管理職の転職、退職交渉の際に気をつけるポイント

管理職は、会社の中でも責任ある重要なポジションです。だからこそ、「転職してしまっていいのだろうか」「転職で今の会社が混乱してしまわないだろうか」と感じてしまう人もいるのではないでしょうか。

しかし、実際の転職市場では、思い立って転職して新たな環境に身を移す管理職の人がたくさんいるのも事実です。転職を決めて退職交渉をするときに、最後まで管理職としての責任を果たした進め方を知っておき、スムーズな転職ができるようにするようにしましょう。今回は、管理職として働いている人が転職を考える際、退職交渉で注意しておきたいポイントをお伝えします。

目次

転職すべきかどうかの判断基準

管理職になったということは、会社から評価され、今後の活躍を期待されているはずであり、管理職であることは幸せなことかもしれません。しかしながら、今の会社で管理職として働き続けるよりも、退職して、他の会社に転職したいと考える人も少なくないでしょう。

管理職の働き方は会社によってさまざまで、実際に管理職になってみないとわからないこともたくさんあります。そのため、管理職として働いているものの、理想とのギャップに悩み、転職を考えるのではないでしょうか。

しかし、管理職として働く人が転職するときには、慎重に考え、気をつけておかなければならないポイントがあります。まず、管理職として勤めている会社からの転職を考える場合は、次の基準で、どういった働き方を求めているのかについて考えてみてください。

業務内容

管理職にもいろいろな働き方があります。管理職と言っても、その名の通り「組織のマネジメント」を中心に行うこともありますが、一部プレイヤーとして実務にあたるプレイングマネージャーと言われるような働き方で管理職業務に従事するケースもあるでしょう。また、大手企業での管理職であればマネジメント業務以外にも、各部門との調整・折衝など、社内向けの業務比率がベンチャー企業や中小企業と比較しても高くなる傾向にあります。

管理職に必要な能力として、テクニカルスキル(業務遂行のための知識・技術)、ヒューマンスキル(対人関係構築力)、コンセプチュアルスキル(物事の本質を見抜く能力)があると言われます。しかし、上記のように、管理職がどの程度マネジメントに関する業務をするのかによって、必要な能力のバランスが変わります。管理職であればどこでも同じ能力があればよいわけではないため、自分の適性に合った組織規模の会社に転職し、そこで自分の強みが発揮できる管理職として働くのが望ましいのかもしれません。

労働環境やワークライフバランス

管理職は役員や自分よりも上位の管理職と部下の間に立って、組織運営をしなければなりません。しかし、上層部と現場のギャップが大きく、人間関係や業績目標などで、中間管理職に大きなストレスがかかることもあります。また、会社によっては、緊急事態などで管理職が出勤しなければならず、一般社員のような決まった休みがとりにくいケースもあるでしょう。管理職として評価をされていたとしても、精神的なストレスが多く、私生活に悪影響を及ぼすような環境であれば長くは続けづらい可能性があります。

自身のキャリア

管理職になっても、プレイング業務の比率が高く、実務の担当者とやっていることがほとんど変わらない場合、スキルアップ・キャリアアップにはつながりません。自分自身の市場価値をより高めたいのであれば、その会社で働き続けることがベストとは言えないこともあるでしょう。また、勤めている会社の将来性が期待できなかったり、会社の属する業界が斜陽産業だったりする場合、なかなか組織は拡大しづらい為、マネジメント人数なども増えづらく、管理職としての将来のキャリア不安を感じるかもしれません。

こういった3つの観点から、今の会社で管理職として働き続けることに不安を感じるのであれば、転職を考えてみるのも1つの選択肢です。

今の会社を退職する前に考えるべきこと

上記の基準で考えて転職しようと思っても、管理職が転職するときには、組織への影響が大きいこともあり、退職の意向を伝える前に考えるべきことがありますのでご紹介します。

転職市場において管理職のポストはそう多くありません。管理職ポジションは一般的に、外部より管理職の方を採用する前に、自社で組織の成長に貢献してきた、社内での信頼関係も構築できている人材を昇格させたいと考える経営者が多いのが一般的です。そのような社内での登用が難しい場合などに初めて外部より転職者を迎え入れるという形になります。

