IPO(Initial Public Offering)とは、企業が株式市場で新たに株式を公開すること、所謂、新規公開株式のことであり、企業の資金調達手段として活用される選択肢の内の一つです。未上場会社がIPOを目指すためには上場審査があり、準備段階から知っておくべき専門用語が数多くあります。
本記事ではIPOに関連する専門用語を解説致します。これらの知識を理解することで、IPOの準備や投資家にとってのポイントを把握しやすくなるでしょう。
株式市場に関する用語
東京証券取引所(Tokyo Stock Exchange, TSE)
東京証券取引所(TSE)とは、日本を代表する証券取引所であり、株式市場において企業の資金調達や株式の売買を行う場を提供しています。設立は1878年で、日本国内の上場企業の多くがここで株式を取引しており、アジアでも有数の規模を誇ります。
TSEは2022年4月に市場区分を再編し、プライム市場、スタンダード市場、グロース市場、TOKYO PRO Marketという4つの市場を設け、企業の成長ステージや特性に応じた上場基準を設定しました。 各市場は、上場基準やガバナンス要件が異なり、プライム市場は主に大企業向け、グロース市場は成長企業向けとなっています。東京証券取引所は、日本経済と資本市場の発展に寄与しており、国内外の投資家にとっても信頼性と透明性の高い取引の場として重要な役割を担っています。
本則市場
本則市場(ほんそくしじょう)とは、証券取引所の開設している複数の市場のうち、主要な市場のことを指します。2022年の東京証券取引所の市場再編以前に、市場第一部、市場第二部の総称として用いられていました。現在の東証における本則市場は一般市場とも呼ばれ、プライム市場、スタンダード市場、グロース市場の3つの市場のことを指します。
本則市場に上場する企業は、厳格な上場基準を満たすことが求められ、財務情報やガバナンスの体制、企業の規模などが審査されます。本則市場への上場は、企業にとって信頼性の向上や広範な投資家からの資金調達を可能にする一方で、一定の基準を維持することが義務づけられます。
TOKYO PRO Market
TOKYO PRO Marketとは「TPM」「プロマーケット」と呼ばれ、東京証券取引所が運営するプロ投資家向けの市場です。同市場は上場基準が一般市場(本則市場)よりも厳格でないことから、成長企業やスタートアップ企業が使用しやすい環境となっており、早期に社会的信頼を得られるというメリットがあります。またプロ投資家向けに限定された市場であるため、柔軟なガバナンス体制が維持できるという点もメリットと言えるでしょう。
一般市場では証券会社、監査法人と契約締結の上でIPOを目指しますが、TOKYO PRO MarketではJ-Adviserという制度の下、IPOを目指す形をとることも特徴といえます。尚、TOKYO PRO MarketへのIPO実績の多いJ-Adviserとしてはフィリップ証券、日本M&Aセンターなどが挙げられます。
一方、個人投資家が参加できない市場のため、資金調達機会は一般市場よりも劣ると言われております。近年ではTPMに上場した後、一般市場に区分変更し更なる企業成長を目論む会社も多く存在しております。
札幌アンビシャス市場
札幌アンビシャス市場は、札幌証券取引所が運営する成長志向企業向けの市場です。地域特化型の中小企業やスタートアップ企業に資金調達の機会を提供し、北海道地域経済の活性化を図る目的で2000年に設立されました。上場基準が比較的緩やかで、将来的な成長を見込む企業の第一歩を支援します。
地域資源を活かした事業や新興産業に注目した企業が多く上場していますが、全国にフィットネスジム事業などを展開するRIZAPグループ株式会社も同市場に上場する企業として有名です。
福岡証券取引所
福岡証券取引所は九州を中心とした地域経済を支える証券取引所で、1949年に設立されました。地元企業の成長支援に力を入れており、特に中小企業やスタートアップ企業が資金調達を行う場として重要な役割を果たしています。主力市場に加え、成長志向の企業向けに設けられた「Q-Board(九州型新興市場)」が特徴で、上場基準が比較的緩やかであるため、地域密着型の新興企業が利用しやすい環境です。
IPO準備に関する用語
主幹事証券
主幹事証券(Lead Underwriter)は、IPOにおいて企業の株式発行を担当し、発行市場での株式販売を統括する役割を担います。主幹事証券は、企業と投資家の間に立ち、価格設定や販売戦略、ブックビルディングの運営をサポートします。また、IPOの過程で必要な法的書類や財務開示資料の準備も支援するため、IPOを成功させるための重要なパートナーです。
主に大手証券会社と呼ばれる野村證券、大和証券、三菱UFJモルガン・スタンレー証券、SMBC日興証券、みずほ証券の他、SBI証券や東海東京証券、岡三証券が主幹事証券の役割を担うケースが多いです。
ロックアップ期間
ロックアップ期間とは、上場後に主要株主や経営陣が一定期間株式を売却できない制約期間です。通常は6か月から1年程度で、既存株主が一斉に売却することで株価が下落するのを防ぐ目的があります。ロックアップ期間は、株価の安定性を保ち、一般投資家にとって安心して投資できる環境を整えるための重要な制度です。ロックアップ期間の解除に関しては、①一定期間が終了する、②株価が一定額に達する、③主幹事証券の同意、の3つに分けられます。
ショートレビュー
ショートレビューは、IPO準備の初期段階において証券会社や金融アドバイザーが企業の財務状況やビジネスモデル、 リスク要因などを短期間で精査し、上場の実現性や課題を評価するプロセスです。この初期評価により企業は IPOまでの準備における課題や改善点を明確にし、計画を立てることができます。ショートレビューは上場に向けた最初のステップであり、上記評価は主幹事証券、監査法人の引き受けに大きな影響を与えます。
