現在、スタートアップ企業で働いている方、これからスタートアップ企業でチャレンジしたいと思う方の中にはスタートアップならではの専門用語に苦戦されている方も少なくないかと思います。こちらの記事ではスタートアップ企業で頻出する用語の意味、どのような場面で用いられるかなどについて解説していきます。
マネジメントに関する用語
マネジメントに関する重要な用語を紹介します。これらの用語はスタートアップ企業において知らないでは済まない重要な指標でもあるため、それぞれの定義も含めて正確に押さえておきましょう。
T2D3
T2D3とは、PMF(Product Market Fit)の後の5年間でARR(Annual Recurring Revenue)を、72倍に成長させる指標のことです。Triple(3倍)、Triple(3倍)、Double(2倍)、Double(2倍)、Double(2倍)の頭文字をとって「T2D3」と名付けられました。SaaSビジネスを展開するスタートアップ企業の場合、この指標を達成できるスタートアップは投資家などより高い評価を受けやすい傾向にあり、SaaSプロダクトを展開する多くのスタートアップ企業がこの指標を目指し、事業計画を作成しています。
Burn Rate
Burn Rate(バーンレート)とは、企業が1か月あたりに消費するコストを指します。スタートアップ企業においては資金が潤沢でない場合が多い中、月次のマイナスのキャッシュフローを把握しなければ、どれだけの期間、経営を維持できるかを判断できません。そのため、Burn Rateがどの程度で回っているかを押さえるのは必須といえるでしょう。
TAM・SAM・SOM
TAM(Total Addressable Market)はある特定の事業が獲得でき得る可能性のある全体の市場規模、SAM(Serviceable Available Market)は同じ事業が獲得し得る最大の事業規模、SOM(Serviceable Obtainable Market)は同じ事業が実際にアプローチできる市場規模を指します。
TAM、SAM、SOMの3つの用語は基本的にはセットで用いられることが多く、自社のビジネスの可能性について言及される際などに用いられます。
ROIC(Return On Investment)
ROICとは「投資収益率」「投資利益率」を意味します。投資した費用に対しての利益率を指し、高い数値は投資が成功したことを表します。ROIの値が高いほど収益性のあるよい投資であったと判断でき、逆にROICが100%に満たない場合には投資に関して見直しを入れるべきでしょう。
MRR (Monthly Recurring Revenue)
MRRは「月間定額収益」と訳されます。MRRは業績管理評価の重要な指標の1つであり、初期費用などを含まない、毎月の継続的な収益をみることができます(一時的な収益は含まない形での算出になります)。SaaSビジネスの初期段階では、ビジネスの成長率を判断するために重要な指標であり、このMRRを達成すべき指標に設定しているSaaS企業は多いです。
ARR (Annual Recurring Revenue)
ARRとは「年間定額収益」を意味します。ARRの多くは月間定額収益(MMR)を12倍にして、算出される形となります。新規顧客の定着や解約などを把握するため、ARRの推移の確認は重要である他、MRRと併せて事業計画で達成すべき指標として設定されることが多いです。
CAC (Customer Acquisition Cost)
CACとは顧客獲得の際に1件あたりにかかったセールス及びマーケティング費用を意味します。顧客獲得にかかる費用の内訳としては、マーケティング活動、広告宣伝費、セールスチームの給与、プロモーション費用、顧客獲得のためのツールやソフトウェアの利用費など様々な要素から構成されます。CACはこれらの費用を新たに獲得した顧客数で割ることで計算されます。
ARPU
ARPUとは、「Average Revenue Per User」の頭文字をとったマーケティング用語です。「アープ」もしくは「エーアールピーユー」と読みます。ARPUは日本語にすると「ユーザー1人あたり売上高」といったような意味で、あるサービスの月あたり売上高をそのサービスのユーザー数で割ることで計算される値です。ARPUは以下の式にて算出されます。
ARPU(円) = 売上高(円) ÷ ユーザー数(人)
サブスクリプション型のビジネスに取り組む企業はARPUを継続的に管理することで、ユーザー1人あたりいくらの収益が得られているかを把握することができ、ユーザーをどのくらい増やせば収益がいくら得られるかの見込みを立てたり、収益が予想を下回ったときにその原因を分析したりするのに役立てることができます。
LTV (Lifetime Value)