転職する形で外部より管理職として入社する場合、まだ社内での実績もなく、人間関係なども出来ていない中で部下のマネジメントを行い、成果に繋げなければなりません。業界を変える転職などの場合には、入社して部下より色んなことを吸収しながらキャッチアップをするシーンもあるでしょう。このように転職で管理職を務める場合、難易度の高い転職となるケースが多いです。

だからこそ、まずは「今の職場が不満だから転職したい」という逃げの退職になっていないかを考えてください。転職するとしても、転職者ならではの厳しい壁がある中、そのような環境でも高い成果が出せると感じてもらえるようなスキルを備えているかが重要です。

管理職として十分な自信が持てない場合には、すぐに転職するのではなく、マネジメント力を磨くなど転職市場での価値を高めることから始める方が良いこともあります。転職市場に評価される成果を今の職場で出してから、転職活動に臨む方が結果的に管理職としてキャリアアップする最短の道筋になるかもしれません。

しかしながら、管理職の転職においては転職先のこともありますが、現職をスムーズに退職できるかどうかという大きな壁に苦労をする方も多いです。次の項では転職活動の大詰めである退職に向けて気をつけるべきことについて解説をしていきます。

退職を決意したときに気をつけるべきこと

管理職が退職することは、多くの場合、会社にとって大きな出来事です。これから会社の経営を支える人材として期待している管理職人材の退職を、経営者の立場から見た際には簡単に受理することはできず、管理職の退職交渉は難航するケースが多いです。また、退職を受理されたとしても退職までに半年や、取締役や事業部長クラスなど要職を務める方の場合には、1年近く時間を要するケースも珍しくありません。

退職を表明してから退職まで時間を要するにはストレスに感じることも多いでしょうし、何より管理職を迎え入れてマネジメント体制を早期に強化したいと考えている次の転職先にも迷惑がかかってしまいます。そうなってしまわないよう、転職・退職を決意したときに次の3つのポイントに気をつけると良いでしょう。特にこれらのポイントは転職先が決まってからではなく、転職活動を開始する段階から認識の上、準備にとりかかっておくことが望ましいです。

退職の意向は早めに伝える

管理職は会社にとって重要なポジションです。急に退職されてしまうと社内に混乱が起きてしまうため、なかなか退職を受理されない、または退職までの日数が少ない場合には退職日を先延ばしできないか交渉される可能性があります。

転職先が受け入れを急いでいる場合には、予定通りに退職できなくなってしまうことで、転職先に迷惑をかけてしまいかねません。民法上では「雇用期間に定めの無い場合は、退職申し入れから2週間して退職」とされていますので、究極的には交渉に応じずに希望日に退職することもできますが、このような退職を強行する多くの場合、円満退職で決着をつけるということは難しいでしょう。

スムーズに引継ぎができるようにしておく

転職しようと決断をしたら、その日から退職後のことを意識しながら日々の業務に取り組むようにしましょう。今働いている会社に迷惑をかけずに転職するためにも、退職の意向を伝える前であっても、引継ぎのための準備を水面下で始めておくのが好ましいです。

引継ぎをする相手が管理職経験豊富な人であれば良いですが、必ずしもそのようなケースが多くありません。管理職経験のない人に引き継ぐことになる場合には、なかなかうまく引継ぎきれないことも多いでしょう。無理に引継ぎをして退職日を迎えてしまい、退職後に後任がうまく機能せずに業務に混乱をきたしてしまうのは責任感をもって管理職を務めてきた方であればあるほど回避したいはずです。

後任に引き継いでその後のトラブルを未然に防ぐことまでが管理職の仕事と考え、しっかりと引継ぎできるように転職活動と平行しながら準備を進めていくようにしましょう。

後任の育成

管理職が退職の意向を伝えてきたときに会社側の悩むポイントが、「後任がいるか」ということです。そこで、早いうちから後任を育成しておくことも円満退職を目指す上で有効でしょう。自分の担当業務の一部を手伝わせる、あるいはある程度権限と共に任せてしまうことで、転職する場合でも引継ぎをスムーズに進められることにつながります。さらに、転職活動の際に「後任はしっかり育成していますので、早期に入社が可能です」と言うことができれば管理職も含めた人材育成ができる人材として評価を受けることにも繋げられる可能性もあります。

