を推し進めるような戦略をとっていることが多いです。そして、ある程度シェアを獲得できた段階、あるいは大型の資金調達などが実現され、一気に競合各社を引き離したいという瞬間に、ようやく大々的に露出していきます。
転職エージェントを活用した水面下での採用活動
このような戦略的にPRを控えるベンチャー、スタートアップ企業は、自社の採用活動に関しても慎重です。例えば公に情報を露出する求人サイトではなく、転職エージェントなどを活用し、競合他社に動きが見えないよう、水面下で採用活動を進めるような採用施策をとる企業も多いです(特にCxOクラス、ミドルマネージャークラスの求人募集に際し、転職エージェントを活用するケースが多いです)。
また、このような戦略的にPRを控える企業の場合以外においても、多くの場合、転職活動は孤独です。自身の経歴の棚卸、今後の自分のキャリアプランをどうしていくべきかなど腹を割って話ができる存在がいるかいないかは、自身の転職活動を良い形で進めていく上で重要です。
転職エージェントは国内に数万社あり、職種や業界に特化した転職エージェント、あるいは経営層、マネジメント層に特化した転職エージェントなどそれぞれ特色があります。これまでの経験、自分が描きたいキャリアなどを踏まえ、自分に合った転職エージェントをパートナーに転職活動を進めても損はないでしょう。
上記の通り、経営者の考え方、市場や競合環境により経営方針は様々であり、必ずしも露出が多いから優良ベンチャーという訳ではありません。事業フェーズがそれなりに進んでいるにも関わらず露出が少ない企業の場合には、その背景についても調べてみる、または面接において経営者に直接確認してみるのも良いでしょう。
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最後に
今回は、「ベンチャー」と「スタートアップ」の違い、併せてそこで働く上でのメリット、デメリットなどについて解説しました。ベンチャー企業やスタートアップ企業がどのようなものかはずいぶん一般的に認知されるようになりましたが、しかしながら、それらの企業にはやはり他にはない特殊なところがあり、就職先として考える際にはそもそもベンチャー企業やスタートアップ企業というのがどのようなものかを知っておいていただきたいと思っています。
今回はその一端に触れましたが、その他にも、エクイティファイナンスとはどのようなものか、ストックオプションとはどのようなものか、IPOとはどのようなものかなど知っておくべきものは多岐に渡ります。そういったベンチャー企業やスタートアップ企業を取り巻く様々な要素について、ぜひ多くの方に知っていっていただければと思っています。