信用金庫からの転職、キャリア選択で考えるべきこととは

世の中の多くの企業の役に立てる仕事であり、安定した仕事でもある信用金庫の営業職はその地域に愛着の強い学生にとっては人気の就職先の1つです。しかし、信用金庫の体質や世の中の変化から、信用金庫の営業職として勤め続けることに疑問を感じ、転職を考える人も少なくないようです。

これまで信用金庫の営業職を務めてきた方の転職先としては事業会社の経理財務などが選択肢としてありましたが、近年は、M&A仲介会社の他、ベンチャー、スタートアップ企業への転職も増えてきました。そこで今回は、信用金庫の営業職に立ちはだかるキャリアの問題、転職でアピールできるスキルや経験、ベンチャー、スタートアップ企業も含む転職先の選択肢などについて解説します。

目次

多くの信用金庫での営業職が抱えるキャリアの問題

信用金庫を取り巻く環境は、メガバンク、地方銀行などと同様に大きく変化し続けています。昔は、信用金庫は安定した職場の代名詞でしたが、超低金利が続く中で、信用金庫は方針転換を迫られています。預金と融資の金利差で稼ぐビジネスモデルから、保険や投資の窓口販売、相続や事業承継の支援なども行うようになり、旧来の信用金庫業務だけではなくなってきました。

さらに、信用金庫同士の経営統合などが進められ、この3年ほどの間でも関西みらい信用金庫(近畿大阪信用金庫+大正アーバン信用金庫)、徳島大正信用金庫(徳島信用金庫+大正信用金庫)、三十三信用金庫(三重信用金庫+第三信用金庫)など10行近くの経営統合がありました。またメガバンク、地方信用金庫、信用金庫のリストラに関するニュースが飛び込んでくることも珍しくなくなってきました。

こういった状況に、自分の勤める信用金庫の今後の先行きに不安などを感じ、転職を考える信用金庫出身者も増えているようです。では、多くの信用金庫での営業職の方が抱えるキャリアの問題や、職場における将来についての不安にはどのようなものがあるのでしょうか。

業界の将来への不安と人員削減

資金調達手段の多様化など信用金庫を取り巻くビジネス環境は大きく変化しており、先行きに不安を感じて転職を考える信用金庫に勤務する方も少なくありません。また、店舗や窓口の業務を削減し、店舗の統廃合やリストラが次々と行われています。今すぐ転職をするかどうかに関わらず、「いずれは転職しなければならない」と危機感を持っている信用金庫の方はとても多いでしょう。

古い体質などの組織風土が合わない

昔と比べると少しずつ変わっているとはいえ、まだまだ信用金庫の組織は旧態依然としたものと言えるでしょう。年功序列や派閥など、信用金庫の世界とはそういった風土だとわかって入行しても、実際に働いてみると想像以上で自分に合った職場ではないと感じる方もいます。

成果が評価に繋がりにくい

信用金庫の仕事では、融資額や保険・投資信託の契約金額などの厳しいノルマがあります。しかし、年功序列の賃金体系やチーム単位での評価が中心になることなど、インセンティブの割合が非常に高い会社と比べると、優れた成果が給与につながりにくいのが現実です。大型融資などの実績を重ねつつもなかなかそれが評価に繋がらなかった場合、成果に対する正当な報酬を求めて、自分の実力を試すことができる会社へと転職したいと考える人もいます。

業務内容の理想とのギャップ

信用金庫での営業職はお金を必要としている人に融資する仕事が大きなウエートを占めます。しかし、融資することで困っている人や会社を助けたいという気持ちを持っていても、返済能力に余程の確信がもてないと融資ができないというもどかしい現実に直面する方も少なくはないかと思います。その反面、確実に返済してもらえる会社に「お願い営業」をしなければならない現実にギャップを感じるケースもあります。

こういった信用金庫ならではの働き方の問題や個人の事情から、多くの信用金庫での営業職の方がキャリアへの不安を感じているのです。では、信用金庫からの転職を考える際に知っておくべきことや、将来のキャリア選択のために考えておくべきことにはどのようなものがあるのでしょうか。