ただこのような転職活動云々に関わらず、次期管理職候補となるような次世代幹部人材の育成については時間をかけて取り組んでおくことが好ましいです。自らの立場を危うくし得る次世代幹部人材の育成は積極的にしたくないと考える人もいますが、それは必ずしも正しくはありません。

会社の将来を真剣に考えている経営者であれば、未来の管理職を育成できる人材は貴重です。次世代幹部人材の育成ができる人材には、さらに重要なポストを任せようと考えてもらえるはずです。すぐに転職するかどうかと関係なく、次世代幹部人材の育成は自分のためにもなると考えておきましょう。

管理職経験を活かしたキャリアプラン

管理職としての高いスキルは、転職市場でも評価されるものです。その経験を活かして、大企業で管理職をしている人が、別の大企業の管理職として転職し、キャリアアップしていくケースが多いと言えます。この場合、プロジェクトのマネジメント力や社内での調整力など、持っている管理能力をさらに高い能力にしていくのに適しているでしょう。

一方、マネジメントだけでなく、管理職としてさまざまな業務を経験してスキルの幅を広げていきたいと考えている人は、中小企業やベンチャー、スタートアップ企業も転職先候補として選択肢になるでしょう。ベンチャー、スタートアップ企業は、組織作りのできる人材が不足していることが多く、マネジメント力のある管理職を転職者で受け入れたいと考えています。しかし、充分なリソースがないため、営業・人事・経理と部門別に管理職を置けないことも少なくありません。そういったベンチャー、スタートアップ企業では、1人の管理職がいくつもの部門を兼任することがあります。

中小企業は、計画的に組織作りがなされてきていないことが多く、業務も仕組化されておらずスキルが属人的になっていることがあります。そういった会社では、管理職経験のある転職者に、自社の組織や仕組みづくりを担って欲しいと考えています。また、ベンチャー、スタートアップ企業と同様に、中小企業も人手不足に悩んでおり、マネジメントだけでなく、実行部隊としての業務や他部門との兼任が求められることもあります。

このように、中小企業、ベンチャー、スタートアップ企業へ転職することで、さまざまな業務に取り組んで経験を積み、幅広い業務を理解した管理職へとキャリアアップすることが可能です。経営を担う役員クラスの人材には、営業キャリア一筋で役員の切符を掴む方もいますが、営業や企画など複数部門の業務経験があり、会社経営の全体像が見えている方を登用されるケースも多いですのでそのようなキャリアのつくり方も選択肢の一つとして理解しておくと良いでしょう。

転職活動での落とし穴

ここまで、管理職が転職、退職交渉をするときに気をつけておきたいポイントについて解説しましたが、最後に転職活動をするときの思わぬ落とし穴についてお話します。以下にてご紹介します転職活動での落とし穴は、管理職を務めていた方が転職活動を始めるにあたって知っておくべきことです。しかし、こういったことを想定していないがために、転職に失敗してしまう人もいますので、確認しておいてください。

最初から管理職として転職できないことも多い

管理職として転職したいと思っていても、「まずは、管理職の手前の一般社員として採用したい」と考えている会社は少なくありません。「管理職のポストが空席で、すぐにでも管理職として転職してきて欲しい」と考えているケースの方が珍しく、後任の管理職を、育成期間も含めて採用することが多いのです。また、自社の業務内容や業界についての知識をつけてもらうことで、より高い成果を上げてもらえると考えているためでもあります。

給与水準を下げたくないと考えていると転職できなくなる

管理職として転職する場合でも、今の会社の待遇が保証されるとは限りません。同じ業界で商材も近い場合などを除き、業界や商材が変わる場合には、そのようなビハイングを覆すような高いスキルを持っていているような即戦力性の期待できる人材でなければ、給与水準を下げずに転職するのは困難です。

また、やりたい仕事ができる環境を求めて転職する場合、あるいは大手企業から中小企業やベンチャー、スタートアップ企業などへ転職する場合には、給与水準の維持に拘り過ぎると転職先が見つからない可能性もあります。このような前提を理解し、転職活動に臨む方が好ましいでしょう。