目論見書
目論見書はIPO時に企業が発行する書類で、投資家に対して企業の事業内容、財務状況、経営戦略、リスクなどの情報を提供します。目論見書は、投資家が十分な情報をもとに投資判断を行えるようにするための重要な資料で、金融庁への提出が義務づけられています。目論見書は上場前に公開され、IPOプロセスにおける透明性と 投資家保護の観点から大きな役割を担っています。
ストックオプション
ストックオプションとは、企業が社員や役員に対して一定の条件下で自社株を購入する権利を与える制度です。 IPOを目指す企業において、社員が企業価値の向上を目指して働く動機付けとして広く活用されています。
行使価格が設定され、企業が成長し株価が上がることで社員は利益を得られる仕組みです。スタートアップ企業等が利益が十分に出ていない時期に優秀な社員を採用するため、将来的なインセンティブ施策として利用されるケースが一般的です。
信託型ストックオプション
信託型ストックオプションとは、ストックオプションを信託を通じて発行する形式です。社員が直接オプションを保有するのではなく、信託会社を介して保有するため、株式の希薄化や複雑な手続きを避けることが出来る他、税制面でのメリットもあり、リスク管理や株式のスムーズな引き渡しが期待できます。
審査書類
審査書類とは、IPOの際に証券取引所や証券会社などの審査機関に提出する書類の総称です。企業の財務状況やビジネスモデル、リスク管理体制などが含まれ、上場基準に適合しているかが精査されます。適切な審査書類の作成は、上場準備の重要なステップのひとつで、審査通過に向けた内容の整合性や透明性が求められます。
審査書類は下記の2つに分けられ、「Ⅰの部」は企業の事業や経営の基本情報、財務状況、事業戦略、リスク情報など、企業の全体像を把握するための重要な内容が記載されます。具体的には、経営方針、ビジネスモデル、成長戦略、リスクファクター、業績の概要、財務状況の推移などが含まれ、企業の価値や将来性を評価するための材料となります。この情報に基づき、投資家が企業の投資対象としての適正を判断する基礎的なデータが提供されます。
「Ⅱの部」は、主に財務情報に焦点を当てたパートで、企業の会計・財務に関する詳細な情報が含まれます。貸借対照表や損益計算書、キャッシュフロー計算書などの財務諸表に加え、監査人の意見、過去の財務情報の分析などが記載され、企業の財務健全性や収益力を正確に把握するための情報が提供されます。上記より企業の財務基盤や収益性が審査され、上場基準を満たしているかが確認されます。
内部統制
内部統制とは、企業が業務の効率性、財務報告の信頼性、法令遵守を確保するための体制を指します。 IPO準備段階においては企業が社会、投資家から信頼されるために内部統制を強化することが求められ、上場審査にも影響を与えます。リスク管理や不正防止の観点から内部監査部門を整備し、経営の透明性を高めることが求められます。また上場後も継続的な内部統制の維持は必要であり、株主や投資家への信頼の礎となります。
J-SOX
J-SOX(日本版SOX法)は、上場企業が財務報告の信頼性を確保するために内部統制を整備・運用することを義務付けた法律です。アメリカのSOX法をモデルとし、企業不正の防止や経営透明化を図るために導入されました。IPO準備企業にとって、J-SOX対応は上場審査を通過するために重要な項目です。
内部統制の文書化や評価が求められ、経営の健全性を証明するための大切な手続きとなりますが、その中でも「3点セット」と呼ばれる内部統制の文書化が重要視されます。この「3点セット」とは、以下の三つの文書のことです。
業務フロー図
企業の業務プロセスを視覚化した図で、業務手続きの流れや役割分担、管理ポイントが整理されます。これによ り、どのプロセスでどのようなリスクが発生するかが明確になります。
リスクコントロールマトリックス(RCM)
各業務フローにおけるリスクと、それを管理・防止するためのコントロール内容を一覧にした表です。リスクごとに適切な内部統制の状況が整理され、リスク管理の確実な実施を支援します。
業務記述書
各業務の目的や役割、リスク、コントロールの具体的な内容を記載した文書で、業務の詳細を文章で説明します。従業員が手続きや統制の内容を理解し、実行しやすくするための重要なツールです。
この「3点セット」を作成・整備することで、J-SOXの要件を満たす内部統制が構築され、企業の財務報告の信頼性が向上します。また、監査人もこれを基に、内部統制の有効性を評価しやすくなります。性を評価しやすくなります。
株主総会
株主総会は株式会社の最高意思決定機関であり、株主が集まり会社の重要事項を決議する場です。通常、定時株主総会は事業年度終了後に開催され、事業報告、計算書類の承認、役員選任、配当決定などが主な議題となります。
株主総会は上場、未上場関わらず実施される事柄ではありますが、IPOを目指すスタートアップの場合、VCをはじめとした複数の株主より出資を受けながら事業を成長させていくケースが多いのですが、これら複数の株主の合意をとれなければIPO準備にブレーキがかかってしまうことも珍しくなく、株主総会は非常に重要な位置づけとなります。
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最後に
IPOは企業にとって成長を促す大きな一歩であり、多くの準備と専門知識が求められます。本記事で紹介した専門用語を理解することで、IPOプロセス全体の流れを把握しやすくなります。投資家や企業がIPOを通じて資金調達や市場評価を行う際にはこれらの知識が役立つでしょう。