信用金庫で身につくスキル・経験

転職を成功させるためには、自らが持つスキルや経験を把握することが欠かせません。まずは、信用金庫の仕事で身につく転職に役立つスキルや経験を見てみましょう。

丁寧にコミュニケーションをとり、正確に仕事を進められる

信用金庫は多額の資金を扱っていても1円単位で正確に処理しなければなりません。金額面は勿論ですが、それ以外にも顧客への融資判断の可否決定等に関しては社内外含めて多くの方と丁寧にコミュニケーションをとりながら、正確に申請手続き等の事務処理を進めなければなりません。

ストレス耐性、タフネスさ

融資金額などの営業ノルマや社内調整、また体育会文化の組織で働くことは言うまでもなく、大変です。また、新規開拓に積極的な方針の信用金庫の場合、飛び込み営業など泥臭く営業活動を行うことも多いかと思います他、資金調達の手法が多様化する中で信用金庫出身者の新規開拓は年々難易度が高くなる傾向にあったかと思います。このような環境での働く経験を通じて培われるストレス耐性、タフネスさなどは信用金庫での仕事だからこその強みの一つと言えるかと思います。

経営者との商談経験

信用金庫の仕事では融資等の商談の際には、経営者や財務管掌役員の方などと対峙する機会がほとんどかと思います。このような経験を通じ、経営者、役員クラスの方と対峙しても物怖じしないスキルは勿論、経営者が何を悩み、どんなことに課題を考えているかなどと向き合うことで、経営視座が培われていくかと思います。

会社の経営状況を判断することができる

融資判断等でいくつもの会社の経営状況を見ている経験があれば、客観的な視点で会社の状況を判断する力があると考えてもらえるでしょう。ただ、近年は融資判断がシステム化されており、財務諸表等を見るスキルが不足している人も少なくないようです。もし、転職で評価されるほどの力はないと不安があるのなら、今のうちから、自分でスキルアップしておくことも必要かもしれません。また、プロパーで融資の経験がある場合には、転職活動の職務経歴書などに記載をしておくのもお薦めです。

また、信用金庫によってはM&A仲介会社と連携したM&A支援、あるいは人材紹介会社と連携した採用支援など金融業に捉われない幅広い業務に携わる機会も発生します。このような信用金庫で働かれていた方の場合、勿論、各分野の専門的な部分までは関与しきれなくとも、会社経営における多面的な視点を培われることでしょう。

信用金庫出身者が転職活動でつまずきやすいポイント

前述のように信用金庫での経験が評価されるポイントの一方、転職活動でつまずきやすいポイントもあります。以下では信用金庫の営業職の方が転職活動でつまづきやすいポイントについて解説します。

当事者視点をもった仕事ができているか

信用金庫の営業職はあくまで外部の立場であり、究極的には顧客からお預かりした財務諸表で評価し、融資の可否決定をすることもできなくはないかもしれません。またそのようなスタンスで仕事をされている方には事業や組織など会社の細部まで理解がおよばないような方は少なくありません。個々人で工夫をしながら深く顧客に入りこんだ提案、課題解決に取り組んでいる方も多い中、当事者視点の欠如した仕事はマイナスに映ってしまう可能性があります。

信用金庫の看板に依存した仕事になっていないか

それぞれの地域に根付いた信用金庫の看板はまだまだ強いです。このような信用金庫の看板、あるいは信用金庫内の融資判断の仕組みなどに依存した営業活動が中心になってしまい、自分自身の顧客の財務分析力、課題抽出力、企画提案力などを磨くことがおざなりになってしまう方も少なくありません。転職活動の際には信用金庫の看板などを外した上で、自分だからこそ実現できた仕事、実績などを語れるように棚卸していくのが良いでしょう。

転職における信用金庫勤務者の選択肢

では、信用金庫出身者の転職先にはどういったところが多いのでしょうか。こちらでは信用金庫出身者の転職先候補としてあがりやすいM&A仲介会社、事業会社への転職について解説します。

M&A仲介会社

M&A仲介会社への転職される信用金庫出身者の方も多いです。この10年でソフトバンクを擁するZホールディングス株式会社、RIZAPグループ株式会社、ノーリツ鋼機株式会社の様にM&Aにより成長速度に拍車をかける企業も多くなりました。M&A市場は2000年頃を潮目に着々と市場を拡大し、現在では15~20兆円規模の市場規模とも言われる程に巨大な市場へと躍進しています。当然ながらそのようなM&Aを担う人材の需要は非常に高まりを見せており、そして多くのM&A仲介会社が信用金庫、銀行などをはじめとした金融業界出身者を求めている傾向にあります。