転職先では実務にも取り組むことになると考えておく

大企業の管理職経験者に多いことですが、「マネジメントだけしかしたくない」と考えている人もいます。しかし、前述の通り、いきなり管理職として採用されないこともあります。また、中小企業やベンチャー、スタートアップ企業では、社内リソースの問題で、実務にも携わる管理職がほとんどです。

このような転職市場の現実を踏まえ、マネジメント業務のみの管理職求人はめったにないと考えて臨むぐらいが良いでしょう。また、管理職として部下に対して良い関係性を築きながらマネジメントするためには、現場の実務を理解していることが不可欠です。新しい環境に身を置く場合には苦労することも多いですが、できるだけ早期に管理職として活躍するためにも、実務の理解を深めることが必要と捉え、転職活動に臨むのが良いでしょう。

管理職の転職活動

管理職の方の多くが多忙の中、 なかなか転職活動に十分な時間を割けないという環境にあることも多いでしょう。 このような多忙な管理職の方は現職でのパフォーマンスを落とすことなく、効率的に情報収集を行う必要があります。こちらでは管理職の転職活動で推奨する2つの手法についてご紹介します。

スカウトサイトを活用した転職活動

一つ目はスカウトサイトを活用した転職活動になります。これまで主流であった転職サイトなどからスカウトを待つ転職プラットフォームに移行しつつあります。具体的には「ビズリーチ」「リクルートダイレクトスカウト」「エンミドルの転職」などが挙げられます。このような転職プラットフォーム市場はこの数年で急激に市場が拡大し、2021年には前述のビズリーチを運営するビジョナル株式会社が東証マザーズ(現東証グロース)にも上場を果たしています。

これら転職プラットフォームに情報を登録しておくことで、経歴を見た転職エージェント、または企業より直接スカウトを貰うことが可能です。自分の経歴に合った求人情報をある程度網羅的に情報を集めることができるため、多忙な管理職の方にとっては有効な転職手法の一つと言えるでしょう。

転職エージェントを活用した転職活動

前述の様な転職プラットフォームサービスの台頭はあるものの、まずは自身の現状について相談したいという場合には転職エージェントを活用していくこともよいでしょう。多くの場合、転職活動は孤独です。自身の経歴の棚卸、今後の自分のキャリアプランをどうしていくべきかなど腹を割って話ができる存在がいるかいないかは、自身の転職活動を良い形で進めていく上で重要です。

転職エージェントは国内に数万社あり、職種や業界に特化した転職エージェント、あるいは経営層、マネジメント層に特化した転職エージェントなどそれぞれ特色があります。これまでの経験、自分が描きたいキャリアなどを踏まえ、自分に合った転職エージェントをパートナーに選びましょう。

最後に

管理職は会社にとっても重要な役割を担うポジションです。転職活動も今の会社からの退職交渉も、どちらもしっかりとした準備や心構えが必要だと認識して臨むようにしましょう。十分な準備をしないままに転職活動や退職交渉を始めてしまうと、スムーズな転職ができず、最悪の場合、業務の引き継ぎができないために転職できなくなってしまうおそれもあります。

中小企業やベンチャー、スタートアップ企業などでは、実務も含めた幅広い管理職業務に携わることになりますが、その分だけ多くのスキルを身につけてキャリアアップを図ることもできます。管理職から役員クラスなど経営を担う人材へのステップアップなどを考えている方は、中小企業やベンチャー、スタートアップ企業への転職も選択肢に含めて転職活動に臨むことをおすすめします。

この記事を書いた人

岩崎久剛

1984年兵庫県生。関西大学工学部を卒業後、受験支援事業を全国展開する大手教育事業会社にて総務人事など管理部門を経験し、2012年より人材業界に転身。大手総合人材会社にて求人広告、人材紹介など中途採用領域での法人営業を経験し、従業員数名規模のベンチャーから数10か国に展開するグローバル企業まで多様な業界、事業フェーズの企業の採用を支援。2016年よりハイキャリア領域の人材紹介事業立上げメンバーに参画し、関西ベンチャーを軸とした採用支援に従事。その後、ビズアクセル株式会社を起業。MBA(グロービス経営大学院)。

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