LTV(Lifetime Value)はサービスの継続契約によって顧客から通算で見込まれる収益のことで、SaaSに限らずサブスクリプションモデルのビジネスにおいて重要指標とされています。LTVは顧客獲得にかかる費用と比較し、顧客から得られる収益の価値を示す指標として用いられ、一般的にLTVが高いほど顧客からの収益が大きいことを意味します。B2B SaaSの場合は、下記の方式で算出できます。
LTV =(顧客一人当たりの平均MRR×売上総利益率)÷顧客月次チャーン率
LTVを考える際には、1回目(1ヶ月目)の取引で得られる利益だけでなく、2回目以降(2カ月目以降)の取引で得られる利益も含めて計算します。そのような計算方法をとることで、企業がひとりのユーザーを獲得した際にどれだけの利益を得ているのかを本質的に捉えることができます。
SaaS事業の場合はユーザーに継続的に自社サービスを利用してもらい月額利用料を受け取り続けることを前提としていますから、その売上高や利益は将来に渡って継続的に発生し続けることになります。そのため、月単位で計算される会計上の売上高や利益だけを見ていても事業の合理性を理解することはできません。そのためこのLTVが必要ということになるわけです。
CAGR
CAGRは「Compound Average Growth Rate」の略で、日本語では「年平均成長率」と訳されます。CAGRは複数年にわたる成長率から1年あたりの幾何平均を求めるものになりますが、砕いた表現でいうと「一定期間でみた際に平均どの程度成長しているのか」を判断するものになります。CAGRの計算式は以下になります。
(N年度の売上/初年度の売上)^{1/(N年-初年)}-1
CAGRは数値が大きいほど成長率が高いことを示します。しかしながら、同じCAGRが20%の数値だったとしてもそれが3年か5年かなどで大きく意味合いが違ってきます。当然ながら売上が大きくなればなるほど高い成長率を維持することは難しいです。そのような中、5年経過する中でCAGRが15%と3年でCAGRが15%の企業を比較する場合には、5年でCAGRが15%の企業の方が評価すべきといえるでしょう。
成長ステージに関する用語
シード期
シード期はスタートアップの成長の最初のステージであり、成功のための基盤を築く重要な時期です。資金調達と製品開発、市場の検証、チームの構築、投資家との関係構築など、その後に事業を大きくしていくための基盤となる部分に焦点を当てることが一般的です。
アーリー期
スタートアップのアーリー期は、シード期の後に続く成長の早い段階を指します。以下にアーリー期の特徴と主な活動を説明します。アーリー期はスタートアップが急速に成長する時期であり、市場での立ち位置を確立するための重要な段階です。製品/サービスの成熟化、ユーザー獲得と成長戦略、チームの拡大と強化、追加の資金調達、メトリクスとデータ分析などに焦点を当てることが一般的です。
ミドル期
スタートアップのミドル期は、成長段階の中でアーリー期とレイター期の間の中間的な段階を指す場合が一般的です。以下に、一般的な成長段階におけるミドル期の特徴と活動を説明します。ミドル期は、アーリー期のスタートアップの初期成長を乗り越え、さらなるスケールと持続可能な成長に向けての準備と推進を行う重要な段階であると言えます。
レイター期
スタートアップのレイター期は、より成熟した段階を指します。以下にレイター期の特徴と主な活動を説明します。レイター期は、スタートアップが成熟し、持続的な成長を追求する段階です。マーケットシェアの拡大、新たな市場への進出、事業のスケーリング、追加の資金調達、顧客エンゲージメントの向上が重要な活動となります。この段階では、スタートアップは市場での地位を確立し、持続可能なビジネスとして安定的な成長を実現することを目指すこととなります。
IPO(新規株式上場)に関する用語
IPO
IPOとは「Initial Public Offering」の略で、日本語では「新規株式上場」と訳されます。それまで未上場の状態であった会社の株式を、はじめて証券取引所に上場することを指す言葉です。通常、未上場会社の株式は創業者や増資に応じた一部の投資家などにしか保有の機会が与えられず、その株式の売買についても会社(取締役会など)が認めた場合に限られるなど、誰でも自由に売買できるという状態にはありません。そのように未上場会社としてある意味クローズドな状況にあった会社が、IPOをすると状況が一変します。
ベンチャーキャピタル
ベンチャーキャピタルとは、スタートアップ企業に出資する投資機関です。その仕組みは、IPO(新規株式公開)やM&Aでのイグジットを目指す企業へ出資し、最終的には、手に入れた株式を売却したときのキャピタルゲインで利益を得るというものです。
スタートアップ企業が急成長するための資金調達ができる強い味方ですが、どのスタートアップでも簡単に出資してもらえるわけではありません。そしてその詳しい仕組みを理解しないまま、資金調達を行うと経営に支障をきたすこともありますので注意が必要です。
エクイティファイナンス