事業会社(管理・企画部門)

信用金庫からメーカー、商社、サービス業など事業会社への転職をする人もたくさんあり、事業会社への転職の場合には信用金庫出身者という強みを活かして、経理財務部門に配属となることが一般的です。特にこれまでの信用金庫として融資を行うのと逆の立場で、金融機関との融資交渉などを含む財務業務を任せられることが多いです。ただ、中小企業など転職先の規模が大きくない場合は、伝票処理や請求書の照合など事務処理をしなければならないシーンもあることを理解しておきましょう。

また、企業によってはこれまでの信用金庫の経験を活かす形で経営企画への配属を行うケースもあります。融資を行う際に、事業計画などを踏まえて審査を行ってきたかと思いますが、そのような経験を経営企画として発揮し、事業計画立案、予実管理などを担当する役割を担うことも少なくありません。

事業会社(営業部門)

信用金庫の仕事を通じて培われる経営者との商談経験などを活かす形で、事業会社の営業職に転職するという選択肢をとられる方も多いです。経営者との商談経験を活かす形で転職する場合には、会社経営において重要な経営資源となる「ヒト」「モノ」「カネ」「IT」の分野、具体的には転職エージェントなどの人材業界、会計事務所などをはじめとした金融・会計業界、IT業界などで経験を活かせるポジションが比較的見つかりやすいでしょう。あるいは信用金庫や銀行など金融機関向けに営業を行う事業会社なども信用金庫でのキャリアを評価頂きやすい傾向にあります。

また、経営者との商談経験以外にも、信用金庫の営業で身に着く新規開拓営業、多様な業種への営業経験、融資以外にも不動産やM&Aなどの提案営業経験などの経験・スキルを活かす形で、親和性の高い業種に転職をするという選択肢もあります。

ベンチャー、スタートアップ企業という選択肢

この数年で信用金庫からの転職先として、ベンチャー、スタートアップ企業に転職するという選択肢も広がりました。まず事業会社の管理部門への転職であってもベンチャー、スタートアップ企業の場合、中小企業との業務内容とは大きく異なってきます。

バックオフィス機能が不充分な体制であることが多い中、組織によっては経理でも仕訳などの細かな事務作業をこなしていく他、事業サイドも巻き込んだ仕組みづくりなどもしなければならないということです。他にも経理財務だけでなく、総務・人事関連なども含めた幅広い業務を担当することになる場合もあります。

また管理部門では中小企業、大企業と比較して資金調達などファイナンスに関する知見などが優遇されやすいです。信用金庫での融資の判断をされてきた経験から逆算し、どのように銀行や信用金庫などの金融機関から資金調達を行うかという知見が活きるシーンは短いスパンで資金調達を行うベンチャー、スタートアップ企業では重宝されるでしょう。

また、キャッシュレス決済の浸透などもあり、仮想通貨やフィンテックといった領域でのベンチャー・スタートアップも数多く登場し、急成長しています。これらの会社は、他のベンチャー・スタートアップと比較して、コンプライアンスやリスク管理などへの意識を高く持っています。そのため、着実・現実に業務をこなしてくれる転職希望者をより求めている傾向にあり、信用金庫で着実に仕事を行ってきたような転職人材を求めていると言えるでしょう。

また、上記以外にもマネーフォワードfreeeのような会計領域に土台を置いたSaaS(※)、あるいはファクタリング(売掛金など売掛債権を買い取るサービスであり、売掛金の回収期限前に現金化することが可能になるため、すぐにでも手元資金が必要な場合の資金調達手段)のような銀行が注力し難い事業領域でサービスを展開するベンチャー、スタートアップ企業なども台頭してきています。このような企業も会計・金融知識なども信用金庫の経験が活かせる転職候補先として候補に挙がりやすいです。

※SaaS(サース)は「Software as a Service」の略で、クラウド上のアプリケーションやサービスを、インターネットを通じて利用する形で提供されるビジネスモデルになります。スマホなど月額課金型で利用するサブスクリプション型のサービスの多くはSaaSに該当します。

信用金庫からの転職は30代半ばまでに

信用金庫からの転職は、なるべく早い方がいいでしょう。理想を言えば、30代半ばまでの転職が望ましいです。先に記載の通り、転職活動において信用金庫出身者が評価されるスキル・経験はたくさんありますが、一方で信用金庫出身者としての就業年数が長くなることで起こる障害もあります。例えば信用金庫では独自の仕組みなどが多く、一般の事業会社では行われていない汎用性の低いものが多いことなどが挙げられます。取引先に対しては信用金庫という特殊な立場で業務が行われること、組織内部では、非効率でも慣習で行われていることなどもあり、信用金庫での勤務経験そのものが、転職先での即戦力として期待できるポイントではないのです。

そのため、新卒からずっと信用金庫勤めをしてきた人材を受け入れた場合、転職者が若くてもベテランでも、事業会社の仕事の仕方をイチから理解し直してもらわなければなりません。どうしても信用金庫出身者としてのスキルを転職で活かすのが難しくなってしまうのです。そうなると、新しいことを吸収しやすく、長く戦力になってもらえる可能性がある「若手」を高く評価してしまいがちになるのは理解できるでしょう。この点は、中小企業やベンチャー、スタートアップ企業を転職先候補とする場合にはなおさらです。

信用金庫からの転職活動

信用金庫の方の多くが多忙の中、なかなか転職活動に十分な時間を割けないという環境にあることも多いでしょう。このような多忙な方は現職でのパフォーマンスを落とすことなく、効率的に情報収集を行う必要があります。こちらでは信用金庫の方の転職活動で推奨する2つの手法についてご紹介します。

スカウトサイトを活用した転職活動

一つ目はスカウトサイトを活用した転職活動になります。これまで主流であった転職サイトなどからスカウトを待つ転職プラットフォームに移行しつつあります。具体的には「ビズリーチ」「リクルートダイレクトスカウト」「エンミドルの転職」などが挙げられます。

特にこのダイレクトリクルーティングと呼ばれる市場はこの数年で急激に市場が拡大し、2021年には前述のビズリーチを運営するビジョナル株式会社が東証マザーズにも上場を果たしています。

これら転職プラットフォームに情報を登録しておくことで、経歴を見た転職エージェント、または企業より直接スカウトを貰うことが可能です。自分の経歴に合った求人情報をある程度網羅的に情報を集めることができるため、現職が多忙な方にとっては有効な転職手法の一つと言えるでしょう。

転職エージェントを活用した転職活動

前述の様な転職プラットフォームサービスの台頭はあるものの、まずは自身の現状について相談したいという場合には転職エージェントを活用していくこともよいでしょう。多くの場合、転職活動は孤独です。自身の経歴の棚卸、今後の自分のキャリアプランをどうしていくべきかなど腹を割って話ができる存在がいるかいないかは、自身の転職活動を良い形で進めていく上で重要です。

転職エージェントは国内に数万社あり、職種や業界に特化した転職エージェント、あるいは経営層、マネジメント層に特化した転職エージェントなどそれぞれ特色があり、信用金庫、銀行などをはじめとした金融業界に強い転職エージェントも存在します。これまでの経験、自分が描きたいキャリアなどを踏まえ、自分に合った転職エージェントをパートナーに選びましょう。

最後に

転職にあたり、信用金庫での経験は多くの観点で評価が得やすいものだと言えます。信用金庫だからこそ経験できる経営者と対等にお話ができる機会、多くの企業のビジネスに触れ、それらを評価する経験などにはしっかりと磨きをかけて頂ければと思います。

しかし、信用金庫と事業会社をはじめとした信用金庫以外世界との慣習の違いなどから考えると、その独自の慣習に染まり切る前に転職するということも一つの選択肢かと思います。旧態依然とした組織である信用金庫で働いていたとしても、新しいことにも積極的に取り組んでいく意欲を持っていることもしっかりとアピールするようにしましょう。

この記事を書いた人

岩崎久剛

1984年兵庫県生。関西大学工学部を卒業後、受験支援事業を全国展開する大手教育事業会社にて総務人事など管理部門を経験し、2012年より人材業界に転身。大手総合人材会社にて求人広告、人材紹介など中途採用領域での法人営業を経験し、従業員数名規模のベンチャーから数10か国に展開するグローバル企業まで多様な業界、事業フェーズの企業の採用を支援。2016年よりハイキャリア領域の人材紹介事業立上げメンバーに参画し、関西ベンチャーを軸とした採用支援に従事。その後、ビズアクセル株式会社を起業。MBA(グロービス経営大学院)。

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