エクイティファイナンスとは、株式を発行することなどにより行う資金調達の方法です。会社は新たに株式などを発行し、投資家がそれを引き受け、その対価を会社に対して払い込みます。会社としては銀行口座に資金が払い込まれることになりますので、その資金を使って事業に投資することができます。株式を引き受ける投資家は、個人やエンジェル投資家だったり、ベンチャーキャピタル、PEファンド、事業会社など様々です。
創業間もないベンチャー企業、スタートアップ企業は担保資産や信用力がさほどないことが多いですが、事業の構想次第では将来の期待を大きく持つことができます。その将来の期待こそが、その会社の株式の価値です。将来の期待を事業計画としてまとめ、投資家に「この会社の株式を保有したい」と思ってもらうことで、資金を調達するわけです。このようなエクイティファイナンスは、多額の投資資金を要する事業をやろうとする際には有力な選択肢となります。
また、エクイティファイナンスで調達した資金はその会社の自己資金となり、デットファイナンスのように将来返済するというものではない為、財務基盤が安定し、銀行なども融資をしやすくなります。そのため、エクイティファイナンスをした後、もしくは同時期に補完的にデットファイナンスを行うという場合も最近では多く見受けられるようになりました。
EXIT(イグジット、エグジット)
EXIT(イグジット、エグジットと表現することもあります)とは、ベンチャー企業やスタートアップ企業などの株式を保有する創業者やVC(ベンチャーキャピタル)などが、その保有する株式を何らかの方法で第三者に売却することで利益を得ることを言います。利益を収穫するという意味で、ハーベスティング(Harvesting、収穫)という言葉を使うこともあります。
イグジットの手法にはIPO(株式公開)やM&A(企業の売却)などがあります。未上場の企業の場合、上場企業のようにいつでも株の売買ができるわけではありませんので、創業者やVCなどは株式を保有していてその価値が上がっていたとしても、いつでもその株式を売却して現金化できるわけではありません。未上場企業の株主はそうした「売却できないリスク」も負っているわけですが、IPOやM&Aなどのイグジットの機会を作ることは、そうしたリスクを負っている株主が利益を実現することに直結します。
そのため、VCなどの投資家はベンチャー企業やスタートアップ企業への投資を検討する際に必ず「いつ、どのような形でイグジットの機会を得ることができそうか」を確認します。つまり投資家からの出資を得たい企業は、事業計画を立てる際にイグジットについても考える必要があるということになります。
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セールスに関する用語
ここれまではスタートアップに関わる方が押さえておくべき、マネジメント、IPOに関する用語について解説してきました。ここからはスタートアップ企業でよく使われるセールスに関する用語について解説をしていきます。
SMB(Small and Mid-size Business)
SMBは「Small and Mid-size Business」の略称であり、所謂、中小企業を指します。中小企業の定義にもよりますが、日本では中小企業は400万社程度存在し、広くビジネスを展開していく上では、多くの中小企業にSaaSプロダクトを導入して貰える体制確立は必須といえるでしょう。
Enterprise
Enterprise(エンタープライズ)は大手企業を指し、SMBと相対する意味合いで用いられます。例えば社員数に応じて課金するマネタイズモデルを展開するSaaSプロダクトの場合、社員数が多いEnterpriseを攻略するのは事業が躍進するか否かの大きなテーマといえるでしょう。また、Enterpriseを狙う場合には、Enterprise専門のセールスチームを設置して事業運営を行う企業も多いです。
Outbound Sales / Sales Development
Outbound Sales (アウトバウンドセールス)と Sales Development(セールスデベロップメント)は、営業チームが見込み客へ電話やメール等でアプローチをかけることを意味します。SaaSのセールスはマーケティング活動を入口にインバウンドで集客を行う営業活動がスタンダードとされる中、アウトバウンドセールスはマネジメント手法などが異なるため、別立てして組織運用をする企業が多いです。
SDR (Sales Development Rep)
SDRとは、インサイドセールスの担当者を指し、見込み客とアポイントメントを取ったり、SQRの判断をしたりする組織です。SDRは主に中小企業を対象とし、インバウンドからの顧客へのアプローチを行います。
BDR(Business Development Rep)
BDRは、顧客の新規開拓を行うインサイドセールスの手法です。BDRはターゲットへ、電話や手紙、メールなどを用いて新たな顧客を開拓します。HPや展示会などを通じてお問い合わせ頂いた顧客にアプローチをするインサイドセールスに対し、能動的にアプローチするセールス手法とであることが特徴といえるでしょう。
アカウントエグゼクティブ(Account Executives)
アカウントエグゼクティブ(Account Executives)とは、営業担当者を指します。顧客に合わせて新たな商品やサービスを企画提案し、予算の配分やクロージングを行います(省略して「AE」と表現することも多いです)。
インサイドセールス(Inside Sales)
インサイドセールス(Inside Sales)とは、顧客と対面せず、電話やオンラインを用いて行う営業のアプローチを意味します(省略して「IS」と表現することも多いです)。一般的にはマーケティング活動により問い合わせなどを頂いたリードに対し、アプローチをしていく形をとっていくことが多いです。
フィールドセールス(Field Sales)
フィールドセールス(Field Sales)は、インサイドセールスからパスを受けた顧客と対面し、営業のアプローチを行うことを指します(省略して「FS」と表現することも多いです)。インサイドセールスがある程度受注見込みが高いと判断した顧客との商談になるため、高い受注率を求められることがフィールドセールスの特徴といえるでしょう。
カスタマーサクセス(Customer Success)
カスタマーサクセス(Customer Success)とは、 顧客の成功を、自社の商品やサービスで支援するビジネスの手法です。顧客の目標達成をサポートすることが、顧客離れを減らすことにもつながります(省略して「CS」と表現することも多いです)。
チャーンレート(Churn Rate)
チャーンレート(Churn Rate)とは継続サービスの退会や解約の比率を意味し、SaaSプロダクトを展開する企業に限らずサブスクリプションビジネスにおいて頻繁に使用されるビジネス指標になります。尚、解約だけではなく、有料プランから、無料プランへの変更もチャーンに含むのでサービスによってその点の認識の齟齬がないように気をつけるとよいでしょう。
チャーンレート = 特定期間における解約数/初めの顧客総数 × 100
ハイタッチ
ハイタッチは簡単に表現するのであれば、顧客と多くの接点を持ち、密着度の高いアプローチをすることを意味します。具体的には会社として優先度の高い顧客に対し、例えば定例会議を設定するなど他の顧客よりも頻繁にコンタクトを取り、また固有の課題に対しての解決提案を行うなど個別性の高いアプローチを行うことで関係構築を目指していきます。
当然ながらこのような密着度、個別性の高いアプローチを全社にできる訳はありませんので、多くの場合、エンタープライズと呼ばれる企業属性の顧客などに対し、ハイタッチの仕組みを構築していくことが一般的といえるでしょう。
ロータッチ
ロータッチは顧客との接点を最小限とし、自動化されたシステムやツールを利用して広範な顧客にサービスを提供することを指します。具体的なロータッチの仕組みとしてはFAQ、チャットボットなどでの自動対応などが挙げられます。
このようにいかに人を介さずとも課題解決がなされる体制構築を実現するかがロータッチのポイントとなりますが、ChatGPTに代表されるような生成AIの技術が進む中、今後はこのような生成AIも絡めたロータッチの仕組み構築が実現できるかどうかが競争優位確立に繋がるといえるでしょう。
BANT条件
BANT条件とは下記の4つの頭文字をとったものです。多くの場合、ヒアリングの中で下記4項目において条件を満たしている場合には、案件の成約が上がるとされており、営業の効率化と確実な受注のため、BANT条件は押さえておく必要があるといえるでしょう。
・Budget:予算
・Authority:決裁権
・Needs:必要性
・Timeframe:導入時期
リード
リードとは潜在的な顧客やクライアントを指す用語です。リードの定義は会社により多少の違いはありますが、例えば展示会やセミナーを通じて商品やサービスに関心を持たれている、あるいはHPやWeb広告より問い合わせをしたりする方(企業)のことを指します。受注見込みが高い顧客ではなく、商品やサービスについて興味をもたれている状態にあることがリードの特徴といえるでしょう。
リードとして獲得する情報は「名前」「企業名」「役職」「メールアドレス」「電話番号」などが中心となります。これらの情報をベースにしながら注力すべき対象者(対象企業)か否か、あるいは企業規模や役職などを鑑みたアプローチ方法を定め、インサイドセールスチームが次の営業活動に繋げていくという形になります(ビジネスモデルによっては、インサイドセールスではなく、別のフィールドセールスに繋げていく場合もあります)。
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最後に
今回はスタートアップ企業・ベンチャー企業に興味をお持ちの方にはぜひ知っておいて頂きたい用語を一覧で解説しました。個別に更に詳しく掘り下げた解説をおこなっているキーワードも多く含まれますので、関連記事もご参照くださると幸いです。